権力
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権力(けんりょく、ドイツ語 Macht、英語 power)は、何らかの物理的強制力の保有という裏づけをもって、他者をその意に反してでも服従させるという、支配のための力のことである。権力者とは、そうした権力を独占的に、あるいは他に優越して保有し、それを行使する可能性をもつ者を言う。強制の有無という点で、被治者の自発的な同意・服従を要請する権威とは区別される。
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[編集] 概要
権力という概念は、17世紀の力学の発展を背景として生み出された。すなわち、物体はその位置エネルギーと運動エネルギーから力学的エネルギーを生じさせる。これと同様に、何らかの「権力手段」、「基礎価値」をもつことによって、ある者が他者をその意に反してでも行動させうる、特別な「力」を保有している、という理解が生まれた。こうした権力観を「実体的権力観」という(高畠、1984年、47頁以下)。
権力は、社会のあらゆる場面で成立する余地がある。一般に政治的な場面で用いられる権力(「政治権力」)といえば、一定の範囲の住民すべてに及ぶ強制力を有し、それを服従させるようにまで至った権力のことをさす。
そして、今日、政治権力といえば、国家権力を指すのが通例である。国家は、法の制定権、警察と軍隊、政府と官僚集団を独占的に保有することによって、実効的な統治権を確保する。
なお、物理的強制力をともなう政治権力を保持するだけでは、政治的正当性を確保するまでには至らず、安定的な支配を維持することは難しい(権威の欠如)。政治的正当性を確保するためには、政治権力・国家権力が被治者から支配に対する自発的な同意・服従を調達する必要がある。
[編集] 備考
- 他者や集団・組織に対し絶大な影響力を行使できる人のことを隠語として「実力者」ということがある。他者を服従させる何らかの特別な「力」を有している点ではこれも「権力者」の範疇に含まれるが、表舞台に立つことなく非公式に影響力を行使することから、通常の権力主体と比して可視化されにくい。そこから「影の支配者・実力者」と呼ばれることもある(いわゆる「キング・メーカー」などもその一例であろう)。
[編集] 特別権力関係
特別の公法上の原因により成立する、公権力と国民との法律関係をいう。
これは、公務員の勤務関係、国公立大学の在学関係、在監関係など、性質の異なる法律関係を、或る国民が公権力に服従するという関係として捉え、命令や強制について個別の根拠は必要とされず、さらに裁判所の司法審査権は及ばないとされていた。法治主義の下、現在においては、採用されていない。
[編集] 日本国憲法の規定
行政・立法・司法の三権分立させることで均衡と抑制が図られる。また公務員の権力の濫用は戒められている。
[編集] 関連文献
- 高畠通敏 『政治学への道案内』(増補版)、三一書房、1984年
- ラスウェル、H.D.(永井陽之助訳) 『権力と人間』、東京創元社、1954年
- ミルズ、C.W.(鵜飼信成・綿貫譲治訳) 『パワー・エリート』、東京大学出版会、1958年