ヒンドゥー教
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ヒンドゥー教 |
基本教義 |
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輪廻、解脱、業、梵我一如 |
神々 |
ブラフマー |
シヴァ(パールヴァティー) |
ヴィシュヌ(クリシュナ) |
アスラ、ヴァルナ、 |
ヴィローチャナ、ヴリトラ |
ラーヴァナ、インドラ |
ナーガ、ナーガラージャ |
聖典 |
ヴェーダ |
マハーバーラタ (バガヴァッド・ギーター) |
ウパニシャッド |
ラーマーヤナ |
法典・律法経 |
マヌ法典 |
ヤージュニャヴァルキヤ法典 |
人物 |
シャンカラ、グル |
修行法 |
ヨーガ |
地域 |
インド、ネパール スリランカ、バリ島 |
社会・生活 |
カースト、ジャーティ サティー、アーシュラマ |
文化・芸術 |
寺院一覧、遺跡一覧 |
ヒンドゥー教(ヒンディー語:हिन्दू धर्म,サンスクリット:सनातन धर्म,英語:Hinduism, 日本ではマスメディアをはじめ一般にヒンズー教と呼ばれることが多い)は、インドやネパールで多数派を占める世界最大の民族宗教である。インド教とも呼ばれるが、現在のインドは世俗的な国家であり国教はなく、またインドでこのように呼ばれたことはない。なお、最近「ヒンディー語」という言語名の知名度が上がってきたためか、本来の宗教名と混同して「ヒンディー教(徒)」という明確に誤った名称も少なからず散見されるようになった。
ヴェーダ聖典・カースト制度等、多くの特徴をバラモン教から引き継いだ多神教であり、輪廻や解脱といった独特な概念が特徴的である。三神一体(トリムルティ)とよばれる近世の教義では、中心となる3神、すなわち
は一体をなすとされる。
ヒンドゥー教に関しては非常に多種多様な説明がなされるが、これはヒンドゥー教が長い歴史を経て生活に深く根付いた民俗宗教であるため時代や地域によって教義の体系が混然としており、包括的な整理が困難であることの現れでもある。
目次 |
[編集] 語源
「ヒンドゥー」は古代ペルシアで「インダス川流域で対岸(シンドゥの反対側)に住む人々」の意[要出典]。これが語源となった。インド植民地時代に、大英帝国側がインド土着の民族宗教を包括的に示す名称として採用したことから、広く普及した。
[編集] 歴史
4世紀頃、古代インドにおいて、ヴェーダの宗教であるバラモン教と民間宗教が融合することにより成立。バラモン教時代を含めてヒンドゥー教を指す場合もある。ヒンドゥー教にはバラモン教の全てが含まれているが、ヒンドゥー教の成立に伴って、バラモン教では重要であったものがそうでなくなったり、その逆が起きたりなど大きく変化している。
ヴェーダの時代に重要な3つの神であった「インドラ、アグニ(火の神)、ヴァルナ」から、ヴェーダでは脇役に過ぎなかった「ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ」へと重要な神が変わり、特にヴィシュヌやシヴァは民間宗教の神を取り込んでいき多様な面を持つようになった。
5世紀頃までは仏教がインドでは大きな勢力を持っており、仏教に対抗するために反仏教側により新しい宗教が構成されたと見ることができる。
[編集] 聖典
ヒンドゥー教は多くの意味でバラモン教を受け継いでいて、ヴェーダ文献群と、その最後尾に位置するウパニシャッド群は、現代でも多くのインド人に愛読されている。
ヒンドゥー教において、聖典ではなく叙事詩であるギーター(歌)、特に「バガヴァッド・ギーター」(「神の歌」の意)の持つ意義は絶大である。サンスクリットの大叙事詩「マハーバーラタ」の一部に含まれる「ギーター」は、古来大きな影響を与え続け、最近でも例えばマハトマ・ガンディーはギーターを生涯愛好し続けたことで知られる。ギーターはインドの民間思想の頂点を示すものであって、そこでは様々な解脱の方法が解説される。
[編集] 社会的な影響
[編集] ヴァルナ(身分制度)
詳細はカーストを参照
ヒンドゥー教の展開のなかで、ヴァルナ(カースト)制度が強く指摘される。カーストは基本的な分類が4つあるが、その中には非常に細かい定義があり非常に多くのカーストがある。カーストは身分や職業を規定する。カーストは親から受け継がれるだけで、生まれた後にカーストを変えることはできない。ただし、現在の人生の結果によって次の生など未来の生で高いカーストに上がることができる。現在のカーストは過去の生の結果であるから、受け入れて人生のテーマを生きるべきだとされる。
なお、外国人であっても日本や裕福なアジアの国や、ヨーロッパ、アメリカからの訪問者はその国の力が強いため、高いカーストと同様の扱いを受ける。
基本的な4つのカーストとカースト外の身分には、以下のものがある。
- ブラフミン(サンスクリットでブラーフマナ、音写して婆羅門・バラモン)
- 神聖な職についたり、儀式を行うことができる。ブラフマンと同様の力を持つと言われる。「司祭」とも翻訳される。
- クシャトリア(クシャトリヤ)
- 王や貴族など武力や政治力を持つ。「王族」、「武士」とも翻訳される。
- ビアイシャ(ヴァイシャ)
- 商業や製造業などにつくことができる。「平民」とも翻訳される。
- スードラ(シュードラ)
- 一般的に人々の嫌がる職業にのみつくことが出来る。スードラはブラフミンの影にすら触れることはできない。「奴隷」とも翻訳されることがある。先住民族であるが、支配されることになった人々である。
- アチュート(パーリヤ)
- さらに、カースト外の人々もおり「不可触民」とも翻訳される。力がなくヒンドゥー教の庇護のもとに生きざるを得ない人々である。にも関わらず1億人もの人々がアチュートとしてインド国内に暮らしている。
なお、カーストによる差別は1950年に憲法で禁止されている。 詳細 >>
[編集] 他宗教からの改宗
改宗してヒンドゥー教徒になることは可能であり歓迎される。しかし、そこにはカースト制がある。カーストは親から受け継がれ、カーストを変えることが出来ない。カーストは職業や身分を定める。他の宗教から改宗した場合は最下位のカーストであるスードラに入ることしかできない。生まれ変わりがその基本的な考えとして強くあり、努力により次の生で上のカーストに生まれることを勧める。
また、イスラム教の経済力と政治力や武力による発展のなかで、ヒンドゥー教からの改宗者が多かったのは、下位のカーストから抜け出し自由になるのが目的でもあった。
[編集] 聖地
- ワーラーナシー(バナーラス、ベナレス)
- アヨーディヤー
- ハルドワール(ハリドワール)
- リシケーシュ(リシケシ、リシュケシュ)
- ガンゴートリー
- ヤムノートリー
- ケーダールナート
- マトゥラー
- カーンチープラム
- ウッジャイン
- ドワールカー(ドワーラカー)
- プリー
- ラーメーシュワラム
- バドリーナート
[編集] ヒンドゥー教の遺跡
[編集] ヒンドゥー教の祭礼
[編集] 「ヒンドゥー教はインドを中心とした民族宗教である」のか?
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- 「民族」の定義がはっきりしない
- まず、「民族」の定義がはっきりしない。世界には一体いくつの民族があるのか、という問題はあるがヒンドゥー教に関する知識を得たい人にはあまりに漠然とした問題提起なので、ここで議論すべきことではないと思われる。
- 言語の違う人々に信仰されている
- 普通(一般に)、タミル語を話すタミル・ナードゥ州の人も、隣の州のテルグ語を話すアーンドラ・プラデーシュ州の人も同じインド人であるとされるが、遺跡見学のためにタミルナードゥ州で雇ったタクシー運転手は隣のアーンドラ・プラデーシュ州では使えない。同じインド内ではあるのだが、タミル語とテルグ語は違い、文字も違い、道路の看板の字が読めない、止まって住民に道を聞くこともできないのである。更にヒンディー語を話す(旧首都)デリーの人も同じインド人であり、ヒンドゥー教徒であるとされるが、タミル語とヒンディー語は違う。タミル人とデリーの人は違う言語を話す、ということになる。よってヒンドゥー教を「様々な言語を話す人々に信仰されている宗教である」ということも可能である。
- 東南アジアの宗教
- バリ島や東南アジアの宗教史(カンボジアのアンコール遺跡、ジャワ島のプランバナン、東部ジャワの、ヴェトナム南部の石造寺院)もいにしえの時代は土着宗教であったと考えられる。
- バラモン教が他宗教を取り込んでヒンドゥー教に成長していった可能性
- ヒンドゥー教はその根本にヴェーダがあるともいえる。そして、ヴェーダ聖典はサンスクリット(ヒンディー語と同じインド語派に属するとされる)で記述されている。「ヒンドゥー教の歴史『バラモン教』から『ヒンドゥー教』への緩やかな変化」というような所でしばしば言及される事だが、ヒンドゥー教はサンスクリット(ヴェーダ語)を話していたアーリア人達の伝統(バラモン教)とは異なる他民族(アーリア人とは違う他の集団)の性器崇拝(アーリア人自体がこの習俗は自分達と違う集団の習俗であると認識していた)などを取り込んでいる。このようにヒンドゥー教は「純粋な一言語族の宗教である」といえない側面がある。
「民族宗教」と言う場合ユダヤ教や日本の神道と並べられて論じられる場合があるが、ユダヤ教や神道と比較し特徴がある。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書籍
- ジョージュ・ミッチェル著 『ヒンドゥ教の建築 - ヒンドゥ寺院の意味と形態』 神谷武夫訳、鹿島出版会、ISBN 4-306-04308-8
[編集] 外部リンク