警察署
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警察署(けいさつしょ Police department)とは、日本において全国規模で配置される警察(都道府県警察)の出先機関。警察法(昭和29年6月8日法律第162号)第53条を根拠に設置される。同時に、庁舎そのものを示す語でもある。
警察署には警察署長(日本の場合、警視正または警視の階級にある警察官が就く)が置かれ、全国には1,270あまりの警察署が設置されている。今日、一部の都市部においては人口増加により署が新設され、地方では市町村合併に伴う管轄の変更や署名の変更、さらには統合により署を廃止し幹部交番への降格が行われる署もある。
なお、設置数は警視庁(東京都)が最大(101署)で、最小は鳥取県警察(9署)である。
警察内部の用語ではPS(ぴーえす。"Police Station"の略)と略称されることがある。
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[編集] 規定・定義
都道府県の区域を分かち、その各地域を管轄する警察署を置くと定められている。警察署の名称、位置及び管轄区域は、警察法施行令第5条で定める基準に従い、都道府県の条例で定められる。警察署には警察署長が置かれ、警察署長は警視総監等都道府県警察の長、方面本部長、市警察部長等の指揮監督を受け、その管轄区域内における警察の事務を処理し、所属の警察職員を指揮監督する。警察署の下部機構として、交番その他の派出所、駐在所を置くことができる。(警察法第53条)
- 通常、警察署は1または複数の市町村を管轄するように置かれるが、特別区や政令指定都市、中核市など人口・面積の大きい市区では、1市区内に複数の警察署を置く場合も多い。また、市の一部と周辺市町村というように、行政区画と一致しない場合もある。
- 国家公安委員会の定めた原則として署内に課を置かなければならない。各警察署によって規模・人員に差はあるが、これは全国どこの警察署でも同じ(島嶼部で課を置かず係のみといった例外はある)。
- 原則として警察署の課長のうち、実際に捜査活動を行う部署(概ね警務課・会計課以外の課)の長は警部以上の階級者でなければならない。これは逮捕状の請求を各課の権限で行うことができるようにするためであり(刑事訴訟法第199条第2項)、そうでなければ各課による捜査活動に支障が生じるからである。大規模な警察署の主要な課長には警視が就く場合もあるが、殆どの課長は警部である。警務課・会計課などの場合は、警部相当の職階にある事務吏員を課長とする場合もある。
- 署長の階級は警視正または警視の階級にある警察官でなければならないとする旨が、一般に都道府県の条例・規則で規定されている。概ね、大規模・主要な警察署の場合は警視正、それ以外の警察署の場合は警視が充てられる。
- 人事に関しては署に属する警察官のうち地方公務員である警視階級者までならば署長に裁量権が委ねられる。
[編集] 庁舎
警察署の庁舎は、都道府県との調整、予算折衝に基づき警視庁や警察本部が設置する。庁舎の建設発注も警察本部が行う。 また、庁舎の建て増しや建て直しなども計画的に行われている。老朽化も一因であるが、阪神大震災に鑑み、警察署や消防署など防災拠点が倒壊した事例により、耐震性を高める附帯工事が必要になったからである。耐震性を高めるにも予算的に新築の方が安く上がれば、新築する例も多い。
一般的に警察署には留置場や道場、講堂、取調室、警察車両駐車場、拳銃保管庫、死体安置所(霊安室)、最近は一部射撃場などが設置される。特に、留置場がないと検察送致までの間の勾留が出来ない(漫画などのフィクションに留置施設を持つ交番が出て来る事があるが、アメリカの保安官事務所と違い、そのような交番は現在の日本には存在しない)。
なお日本の警察署は、道路使用許可や運転免許関連の手続きなどで一般の人も出入りする事が多いが、しばしば護送中の被疑者や、警察官職務執行法などにより保護・同行された者も表玄関から出入りさせることがあり、一般人の目に触れる場合がある。また、警察署自体は24時間署員が勤務しているが各種手続きは受付時間が限定されている事もあり、また市街地にある署では来訪者のための駐車場も併設されてない場合もあるので、事前に訪問する署に電話などで確認すると良い。
[編集] 警察署長の権限
署長は一地域での警察の権限を行使する警察署の最高責任者なので、所属長としての一般的な監督権限のほか、法令により各種の権限が与えられる。
- 主な権限
[編集] 組織
[編集] 警察署の組織
警察署の規模によって「刑事生活安全課」、「刑事組織犯罪対策課」、「交通地域課」等2つ以上の課が統合されていることもある。逆に道県によっては大規模署で「地域第三課」、「刑事第二課」、「留置管理課」のように2つ以上の課に分割しているところもある。
- 警務課
- 各種受付、警察相談、留置管理、人事・厚生事務等、警察署の庶務一般。
- 会計課
- 拾得物受理・管理、給与事務、庁舎管理、物品(装備品)・被服管理等。小規模署では警務課の中に「会計係」として置かれてもいる。
- 生活安全課
- 防犯活動、少年事件、環境事犯捜査、保安捜査等。
- 地域課
- 交番・駐在所、警ら用無線自動車の運用。地域所管犯罪の捜査。都道府県によっては雑踏警備。
- 都道府県警察や警察署によっては、地域課に警察署の所在地付近の区域を管轄する交番としての機能を持たせて、パトロールや巡回連絡などを行っている場合がある。これは「署所在地」と呼ばれ交番の一つとみなされる。
- 刑事課
- 刑事事件の犯罪捜査、鑑識活動等。課内は幾つかの係に分かれており担当の犯罪捜査をそれぞれ重点的に行うが、各係はあらゆる事件で頻繁に合同捜査を行うことが多い。また発砲沙汰や誘拐事件など緊急性を伴う重大事件の場合は本部の応援を得て署全体で捜査にあたる。大規模署の刑事課には30名ほどの刑事が属するが一般的には10~20名。課内の係数は署の規模により異なる。警察署の刑事課や交通課は警視庁または警察本部の刑事部や交通部の出先機関としての役割も併せ持つ。その為、警察本部の犯罪捜査、交通取締活動などとは共同で任務にあたったり、協力して任務にあたることが多い。また、警察本部の行う警察活動を現場最前線からサポートすることも多い。
- 交通課
- 警備課
通常業務の際は各課の業務は分かれているが、犯罪捜査などを担当する刑事課などは交通課や地域課、生活安全課と密に連携をとりながら業務を行う。また、特に重大な事件(殺人事件や捜査本部設置等)発生の場合は、署内の各課が合同で職務にあたり、刑事捜査だけにとらわれず、交通捜査、地域警邏、警務、警備などあらゆる課の警察官が動員される。
また一部の県警や北海道警察本部管内の一部警察署には課長の上に刑事担当次長、地域・交通担当次長等、その他地域でも大規模警察署を中心に刑事官あるいは刑事管理官、交通(管理)官、地域(管理)官という職が存在する。これらの階級は警視である。 業務内容は課の統括。
[編集] 警察署の主な役職
警察署の規模や都道府県警察によって組織形態が異なる部分もあるが、警察署には概ね下記のような職が置かれている。警察署の組織については、一般に都道府県条例や都道府県公安委員会規則等で規定されている。
- 署長(警視正または警視)
- 副署長(警視または警部)
- 次長(警視または警部)
- 課長(警視若しくは警部の階級にある警察官またはこれに相当する吏員)
- 課長代理(警部の階級にある警察官またはこれに相当する吏員 正課長不在の課にて課長の業務を処理する)
- 係長(警部補の階級にある警察官またはこれに相当する吏員)
- 主任(巡査部長の階級にある警察官またはこれに相当する吏員)
- (指導役係官(巡査長))
- 係官(巡査の階級にある警察官またはこれに相当する吏員)
[編集] 東京都の場合
東京都の警視庁管轄下には101署(署数は日本最大)が存在する。これは署数第二位である北海道(69署)、第三位の大阪府(64署)と比較してもかなり多い。
これは単に東京都の人口が多いだけではなく、日本の首都あるいは国際都市として、多数かつ複雑な犯罪が起きるためである。そのため、上記のように署数だけではなく、警察署の組織においても組織犯罪対策課がおかれるなど犯罪への対策が整備されている。
近年の人口増加による犯罪取り締まりの必要性から臨海副都心方面と、海上都市建設計画にともない、水上警察署の全域と深川・城東警察署の一部区域を統合した「東京湾岸警察署」が2008年(平成20年)3月31日に江東区青海に誕生した。