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寄生虫 - Wikipedia

寄生虫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カイチュウ (Ascaris lumbricoides) 左の目盛りは3cm
カイチュウ (Ascaris lumbricoides) 左の目盛りは3cm
無鈎条虫 (Taenia saginata) ヒト腸管内で最大10mまで成長した記録が残る。1000以上の体節からなり、糞便に混じる体節は卵を含み片節と呼ばれる
無鈎条虫 (Taenia saginata) ヒト腸管内で最大10mまで成長した記録が残る。1000以上の体節からなり、糞便に混じる体節は卵を含み片節と呼ばれる

寄生虫(きせいちゅう)とは、寄生生物のうち動物に分類されるものを指す。寄生動物とも。植物における寄生生物は寄生植物と呼ばれる。人間に寄生するものをいうことが多いが、種の多さとしては人間以外に寄生するものが多い。

寄生の部位によって、体表面に寄生するものを外部寄生虫、体内に寄生するものを内部寄生虫という。寄生虫と言ったときは、おもに内部寄生虫のことを意味することが多いが、外部寄生虫のダニなどを含めることがある。ブユなど一時的に付着するだけの吸血性昆虫は寄生とは言わないのが普通だが、寄生虫学では寄生虫に含めることがある。なお、社会寄生や労働寄生のものは語感的には含めないようである。

また、寄生バチや寄生バエのような寄主を食い尽くす者を捕食寄生者とよぶ。

寄生については誤解などが生じやすい問題が多いので必ず寄生の項目を参照のこと。

東京都には、寄生虫の標本や患者の写真などを展示したユニークな博物館目黒寄生虫館がある

目次

[編集] 分類と進化

寄生虫といわれる動物には、多様な動物門が含まれている。門の数え方にもよるが、動物門の約半数が寄生性の種を含んでいる。

原生動物門有櫛動物門中生動物門扁形動物門線形動物門類線形動物門鉤頭動物門・紐形動物門・環形動物門節足動物門舌形動物門などに寄生性の種が含まれる。このうち、中生動物・類線形動物・鉤頭動物・舌形動物は含まれるすべての種が寄生性である。

棘皮動物脊索動物など後口動物には、(内部)寄生する種はほとんどないが、その理由ははっきりと解明されていない。

[編集] 進化

寄生動物はもともとは自由生活をする種から進化したと考えられている。寄生性の獲得は、独自に、何度も起こったようである。

寄生生活への適応の結果、形態の大きな変化が起こる。吸収や附着、生殖に関する器官が発達する一方、多くの場合に消化器官、感覚器官や運動器官が大幅に退化する。そのため、ある動物門から進化した寄生性のタクソンが、形態の違いにより、独立門と見なされてしまうことがある。たとえば、舌形動物門は、すべて寄生性の種からなる門であるが、以前から節足動物との近縁性が指摘されてきた。最近になって分子系統解析により、甲殻類の鰓尾類に近縁であることが示された。このため分類者によっては、舌形動物門の独立は認められず、節足動物門に含まれる、とする。

中生動物は少数の細胞からなる動物であるが、その起源については、単細胞生物が多細胞へ進化する過程の生物であるという説と、扁形動物など後生動物が寄生生活の結果退化的に進化したものであるという説がある。近年の分子系統分析では、後者の説の方が有力になりつつある。

寄生性の種は多くの場合、自由生活に必要な器官を失う。退化した器官は再び発達しないことが多い(ドロの法則退化を参照)ので、寄生種が自由生活種に再び進化することはほとんどない。ただし、生活史の一部のみを寄生生活するものもあり、そのようなものではそれ以外の時期には真っ当な姿をしているので、この限りではない。狩りバチやスズメバチなどは寄生バチから進化したと考えられている。ただし、幼虫が親に餌を用意してもらっている点では、幼虫の自由生活の能力はないまま、と見ることもできる。

[編集] 特徴と生態

一般に寄生動物では、体を固定する構造が発達する。他方、特に内部寄生虫では、使う必要のない運動器官、感覚器官消化器官が退化する。また、生殖器官は発達する場合が多く、生殖器官だけになってしまうような例も見受けられる。

寄生虫にとって大きな問題は、宿主間をどうやって移動するかである。特に内部寄生虫の場合、生活環のどこかで宿主間の移動をしなければならないが、大型のものでは、簡単な方法が少ない。 たとえばギョウチュウは、宿主の肛門周辺に産卵し、卵が手から手へと移るので、比較的簡単に宿主間を移動するが、カイチュウでは、卵は大便とともに体外に出、野菜等に付着することで食物として他人の口に侵入する。日本では、現在では糞便を肥料にすることがほとんどないので、カイチュウは激減している。

さらに手が込んだものでは、食物連鎖を利用して宿主への侵入を果たす。 カマキリの寄生虫として有名なハリガネムシは、成虫が秋に体外に出て、池などに入り、そこで産卵する。孵化した幼生は、カゲロウなどの水生昆虫に侵入する。カゲロウがカマキリに食われることにより、幼生はカマキリの体内に侵入することができる。

このように、幼生と成体で異なる宿主を持つ場合、幼生の宿主を中間宿主、成体の宿主を最終宿主という。中間宿主を複数持つものもある。正しい最終宿主にたどり着けない場合、成体にはなれないことが多い。 このようなやり方では、卵が成虫になる確率は極めて低い。従って、このような種では、極めてたくさんの卵を産む。

さらに、中間宿主の体内で幼生が無性生殖を行って数を増やす例もある。吸虫類や条虫類ではそのような例が多い。エキノコックスは、本来はキツネなどを最終宿主とする小型の条虫類であるが、幼生がヒトに入った場合、成虫になることができず、幼生のままで無性生殖を繰り返すため、大変危険な症状を引き起こすのはその例である。

生活史の一部で寄生生活を行うというものもあり、そのようなものではこのような変化は大きくない。淡水産の二枚貝には孵化直後に魚の鰭に寄生するものがある。このようなものでは、それ以外の段階の個体には特に寄生性への適応が見られないのが普通である。寄生蜂、寄生バエには幼虫期に寄生生活をおこなうものがある。これも成虫は非寄生性のものと大差ない。ケンミジンコ類に近いモンストリラ目のものは幼生期に多毛類に寄生する。この類でも成体は自由生活であるが、口器が退化している。

[編集] 生物群集との関連

上記のように、寄生虫には中間宿主を必要とするものが多い。それらは、食物連鎖等、その地域の生物群集のなかの種間関係の元でのみ成立するものである。そのような関係のどこかが壊れれば、寄生虫は最終的宿主があっても生存できない。つまり、寄生虫が充分に生存するためには、その地域の生物群集が充分に保存されている必要がある。そのような観点から、寄生虫から群集を見ると言う見方もあり得る。たとえば干潟巻貝を中間宿主とし、を終宿主とする吸虫を調べることから干潟の保全を考える、と言ったことが試みられているところもある。

[編集] 人間と寄生虫

[編集] 食生活の変化と寄生虫

食生活の変化により、従来人の生活に近かった寄生虫の症例が減少したほかに、新たな寄生虫による症例も増加している。

肥料としての人糞利用によって媒介されていた回虫は、その使用の減少によって大幅に減少したが、動植物の生食が増えることによって、従来はあまり見られなかった寄生虫の症例が増加している。

[編集] 正の効用

藤田紘一郎博士の研究によれば、サナダムシを始めとする寄生虫の一部は、アレルギー反応を抑制する成分を分泌しており、副作用の問題などから実用化には至っていないものの、アレルギー症状の特効薬として期待されている。

このように、寄生虫は人間にとって正の効能を持つ可能性もあるが、一般には病原体であり、安易な使用は危険である。また、上記サナダムシの効用のみをもってして、有害な寄生虫の着いた農産物に危険性が無いとか、寄生虫やその虫卵の全般に危険性が無いかのように主張する論者も見られる。

[編集] 虫下し

寄生虫を体外に排出するため、虫下しと呼ばれる薬を飲むことがある。昔からセンダンなどが虫下しとして利用されてきた。

[編集] 代表的な寄生虫

ヒトの寄生虫

ヒト以外の寄生虫

[編集] 関連項目

  • トイレ遺構
  • 一時寄生虫
  • 定住寄生虫
  • 真性寄生虫
  • 仮性寄生虫

[編集] 外部リンク

ウィキメディア・コモンズ


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