万年筆
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万年筆(まんねんひつ)は、ペン軸の内部に保持したインクが毛細管現象により溝の入ったペン芯を通じてペン先に持続的に供給されるような構造をもった携帯用筆記具の一種。インクの保持には、インクカートリッジを用いたもの、各種の方法でインクを吸入するものなどがある。
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[編集] 万年筆の歴史
[編集] 万年筆の開発史
1809年、イギリスのフレデリック・バーソロミュー・フォルシュが、ペン軸にインクを貯蔵するペンを発明し、特許を取得したのが最初。同年、イギリスのジョセフ・ブラマも同様の特許を取得しており、この頃から「fountain pen」(英語で泉のペンの意)と呼ばれるようになった。
1883年、アメリカの保険外交員ルイス・エドソン・ウォーターマンが毛細管現象を応用した万年筆を発明[1]。現在の万年筆の基礎となった。
日本では江戸時代以前「御懐中筆」の名で万年筆の前身らしきものが既に発明されていたという。万年筆が日本に入ってきたのは、1884年、横浜のバンダイン商会が輸入したのが始まり。東京日本橋の丸善などで販売された。当時は「針先泉筆」と呼ばれており、「萬年筆」と命名したのは、1884年に日本初の国産万年筆を模作した大野徳三郎と言われている。なお、丸善の当時の販売担当の金沢万吉の名にちなみ、「万さんの筆=“万年筆”」と名付けられたという説もある。 ただし仮説である為実際の名前の由来は解かっていない。[要出典]
カートリッジ式の万年筆を発明したのは、阪田製作所(後のセーラー万年筆)の阪田久五郎と言われている。阪田は1954年にカートリッジ式万年筆の特許を取得しているが、同社が実際にカートリッジ式万年筆を初めて発売したのは1958年のことであり、1957年にカートリッジ式万年筆(オネスト60)を発売したプラチナ萬年筆に遅れをとっている。
戦前には日本の万年筆製造は盛んで、1940年には世界生産量の半数を日本で生産していた。
[編集] 万年筆の文化史
万年筆はペンとともに1960年代頃まで、手紙やはがき、公文書など改ざん不能[2]な文書を書くための筆記具として主流であったが、徐々にボールペンに取って代わられ、1970年代に公文書へのボールペンの使用が可能になり、また書き味に癖がなく安価な低筆圧筆記具である水性ボールペンが開発されたことにより、万年筆は事務用・実用筆記具としてはあまり利用されなくなっている。役所によってはサインペンと同等と看做されて使用禁止にされているところもある。しかし、近時万年筆の希少性・独自性が見直され、趣味の高級文具として復権の兆しが見られてる。また、万年筆のデザイン性、希少性に着目し、コレクターズアイテムとしても注目されている。このため、万年筆を扱った書籍や雑誌が刊行されるようになっている。
[編集] 筆記具としての特徴
長所
- 構造上低筆圧で筆記可能である。
- 万年筆の名の通り、半永久的と言える程長期に渡って使用する事が出来る。
- 使用するうちに使用者の癖に応じてペン先の形状などが変化し、使用者に合った書き心地(いわゆる「馴染む」状態)になる。
- 万一ペン先が曲がるなどして使用不能になった場合でも修理が可能である。
- 構造上独特の筆跡を表現できる。
短所
- ペン先が常時空気に触れているため、乾燥に弱い。
- 温度や気圧の変動、衝撃や振動に弱いためしばしば不慮のインク洩れ・インク飛散事故を起こす。
- ペン先の構造上、にじみや引っかかりが起こりやすく、粗悪な用紙に弱い。
- 頻繁なインク補充・ペン先の手入れ・吸入器の洗浄等、取り扱いが頻雑である。
- 使用者の癖が付き、更に粗雑な取り扱いや衝撃に弱いため貸し借りや共用に不向きである。
- 構造上手作業の工程があったりと製造に手間がかかるため同一メーカーの、同一モデルのボールペンや、シャープペンシルに比べると高価である。
近年は、安価でメンテナンスを廃した使い捨てタイプの万年筆や、安価であってもカートリッジの交換が出来るものが製造販売されている。 現在では従来の欠点を克服・解消している万年筆も多く存在し、また字の発色に濃淡が生まれ独特の風合いをもった筆跡が生まれることや物珍しさから一時期に比べ使用者が増え、復権を果たしてきたと見る傾向もある。 一時期は弛廃した筆記具ではあるが上記の理由から一部では万年筆を尊ぶ風習も残っている。 古くから使用されてきた筆記具であり、高価なイメージを持たれることから契約書・履歴書等の重要書類にサインする際万年筆を使用することが推奨される場合もある。
[編集] 構造
万年筆はいくつかのパーツを組み合わせて作られている。
[編集] ペン先
ペン先(ニブnibともいう)には常時インクが接触していることから耐酸性が、強弱のある書き心地を実現するために適度な柔らかさが、長年使用することから耐磨耗性が必要となる。そこで、尖端にイリジウム合金をつけた金ペンが伝統的に使用されてきたが、1970年代からは合金を使用した白ペンも普及する。
[編集] ペン先の素材
現在主にペン先に使われているのは、以下の素材である。
1万円を越える比較的高級な万年筆に使われる。どちらも、ペン先の材質に好都合な要素である耐酸性・耐磨耗性、弾性・靭性が共に優れている。 使用される金の純度は14~18Kが一般的。 耐久性の面では14Kが最も優れていると言われるが宝飾用途も兼ねて18金が使用されることも多い。
比較的安価な万年筆に使われる。特に、ステンレスは錆に強く安価な事から、安価な万年筆製造には好都合な金属である。 金を使用したペン先に比べ耐久性は劣るがコストパフォーマンスが優れており量産にも向くため低価格な商品では多用される。 デザイン優先で金メッキを施した商品もあるが、メッキの有無の違いは防錆加工の違いであり、一般に信じられているように書き味に差がある訳ではない[要出典]。 また、鉄製のペン先は金メッキされたものよりも何もメッキされていない方が腐食に強いとも言われている。 (ブリキを参照。)
ぺんてるがプラマンと言うブランド名で発売している商品に使われている素材。上記の金属系と比べ安価で且つ加工性に優れており、当シリーズの人気の原動力となっている。ただし、金属系と比べ耐久性が劣るため、使い捨てる部分が多いという欠点がある。
[編集] ペン先の形状
ペン先の形状は、その万年筆の書き味の決め手となる。一般的には、ペン先が細長く、薄く、ハート穴[3]が大きいほどペン先は柔らかくなり、書き味は滑らかになる。逆に、幅が広く、短く、厚みがあり、ハート穴の小さいペン先ほど硬く、書き味も硬いものとなる。
多くのメーカーでは、ペン先の種類によって異なる線の太さを示すために、アルファベット1文字から2文字の略号が使われる。代表的な表記としては、EF(極細)、F(細字)、M(中字)、B(太字)、BB(極太)など。ただし、同じ表記であっても統一的な基準があるわけではなくメーカー、製品ごとに実際の太さは異なっている。特に日本メーカーのものは欧米メーカーよりも半段階から一段階程度細いとされている。これは一説によると、日本メーカーがアルファベットに比べ込み入っている漢字を書く際の利便性を考えているためだといわれる。
ただし、線の太さはペン先の形状のみによって決まるものではなく、インクの流れ(インクフロー)や紙とインクの相性等にも大きく左右される。同じペン先であってもフローの良いインクを使えばフローの悪いインクを使った場合より当然太い線となり、インクと紙の組み合わせによって紙にインクが染み込みやすい場合はそうでない場合に比べて線は太くなる。
特殊な形状としてカリグラフィ用や楽譜用(ミュージック)、サイン専用のペン先なども存在する。
[編集] ペン芯
インクタンクからペン先へとインクを導くための部品をペン芯と呼ぶ。かつて、素材はインクになじみやすいエボナイトが使用された。現在ではエボナイト製のペン芯を使用しているメーカーは皆無に等しい。合成樹脂を使用するものが多く、また、その方が精度が高いものを容易に大量生産することが出来る。 インクタンクから、ペン先のハート穴の部分まで細い溝が掘られており、毛細管現象によりインクが常に供給される。ペン芯には、前述の細い溝とはべつに、多数の溝が掘られ、過剰に供給されたインクを一時的にためておく構造となっている。
インクフローや書き味を左右する重要な部位である。また、工作精度が低い物や、いわゆる"ハズレ"は、この部分に不具合を持っている場合がある。
[編集] 本体(軸胴部)
万年筆のうち、キャップや胴軸(筆記する際に手で持つ部分)は重量バランスひいては書き味を左右する部分であり、かつてはセルロイド、エボナイト等の軽量な素材が主に使用された。現在は、プラスチックやアクリル製、金属に塗装や鍍金加工を施したものがほとんどであるが、高級万年筆には、耐久性を重視してエボナイトを用いるもの、昔ながらの風合いを重視しセルロイドを用いるもの、黒檀、カーボンファイバーなどの特殊素材を用いるものがある。
また、デザインも万年筆の評価、価値を決める重要な要素であり、高級万年筆には貴金属、宝石で本体を装飾したものもある。日本では、漆塗や蒔絵等の伝統工芸を生かした万年筆が戦前から製作され、特に戦前の並木製作所(現パイロットコーポレーション)の蒔絵万年筆は「NAMIKI(ナミキ)」のブランドで海外に輸出され、高い評価を得た。
吸入式タイプであるものの多くは、インクタンク内のインク残量を見るための窓(インク窓)が設けられている場合が多い。単に素通し、透明プラスチックがはめ込んであるだけというものも多いが、高級なものではデザインの中に取り込む工夫がなされており、万年筆の意匠を特徴付ける要素の一つともなっている。また完全に無色透明で中の機構を外側から見ることの出来るものもある。ただしカーボン系のインクの場合、表面張力が小さいのでインク窓表面全体にインクが広がり、且つインク自体透光性が低いので、インクの量を確認出来ない場合がある。
[編集] キャップ
万年筆のキャップはペン先を保護するとともに、インクが乾かないように密閉しておく役割ももつ。このため、気密構造になっている。キャップの固定方法は螺子式あるいはスリップ式になっているものが主流であるが、低価格のものを中心に嵌合式(パチンと音が鳴るまで嵌め込み固定するもの)のものも多い。嵌合式の場合、胸のポケットに入れて携行する場合、外れてインクが服に染み出すこともある。
[編集] インクの補充方式
万年筆はインクを充填する方式により大きく2通りに分けられる。ひとつは、ビンに入ったインクを吸入する方式、もうひとつはカートリッジにつめられて小分けされた状態で流通しているインクをつかい、ペン軸内にカートリッジをセットして使用する方式である。
[編集] 吸入式
ペン軸内にインクを吸入するための機構が内蔵されているものを吸入式と言う。 ビン入りインクを吸入して用いる方法専用のもので、後述するカートリッジ式や、コンバーター(吸入器)式のものよりも多くのインクを一度に充填する事が出来る。 万年筆が考案された当初から使われている形式で、現在でも高価格帯の製品を中心に多くのモデルが製造されている。
吸入装置は本体内を負圧にし大気圧でインクを本体内に送り込むもので、ピストン式のもの等様々な方式がある。使用出来るインクの種類が多い上、インクを出し入れするときに細かいゴミなどを掃除する事が可能である(なお、モンブラン等の一部のメーカーは洗浄成分をインクに混入させている。)。 カートリッジ式を採用した製品では、コンバーターを装着しない限りこの掃除機能は望めない。しかし、後述のコンバーター(吸入器)式に比べると、インクの吸入機構が劣化した場合において、修理に出さなくてはならない場合がある上、ペン内部の洗浄がしづらいといった欠点がある。
[編集] コンバーター(吸入器)式
カートリッジ、コンバーター両用式と明記されているものが利用できる。 カートリッジを刺す部位にコンバーターと呼ばれる吸入器を装着し、インク瓶からインクを吸入出来る様にするものである。カートリッジ装着部に取り付ける構造上の都合から、吸入出来る量はカートリッジ式とほぼ同じか若干劣るものの、基本的には吸入式と同じく使用出来るインクの種類が多く、インク装填時にペン内部を掃除する事が出来る等の利点がある。そのため、昨今の主流であるカートリッジ式と違い、コンバーター購入等の初期費用が掛かる事が多いが、インクに掛かるコストを考慮に入れると長時間筆記し続けることが多い人には適した方式とも言える。
吸入式に比べ、コンバーターを買い換える事で吸入機構を新しく出来るため、吸入機構が劣化しても修理に出す必要が無く簡単に交換できる点や、ペン内部の洗浄がしやすいといった利点がある。しかし、吸入式に比べるとインクを保持できる量が少ないといった欠点がある。最近は、吸入式と違い後述のカートリッジ式と機構を共用できる事から、コスト面からこの方式を吸入式の代わりとして用いているメーカーが増加傾向にある。
[編集] カートリッジ式
現在は、インクの補充を簡単に行うため、インクを詰めたカートリッジが広く使われている。カートリッジの形状は原則としてメーカーごとに異なっており、ペンの製造メーカーから供給されるカートリッジを購入し使用するのが一般的である。 ヨーロッパのメーカーの多くでは欧州共通規格のカートリッジが採用されており、この場合は欧州共通規格を採用する他のメーカーのインクを使用することが可能である。 ただし欧州のメーカーであっても独自規格のカートリッジを採用するメーカーも多く、またペンの種類によって利用可能なカートリッジが異なっている場合もある。また、カートリッジ式の場合、インクに掛かる費用が吸入式の5倍近くになると言われている。
カートリッジ専用(コンバーター不可)の万年筆においてインクにかかる費用を抑えるために、使用後のカートリッジに注射器やスポイト等で瓶のインクを詰めれば瓶のインクを使えるが、カートリッジが劣化した時や、カートリッジの差し込み口が緩くなってしまうと、インクが漏れてしまい危険である。もちろん、メーカーの保証外行為のため自己責任となる。また、他社のコンバーターが偶然装着できることもある。
[編集] インク止め式
昭和30年頃までは主流の方式であった。また、海外では同様の構造は見られず、日本独自の方式である。なお、海外のアイドロップ方式とは異なる。
構造は大きく分けてキャップ、首軸、胴軸、尻軸に分かれている。首軸、尻軸はねじが切られており、首軸を外してスポイトでインクを直接胴軸に入れる方式である。 筆記の際には尻軸を緩めペンを縦に振ってから筆記する。もしくは、尻軸を完全に緩め、引いた後押し込む。これによりペン芯にインクが供給され筆記可能となる。 前者の方法では、インクが飛んでしまう事が多い。しかし、後者の方法では、加減によりボタ落ちを防げる。 また、尻軸を緩めるのは、胴軸の中にあり、尻軸と直結しているエボナイトの棒状の栓を緩め、インクがペン芯に行き渡るようにするためである。尻軸を閉めている時は、胴軸内のエボナイトの棒がペン芯へのインクの供給路を塞いでいる。
胴軸全体がインクのタンクとなるため、他の方式と比べインク容量は非常に多い。 軸の素材としてはエボナイトまたはセルロイドが殆どである。
[編集] 万年筆のインク
[編集] インクの種類と組成
一般に万年筆用のインクとしては染料系のインクが用いられており、耐光性・耐水性に乏しい場合が多い。
旧来、万年筆を使用してそれらの性質を必要とする公文書などを書き記す場合、化学反応によって紙に定着するタイプのブルーブラックインクが使われてきた。このインクはイオンの状態で鉄を含んでおり、これが酸化されて黒色の沈殿を生じる事によって紙に定着する。これの反応が進む様子はインクの色によって知ることができ、筆記直後には比較的青い色をしているものが、日にちが経って反応が進むと次第に黒ずんでくる。このタイプのインクは、強い酸性を示し、金属を冒す事でも知られる。万年筆のペン先として金が多用される理由の一つは、酸性のインクに冒されない耐薬品性の強さである。
現在生産されているブルーブラックインクは単にブルーとブラックの中間の色彩を持つ染料インクであり、メーカーによる違いは有るものの耐水性や耐光性には乏しい場合が多い。なお、保管状態で反応が進行してしまうため、化学反応で着色するタイプのブルーブラックインクカートリッジは存在しない[要出典]。
顔料系のインクは鮮やかな色彩を醸し出し、耐水性、耐光性はあるが、インクが乾くと目詰まりを起こし万年筆が使えなくなるので敬遠されてきた。製図や漫画の製作その他によく使われるインディアインク(インディアンインク)も詰まりやすいことから使えない。カーボン系の黒も同じ理由で敬遠されてきたが、現在では超微粒子顔料の万年筆用カーボンインクが販売されている。
万年筆のインクには色素成分の他に、界面活性剤が含まれている。界面活性剤は、紙にインクを染み込ませる役割をしている。界面活性剤の量によって染み込み具合が大きく異なるため、ペン芯とインクとの相性や裏抜けと言った現象が発生する。また、ペン芯からペン先へのインクの伝わり易さをインクフローという。
[編集] インクの供給形態
インクは、大きく分けてビン入りとカートリッジ入りの二種類の形態で流通している。
ビン入りのインクは、一般的にはカートリッジ式のものより単価が安く、色の種類も豊富である。化学変化により紙に定着するタイプのブルーブラックインクや顔料インクなどの特殊インクについても瓶詰めで供給されている場合が多い。このため、万年筆を多用する人や万年筆に趣味性を求める人などに愛用されている。
これに対してカートリッジインクの長所はインクの充填作業が簡単になることと、小分けされたプラスチックカートリッジの状態であることから、持ち運びが楽なことである。ただし、典型的な色しか用意されていないことが多く、ボトルインクでは化学変化により紙に定着するタイプのブルーブラックインクを供給しているメーカーであっても、カートリッジインクの場合は一般に通常の染料インクであり耐水性・耐光性は期待できない。
[編集] 使用方法
[編集] インクの充填
万年筆は軸の中にインクをためて、そのインクを毛細管現象によりペン先に導くことによって筆記可能な状態を保つ構造をもつ。したがって、使用する前にペン軸の内部にインクを入れる必要がある。
[編集] カートリッジインク式万年筆の場合
インクカートリッジの形状は各社さまざまであるが、カートリッジインクの場合はカートリッジを装着するだけで使用可能となる。具体的には、首軸部分にカートリッジを正しい方向でおくまでまっすぐ(回転させるようにしてはいけない)差し込めばよい。この際、カートリッジの側面を強くつまんでいるとインクが飛び出すことがある。シェーファーだけは少し変った方法を推奨しており、カートリッジを、軸(首軸ではないほう)の中に入れそのまま首軸にねじ込む方式である。
[編集] コンバーター(吸入器式)の場合
同じメーカーの同じカートリッジを採用したペンであっても、コンバーターを利用できるものとできないものがあったり、固定方式などの点においてバリエーションが存在する場合があるので、原則として取扱説明書に記載されたメーカー推奨の組み合わせで使用する方が良いであろう。欧州共通規格を採用したものであっても、他社のコンバーターを使用するとインク漏れなどの原因となることがある。
[編集] ビン入りのインクを補充する場合
吸入式やコンバーター式の万年筆を使う場合には、ビン入りのインクを使用することになる。
細かい手順は万年筆やコンバーターの種類によって異なるので製品に付属する説明書に従って操作しなければならないが、大まかな手順は共通している。まず、インクタンクの内部から空気を追い出すように操作する。その状態のままインクビンのインクの中にペン先を入れて、吸入動作をする。このとき、ペン先をつける量はペンによって異なるがハート穴やペン芯の空気穴が完全に隠れるようでないと空気を吸ってしまうことになり、インクを充填できない。充填が終わったら、余分なインクをふき取り、使用する。
インクボトルに残っているインクの量が減ってくると、インクを吸入するのが困難になる。このような場合は、小型の容器に移し替えたり、新しいインクを継ぎ足したりして使う。ただし、古いインクは変質していたりゴミが混入していたりする場合も多いので、インクの継ぎ足しはあまり推奨できる行為とはいえない場合が多い。 モンブランのインク瓶やパーカーのインク瓶(ペンマンインクのみ)では、瓶内に小区画を設定して、そこにインクを流し込むことで、インクの量が少なくなってもペン先を十分に浸すことが出来るようにするなどの工夫を行っている。
[編集] 筆記法
一般的には、軸を親指と人差し指の2本の指ではさむようにしてもつのが良いとされる。どこを持つかは、その人の手の大きさ、万年筆の大きさ、重量バランスなどにも拠るので一概には言えない。ヨーロッパでは万年筆の持ち方が初等教育段階で指導されており、学童用の万年筆には正しいもち方ができるように面取りしてあるものもある(ペリカンジュニアなど)。
ペン先を紙に当てる角度は、ペン先の研ぎ方にも拠るが、かなり寝せて書くのが一般的のようである。ボールペンのように垂直に近い角度で使うのは推奨されない。
欧文を書く場合は、寝せて書くほうが書きやすい、漢字、日本語を書く場合にはこれは当てはまらず、やはり、鉛筆同様の角度50度前後の角度で書いたほうが書きやすい。
ねじれ方向の角度に関しては、通常のペン先の場合、ペン先が紙に対して平ら、筆記方向に水平にあたるようにしなければならない。もし、ペン先がねじれて紙と接するように使ったとすると、引っかかるばかりでなく、割り切りの内側の角が削られて、かすれの原因ともなる。ただし、楽譜用など特殊用途のペン先には、ペン先を紙面・筆記方向に垂直に当て、縦線を細く横線を太く引く設計のものがある。
かなり弱い筆圧でも筆記に支障はない。むしろ強い筆圧でやわらかい(よくしなる)ペン先のものを使うと割り切りが開いてしまいうまく書けない。そのため一般に筆圧が強い人には硬いペン先のものの使用が推奨されている。いずれにしてもペン先が反り返ってしまうほど高い筆圧を掛けての使用は故障の原因となる。
[編集] メンテナンス
インクの出が悪い等、万年筆の故障のほとんどは、長期間使用しないことにより内部でインクが固着することによって引き起こされる。このため、万年筆にとっては、日常的に使用され、ペン先にインクが供給され続けることが一番のメンテナンスである。吸引式の場合インクの補充の際、インクが本体の埃や、固まりかけたインクの塊を押し流す役割を果たす。カートリッジ式の場合、この機能を期待できない。 逆に、長期間使用しないときは、内部のインクを抜き、洗浄し乾燥して保管する必要がある。
洗浄には水またはぬるま湯を使用し、洗剤はペン先及び本体を傷める恐れがあるので使用しない。カートリッジ式の場合は、まずカートリッジを外し、ペン先を水またはぬるま湯に浸してそのまま数日放置し、内部のインクが流れ出るのを待つ。カートリッジ自体は注射器やスポイトで洗浄する。 一方、吸入装置を内蔵する万年筆またはコンバーター式万年筆の場合は、余分なインクを瓶に戻し、水またはぬるま湯を入れたコップにペン先を浸け、水またはぬるま湯を吸入し、暫く待った後にインクの溶け出た水を捨て、この作業をペン先から出る水が無色になるまで続ける。この場合、洗剤等は使用しない。洗浄液は熱湯を使うとインクの粒子が変質し、かつ万年筆本体を傷めるので必ず微温湯を使うこと。
また、本体の外側部分は、樹脂などの弱い素材で作られることが多いため、傷をつけぬよう柔らかい布で磨くのがよい。
インクが詰まってしまい、どのような方法を用いてもそれを取り出すことできない場合、眼鏡を洗うための低周波、超音波洗浄器を用いて洗浄すると中の詰まったインクが出てくるので、それを用いるといい。この方法は、1度入れたインクを別の色に変えたいときなどに用いると、中の洗浄も短時間でできるので便利である。ただし、超音波洗浄機はその種類により周波数や音波強度に差が大きく、最悪ペン先のメッキを剥がすなど、ペンの使用にかかわる悪影響を及ぼす場合がある。
[編集] トピックス
第二次世界大戦中米軍はフィリピンの抗日ゲリラに対し、パーカー社の万年筆を勲章の代わりに授与した。
[編集] メーカー
- ※リストは一般に知名度が高いブランドを上位にしている。
[編集] 日本
- パイロットコーポレーション - 国産最大手。スタンダードな製品から軸に蒔絵を施した最高級品まで幅広く取り揃える。カスタムシリーズやノック式のキャップレスが代表的製品。
- ナミキ - パイロット社のブランド。元々は海外における同社の商標だったが、現在では国内でも最高級蒔絵万年筆に限り使用されている。
- セーラー万年筆 - 同社の職人である長原宣義による特殊なペン先は評価が高い。プロフィットシリーズが代表的製品。
- プラチナ萬年筆 - 万年筆通であった梅田晴夫と研究グループが開発したプラチナ#3776はロングセラー商品となっている。
- カトウセイサクショカンパニー - 現代でもセルロイド製のペンを手作りで作っている。
- ロングプロダクツ - 現代でもセルロイド・アセチロイド製のペンを手作りで作っている。
- 中屋万年筆 - 元プラチナ萬年筆の職人が創業。注文者の好みに応じて、ペン先やデザインを調整している。
- 大橋堂
- 川窪万年筆店
- 万年筆博士
- エイチワークス - 万年筆専門店フルハルターと共同で万年筆を製造。現在は生産中止。
- モリソン万年筆
[編集] 英国
- パーカー - 創業はアメリカ。一時代を築いた大人気製品を多く抱え、コレクターも多い。デュオフォールドは首脳会談の調印式で頻繁に登場している。
- ヤード・オ・レッド
- デ・ラ・ルー - ブランド名はオノト。同社は既に万年筆の製造はしていないが、コレクターに人気が高くビンテージ品として高値で取引されている。夏目漱石が愛用していたことでも知られる。現在では丸善がオノトのブランドを借り受け復刻版を限定生産している。
- ダックス (ファッションブランド)
- ダンヒル
- コンウェイ・スチュアート
[編集] ドイツ
- モンブラン - 現在ではブランド名のみが残っている。作家から一般人まで幅広い人気を誇る。とりわけマイスターシュテュックは著名であり、模倣したと思われる製品も少なくない。現在は流通管理の徹底による定価での販売や製品を一部高級品に絞り込む戦略を採っている。
- ペリカン - インクの吸引式機構などの古典的な設計にこだわった製品が多い。同社の代表的製品であるスーベレーンM800は、ペン先の出来や重量のバランスにおいて最高傑作であると考える万年筆通は少なくない。モンブランとは対照的に頑固に筆記具にこだわっているメーカーであるが、昔に比べると工作精度が落ちている。[要出典]
- ラミー - 近代的なデザインの筆記具を数多く製造。
- ファーバーカステル - 木軸のものを多く製造している。万年筆よりも鉛筆のほうが有名。
- ロットリング - ニューウェル・ラバーメイド・グループのオフィス用具部門サンフォードの傘下。低価格なものを製造している。製図用ペンが有名。
- ステッドラー - 万年筆はほとんど作っておらず、鉛筆や製図用芯ホルダーが有名。
- ヴァルドマン - スターリングシルバー製の筆記具が多い。世界初のツイスト式二色ボールペンの復刻版「エポック1958」(黒・赤の油性リフィル以外に交換スタイラス付き)、革装のボールペン「バロン」が有名。
- カヴェコ - 専用革ケースに入った携帯用万年筆とボールペンのセット「カヴェコ・スポーツ」(復刻版)が有名。
[編集] フランス
- ウォーターマン - 現在の形の万年筆を発明したL.E.ウォーターマンが設立。独特のデザインを持つ製品が多い。ニューウェル・ラバーメイド・グループのオフィス用具部門サンフォードの傘下。
- S.T.デュポン - 機構部はペリカンが作っている。
- カルティエ - 機構部は同リシュモンの、モンブランが作っている。
- ビック
- レシーフ
- クレージュ
[編集] アメリカ
- クロス (筆記具ブランド) - シャープペンシルやボールペンでは歴史があるが、万年筆については歴史が浅い。
- シェーファー
- モンテベルデ - 万年筆はアーティスタキットのみ。ボールペンを多く製造している。
- クローネ
- コンクリン
[編集] イタリア
基本的にイタリア製の万年筆は工作精度が低く、個体差が激しい。そのために、初心者がイタリア製万年筆を買うことは避けた方がよいとの意見もある。[要出典]。
- アウロラ (筆記具ブランド) - イタリアの万年筆メーカーの中では最も精度が高いと言われてる。
- デルタ (筆記具ブランド) - ドルチェビータが有名。昨今、映画クローズド・ノートにも登場し、話題となった。
- ビスコンティー - 過去の高級筆記具の製法を現代に蘇らせた。中でも工作精度が低く、個体差が激しい。
- モンテグラッパ - リシュモン傘下。
- オマス - 現在日本では正規輸入代理店行方不明なため、入手が限られている。
- カンポマルツィオ
- スティピュラ
- ティバルディ
- マーレン
[編集] その他
- カランダッシュ(スイス) - 特殊素材を用いているモデルが多い。
- 英雄 (筆記具ブランド)(中国) - ブランド名はHERO。中国最大手の文具メーカー。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 現・フランスの万年筆会社ウォーターマンの創始者である。
- ^ 他の筆記区と比べ使用者の癖がつきやすい事も、改ざん防止に影響していると思われる。
- ^ ペン先のほぼ中央に空けられた円形またはハート型の穴の事。ただし、全てのペン先にある訳ではない。