フグ
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?フグ | |||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||
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属・種 | |||||||||||||||||||||
フグ(河豚、鰒)は、フグ目、特にフグ科に属する魚の総称。フグ科に属さないフグ(ハコフグ、ハリセンボン)などはフグ目を参照。
185種の魚がフグ科に分類される。そのうち食用とする種として、トラフグ、マフグなどが有名。クサフグなど、体全体に毒がたまる種もおり、このような種は食用には適さない。汽水、淡水性のフグの一部の種は、観賞魚として人気がある(淡水フグ参照)。
目次 |
[編集] 特徴
興奮させると、腹部(胃)を膨らませる姿がよく知られる。この姿から英語では "Pufferfish" といい、これは「膨らむ魚」とか「丸い魚」という意味を持つ。腹部にとげ状の短い突起がある種もいる。 日本名で「河豚」と書くが、「豚」と書くのはこの体型の事を指しているのではなく、フグは身の危険を感じると豚のような鳴き声を発することから「豚」の文字が当てられている。なお、中国語でも「河豚」という呼び方を使っている。「河」と書くのは古代中国では黄河など河川に生息していたためである。
歯(顎歯)がよく発達しており、これが融合した強靭な4つの歯を持つ。主に、海水魚で、汽水や淡水に生息する種もいる。 その愛嬌のある姿から、キャラクター化されることもままある。
[編集] 漁業
[編集] 主要水揚げ地
日本での県別漁獲量(2004年)[1]は以下の通り。なお、全国の水揚げの約6割が大阪で消費されている。
順位 | 都道府県 | 漁獲量(t) | 構成比 |
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1 | 石川 | 686 | 10% |
2 | 長崎 | 673 | 10% |
3 | 福岡 | 602 | 9% |
4 | 富山 | 477 | 7% |
5 | 愛媛 | 469 | 7% |
6 | 山口 | 406 | 6% |
7 | 愛知 | 286 | 4% |
8 | 熊本 | 286 | 4% |
9 | 宮崎 | 275 | 4% |
10 | 新潟 | 272 | 4% |
- | 全国計 | 6,704 | 100% |
順位 | 都道府県 | 漁獲量(t) | 構成比 |
---|---|---|---|
1 | 長崎 | 2,090 | 48% |
2 | 熊本 | 654 | 15% |
3 | 愛媛 | 485 | 11% |
4 | 香川 | 286 | 7% |
5 | 福井 | 131 | 3% |
6 | 大分 | 120 | 3% |
7 | 兵庫 | 115 | 3% |
8 | 山口 | 76 | 2% |
9 | 鹿児島 | 55 | 1% |
10 | 高知 | 33 | 1% |
- | 全国計 | 5,389 | 100% |
[編集] 養殖
高級魚であるため、養殖が昔から行われている。愛媛県愛南町では陸上養殖が行われている。 だが養殖の生産量が急増したのは、当時の水産庁によるトラフグ養殖推進の方針や、熊本県などのように養殖フグ生産地の各自治体による養殖マニュアルが作成された1991年以降である。当時ハマチ・タイ等を養殖していた業者がトラフグ養殖に転換し、生産量が増加した。
[編集] ホルマリン薬浴問題
魚体に寄生虫(代表的なものとしてエラムシ)が付着しやすいため、その対策が養殖業者の課題となっている。ホルマリンによる薬浴が手っ取り早い方法であるとされるが、処理後の廃水を海に流す事による環境の破壊、周辺の魚介類への汚染や、発ガン物質でもあるホルマリンのフグの身への残留が問題視されている。
2002年、東京水産大学は厚生労働省に対して、愛媛県と長崎県の養殖業者が寄生虫対策としてホルマリンを使用していることを指摘。両県が調査を実施した結果、2003年になって半数以上の業者が使用していたことが判明。同問題発覚後に熊本県等の他の自治体でも調査を実施した所、ホルマリン使用業者が多数見受けられた。
この影響で長崎県では、しばらくホルマリンを使っていないフグまで出荷できなくなるなどの影響が出た。
また、ほぼ同時期に発生した真珠貝(アコヤ貝)の大量へい死では、アコヤ貝の死骸からホルムアルデヒド(ホルマリン)が検出され、近隣海域でフグ養殖業者の他にホルマリンを使う者が存在しない事から関連性を指摘される。 その結果、ふぐ養殖業者と真珠養殖業者とが反目した他、消費者団体によりホルマリン残留問題が提起されるなど社会問題にもなった。 その後、水産庁によるホルマリン使用禁止通達や各自治体によるホルマリンを使わない養殖マニュアルの作成後は養殖でのホルマリン使用量は減少したが、依然として心ない一部業者によるホルマリンの使用は続いており、イタチごっこの様相を呈している。
[編集] 輸入
2002年、初めてフグの輸入量が国内生産量を上回った。[2]2002年の輸入先の99%は中国であり、残りは韓国である。近年は養殖技術の向上により、これらの国の養殖フグも大量に輸入されている。
なお、近年の中国産食材安全性の問題はフグ関連でも発生している。アメリカに於ける、中国産の鮟鱇の切り身でのフグ・フグ毒の混入、及び日本と米国ハワイ州に於ける中国産カワハギの切り身でのフグ・フグ毒の混入が代表例として挙げられる。
[編集] ブランド化の取り組み
フグは、山口県下関市が本場として知られるが、実際のところ漁獲量はさほど多くない。福岡県宗像市の漁港では、従来下関に水揚げしていたフグの一部を玄海とらふぐとしてブランド化を目指して売り出した。日本では、加工場の問題もあり、漁獲されたフグの多くが下関や大阪・東京に集中するという傾向がある。最近では水揚げ漁港の側で加工場などの整備を行い、地場の名産品とすべく努力も行われている。
[編集] 食材
食用にする種としてトラフグ、マフグなどが有名。特にトラフグが高級魚として知られる。詳しくはふぐ料理を参照。
ふぐ料理は、一般的に高級料理として旬の冬場に食べられる。もっとも、近年は養殖により季節を問わず食べる事が可能である。フグを料理用に捌くためには、一般の調理師免許に加えて各都道府県の定める免許や資格が必要となる。ただし、各都道府県によりその対応は異なり、届け出後講習会を受講するだけで資格が与えられる地域があれば、試験によるふぐ調理師免許取得を要する地域もある。また、毒のないフグにおいても調理にあたり資格が必要であるが、資格なしでも調理できるように働きかけがなされている一方で、条例によっては家庭での調理は条例によって罰せられる地域もある。
日本近海においてもふぐは数百種類生息しているが、それぞれによって毒を保有している部位が異なり、また、食用になる部位が全くないものもいる。そのためキノコ類と同様、素人目には判断できない場合が多い。
なお、食用ふぐの7割が京阪神地域で消費されており、特に大阪での消費量は全消費量の6割に達する。
エジプトでもフグは免許を有する人間に由って調理される[3]。 因みにフグを象ったヒエログリフは「不満」を意味する[4]。
[編集] 有毒部位の管理
盗難による悪用防止のため、施錠できる容器に保管して適切に廃棄しなければならないので、一般家庭では設備上の問題から調理は認められていない。同様の理由から、原体のまま小売・問屋から購入する事も原則として認められていない。
[編集] 文化・その他
- 食用のほか、各地で本物のふぐを利用したふぐ提灯などが、みやげ物として売られている。
- 下関や宗像などでは、縁起をかついで「ふぐ」ではなく、「ふく(福)」と呼ぶ。逆に大阪では、「当たると死ぬ」という洒落から「てっぽう(鉄砲)」と呼ぶ。
- 時代劇などで、フグ毒にあたった者を砂中に埋めて毒抜きをするシーンが見受けられるが、そのようなことをしても毒素の代謝・分解がされることは無い(当時あった民間療法の一種で、迷信)。
[編集] フグの毒
体内にフグ毒と呼ばれる強い毒を持つ種類がほとんどである。身を食用とする種でもハラワタには毒があることが多い。
しかし、フグの肝(ハラワタ)は多くの食通を唸らせる美味であり、「フグは食いたし命は惜しし」という言葉があるように、中毒を覚悟してまで食べようとする者もいる。料理評論家の服部幸應はその味を「練乳に似た濃厚な風味。アンコウの肝ほど脂っこくなく、さっぱりしている。あれを捨ててしまうのはもったいない。」と語っている。
フグ毒の成分はテトロドトキシンで、もともと細菌が生産したものが餌となる貝類を通して生物濃縮され、体内に蓄積されたものと考えられている。餌の種類を変えて養殖すると、同じ種であってもフグ毒が少なかったり、全くない場合があることからこのように推定されている。このことから2005年に佐賀県の業者がフグ毒の発生しない養殖法を開発し、フグ肝を食用として提供出来るよう特区申請をしたが、現時点では100%の保証が出来ないと判断され却下されている。
しかし無毒の養殖フグの群れの中に、毒を持つ天然種を放流すると無毒の群れも毒性を帯びることもある。フグ毒についてはまだまだ解明されていない部分が多いのが実情である。
フグはテトロドトキシンに対し高い耐性を持っているため、フグ自体が中毒することはない。(これは自然に蓄積する濃度のテトロドトキシンに耐えられるという意味で、人為的に高濃度のテトロドトキシンを与えれば中毒する。)
フグ毒の毒量は「マウスユニット (MU)」(20グラムのネズミを30分で死亡させる量が1マウスユニット)で表わされる。人間の場合5,000–10,000マウスユニットで致死量に至るが、フグ毒による事故では致死率が凡そ6.8%[1]。と言われており、他の食中毒よりも圧倒的に致死率が高い。
平成8年から17年の10年間に、全国でふぐによる食中毒は315件発生しており31名が亡くなっている。その多くが、資格を持たない一般人がフグを調理した結果起きている。
フグの毒に対して、解毒剤や血清は開発されておらず、神経毒であるテトロドトキシンによる呼吸困難が収まるまで人工呼吸器をつなげることが唯一の治療法となる。症状としては口や唇に痺れが生じそれが周りへ広がる。最終的には呼吸筋が麻痺し、呼吸困難から呼吸麻痺が起こり死に至る。意識がなくなることはまずない。毒を含んだフグを食べてから症状が出るのは約3時間ほどである。有効な応急措置はまずは毒を吐かせ、呼吸麻痺に陥った場合は気道確保と人工呼吸を行うことである。時代劇における暗殺描写で、食べた者が青酸カリ中毒よろしく吐血するシーンがあるが、これはよりおどろおどろしく見せるための演出であり、そのような症例はない。
石川県の河豚の卵巣の糠漬けなどのように、特殊な調理法により毒素を無毒化できる。しかし、どのような仕組みで分解されるのかは分かっておらず、またテトロドトキシンは300℃以上に加熱しても分解されないので、限られた地域の許可を受けた業者のみが加工できる。
[編集] ふぐ食が禁止された時代
豊臣政権下の時代に行われた朝鮮出兵の際、肥前名護屋城に駐屯していた兵士にふぐ毒中毒死が蔓延した為、豊臣秀吉は全国にふぐ食禁止令を命じた。徳川氏に政権が変わった時代においても、武家では「主家に捧げなければならない命を、己の喰い意地で命を落とした輩」として、当主がふぐ毒で死んだ場合には家名断絶等の厳しい対応がなされたという。明治時代にも当初はふぐ食禁止令(武家出身・庶民を問わず)を継承したが、下関でふぐを食した伊藤博文がその旨さに感心し(諸説あり)、山口県のみでのふぐ食を解禁した。その後ふぐ食の文化は山口県を中心に全国でも復活し、今日に至っている。(2008年3月27日朝日放送ビーバップ!ハイヒール放送より)
[編集] 毒に関係した名称など
- てっぽう — その毒に「当たる」ことがあることから、昔からさまざまな言い伝えがある。このため関西では「めったに当たらない(昔の鉄砲は命中率が悪かった)が、当たれば命が危ない」という意味で「てっぽう」という。「てっさ(てっぽうのさしみ)」「てっちり(てっぽうのちり鍋)」という料理名はここから来ている。