タコス
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タコス(Taco)とは、メキシコ料理およびアメリカ合衆国南西部の料理(テクス・メクス料理など)で、一種の軽食。アメリカ合衆国ではファストフードにもなっている。
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[編集] メキシコのタコス
メキシコを代表する料理の一つで、特にこの料理に使用されるトウモロコシの平焼きパン「トルティーヤ」(Tortilla)はメキシコ料理には欠かせない、まさに国民食と言えるものである。
なお、「タコス」は複数形の名称で、単数形は「タコ」。タコスを専門とする飲食店をスペイン語でタケリーア(Taquería)と呼ぶ。
[編集] 調理法
トウモロコシの生地(トルティーヤ・マサ)を薄くのばして鉄板で焼いたトルティーヤに具を盛り、好みでライムの汁をしぼってかけたり、サルサをかけて食べる。
具は多岐にわたるが、主に、カルネ・アサダ(carne asada)と呼ばれる牛肉の小さめのサイコロ・ステーキ、カルニータ(carnita)と呼ばれる焼いた(または蒸し焼いた)豚肉を細長く引き裂いた肉などの上に、刻んだ玉葱、シラントロなどが盛られる。牛タンの煮込み、牛の脳、臓物の塩焼き、豚の頭、鶏肉、羊肉や山羊肉、豚肉を薄くスライスしてドネルケバブのように回転させながら焼いた「アル・パストール」(al pastor、ドネルケバブ式の調理法はレバノンからの移民がもたらしたもの)、チョリソなど、具の種類をあげたら切りがない。肉類以外にも、メキシコ料理につきもののフリホレス・レフリトスや、チーズ、キノコ、ノパル(nopal、団扇サボテンの若い茎節)、カラバシータ(calabacita)と呼ばれるズッキーニに似た瓜の花なども使われる。
具の内容には地域色が出ることも多く、例えばバハ・カリフォルニアなどでは、白身魚のフライなどが使われ、薬味としてキャベツの千切りが使われる。昆虫食の盛んな地域では、昆虫を具にすることもある。具ではないが、北部メキシコではトウモロコシの代わりに小麦粉のトルティーヤが使われることもある。
食べる時間帯によって具の内容が変わるとも言われ、例えば朝には卵とジャガイモ、チチャロン(chicharron、豚の皮)のチリソース煮込みタコスなどが好まれる。
サルサはチリベースのものが一般的だが、他にもアボカドを使ったワカモレや、バハ・カリフォルニアではマヨネーズを牛乳でのばしたものなどがある。
フルサービスレストランや家庭内の場合、乾燥を防ぐために布でくるんだトルティーヤと、具を盛った皿、サルサを入れた器が別々にテーブルに運ばれ、食べる人が自分の好みでトルティーヤに具を挟んで食べることが多い。一方、屋台若しくは簡易タケリーアでは主な具が既にトルティーヤに載せられて提供されることが多い。お店によってはさまざまなサルサや薬味を自分で選べるセクションが備え付けられたものもある。前述の刻み玉葱とシラントロ以外では、きゅうりのぶつ切り、焼きハラペーニョ、焼きネギ(セボーヤ cebolla - 青ネギの一種)、ラディッシュ、ライムなどが良く好まれる薬味である。
トルティーヤを筒状に巻く人もいるが、多くは2つ折の状態にする。具やサルサがこぼれないようにトルティーヤの端を小指などでうまく押さえて食べるのがコツである。
[編集] バリエーション
[編集] アメリカ合衆国
カリフォルニア州では昔から、直径15cmくらいのとうもろこしのトルティーヤを揚げ、肉(牛挽肉、細かく裂いた牛肉、鶏肉、豚肉など)、チーズ、レタスとトマトなどを詰めたカリフォルニア・タコスが食べられていた。トルティーヤで肉を包んでからタコスを揚げることもある。カリフォルニアのスーパーマーケットでは、よくカリフォルニア・タコス用の大きめのトルティーヤを売っている。
しかし、アメリカ合衆国で最も人気のあるタコスは、主にファストフードチェーン店を介して広まった、「ハードタコ」(hard taco)と「ソフトタコ」(soft taco)である。ハードタコはトルティーヤを隙間を空けて半分に折り曲げ、トスターダ(tostada)のように油で揚げた硬いタコシェル(taco shell)に炒めた牛挽肉、レタス、トマトを隙間に詰めて食べる。ソフトタコは、小さめの小麦粉のトルティーヤにハードタコと同じ具を包んで食べる。いまでも、本場のタコスとアメリカ生まれのタコスが違うことを知らないアメリカ人は多い。
タコ・ベル、タコ・ジョンズ(Taco John's)、デルタコという三つのタコスのフランチャイズチェーンが全国的に展開しており、タコ・ベルはマクドナルド、ケンタッキー・フライドチキンに次ぐ規模を有している。また、テクス・メクス料理のレストランのほとんどのメニューにタコスを見ることができる。
タコ・ベルでは、タコの形に折り曲げた甘いウエハースにバニラアイスを詰め、チョコレートでコーティングしたアイスクリーム菓子「チョコ・タコ」を売っている。
メキシコ生まれの移民が経営するレストランでも、アメリカ式タコスを提供しないと経営的に成り立たなかったこともあり、本場のタコスを提供せずに、ハードタコが「本格メキシコ料理」の一品と称してメニューに並べられたことも少なくなかった。しかし、メキシコからの移民が増加し彼らの経済的、社会的影響力が増すと、本場タコスの需要が生まれ、具の多様性ではメキシコに及ばないもののメキシコで提供されるタコスと大差ないものがアメリカ国内でも味わえるようになってきている。
アメリカ合衆国の先住民の薄い揚げパン、フライブレッド(frybread)にタコの具をのせたものをインディアン・タコまたはナバホ・タコと呼び、しばしばパウワウなど先住民の文化に関連した催し物の会場で食べることができる。
[編集] 日本
本土では1980年代、日本がまだバブル景気に沸いていた頃、いくつかの大企業がアメリカからタコス業態を輸入したがその全てが撤退しており、現在日本でタコス専門店としてチェーン展開している店舗は、数少ない。 しかし、アメリカ文化の影響の大きい戦後の沖縄県ではタコスが日常的に食べられていた。1980年代、アメリカ版タコスのハードタコシェルの代わりに米飯を用いたタコライスが考案され、近年の沖縄ブームで全国に広がりつつある。