東急8090系電車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
東急8090系電車(とうきゅう8090けいでんしゃ)は、1980年(昭和55年)12月27日に営業運転を開始した東京急行電鉄の通勤形電車。
本項では、8590系と呼ばれる前面貫通扉付の先頭車両についてもあわせて記述する。
目次 |
[編集] 概要
8090系は、1978年(昭和53年)に試作された8000系・デハ8400形[1]の実績に基づき、有限要素法を用いたコンピュータ解析による車体設計がなされ、必要な強度と剛性を保ったまま、従来のステンレス車より、車体で約24%(約2t)、編成全体で約8%の重量を軽減することに成功した、日本初の量産軽量ステンレス車両である。
1980年から1985年にかけて8両編成10本80両を、また1988年から1989年にかけて、大井町線用に組成を組み替えるための先頭車10両の、計90両が東急車輛製造で製造された。前者は809X番もしくは808X番の車号を持ち8090系と呼ばれ、後者は859X番もしくは869X番の車号を持ち8590系と呼ばれる。また、先頭車のみのグループである8590系の編成は、中間車として組み込まれている8090系も含め、8590系と呼ばれることがある。
広義の8000系に含まれる車両であるが、外観の違いやこのグループのみで編成を組むことから、区別されることが多い。
[編集] 構造
20m級4扉車体で、東急のステンレス車では初めて側面に赤帯を2本通した。コルゲートを廃したため、ひずみ防止に車体断面は車体上部を内傾させ裾を絞った卵形とした。また、外板は0.8mmから1.5mmと0.7mm厚くした。正面は非貫通構造の3面折妻とし、前照灯は角型となり、尾灯と一体化し車体下部に設置した。クハ8090形の前面の窓ガラスは当初、3枚を連続で固定していたが、後に破損時の交換を容易にするために個別に固定するように改造した。また、前照灯は赤帯の下に取り付けられていたが、3次車から赤帯の位置に上がった[2]。
主回路制御方式は8000系と同様の界磁チョッパ制御だが、制御段数を増やして乗り心地の改善を図った。制御器は日立製作所製のMMC-HTR-20F(直列15段・並列13段・弱め界磁無段階)で、起動加速度は2.7km/h/s(7両編成時)である。
台車は軸ばね式空気ばね台車のTS807B形(電動車)とTS815B形(付随車)で、ともに波打車輪を採用し、走行音の低減を図っている。
大井町線に転属した8090系の全編成と8590系の8691F・8692F・8693Fはパンタグラフを菱形(PT42形)からシングルアーム式に交換した。このうち8691Fは廃車された8000系8003Fで使用していたものを流用し、8692Fと8693Fは新品を搭載した。
大井町線所属の8590系の前面の帯は、2006年3月18日からの同線⇔田園都市線直通急行の運転開始に伴い、誤乗防止のために赤色から赤色→黄色のグラデーションに変更し、また大井町線を表す認識ステッカーも側面を含めて貼付した。なお、側面の赤帯は従来のままである。さらに、大井町線所属の8090系8081F~8089F[3]も2006年4月下旬より順次8590系(8691F・8692F)と同様の帯色とステッカーに変更した。この際に各駅停車運用時の種別表示を無表示から「各停」表示に変更した。また、8693Fは8月の転属と同時に帯色を変更した。なお、田園都市線用8590系の帯色は現在変更されていない。
計画当初は、前面形状に丸みを持たせたデザイン案が2種類程度出されていた。だが、コスト低減のために切り妻以外は考えるなという電鉄上層部の意向から切妻に近い形にせざるを得ず、丸みあるデザインは却下された。当初は「9000系」という仮称であった[4]。
[編集] 運用
- 田園都市線用10両編成(8590系)
- 渋谷~中央林間間および直通運転先の東京地下鉄(東京メトロ)半蔵門線渋谷~押上間で朝夕ラッシュ時を中心に運用されている。東武線乗り入れ装備は設置されていない。
- 先頭車の前面に東武線に乗り入れできない車両であることを示す丸いKマークを貼付している。
- 大井町線用5両編成
[編集] 歴史
[編集] 8090系の製造
1980年に東横線に最初の投入が行われる。1次車(8000系12-1次車)1本(8091F)は7両編成(Tc2-M2-M1-T- M2-M1-Tc1〈MT比4M3T〉)だった。
1982年2月~3月に製造された2次車(8000系13次車)2本(8093F・8095F)が8両編成(Tc2-M-M2-M1-T-M2-M1-Tc1〈5M3T〉)で投入される。1次車も 1983年に1両(8491)を増結して8両編成となった。
1984年12月~1985年4月に4次車(8000系16次車)として5本(8097F・8099F・8081F・8083F・8085F)が製造される。これにより車両番号の下2桁は90番台を使い切ったことから80番台が付与された。4次車では機器配置の見直しおよび編成順序の変更(Tc2-M2-M1-T-M-M2-M1-Tc1)、低運転台構造から高運転台構造への変更が行われた。なお、従来車も後に変更されている。
1985年には5次車(8000系17次車)2本(8087F・8089F)が増備され、8090系の製造はこれですべてとなる。
[編集] 8590系の製造による組成変更
1988年9月~1989年2月には、将来のみなとみらい線との直通運転に備え、出力を上げることを目的としてMT比を従来の5M3Tから6M2Tに増強するため、組成変更を実施した。地下鉄乗り入れに必要な前面貫通式とし、また制御電動車としたデハ8590形(M1c)とデハ8690形(M2c)を各5両新製。従来の8両編成から3両 (M1-M2-T) ずつ抜き、先頭車2両に抜いた3両×2を組み合わせた、8両編成5本を新たに組成した。
また、従来の編成から3両抜かれて残った5両編成は大井町線に転用された。
この8両編成を特に8590系と呼んで区別することがある。同系列は当初より自動放送装置と電動ワイパーを採用し、9000系に準じた構造にもなっている。8500番台になったのは先頭車が電動車であるという8500系の要素が入っているためである。営業運転開始時は同線の急行専用(平常時)だったが、2001年3月28日のダイヤ改正で特急から各駅停車までの全種別に充当されるようになった。
[編集] 田園都市線への一時的な転用
1997年(平成9年)3月25日の東横線ダイヤ改正に伴う運用減により、8694Fと8695Fが田園都市線に転属した。8694Fは8695Fから2両を組み込んで8M2Tの10両編成とし、8月21日から営業を開始した。この際には半蔵門線へも乗り入れ、8590系では初の地下鉄乗り入れとなった。6両編成となった8695Fは予備車となり、営業運転は一度も行われなかった。
また、2001年(平成13年)3月28日の東横線ダイヤ改正に伴う運用減により、8693Fが田園都市線に転属した。同編成は4両を8695Fに提供して予備車となり、営業運転は行われなかった。一方、10両編成となった8695Fは5月25日から運行を開始し、約3年半ぶりの営業運転復帰となった。
2003年(平成15年)、田園都市線への5000系投入に伴い8693F~8695Fが1997年までと同様の8両編成3本に組み替えられ、東横線に復帰した。
[編集] 東横線からの本格的な撤退
東横線への5050系投入により、2005年(平成17年)8月に8691Fが長津田車両工場に入場して大井町線向けに転用改造され、5両編成(M2c-M1-T-M2-M1c)となった。そして8003Fの代替として11月24日に大井町線で運行を開始した。Mc車は補助電源装置である静止形インバータ(SIV)設置のためHS-20G型空気圧縮機(CP)を撤去し、代わりにM2車にHB-2000型CPを追加した。また、パンタグラフもシングルアーム式のものに交換した。この転用改造で余剰となった3両(サハ8391・デハ8291・デハ8191)は保留車となった。
2006年(平成18年)にはさらなる東横線への5050系投入により、8692Fと8693Fは8691Fと同様の改造(パンタグラフ交換については転属後に実施)と5両編成化を行って大井町線に転属した他、8694Fと8695Fは10両編成として田園都市線に転属した。これにより、2005年度発生分と合わせて5両が余剰車となり、このうち4両が2007年3月26日付けで8090系初の廃車となった。
- 8692Fは2006年3月に長津田車両工場に入場し、同月27日に大井町線で営業運転を開始し、18日のダイヤ改正による運用増に対応した。その後、同年10月にシングルアーム式パンタグラフに交換された。
- 8693Fは2006年6月29日に長津田車両工場へ回送し、8月11日の昼間に梶が谷~中央林間間で試運転を行い、同月14日から大井町線で営業運転を開始した。その後、同年11月にシングルアーム式パンタグラフに交換された。
- 8694Fは2006年8月1日に長津田検車区経由で鷺沼へ回送した。同月下旬には長津田へ回送し、田園都市線向けの転用改造を行った上で28日にデハ8195とデハ8295を組み込んで10両編成とし、同年10月31日から同線で運行を開始した。なお、東武形ATSは準備工事のみで本体は取り付けられていないため、丸いKマークが貼付されている。
- 8695Fは2006年7月31日に長津田へ回送した後、同年8月9日にデハ8199・デハ8299を組み込み10両編成とした。組み込んだ車両は7月末に車両点検を実施した。田園都市線向けの転用改造を行った上で(こちらも東武形ATSは準備工事は行われたが取り付けられていない)同年9月中旬に丸いKマークを貼付して田園都市線に再復帰し、同月25日から運用を開始した。
- 田園都市線用の8694F・8695Fとも東急・東京メトロ・東武線の自動放送を備えている。また方向幕を2007年(平成19年)4月5日のダイヤ改正時に準急対応のものへ交換した。
- 余剰車は元8691Fのサハ8391・デハ8291・デハ8191、元8692Fのサハ8393、元8693Fのサハ8395の5両であり、これらは長津田検車区の片隅にまとめて留置されたが、このうち、デハ8291・サハ8391・サハ8393・サハ8395の4両は2007年3月26日付けで廃車除籍(解体)された。残るデハ8191は2007年10月現在長津田車両工場で倉庫として使用されている([1])。
[編集] 2007年度
- 大井町線用8090系は2007年9月から2008年3月までに全編成の前面と側面行先表示器の行先表示部分が白色LEDに、前面と側面行先表示器種別表示部分がフルカラーLED、前面運行番号表示器が三色LEDに交換された。これらの表示器は2000系と同一で、書体はすべてゴシック体である。表示方法は2000系と同様で、日本語⇔ローマ字の交互表示を行っている。ただし、初期に交換された8085F~8089Fはしばらくの間、2000系のような表示を行っておらず、日本語とローマ字を併記している関係で、書体は2000系と比較すると細くなっていた。また、8083Fは、一時期前面:併記・側面:交互表示の組み合わせとなっていた。これらの編成は2008年3月までに全ての表示機が交互表示タイプに変更された。また、2006年度に前面赤帯で存置された8091F~8099Fは、2008年3月上旬にグラデーション帯に交換された。
[編集] 所属線区の変遷
- 東横線~大井町線 8691F・8692F
- 東横線~田園都市線(営業運転なし)~東横線~大井町線 8693F
- 東横線~田園都市線 (1) ~東横線~田園都市線 (2) 8694F・8695F
- 注:(1)と(2)では中間車の連結車両が一部異なる
[編集] 編成表
号車 | 1(Tc2) | 2(M) | 3(M2) | 4(M1) | 5(Tc1) |
---|---|---|---|---|---|
形式 | クハ8090 | デハ8490 | デハ8290 | デハ8190 | クハ8090 |
機器類 | SIVorMG | P,cont | SIV,CP,CP | P,CONT | |
車号 | A8091 | C8491 | A8292 | A8192 | A8092 |
B8093 | B8492 | B8294 | B8194 | B8094 | |
B8095 | B8493 | B8296 | B8196 | B8096 | |
D8097 | D8494 | D8298 | D8198 | D8098 | |
D8099 | D8495 | D8280 | D8180 | D8080 | |
D8081 | D8496 | D8282 | D8182 | D8082 | |
D8083 | D8497 | D8284 | D8184 | D8084 | |
D8085 | D8498 | D8286 | D8186 | D8086 | |
E8087 | E8499 | E8288 | E8188 | E8088 | |
E8089 | E8490 | E8290 | E8190 | E8090 |
デハ8290・8298は100kVA-SIV(新型)を、デハ8282・8296は100kVA-SIV(旧型)を設置。
号車 | 1(M2c) | 2(M1) | 3(T) | 4(M2) | 5(M1c) |
---|---|---|---|---|---|
形式 | デハ8690 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8590 |
機器類 | SIV | P,CONT | SIV | CP,CP | P,CONT |
車号 | F8691 | B8193 | B8392 | B8293 | F8591 |
F8692 | D8197 | D8394 | D8297 | F8592 | |
F8693 | D8181 | D8396 | D8281 | F8593 |
8193・8197・8181は東横線所属時に車椅子スペースを設置した。大井町線では2号車に組み込んだため、フリースペースとして扱っている。
号車 | 1(M2c) | 2(M1) | 3(T) | 4(M2) | 5(M1) | 6(M2) | 7(M1) | 8(T) | 9(M2) | 10(M1c) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
形式 | デハ8690 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8190 | デハ8290 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8590 |
機器類 | CP | P,CONT | SIV | CP | P,CONT | CP | P,CONT | SIV | CP | P,CONT |
車号 | F8694 | D8185 | D8397 | B8295 | B8195 | D8283 | D8183 | D8398 | D8285 | F8594 |
F8695 | E8189 | E8399 | D8299 | D8199 | E8287 | E8187 | E8390 | E8289 | F8595 |
8185と8189は東横線に復帰後(田園都市線在籍時は車椅子スペースの設置を行っていない)、車椅子スペースを設置した。田園都市線では2号車に組み込んだため、フリースペースとして扱っている。
[編集] 凡例
- CONT:主制御器(1C8M)
- cont:主制御器(1C4M)
- SIV:冷房用電源(静止形インバータ)170kVA
- SIV:静止形インバータ 10kVA(青字車両:100kVA)
- MG:電動発電機140kVA
- CP:HB-2000型空気圧縮機
- CP:HS-20型空気圧縮機
- P:パンタグラフ
- P:シングルアームパンタグラフ
- 車号強調:車椅子スペース
- 車号の前のアルファベット
- A=1980年度投入
- B=1981年度投入
- C=1983年度投入
- D=1984年度投入
- E=1985年度投入
- F=1988年度投入
[編集] その他
- 東京急行電鉄スタンプラリーPART10~12のストーリーに登場するキャラクター「電車くん」は8090系がモデルである。(漫画:三鷹公一)
- 電車とバスの博物館に8090系の運転シミュレーターが設置されている。車両番号は8090号で実車では5次車に当たるが、4次車登場前に製造したため、前照灯の位置は3次車に準じている。計器類は実車はATC対応のため換装されているが、シミュレーターは当時のままとなっている。同シミュレーターでは田園都市線長津田→二子玉川の運転が可能。
[編集] 関連商品
[編集] 脚注
- ^ 8401・8402。登場時は8000系の編成に組み込まれていた。その後デハ8200形8281・8282を経て8254・8255に改番された。
- ^ 宮田道一・焼田健『日本の私鉄 東急』 保育社 1997年(平成9年)6月30日 p.21
- ^ 8090系はMT比が3M2Tであり、4M1Tの8500系や8590系より加速性能が劣るため直通急行の運用にはほとんど就かず、予備車の役割を果たしている。
- ^ 『鉄道ファン』1993年4月号より
[編集] 参考文献
- 金邊秀雄 「東京急行電鉄8090系軽量ステンレス車」『鉄道ピクトリアル』1981年3月号(通巻387号)、鉄道図書刊行会。
- 金辺秀雄 「東急8090系車両の概要」『電気車の科学』1981年1月号(通巻393号)、電気車研究会。
- 荻原俊夫 「新車ガイド 軽くなって新登場 東急ステンレスカー8090系」『鉄道ファン』1981年3月号(通巻239号)、交友社。
- 荻原俊夫 「東急8090系モデルチェンジ車」『鉄道ピクトリアル』1985年3月号(通巻444号)、鉄道図書刊行会。
- 荻原俊夫 「東京急行電鉄8000系16次車(8090系モデルチェンジ車)」『鉄道ピクトリアル』1985年5月臨時増刊号(通巻448号)新車年鑑1985年版、鉄道図書刊行会。
- 川口雄二 「東京急行電鉄8090系(デハ8590・8690形)」『鉄道ピクトリアル』1989年5月臨時増刊号(通巻512号)新車年鑑1985年版、鉄道図書刊行会。
[編集] 関連項目
|
|||||
---|---|---|---|---|---|
現用車両 | |||||
|
|||||
過去の車両 | |||||