辛味
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辛味(からみ)は、味を分類する概念のひとつ。日本語では、トウガラシ・ワサビ・ショウガ・サンショウなどに代表される刺激的な味を「辛味」と表現する。
総じて激越な刺激であって、しばしば耐えがたいと感じさせることもある。しかし多くの場合食欲を増進させ新陳代謝を促進する効果があるので、暑さ負けなどに効果がある。さまざまな文化で料理に利用されており、特にトウガラシの辛さを好み日常的に多量に使う文化が世界各地にみられる。ただし慢性的な過剰摂取に関しては悪影響が懸念されている。
なお、「味」は当て字で、本来は「辛み」と書く。「み」は形容詞語幹から名詞を生成する接尾辞である。
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[編集] 辛味は味覚か
現代日本では、社会通念上辛味は重要な味覚のひとつと考えられ、甘味、酸味、苦味、塩味と並ぶ5つの味(五味)のひとつとして捉えられている。
しかし生理学的定義によれば、狭義の味覚とは味覚受容体細胞にとって適刺激である苦味、酸味、甘味、塩味、旨味の5種(五基本味)をいい、辛味はこれにあてはまらない。神経刺激としての辛味の核心は舌・口腔のバニロイド受容体(カプサイシン受容体)で感じる痛覚であり、これに他の条件(トウガラシであれば、発汗および発熱)が統合されたものを辛味と呼んでいると考えられている。近年、カプサイシン受容体が単離されたが、口腔内に特異的なものではなく全身に分布しており、また従来の味覚受容器とは別のものであるため、5基本味が6基本味になることはない。
[編集] さまざまな辛味と辛味成分
辛味にはいくつかの類型が認められ、基本的には、それぞれ辛味成分の化学的特性に対応している。
- ワサビ・カラシや、ネギ・ニンニク・ダイコンなどの辛味は、清涼感をともない、舌や鼻へのツーンとした刺激として知覚される。日本語では、「ツーンとくる辛さ」などと表現されることが多い。これは硫化アリル・アリルカラシ油といったアリル化合物の作用である。
- トウガラシの辛味は体を温め、発汗をうながす。舌には熱さ、時には痛さに似た刺激をもたらす。「ヒリヒリする辛さ」と表現されることもある。このような作用はカプサイシンと呼ばれる成分による。コショウの辛味はトウガラシに似るが、ややマイルドである。この味の主成分はピペリンと呼ばれる。カプサイシン、ピペリンはアルカロイドに分類される。
- ショウガにはジンゲロールやショウガオール、サンショウにはサンショオールなどの辛味成分が含まれ、発汗と清涼感をもたらす。サンショウの辛味は同時に、舌に痺れるような感覚をもたらす。
また日本語では、強い塩味や、ミント・炭酸飲料の刺激が強いことを「からい」と表現することがある。現在ではこれを「辛味」と区別して考えることが多いが、古くは「過度に刺激的である」といった意味で概念が近接していたものと思われる(Cf. 「あまい水」と「からい水」、および「点があまい」「点がからい」の対比)。
[編集] 文化と辛味
辛味、またはそれに類する概念は文化によって多様であり、その感覚をどのように分類し、名を与えるかは一様ではない。下記はその一例である。
[編集] インド
インド伝統医学のアーユルヴェーダなどでは6つの味覚(ラサ)のひとつと考えられた。
[編集] 中国
古代中国では「辛」は五行説により五味のひとつと考えられ、金気と関連づけられた。
現代中国語には、日本語の「辛味」に対応または近接する味の概念がいくつかある。
[編集] 英語圏
英語における「辛味」の対応・近接概念には以下のようなものがある。
- hot
- トウガラシなどの辛味。
- spicy
- さまざまなスパイスの味の総称。日本語では「ぴりっとした」などと訳されることがある。
[編集] 料理における辛味
辛味に対する好悪は、文化的背景により大きく異なる。
世界的にみて、料理において辛味を尊重する文化は少なくない。特に、東南アジア・南アジアの料理にとってトウガラシは不可欠である(カレーなど)。中南米でも、辛味のあるソースを用いる料理は多い(タコスなど)。大航海時代のヨーロッパにおいてコショウが同じ重さの金と交換されたという逸話は広く伝えられている。
日本では伝統的にワサビ・ダイコン・ネギ・ショウガなどの辛味をもつ食材が積極的に利用されてきたが、近代以降は二極化が進み、辛味調味料としてのワサビ・ショウガ、辛味の少ない食材としてのダイコン・ネギという風に料理の中での位置づけが分かれるようになった。しかし復古的な立場から、あるいは辛味成分の有用性を強調する立場から、辛味大根のように辛味を復活させた食材もある。
また20世紀末以降、日本でもトウガラシの辛味に対する受容が進み、辛味刺激の強いことを特色とする食品が多数あらわれた。これらの食品は、一部の商品名から転じてしばしば激辛(げきから)の語を冠して呼ばれる(激辛カレー、激辛スナックなど)。特に専門的にこれらの食品に嗜好をもつ場合、激辛マニアと呼ばれることがある。
このような辛味自体を尊重する立場と、カプサイシンの発汗作用を減量と結びつけたり、アリルカラシ油の殺菌作用に注目したりする立場が相まって、辛味のある食品・料理はある流行を形成することがある。
成人に比べ幼児は辛味のある料理を忌避することが多い。このため、辛味のある食品・料理を 渋味・苦味のある食品・料理と並んで「大人の味覚」と称することがある。
[編集] 辛味の計測
辛味の度合いを定量的に表す単位として、ウィルバー・スコヴィルが考案したスコヴィル値がある。ただしこれはカプサイシンの含有率を表す値なので、カプサイシンを含まない(トウガラシ類以外の)ものの辛味を測定することはできない。