ドイツワイン
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[編集] 概要
ドイツは、寒冷な気候のために、ブドウの栽培が南部の地方に限られる。この地はブドウの栽培できる北限とされ、主にフランスに近いライン川やその支流沿いでワインが生産されている。主なアペラシオン(ベライヒ:13地区)としては、ライン川に面したラインガウやラインヘッセン、ライン川の支流であるモーゼル川、ザール川、ルーヴァー川の3つの川の流域にまたがるモーゼルがよく知られている。ブドウの品種は、安価なワインにはミューラー・トゥルガウが用いられるが、貴腐ワインをはじめとする高級白ワインはほとんどすべてがリースリングである。
ドイツで生産されるワインは、圧倒的に白ワインが多い。その厳しい気象条件のために、黒葡萄は十分に色付くことができず、数少ない赤ワインも、気候に恵まれた地域のものと比べると、より色が薄い。しかし、緯度が高いことを利用して、夏季に穏やかな日照時間を長く取ることによって、凝縮性が高く、独特な酸味と果実性に富んだワインが造られる。この酸味の豊かさが、ドイツワインの長命性、殺菌性に貢献していると言われている。ドイツでは、ワインを飲んで風邪を治療する人もいる。また、日照量の確保のため、ブレマー・カルモント(モーゼル)のように最大傾斜70度近くある畑も存在し、土壌の性質と相俟って、味に張りのあるワインが多い。
日本では、第二次世界大戦後、カメラのライカを扱っていたシュミット商会社長井上鐘(あつむ)が高級ドイツワイン輸入を始めた。その遺志を受け継いだ古賀守等の尽力により、1985年のジエチレングリコール混入事件頃まで、ドイツワインは国別輸入量トップの地位にあった。世界の耕作面積で1~2パーセント、生産量で3~4パーセントのドイツワインがトップになった理由としては、ドイツに対するイメージ、生産国供給余力の問題、日本人の嗜好等様々な理由が考えられるが、繊細さ、品質の一定さ、判り易さが評価されたことは言うまでもないであろう。
[編集] ドイツワインの公的分類
- プレディカーツヴァイン (Prädikatswein) - 2007年7月までの旧称は「クヴァリテーツヴァイン・ミット・プレディカート」 (Qualitätswein mit Prädikat、QmP)。ドイツ・ワインの公的分類は他の国と比べるとやや特殊であり、この「肩書き付き上質ワイン」は分類の最高位にあたる。以下の6つの「肩書き」(Prädikat)があるが、「アイスヴァイン」を除いて、原料葡萄果汁の糖度によって分けられる。
- カビネット (Kabinett) - QmPの中では最も糖度の低い葡萄から作られる。
- シュペトレーゼ (Spätlese) - これは「遅摘み」の意味で、カビネットよりも一段、原料果汁の糖度が高い。
- アウスレーゼ (Auslese) - シュペトレーゼよりも、さらに一段、糖度の高い原料で造られる。
- ベーレンアウスレーゼ (Beerenauslese、BA) - 稀に貴腐ワインとなる。甘口なものが多いが、流通量はそれほど多くはない。
- トロッケンベーレンアウスレーゼ (Trockenbeerenauslese、TBA) - 名称は「乾いた果粒を選り摘んだ」という意味であり、暗に「貴腐化」を指しているが、必ずしも貴腐ワインではない。たいていの葡萄品種は貴腐の影響なくしてこの域の糖度に達することはできないと言われているが、ごく限られた品種、例えばオルテガなどでは、比較的容易に満たすことができる。
- アイスヴァイン (Eiswein) - 樹になったまま、自然に凍結した状態の果実から造られる。
- クヴァリテーツヴァイン・ベシュティムター・アンバウゲビート (Qualitätswein bestimmter Anbaugebiet、QbA) - 単に「クヴァリテーツヴァイン」(Qualitätswein)と呼ばれる。QmPでは認められない補糖を行うことができる。
- ラントヴァイン (Landwein) - 1982年に設けられた分類で、「地酒」的な存在である。
- ターフェルヴァイン (Tafelwein) - 日常消費用のワインで、ドイツ産のワインを使用しなくとも名乗ることができる。ドイツ産のものは、「ドイチャー・ターフェルヴァイン」(Deutscher Tafelwein) と呼ばれる。
「ドイツワインは甘口が多く料理に合わない」というイメージを払拭するために、近年のドイツは辛口ワインの表示に力を入れている。2000年には上質辛口ワインの品質等級に「クラシック」、さらに厳しい品質条件をクリアする「セレクション」のカテゴリーが設けられた。また同じく2000年に、ドイツ高級ワイン生産者連盟(VDP)及びその地区組織が、以下の高級辛口・甘口ワインの標章を設けた。
- グローセス・ゲヴェックス - 超1級畑認定の高級辛口ワイン。
- エアステス・ゲヴェックス - VDPラインガウが1級畑と認定した高級辛口ワイン。
- エーデルズス・スピッツェン - VDPラインガウが1級畑と認定した高級甘口ワイン。
- エアステ・ラーゲ - VDPモーゼル=ザール=ルーヴァーが認めた1級畑の高級辛口及び甘口ワイン。
なお、リースリングを100パーセント使用したラインガウ地区独自辛口白ワインの名称「カルタヴァイン」があるが、認定母体のカルタエステート(カルタヴァイン醸造所同盟)が2000年にVDPラインガウに合併されている。
[編集] ドイツワインのラベル
以下にドイツワインのラベルの例を示す。
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[編集] 主な生産地域
- アール
- 主にシュペートブルグンダーを使用し、軽めだが芳香に富む赤を産する。赤の産地であるが、ドイツのベライヒではザーレ・ウンストルートに次ぐ北方にある。
- モーゼル
- モーゼル川沿岸やザール川の沿岸の地域。2007年7月までの旧称は「モーゼル=ザール=ルーヴァー」。リースリング主体で構成のしっかりしたワインが多い。有名な畑シャルツホーフベルクなどを含む。
- ラインガウ
- ライン川の沿岸の地域でリースリング主体。華やかなワインが多い。1775年にシュペトレーゼを偶然開発した著名な畑ヨハニスベルクなどを含む。いわゆる2山5城(ヨハニスベルガー、シュタインベルガー、シュロス・シェーンボーン、シュロス・ラインハルツハウゼン、シュロス・フォルラーツ、廃業したシュロス・グレーネシュタイン、廃業したシュロス・エルツ)が有名。
- ラインヘッセン
- ラインガウの南側の比較的広い地域。リープフラウミルヒのような廉価品からニーアシュタイン村やオッペンハイム村に代表される高級品まで、多様なワインを生産している。地域全体としてはモーゼルや隣のラインガウより格下にみなされることが多い。
- ナーエ
- ラインヘッセンの西に位置する。リースリング主体。
- ラインラント=プファルツ(プファルツ)
- ラインヘッセンよりさらに南の地域。リースリング主体。
- バーデン
- ドイツ南西部、バーデン地方の全域。多様なワインを産しており、比較的温暖なためドイツ土着品種以外の栽培も多い。EUのゾーン分類ではドイツで唯一ブルゴーニュやアルザスと同じBゾーンに入っている。
- フランケン
- マイン川上流のビュルツブルク周辺の広い地域。主にジルヴァーナを使用した辛口ワインを産する。ボックスボイテルという扁平なビンを主に使う。ヴュルツブルク村のシュタイン畑などが有名。
- ヴュルテンベルク
- レンベルガーなどを使用した赤ワインの多い産地である。シラーヴァイン(ヴュルテンベルク産の赤と白の葡萄を最初から混ぜて造られる:ロートリング)は有名。
- ザクセン
- ワイン生産地域としては最北端の北緯51.5度にあるドイツ最小のベライヒである。辛口の白ワインで食事に合うが、長期熟成に向かないものが多い。主な栽培品種はミュラー・トゥルガウ、トラミナー、ヴァイスブルグンダー、ジルヴァーナ。
- ザーレ・ウンストルート
- エルベ川の支流、ザーレ川とウンストルート川地域。主にミュラー・トゥルガウ、ジルヴァーナから辛口の白ワインを生産。ウンストルート川流域はフランケン中心地帯と土壌の質が似ている。
- ヘッシシェ=ベルクシュトラッセ
- 産地名は「ヘッセンの山街道」という意味。西をライン川、東をオーデン森に挟まれ、小高い丘陵地が続く南北に長い地域。北はダルムシュタットからハイデルベルクの南のヴィースロッホに至る。リースリング種の白ワインが多い。ザクセンに次いで2番目に小さなベライヒである。
- ミッテルライン
- ライン川がナーエ地区を過ぎたあたりから、モーゼル川が合流するコブレンツを経てボンの近くまでの約130キロに亘る長いライン川沿いの地域。途中にはローレライや美しい古城などがあり、スレート状粘板岩(シーファー)土壌のリースリング等から作られるフレッシュな酸味を持つ白ワインやスパークリング・ワイン(ゼクト)が多い。