上野千鶴子
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上野千鶴子(うえの ちづこ、1948年7月12日 - )は、日本の社会学者。東京大学教授。 専攻は、マルクス主義フェミニズムに基づくジェンダー理論、女性学、家族社会学の他、記号論、文化人類学、セクシュアリティなど。文学修士。富山県上市町出身。代表著作は『近代家族の成立と終焉』、『家父長制と資本制』など。
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[編集] 略歴
[編集] 学歴
[編集] 職歴
- 1978年 日本学術振興会奨励研究員
- 1979年 平安女学院短期大学(現・平安女学院大学短期大学部)専任講師
- 1982年 平安女学院短期大学助教授
- 1982年 シカゴ大学人類学部客員研究員(1984年まで)
- 1989年 京都精華大学人文学部助教授
- 1991年 ボン大学日本学研究所客員教授
- 1992年 京都精華大学人文学部教授
- 1993年 東京大学文学部助教授
- 1995年 東京大学文学部教授
- 1997年 東京大学大学院人文社会系研究科教授
[編集] 学外における役職
[編集] 経歴と業績
研究者としてのスタートは、構造主義文化人類学と社会科学の境界領域を論じた理論社会学であり、この頃の1970年代の論文は『構造主義の冒険』にまとめられている。1980年にマルクス主義フェミニズムを知り、これの紹介者・研究者となる。『家父長制と資本制 ― マルクス主義フェミニズムの地平』(1990)が代表作。
また、『主婦論争を読む――全記録(1・2)』(1982)の編集など、思想輸入ではない日本の女性問題史の整備にも努め、『美津と千鶴子のこんとんとんからり』(1987)など田中美津に脚光を当てることで1970年代に起きたウーマンリブ運動の再評価を世に働きかけた。
『セクシィ・ギャルの大研究』(1982)では 栗本慎一郎・山口昌男が表紙カバーに推薦文を寄せ、 鶴見俊輔などに絶賛され、専門領域である社会学のみならず文化人類学・記号論・表象文化論などの方法を駆使しながら、現代の消費社会を論じるフェミニストとして知られるようになる。特に1987年から88年にかけて世論を賑わせたアグネス論争にアグネス・チャン側を擁護する側で参入し、名を馳せた。
1990年代以降も家族・建築・介護・福祉の問題や文学・心理学・社会心理学など幅広い学問領域について論じている。近代家族論として『近代家族の成立と終焉』(1994)などがあり、またそれから派生する介護問題について『老いる準備 ― 介護することされること』など、積極的な発言を続けている。さらに近代国家論に踏み込んだ『ナショナリズムとジェンダー』(1998)もある。
オーバードクター時代にマーケティング系のシンクタンクで仕事をしていたこともあって、消費社会論の著作も多く、『<私> 探しゲーム ― 欲望私民社会論』(1987)、『セゾンの発想 ― マ-ケットへの訴求』(1991)などがある。
文学論としては、小倉千加子、富岡多恵子との鼎談『男流文学論』(1992)が世評を呼んだ他、『上野千鶴子が文学を社会学する』(2000)などがある。現代俳句の実作者であった時期もあり、『黄金郷(エル・ドラド)上野ちづこ句集』(1990)がある。また、現代美術にも造詣があり、著作の表紙カバーにジュディ・シカゴやニキ・ド・サンファルなどの作品を使用した。
このほか、性愛(セクシャリティ)論、市民運動論、学校論など様々な分野での単著・共著・編著が多数。また、論文集『日本のフェミニズム』や『岩波女性学事典』、『岩波講座現代社会学』『社会学文献事典』などの共編集者を務めている。
[編集] 論争と批判
上野千鶴子は、様々な分野で発言して多くの論争に関わり、その挑発的かつ歯切れの良い言動はたびたび批判を受けてきた。「吉本隆明や柄谷行人ら、名だたる男性知識人を片端から言い負かした女性論客」というイメージは、たとえば遥洋子『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(2000)、上原隆『上野千鶴子なんか怖くない』(1992)や『接近遭遇』(1998)のような対談集で確認することができる。
彼女が関わった代表的な論争は「アグネス論争」であり、いったんアグネス批判派に傾きかけていた論争の流れが、一気に逆向きになるほどの強烈な参入を行った[1]。当初の「大人の空間に子どもを入れるな」という「林・中野」対アグネス・チャン論争は上野の手で「働く母親一般の問題」に発展させられ、様々な分野の論客が参戦する一大論争に発展したのである[2]。この「アグネス論争」での印象や、著作と活字媒体での発言の多さから上野は日本を代表するフェミニストの一人として見られており、上野自身の発言とは関係なくフェミニズム代表者としてフェミニズム反対派からの標的となることが多い[3]。
フェミニズム内部の論争では、たとえばエコロジカル・フェミニズムを唱えた青木やよひにたいして、男性優位の文化イデオロギーに過ぎないとして激しい論戦を仕掛けたことなどが有名。いわゆるエコフェミ論争で、上野側の主張は『女は世界を救えるか』(1985)などにまとめられている。
上野の発言が問題になった例として、『マザコン少年の末路――女と男の未来』(1986) で 自閉症や、登校拒否(不登校)は母親の過保護が原因であるとしたものがある。しかし自閉症は先天的早期脳障害によるもので環境が原因ではないというのが既に定説であり、上野は自閉症児を持つ親の会などから抗議を受けた。この批判を受け、上野は批判を発した親に面会して全面的に謝罪した上で『マザコン少年の末路――増補版』を出版し、この全編を自己批判本とした上で旧版在庫の絶版処置を行っている。
この他の批判の主なものは斎藤美奈子『文壇アイドル論』(2002)にまとめられている。
[編集] 受賞歴
- 1994年 『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞。
[編集] 出版
[編集] 単著
- セクシィ・ギャルの大研究 ―― 女の読み方・読まれ方・読ませ方 (カッパ・サイエンス) (光文社、1982年)
- 資本制と家事労働 ―― マルクス主義フェミニズムの問題構制 (海鳴社、1985年)
- 構造主義の冒険 (勁草書房、1985年)
- 女は世界を救えるか (勁草書房、1986年)
- 女という快楽 (勁草書房、1986年)
- マザコン少年の末路 ―― 女と男の未来 (河合文化教育研究所、1986年)
- <私> 探しゲーム ―― 欲望私民社会論 (筑摩書房、1987年)
- 女遊び (学陽書房、1988年)
- 接近遭遇 ―― 上野千鶴子対談集 (勁草書房、1988年)
- スカートの下の劇場 ―― ひとはどうしてパンティにこだわるのか (河出書房新社、1989年)
- ミッドナイト・コール (朝日新聞社、1990年)
- 家父長制と資本制 ―― マルクス主義フェミニズムの地平 (岩波書店、1990年)
- 性愛論 ―― 対話篇 (河出書房新社、1991年)
- セゾンの発想 ―― マ-ケットへの訴求 (リブロポート、1991年)
- うわの空 ―― ドイツその日暮らし (朝日新聞社、1992年)
- 近代家族の成立と終焉 (岩波書店、1994年)
- 発情装置 ―― エロスのシナリオ (筑摩書房、1998年)
- ナショナリズムとジェンダー (青土社、1998年)
- ラディカルに語れば… ―― 上野千鶴子対談集 (平凡社、2001年)
- 上野千鶴子が文学を社会学する (朝日新聞社、2000年)
- Nationalism and Gender, (Trans Pacific Press, 2005).
- 家族を容れるハコ 家族を超えるハコ (平凡社、2002年)
- 差異の政治学 (岩波書店、2002年)
- サヨナラ、学校化社会 (太郎次郎社、2002年)
- 国境お構いなし (朝日新聞社、2003年/朝日文庫、2007年)
- 老いる準備 ―― 介護することされること(学陽書房、2005年)
- 生き延びるための思想 ―― ジェンダー平等の罠(岩波書店、2006年)
- おひとりさまの老後(法研、2007年) ISBN 4879546801
[編集] 共著
- (高田公理・野田正影・奥野卓司・井上章一)現代世相探検学(朝日新聞社、1987年)
- (網野善彦・宮田登)日本王権論(春秋社、1988年)
- (伊藤比呂美)のろとさにわ(平凡社、1991年)
- (NHK取材班)90年代のアダムとイヴ(日本放送出版協会、1991年)
- (小倉千加子・富岡多恵子)男流文学論(筑摩書房、1992年)
- (田中美由紀・前みちこ)ドイツの見えない壁――女が問い直す統一(岩波書店[岩波新書]、1993年)
- (中村雄二郎)「人間」を超えて――移動と着地(河出書房新社、1994年)
- (本間正明)NPOの可能性――新しい市民活動(かもがわ出版、1998年)
- (中村雄二郎)21世紀へのキーワード:インターネット哲学アゴラ――日本社会(岩波書店、1999年)
- (宮台真司)買売春解体新書――近代の性規範からいかに抜け出すか(柘植書房新社、1999年)
- (川村湊・成田龍一・奥泉光・イ・ヨンスク・井上ひさし・高橋源一郎)戦争はどのように語られてきたか(朝日新聞社、1999年)
- (小倉千加子)ザ・フェミニズム(筑摩書房、2002年)
- (辛淑玉)ジェンダー・フリーは止まらない!――フェミ・バッシングを超えて(松香堂書店、2002年)
- (中西正司)当事者主権(岩波書店[岩波新書]、2003年)
- (行岡良治)論争・アンペイドワークをめぐって(太田出版、2003年)
- (鶴見俊輔・小熊英二)戦争が遺したもの――鶴見俊輔に戦後世代が聞く(新曜社、2004年)
- (信田さよ子)結婚帝国女の岐れ道(講談社、2004年)
- (趙韓惠浄)ことばは届くか――韓日フェミニスト往復書簡(岩波書店、2004年)
- (三浦展)消費社会から格差社会へ(河出書房新社, 2007年)
[編集] 編著
- 主婦論争を読む――全記録(1・2)(勁草書房、1982年)
- 色と欲(小学館、1996年)
- キャンパス性差別事情――ストップ・ザ・アカハラ(三省堂、1997年)
- 構築主義とは何か(勁草書房、2001年)
- 脱アイデンティティ(勁草書房、2005年)
[編集] 共編著
- (電通ネットワーク研究会)「女縁」が世の中を変える――脱専業主婦のネットワーキング(日本経済新聞社、1988年)
- (鶴見俊輔・中井久夫・中村達也・宮田登・山田太一)シリーズ変貌する家族(全8巻)(岩波書店、1991年-1992年)
- (樺山紘一)21世紀の高齢者文化(第一法規出版、1993年)
- (井上輝子・江原由美子)日本のフェミニズム(全8巻)(岩波書店、1994年-1995年)
- (綿貫礼子)リプロダクティブ・ヘルスと環境――共に生きる世界へ(工作舎、1996年)
- (メディアの中の性差別を考える会)きっと変えられる性差別語――私たちのガイドライン(三省堂、1996年)
- (河合隼雄)現代日本文化論(8)欲望と消費(岩波書店、1997年)
- (田端泰子・服藤早苗)シリーズ比較家族(8)ジェンダーと女性(早稲田大学出版部、1997年)
- (井上俊・見田宗介・大澤真幸・吉見俊哉)岩波講座現代社会学(全27巻)(岩波書店、1995年-1997年)
- (見田宗介・内田隆三・佐藤健二・吉見俊哉・大澤真幸)社会学文献事典(弘文堂、1998年)
- (井上輝子・江原由美子・大沢真理・加納実紀代)岩波女性学事典(岩波書店、2002年)
- (寺町みどり・ごとう尚子)市民派政治を実現するための本――わたしのことは、わたしが決める(コモンズ、2004年)
- (岩崎稔・成田龍一)戦後思想の名著50(平凡社、2006年)
[編集] 訳書
- バーバラ・シンクレア アメリカ女性学入門(勁草書房、1982年)
- A・クーン, A・ウォルプ編 マルクス主義フェミニズムの挑戦(勁草書房、1984年)
- バベット・コール トンデレラ姫物語 (ウイメンズブックストア松香堂、1995年)
- バベット・コール シンデレ王子の物語 (ウイメンズブックストア松香堂、1995年)
- ジェフリー・ウィークス セクシュアリティ(河出書房新社、1996年)
[編集] 関連図書
[編集] 脚注
- ^ 『「アグネス論争」を読む』JICC出版局、1988年ほか
- ^ この結果、フェミニズムの感覚からさほど遠くなかったとされている林真理子、中野翠の二人はアンチ・フェミニズムの代表者と見なされることになったが、こうした上野の議論はフェミニストで有名な小倉千加子ガ「論理のすり替え」を指摘したほど強引なものだった。小倉千加子「林真理子論 ―長距離ランナーの栄光と孤独」月刊ASAHI、1991年3月号などを参照のこと
- ^ たとえば、林道義『フェミニズムの害毒』1999年