屋台
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屋台(やたい)は、移動式の簡易店舗。多くの場合、飲食店を指すが、その他玩具などを売る場合もあり、その場合露店(ろてん)とも呼ばれる。
世界各地に様々な形態の屋台がある。初期の形態としては、天秤棒で担いで売り歩いた形態があったが商品を多く運べないのが欠点。リヤカーのように可動式の店舗部分を人力、自転車、オートバイで牽引するものや、テントのように組み立て型の骨組みをもとに店舗を設置する場合もある。また小型トラックの荷台の部分を改造したものなど、特種用途自動車の例示のなかの食堂自動車を屋台と捉えることもできる。車内に机と椅子が必要であるので、加工車の方が屋台に近いと思われる。
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[編集] 日本の屋台
[編集] 概要
正月の寺社や縁日など大きな行事の場所にはたこ焼き、焼きそば、綿菓子、磯辺焼、おもちゃなど様々な屋台が出店する。屋台店とも呼ばれる。このような祭りの縁日等大きなイベントに出店する屋台は的屋と呼ばれる人たちによって営まれている場合が多い。
屋台は江戸時代に大きく繁栄し、江戸(後の東京)では、握り寿司や蕎麦切り、天ぷらといったすぐに提供できる食べ物(ファーストフード)が屋台で初めて提供され、現在の日本の食文化の起源の1つとなる営業形態であった。
移動式の屋台ではラーメン屋が多く商われている。これは江戸時代の夜鳴きそばに起源を発し、チャルメラをならしながら夜の街を流すため、別名チャルメラと呼ばれることもある。
夜間にのみ営業し、酒類とともにおでん、焼き鳥やどて焼きなど様々な料理を出して営業する屋台もある。屋台特有の雰囲気に誘われるファンは今も多い。営業には食品衛生法に基づく保健所の営業許可や道路交通法に基づく警察署の道路使用許可が必要。これら許可を取らないまま営業をしたり、水道、排水、電気、トイレの確保やゴミ処理が難しく、深夜の騒音問題、衛生面での問題や道路を占拠し交通を妨害するなどの問題もあり、最近ではこの種の屋台は減ってきている。常設的に屋台を開設するには向いていない日本の気象条件の制約等がある。料金のトラブルや、ヤクザ等による場所代徴収の問題もある。
広い敷地に水道を引き多くの屋台を集めた「屋台村」と呼ばれる常設の施設が各地で見られたこともあったが、昨今はあまり見られなくなった。そんな中でも北海道各所や、青森県八戸の屋台村は観光名所にもなり、盛況である。
近年の東京丸の内近郊をはじめとする各都市部では、ネオ屋台と呼ばれる移動販売車のランチタイム販売が好評を博している。商品は弁当中心でエスニック系のものが多く、清潔感と洒落た雰囲気で、女性客も気軽に買える内容となっている。 出店ポイントをネオ屋台村と称して、主にオフィス街の昼食需要に応えている。
こうした移動販売車は一般的な飲食店と比較すると低投資で取得可能で、客層の厚い場所に攻撃的に出店できるフットワークがあるため、個人の起業スタイルとして定着しつつある。また起業需要に応える形で、移動販売のフランチャイズチェーンも現れ、業態としてはクレープやメロンパン、揚げパン、いか焼きなどのチェーンが存在している。
更なる発展形として、移動販売車の欠点[衛生面での業態の制限][道路交通法の問題][電気や給排水設備の不足][車内作業効率の悪さ]を解決した半固定型のユニット厨房や牽引式厨房車両も姿を現し始めた。
[編集] 福岡の屋台
福岡市の博多区中洲・中央区天神・長浜地区など、「屋台街」と呼ばれる歩道上に屋台が集合して商売する場所もある。福岡の屋台は移動販売ではなく、場所を固定して営業する。昼は月極駐車場においてあり、夕方に「引き屋」と呼ばれる人が引いて決まった場所へ移動し、固定する。電気は屋台を営業する場所に専用の電源を持ち、水道は近くのビルと契約している。ガスは自前のプロパンガスを屋台内に取り付けてある。ラジオやテレビを流す店は多い。連絡用に携帯電話を持っている店主が多い。天気が悪い日などは休業するため、ガイドブックに電話番号を公開してある場合はこの携帯電話に営業するか否かを問い合わせることができる。
メニューは豊富で、ラーメンのほかおでん、もつ鍋、焼き鳥、鉄板焼き、天ぷらといったメニューを掲げる店が多い。これらのメニューをつまみに酒を飲み、最後にラーメンを食べるパターンになることが多い。店によってはカクテル専門・西洋料理専門・沖縄料理専門の店などもある。また、最近は店主の好みによって独自メニューの開発を行なって新たな形態を打ち出す例もあり、一方で従来のメニューを伝統的に守る主義の店も多い。ラーメンなど福岡での定番商品は多くの店にはあるが、おかない主義の店もある。衛生上、生の食品は置いてはならないことになっているが、ルール違反の屋台もある。また、金額の表示は義務化されており、金額のトラブルは減っている。
北九州市小倉の屋台は、アルコール類を一切置かない(ただし持ち込みは可)。おにぎりとお茶を片手におでんを食べるといった感じである。また、おでんの屋台にはおはぎがおいてあり、締めとしておはぎを食べる人も多い。規模は小さい。
[編集] 行政による規制
これらの屋台の営業は、保健所の食品衛生法に基づく許可や福岡県警の道路交通法に基づく道路使用許可が必要で、また、使用許可手数料も徴収される。営業できるのは間口3メートル、奥行き2.5メートルまで。店外にテーブルやビールケースを出したり、歩道を占拠する営業は違法となるなど、規制がある。
福岡県、福岡市、県警とも衛生面などの問題から規制を行ってきた。これに対して屋台側も県議会議員や厚生省(当時)を巻き込んだ抵抗運動を行った。
1962年には、営業許可基準、道路使用許可制度、道路使用取扱要綱などが決定された。1970年代に入ると県警が道路使用許可の名義変更を認めない方針を打ち出すが、1973年に屋台側が県警と交渉した結果、条件付きながら名義変更を認める譲歩案を引き出し、懸案だった名義変更問題も一応の決着を見た。しかし、1981年8月ごろから道路使用許可問題が再燃し、さらに市の屋台に対する基本認識問題も検討継続となった。
1994年10月には、県警が道路使用許可の名義に関して「屋台に関しては営業者一代限り、生計を共にする親族以外へは使用許可を受けた屋台の譲渡を認めない。また、親族であっても屋台以外に収入のある者へは譲渡を認めない」との方針を打ち出し、これ以降の屋台の売買譲渡は不可能となった。
福岡市は、屋台は観光資源でもあることから、道路使用許可の条件に満たない屋台の使用許可に関してもなかば黙認していたが、その存在を法的に認めていたわけではなかった。このグレーゾーン状態を解消するため、1996年から福岡市は「屋台問題検討会」を発足させ、基本方針を検討。2000年5月18日に「福岡市屋台指導要綱」を告示。屋台を合法的な存在と認める代わりに、屋台に関する様々な規制を明確化し、要綱に合致しない屋台の移転・再配置を明示した。しかし、規制を嫌い移転した屋台も多い。
近年は、交通の便が悪くなることや、臭うという理由で住民から嫌われることがあり、工事やイベントで一時的に営業をやめた屋台が同じところで営業を再開しようとしたのを住民達から阻止されたケースがある。
[編集] 東アジアの屋台
[編集] 台湾の屋台
台湾では、早朝から粥、麺類、魯肉飯、米加工品、サンドイッチ、フレンチトースト、おにぎりなどの軽食と豆乳、牛乳、コーヒーなどを売る屋台が、駅や市場の周辺、商店街などで営業を始め、朝食を取る人が訪れる。昼も同じような場所で、昼食に適した麺類などを売る屋台が出る。
主な都市では(特にホーロー人地区)、夕方以降から深夜にかけてナイトマーケット(中国語:夜市、ye4shi4 イエスー)(中国語版の記事)に屋台が登場する。台湾語では「ローピータアー」(lou7-piN7-taN3-a2) と呼ばれる。路面全体を歩行者天国にするか、あるいは両側の路肩だけを利用した道路の一定区画に屋台が並ぶ。これらの屋台の中には、麺類、揚げ物、炒め物、カットフルーツ、日本起源のたこ焼き、どら焼き、かき氷、刺身、寿司など多様な食品を提供するところもあれば、衣料品や雑貨を売る店もある。このため、地元民だけでなく、海外からの観光客にも人気が高い。 有名な夜市として、台北市士林地区の「士林夜市」(最大規模)、大同区の「寧夏夜市」、萬華区の「華西街夜市」、松山区の「饒河街夜市」、台湾師範大学近くの「師大夜市」、台湾大学本部近くの「公館夜市」、台北県永和市の「楽華夜市」、高雄市の「六合夜市」などがある。小都市の夜市は土曜日だけなど限られた日に立つ。
[編集] 中国の屋台
中国の本土でも、台湾に似た形態の屋台が見られるが、売る食品は地域ごとに異なる。たとえば、北京でみかける食品では、天津煎餅、焼き芋、ゆでトウモロコシ、甘栗などが多い。
地域によっては、夕方以降、歩道や広場を使って衣料品、雑貨類を販売する大規模な市場が現れたり、歩行者天国状態にした、食品の屋台街が現れる場所もある。
[編集] 香港の屋台
香港では、「大牌檔(広東語 ダーイパーイドン)(中国語版の記事)」と呼ばれる屋台が、麺類、粥、炒め物などの中華料理(広東料理が中心)を出すが、1980年代以降路上での営業は禁止される地域が増え、基本的に公園の一角のような定められた場所に集められて営業している。ほかに、自動車を利用した移動販売店舗も認められるが、許可取得に要する費用が高く、営業できる場所も制限を受けるため、日本のように一般的ではない。
これ以外に、プロパンガスコンロを仕込んだカートを使って、煮込み料理、揚げ物などを売る業者が街角に現れることがあるが、基本的に無資格販売であり、警官がパトロールに現れると、カートを押しながらクモの子を散らすように逃げる姿が見られる。
夜に道路を利用して店舗を出す例では、廟街や西洋菜街(女人街)が有名であるが、衣料品や雑貨の販売に限られる。
[編集] 東南アジアの屋台
日本では屋台は祭りの軽食や、あるいは夜の簡易酒場といった位置づけになりがちなのに対し、東南アジアでは屋台は庶民の生活により密着した存在である。昼食から営業し、持ち帰り用、あるいはその場で簡単な椅子とテーブルを備え本格的な料理を供する場合が多い。お互いの店舗で厳しい生存競争にさらされていることが多いため、一般的に値段が安く、味も満足のいく場合が多い(en:Mamak stall)。
[編集] シンガポールの屋台
ホーカーセンター
[編集] アメリカの屋台
[編集] ヨーロッパの屋台
[編集] ドイツの屋台
ドイツではソーセージを扱った屋台が街角や駅構内などに多く見られる。プレッツェルなども一緒に売られていることも多い。
[編集] フランスの屋台
フランスの屋台はさまざまな軽食を扱うが、クレープ、ベルギーに端を発するゴーフル(ワッフル)、アイスクリームなど、甘味の軽食が多い。しかし中には本格的な食事を供す屋台もあり、ムールフリット(ムール貝を白ワインで蒸したものにフライドポテトが付く)などを扱っている店もある。そのほかレバノン料理など中東のスナック、あるいは中華の点心などを扱う移民系の屋台も見られる。これらは朝市で八百屋や魚屋の屋台に混ざって総菜屋として機能していることも多い。冬季の焼き栗や焼きとうもろこしの屋台はモンマルトルやメニルモンタンなどパリ北東部の庶民的地区の風物詩でもある。
クレープの屋台は特に多い。ジャムなどの甘い味付けだけでなくハムやチーズといった塩味の軽食も扱っている。これらはノルマンディーやブルターニュ地方のガレット(そば粉のクレープ)に端を発するが、現在街角で見られるクレープの屋台が全てそば粉のガレットを扱っているとは限らない。むしろそのような地域の特徴を出したクレープはそれ専門の軽食レストランなどで供されるのが一般的である。
クリスマス期にはクリスマス市(フランス語:マルシェ・デュ・ノエル Marché du Noël)として町の中心広場などに木組みの仮設屋台が多く立ち、食べ物や小物などが売られる。小物としては木彫りの人形やクリスマスツリーの飾りなど、食べ物ではクリスマス用に特に飾りつけたパンケーキやホットワインなどが特に多く見られる。
[編集] 関連項目
業態
場所
[編集] 参考文献
- 石丸紀興「7355 都市における屋台の分布と屋台政策に関する研究:その2 呉市と福岡市での政策比較」学術講演梗概集. F-1, 都市計画, 建築経済・住宅問題、709-710頁、社団法人日本建築学会、1996年。
[編集] 外部リンク
- 福岡市屋台指導要綱
- どうなる天神屋台(西日本新聞)…地下鉄工事に伴う屋台移転論争の特集。