鉄砲
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鉄砲(てっぽう)
- 銃身を有し、火薬の力で弾丸を発射する火器のこと。本項で解説。
- (上記から)「あたると死ぬ(ことがある)」という連想から、フグ、およびふぐ料理のこと。平仮名で「てっぽう」と書く場合も多い(主に関西方面)。また、他の単語との合成語で料理名を指すものもある。(てっちり、てっさ など)
- 相撲の鍛錬法の一つで、柱などに対して張り手をおこなうこと。両国国技館の通路には、これを禁止する貼り紙が掲示されている。
- 巻き寿司をその銃身の様な外観に因んで呼ぶことがあり、特にかんぴょう巻きを指すことが多い。
- 競馬において、休養をとったことなどにより、前回の出走から一定以上の時間的間隔をおいてレースに出走すること。
- 鉄道の無賃乗車を表す隠語として使われる。
- 監獄で使用される拘束具の一つ。上半身の動きを制約し苦痛を与え囚人を大人しくさせる目的で使用するが現在は存在しない。
- 焼肉等、食肉における牛の直腸の別名、「テッポウ」。
- 漫画作品「麻雀風天伝説 鉄砲」。
鉄砲(てっぽう・鉄炮)とは、銃身を有し火薬の力で弾丸を発射する火器のこと。特に江戸時代以前、「銃」を意味する最も一般的な語が「鉄砲」であった。また広義において、大砲などを含めた火器全般を指して「鉄砲」と称する例もあった。銃、火縄銃も参照のこと。
日本に「銃」としての鉄砲が伝来する以前、蒙古襲来時に「てつはう」と言う火薬を使った音のする武器が知られていたことから、銃が伝来してのち、これに「鉄砲」の字を当てたとも云う。通説では、「銃」に相当する鉄砲は天文12年(1543年)に、ポルトガルの船舶が種子島に漂着したことをもって伝来の最初とする。ただし、近年宇田川武久が日本の火縄銃と西欧の銃の構造の違いなどから、それ以前から銃が東南アジアで改良された銃が日本に伝来していた可能性を指摘して以後、それ以前に日本に銃が存在していたのかどうかについての議論が活発に行われている(鉄砲伝来)。
鉄砲は和泉国堺や紀伊国根来、近江国国友など各地で生産され、島津氏や足利将軍家なども早くからその充実に力を注いだが、その大量整備で知られたのは織田信長であった。長篠の戦における織田氏の鉄砲隊の活躍については過大評価されてきた部分はあったものの、鉄砲の普及に大きな影響を与えた。また、鉄砲の生産・所持のためには多額の費用がかかることから蔵入地の増大などの戦国大名の統治構造にも影響を与えた。また、当初は輸入に依存していた硝石も戦国時代末期には国産が行われるようになった。
元和偃武後、江戸幕府は鉄砲を規制する方針を採った。ただし、その本格化は貞享4年(1687年)以後の徳川綱吉による鉄炮改強化以後のこととなる。それ以前は藩によっては農兵制を採用したりする藩(山鹿素行などの軍学者の中にもこれを支持する意見があった)もあり、統一した方針が確立されていたわけではなかった。江戸幕府においては新居関所における入鉄炮の規制や明暦3年(1657年)の関東盗賊取締令における鉄砲統制などがあったが、綱吉の政策以後在村の鉄砲の没収などの措置が採られ、生類憐みの令による鳥獣の観点から規制は強化される方向にあった。もっとも、農村部における鳥獣による農作物への被害を避けるために領主が管理する鉄砲を特別な租税(鉄炮運上)と引換に一時的に借り出すという名目での預鉄炮(拝領鉄炮)は容認せざるを得なかったのである。
江戸時代の200年以上にわたって日本の鉄砲は火縄銃の水準に留まったが、これは鎖国や幕藩体制による鉄炮鍛冶の保護と統制による影響と言われている。ただし、ヨーロッパの銃が平地での戦闘を重視して設計されていたことから、山がちの日本の国土に直ちに適応出来ず一概に火縄銃が遅れていると断言できないとする考え方もある。だが、19世紀以後のヨーロッパにおける施条式銃などの開発が、こうした弱点を徐々に解決しつつあり、幕末の開国以後には急速に西洋式の銃に取って代わられることになった。明治維新以後は火縄銃は完全に使われなくなり、長年の保護と職人としての意識に支えられた鉄炮鍛冶の多くは新式銃への転換を拒んで廃業して帰農していくことになる。
その後も村田銃の開発など、銃の国産化への努力が図られて一定の成功を収めたものの、技術革新では立ち遅れ、他の先進諸国が自動小銃への移行を進めていた第2次世界大戦期になっても20世紀初期に開発された三八式歩兵銃が陸軍で用いられているなど、鉄砲・銃の技術革新に十分対応出来たとは言えなかったのである。
[編集] 参考文献
- 所荘吉「鉄砲」「鉄砲鍛冶」(『国史大辞典 9』(吉川弘文館、1988年) ISBN 4-642-00509-9)
- 塚本学「鉄砲」(『日本史大事典 4』(平凡社、1993年) ISBN 4-582-13104-2)
- 保谷徹「鉄砲 (小銃)」(『歴史学事典 7』(弘文堂、1999年) ISBN 4-335-21037-X)