エクラノプラン
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エクラノプラン(ロシア語:Экранопланエクラナプラーン)とは、旧ソ連で開発された地面効果翼機 (WIG) の総称で、平滑な地表面ないし水面上を機体の幅と同程度の高度を保って飛行し、それによって得られる地面効果を利用することで高速性と大量輸送を両立することを可能とするものである。
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[編集] 概要
[編集] 現象
冷戦期において、エクラノプランは大型かつ高速展開可能な輸送戦力として長期にわたってカスピ海沿岸部に配備されていた。"カスピ海の怪物"という俗称は、外側の翼を切り落とされた航空機のようにしか見えないこの機体を発見したアメリカの諜報機関によってつけられた名前である。
重要なことは、地面効果が発生している状況を基準として設計されていることである。従って地面効果が起こらない高度を飛行する場合、揚抗比が悪化し飛行に十分な揚力を得られないことも考えられる(参考:地面効果#航空機等における地面効果)。一見すると低空を飛行するため墜落しやすいと考えられるが、通常の飛行機と同じく動安定が正である。つまり一度巡航速度に達してしまったエクラノプランは水面、地面に対して平行を保つことができるということである。
[編集] 開発
エクラノプランの開発は、1940年代よりソ連の軍事部門において開始された。高速船の開発で実績のあったロスチスラフ・アレクセーエフの水中翼船中央設計局が中心となって行われようになると、その計画の実現は一気に加速した。
1961年には最初のエクラノプランSM-1が「初飛行」を実施した。SM-1は水中翼船のような従来の高速船とは比較にならない200 km/hという高速力を発揮した。形状は全長20 mの細長い船型の胴体を持ち、「翼」は幅10 m程度のごく小さな補助的なものであった。外見上は一風変わった小型の船といったところであったが、動力は1 基のターボジェットエンジンを使用していた。翌年には改良型のSM-2が飛行し、ニキータ・フルシチョフの前で公開された。その成果を認められたSM-2は、ソ連海軍向けの高速艇として、実用化に向けて開発が進められることとなった。
開発は2、3年の間にSM-3、SM-4、SM-5と順調に進んでいった。これらは、2 基のターボジェットエンジンを搭載する15 - 20 m級のエクラノプランであった。1964年にはSM-5が墜落し、操縦士が死亡するという惨事が発生した。これが、SMシリーズにとって最初の大事故となった。この年には、事故を教訓に取り入れたSM-2P7が製造された。
[編集] 実用化
初期の小型機による実験の結果を元に、1966年には大型のエクラノプランであるKMが作られた。KMは全長92 m、最大積載時の離床重量は540tにまで達し、水上数mを時速400km/h以上で巡航することが出来た。「KM」とは「見本艦」という意味の「корабль-макет」の略号であったが、奇しくも西側の付けた「カスピ海の怪物」というニックネームのロシア語訳「Каспийский монстр」の略と一致しており、現代ではもはやこの意味で説明されることの方が多い。
これと並行し、20 m級の中型エクラノプランSM-8の試験も実施された。これは、墜落したSM-5の直接の発展型に当たるエクラノプランであった。将来的には、SM-8をもとに軍事用エクラノプランのみならず民間用エクラノプランが開発される見通しであった。
1972年には、「オルリョーノク」の元となったSM-6が完成した。これは全長31 m、翼幅14.8 mの中型エクラノプランで、ソ連の大型機に多く使用されたターボプロップエンジンAI-20を1 基垂直尾翼に装備し、補助のターボジェットエンジン2 基を併用するという独特のスタイルが確立された。そして、この年には904号計画「オルリョーノク」型と正式に呼ばれたA-90 オルリョーノク(:en:)が完成した。
1987年には、全長73.8 m、翼幅44 mの大型エクラノプラン903号計画「ルーニ」型が完成した。これは、初の実用型ミサイルエクラノプランであった。その航行速度は500 km/hに達し、武装として対艦ミサイル3M80「モスキート」を6 発搭載した。当時の1241.1M型大型ミサイル艇は、同じミサイルを4 発搭載するのみである。また、「ルーニ」の捜索救難機型も計画された。
[編集] 配備
これらの機体は、第一にカスピ海および黒海で運用されることを念頭に置いた超高速(数100km/h)軍事輸送機関として旧ソ連で開発され、最大の機体は100t以上の貨物を積載できた。エクラノプランの開発はドミトリー・ウスチノフ(ソ連国防相)によって支援された。最初に約120隻のエクラノプラン(オルリョーノク)がソ連海軍に導入される計画が立てられた。この数字は後になって30隻以下へと削減されたが、それでも主に黒海およびバルト海艦隊に配備される計画が進められた。
しかしエクラノプランは、航空機用アルミ合金に比べて強度が半分程度であり、重量が大きい割には強度がそれほどでもない船舶用アルミ合金で造られていた為、船体強度が不足していた(エクラノプランは造船所で造られていた為、船舶用アルミ合金しか割り当てられなかった)。KMは、強度不足が指摘されて補強工事を行なったにも関わらず、1980年に事故で失われ、オルリョーノクは、カスピ海で荒天状態にテストした時、離水しようとして波に叩かれ、艇尾部分をもぎ取られるという事故を起こした。またオルリョーノクは、カタログスペック上は装甲車輌2両を積載できる事になっていたが、「構造上の制限」により、実際には1両しか積載できなかった。
更に、エクラノプランを艦隊へ配備した場合、エクラノプラン専用の特殊施設(専用浮きドックなど)も用意する必要が有り、運用コストが莫大になる事が予想された。当時のソ連でエクラノプランを量産し、実戦配備する事は非現実的であった。
加えてウスチノフ将軍が1985年に死去し、後任となった国防省大臣ソコロフ将軍は事実上この計画への予算の配分を取りやめさせた。艇体を改設計されたうえで、稼動可能なA-90が3隻のみと1隻の「ルーニ」が結果的に建造され、カスピースク近くの海軍基地へ配備された。 ソ連崩壊まで、エクラノプランはニジニ・ノヴゴロドにあるヴォルガ造船所で製造されていた。
[編集] 近況
現在、ロシア海軍に在籍するエクラノプランは、カスピスクにあるルーニのみである。ただし、予備役であり稼動状態には無い。
オルリョーノクは2007年に除籍、カスピスクからモスクワ郊外ヴォルガ川へ回航され、同地の博物館「潜水艦B-396」の横で公開されている。
また、ソ連崩壊後はロシアなどで中・小型のエクラノプランの開発が続けられている。これらはかつての大型エクラノプランのような攻撃的性格が与えられておらず、民間での使用が視野に入れられている。また、練習機用のエクラノプランも開発されている。1968年に製造した試作のUT-1は、1990年にストリーシュとして完成している。21世紀に入ってからもエクラノプランはその奇抜な外見から相変わらず観衆の注目を集める存在となっており、「アクアグライド」や「イヴォーラ」EK-12Pなどがモスクワの航空ショーで展示されたり、ゲレンジークの航空ショーで飛行を行っている。この他、ロシアやウクライナのいくつかのメーカーが小型の民間向けエクラノプランを製造しており、飛行愛好家によって何機かが実際に使用されている。
[編集] エクラノプランが登場する創作物
- 小説『Seas of Crisis』 - ジョー・バフ (Joe Buff)著
- ゲーム『メタルギアソリッド3』 - 小島秀夫作
- 漫画『機神兵団』 - 原作山田正紀、作画岡昌平
- 漫画『まんがサイエンスVI』 - あさりよしとお
他のフィクション作品とは異なり、あくまで次世代船舶の説明の類例として挙げているものである。 →「表面効果翼艇の世界」として巻頭カラー。また「より早く、より多く」にTSLとともに出演。
→大半の陸地が水没した世界観の中で、飛行機の滑走路用地が取れない為に代替交通機関として利用されている。離着陸は残った陸地の周りに消波装置を設置して海上にて行っている。
- 劇場アニメ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 - 原作:GAINAX、制作:カラー、監督:庵野秀明
→特務機関ネルフまたは国連軍所属として登場。
[編集] 関連項目
- ホバークラフト
- Be-2500 - ロシアの次世代地面効果翼機(開発中)。
- ペリカン (Boeing Pelican)- ボーイング・スカンクワークスチームが構想している地面効果翼機。船舶と航空機の中間のコスト・輸送力・速度を目指して研究が進められている。
- An-225 - ウクライナの大型軍用輸送機。An-225の輸送能力は300tにまで達する。
- C-5 - アメリカ合衆国の大型軍用輸送機。
- ロベルト・バルティーニ
[編集] 外部リンク
- The WIG Page - WIGの歴史
- Commemorating the 85th anniversary of Rostislav Evgenievich Alexeev, an outstanding designer of highspeed ships
- Between Wind and Waves: Ekranoplans
- Graham Taylor's Model Research featuring footage of both model- and full-size ekronoplans
- Volga造船所 世界で唯一エクラノプランを製造している造船所