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自動速度違反取締装置 - Wikipedia

自動速度違反取締装置

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

名神高速のオービス(LHシステム)
名神高速のオービス(LHシステム)

自動速度違反取締装置(じどうそくどいはんとりしまりそうち)は、アメリカボーイング社で開発された、道路を走行する車両の速度違反を自動的に取り締まる装置である。通称のオービス(ORBIS)はラテン語で「眼」を意味する言葉からとった製品名であるが、他社の製品を含めての通称として使われることが多い。警察の隠語から「ネズミ捕り機」などと呼ばれる事もある。以下、本文中では取締機という。

目次

[編集] 概要

オービスの事前警告板
オービスの事前警告板
オービスの事前警告板(沖縄)
オービスの事前警告板(沖縄)

主要な幹線道路や、速度違反が多発している道路などに設置されており、制限速度を超過して走行している車両を発見すると、当該車両の速度を記録し、ナンバープレート及び運転者の撮影を行う。基本的には赤切符の違反のみを取り締まり対象とし、一般道路では30km/h以上、高速道路では40km/h以上の速度超過で撮影される(ただし、各都道府県によっては閾値を変動させている場合もあるので留意)。国内の場合は、撮影の瞬間に、多くの場合は赤色(白色のものもある)のストロボ(フラッシュ)が発光する。取締機によって撮影されると、後日警察から当該車両の所有者に出頭通知が送付される。レンタカーなどの場合は、運転者特定のために数週間~数ヶ月を要する場合もある。

取締機を設置している道路には、設置していることを警告する看板が設置箇所の直前に少なくとも2箇所設置してある。これは被写体(違反運転者)にも肖像権が存在するためであり、写真を犯罪の証拠とするためには「事前告知」と「犯罪行為の瞬間の撮影」が必要であると裁判の判決で示されていることによる。看板の色は、各都道府県により異なる場合がある。また、在日米軍関係車両の通行が多い沖縄県では "SPEED CHECK" もしくは "SPEED CHECKED" と併記されている。場所によっては取締機の手前に別に速度検知器と速度警告板を設置してある場合がある。これは5km/h以上の速度超過で「速度落とせ」のランプが点灯するものである。

なお、取締機自体はライトアップされないため、夜間では見落としやすい。

アメリカ合衆国では、交通違反取り締まりに反発する人々から銃で撃ち壊される事件が多発したが、現在では各州で自動速度取締機設置に必要な法整備がなされ、多くの道路に設置されている。

日本の取締機も破壊攻撃を受けることを前提に設計されている。以前に、取締機に穴をあけてガソリンを流し込んだ上、放火される事件があったが、映像を記録する部分は無傷であった。他にも撮影部(カメラ部分)を何者かに持ち去られる事件もあった。

なお過去はフィルムに撮影したものを後日警官が回収していたが、現在は全て撮影と同時に電送されてしまうため、取締機を破壊しても映像は破棄されない。

[編集] 歴史

オランダのラリードライバーモーリス・ガッツォニデスがコーナリング技術の向上のために「ガッツォ」というカメラを開発したのがスピードカメラの起源であり、取締機も同じ技術を利用して作られている。

日本におけるスピードカメラは、1980年頃にアメリカから "ORBIS III" が輸入されたのが始まりで、その後東京航空計器(オービスIII)、松下通信工業(現パナソニック モバイルコミュニケーションズ)(VT-1510)、三菱電機(RS-701)などで生産されていたが、現在では東京航空計器(LH)、三菱電機(高速走行抑止システム)で生産されている。なお、「オービス」はこの分野に限り[1]東京航空計器株式会社の登録商標(第1442534号・第1476539号)である。

[編集] 種類と特徴

レーダー式
ドップラー・レーダーを利用して車両の速度を測定する方式。車両に対して電波を照射し、反射した電波の周波数から速度を計算する。中央分離帯または路肩に撮影装置が設置されており、その10mほど前方の道路上空にはレーダーのアンテナが設置されている。防犯上、撮影装置は金網で囲まれている事がほとんどである。この撮影装置内に交換式の銀塩フィルムが装てんされているが、所定の枚数を既に撮影してしまった場合などは、ごくまれに違反通知が来ないケースがある。欠点は、天時や車間距離が詰まっている場合などに反射波の受信が困難となり、まれに誤測定をすることと、常に電波を発射しているために探知機に発見されやすいこと。現在では退役が進み稼動しているものは少ない。
ループコイル式
道路下5cmのところに、6.9mの間隔を空けて3個のループコイルが埋め込まれている。車両は金属製であるため、車両がループコイルに接近するとループコイルのインダクタンスが変化する。これを利用して、車両の通過時間と距離(6.9m)から速度を計算する。ループコイル3つで2回の測定を行い、その結果に大きな差がある場合などは異常として撮影は行われない。レーダー式の電波を検出するタイプの探知機には発見されない。に弱く(積雪が磁気遮蔽となり、車両の通過を検出できない)、北国ではあまり見られない。なお、撮影装置はレーダー式と同様であり、撮影地点には白線や路面の切り欠き溝、あるいは逆三角の金属プレートが嵌め込まれている事が多い。ループコイルは車両の重量によって舗装とともに損傷を受けるため、定期的なループコイルの交換が必要になる。
Hシステム
最も多く設置されている取り締まり機。「電子画像撮影・伝送方式」と呼ばれ、撮影装置内部にフィルムを装てんするものではなく、撮影したデータをただちに通信回線を通じて管理センターに伝送する。そのため従来型の欠点であったフィルム切れは基本的に無くなった。導入初期に阪神高速道路に多く設置されたことから、阪神高速の頭文字(HANSHIN EXPRESSWAY)を取って呼ばれている。1992年に登場した2代目(高速走行抑止システム)は、CCDカメラ、赤外線ストロボ、通称「はんぺん」と呼ばれる白くて四角いレーダーが備えられており、全国で数多く見られる。
LHシステム
1994年から登場したもので、「ループコイル式Hシステム」という。Hシステムが速度計測にレーダーを使うのに対し、LHシステムは地中に埋められたループコイルを利用する。ループコイル式同様、撮影地点に白線が引かれている事が多い。カメラ部の仕様はHシステムとほぼ同じだが、レーダーを備えていないためNシステムと見分けがつきにくい。名称の「L」はループコイルの頭文字(LOOP COIL)から。
SSシステム
外観はHシステムと同じだが、撮影した写真を即座に待機中のパトカーに送り、その場で検挙するという点で異なる。東名高速道路由比PA(136キロポスト)付近にある機器がそれに該当する。
光電管式
ループコイルの代わりに光源と光電管を設置し(または光源と光電管を隣り合わせて設置、対向に反射板を設置し)、車両が通過する時間を測定する方式。汚れに弱いことと、複数車線での取り締まりが困難であることから普及はしなかった。
移動式
パトロールカーに搭載しているものや、警察車両(ワゴン車が多い)に積載・搬送しどこにでも設置・撤去できるものを移動式と呼ぶことがある。ほとんど大半はレーダー式だが、警察車両に積載・搬送して設置するタイプに光電管式のものが増えつつある。

[編集] レーダー探知機による反応

取締機の種類 電波式 GPS
レーダー式 ○*1
ループコイル式 × ○*2
Hシステム
LHシステム × ○*2
移動式

凡例

  • ○:反応あり(ブザー又は音声で警告)
  • △:機種によっては反応あり
  • ×:反応なし
  1. GPS式は、GPS機能とレーダー電波を検出する電波式の機能の2系統の機能を備えている。レーダー式取締機の設置位置情報を持っていなくても、電波式の機能によりレーダー電波を検出すれば警告を発する。
  2. GPS式は、GPS受信機によって自車位置を測位し、内蔵の位置情報と照合して取締機への接近を報知する。従ってループコイル式、LHシステム式の設置位置情報を持っていない場合は当然反応しない。またレーダー式取締機の位置情報を持つ場合は、電波の状態と関係なく反応する。

[編集] 問題点

取締機の設置により警察官が速度違反を直接目視で現認せずとも違反行為を認定し、本人に通知、そして処分という一連の流れが自動化される。速度違反を取り締まる警察官も、取締機に反応する程の高速度で進行している車両を追尾し、検挙することは捜査員・違反者のみならず周囲を走行する無関係の走行車にも危険を及ぼしかねないため、こうしたリスクも軽減されると考えられる。また取締機の設置自体によって心理的に速度を抑止させる効果をももたらす。しかし反面、以下に挙げるような問題も孕んでおり、現在でも取締機による捜査に関する公判が絶えない。

[編集] 人権との関係

  • たとえ、速度違反者といえども、警察による容貌の無断撮影は憲法が保障するプライバシー権肖像権)の侵害である。
  • 助手席に同乗している者の写真も撮影されるため、違反行為とは全く無関係な第三者のプライバシー権も侵害される可能性がある。
  • 取締機が反応した現場に警察官はいない。違反者は後日呼び出しはがきの送達を受け、警察署に出頭したときに初めて弁明の機会が与えられることになるため、その場に警察官がいる取締方法に比べ被疑者の防禦権が著しく制限される。

なお、「(違反者、同乗者の)プライバシー権の侵害である」という問題については、昭和44年12月24日の最高裁(大審院)判決PDF(いわゆる「京都府学連事件」)を踏まえ、「犯罪が現に行われ」「証拠を確保する必要性があり」「方法が合理的である」という三条件を満たすことにより、警察官による容貌の撮影が許容されるとされてきており、取締機による撮影も同様の基準で審査される。昭和61年2月14日最高裁第二小法廷判決(昭和59年(あ)第1025号道路交通法違反被告事件、刑集40巻1号48頁・判時1186号149頁)PDF以後、一貫して取締機による撮影は合憲とされ、プライバシー権侵害を認定した判例はない。

[編集] 誤動作

取締機は自動で動作する装置であり、また違反を取り締まる目的で設置された装置であるから、その性質及び設置目的から、定期的なメンテナンスが求められる。しかし、制限速度で走行しているにも関わらず取締機が動作し、違反切符を切られ、訴訟となっている事例も少なくない。これらの事例について、取締機の誤動作であることを立証することは難しいと言われる。その理由として、次のようなことが挙げられる。

  1. 一般的に、取締機が動作した当時の速度を記録している装置(タコグラフドライブレコーダー)を装備している車両はごく一部である。普通このような装置を備えている車両は、速度違反を検挙する側である警察官が乗車するパトカーや、トラック・バス・タクシーなどの営業車くらいのものである。従って、被検挙者が運転する車両が取締機動作当時、制限速度で走行していたことを立証する術は基本的に存在しない(ドライブレコーダーもデータの改竄が容易であることから法的根拠にとぼしい)。
  2. 取締りを行う機械という性質上、そのシステム等の詳細やメンテナンスのスケジュール等、非公開とされている事柄が多い。したがって、定期的なメンテナンスが行われているか、あるいはそのメンテナンスが適切に行われているかを第三者機関等が確かめることは困難である。

また、方式によるが、取り締まる警察側が、ワンショット撮影している限り、例えば自動二輪車に、ごく近傍で、斜めに違反速度で追い抜かれた場合、速度記録計は違反二輪車のものとなり、車線変更などにより写真に二輪車が映っていなくとも、違反車として記録されてしまう可能性がある。

[編集] 二輪車

固定式取締機の場合、違反車両を前方より撮影しナンバープレートの解析を行ったうえで違反者に通告が届く。そのため、肝心のナンバープレートが前方にない二輪車では、撮影されても被疑者の割り出しが不可能という問題があったが、現在では首都高速などで後方から撮影できる取締機も一部設置されている。しかし、二輪車の運転者は乗車用ヘルメットの装着が義務づけられており、フルフェイスタイプのヘルメットなどシールドで顔を覆うタイプのヘルメットを装着している場合は被疑者の特定が困難であるという問題も残っている。

しかしナンバープレートや被疑者の顔が撮影出来ない場合でも、常習性があり悪質であると認められ逮捕された例も存在する。[2]

[編集] 違反者への通知

取締機で検挙された違反者は、普通葉書または普通郵便の封書で出頭を求められる。しかし、銀塩フィルム式(36枚撮り)からCCDデジタルによるISDN回線オンライン検挙に移行しつつある現在、膨大な量の画像が転送される結果となり、人的事務手続きを伴う交通切符受付を処理しきれない現状がある。「違反者本人が出頭」して「違反画像を確認」し、「自署名又は捺印」をして、「交通切符」が交付される。そのため事務を少人数で効率的、簡素化して行うため、検挙者に対しては時間的に分散して出頭してもらう必要が出て来た。郵送書類には、出頭日時等が記載されているのはその為であると推察される。この時点で、違反者に送付されている出頭要請の通知が「普通」郵便でなされている点は特筆すべきである。普通郵便には到着証明機能がないこともあり、法的拘束力がない(参項「郵便事故」)。取締機から日夜大量に転送される違反車画像に警察の事務処理能力が追いつかず、悪質な違反逃れの温床になっている、不公正なシステムであるとの批判があるのも事実である。もっとも、呼び出しはがきの出頭に応じない場合で、かつ何度も違反を繰り返すような悪質と見られる事件に関しては、撮影されたデータやナンバープレート、車両の名義人や顔写真などを元に捜査が行われる。

[編集] 世界各国の自動速度取締機

[編集] スイス

スイス国内の自動速度取締機は、警察官の手によってスイス名物(チーズ柄、時計アーミーナイフ)の柄や形状にデコレーションされたものが数多く設置されている。

[編集] ドイツ

ドイツにも日本とほぼ同じ自動速度取締機が多数設置されているが、信号無視を検知する「自動信号無視取締機」が都市部を中心に設置が進められている。赤信号にも拘らず交差点に進入すると、取締機が信号標示と車両の前部・後部を自動的に撮影する仕組である。二輪車の違反にも対応している。ドイツ人の法規範意識の高い国民性は有名であったが、国外からの移住者が非常に多くなり、同時に信号無視も頻発するようになったため、このような取締機の設置に至ったという。

[編集] フランス

プライバシー権など多くの人権問題を惹起しかねない取締方法である自動速度取締機(radar automatique)に対し、当初フランス国民の反発が非常に高いものであったため、設置はほとんどなかった。しかし2000年以後、警察が交通違反に対する取締を相当強化したことにも伴い(今でもフランスは交通事故多発国として欧州圏内では悪評高く、啓蒙のためフランスでは日々のテレビニュースで「今週の交通事故死亡者数」が定期的に報じられる)、パトカーや白バイ隊による追跡、検挙のみならず取締機設置数は急増した。事前警告標識が必ず存在し、その標識には"Pour votre securité...contrôles automatiques(あなたの安全のため−自動取締中)"の文字およびレーダーが発信される様子が描かれたアイコンが表示されている。撮影閾速度はまちまちだが、市街地区域では50km/h、高速道では110km/hで作動するものが多い。レーダー探知機は、作動させていた場合はもちろん所持だけでも検挙の対象となり、厳罰に処されるため、他国から車両を持ち込む際などは特に注意を要する。

[編集] 韓国

韓国における自動速度取締機は一般に「속도기(=速度機)」や単に「감시 카메라(=監視カメラ)」と呼ばれている。一般道路高速国道問わず相当多数の取締機が設置されているが、そのうち実際は稼働していない、ただの取締機の模型も速度抑止の目的から設置されている(ただし減少している模様)。また、この「監視カメラ」は速度違反検知だけでなく違反駐車検知、信号無視検知などを行うものも、ソウルの主要道路を中心に設置が始まっている。

取締機の前にはオレンジ地に黒文字で「속도단속(=速度團束、つまり速度取締)Police enforcement」との文字と、カメラアイコンがかかれた警告標識があり、この様式はほぼ統一されている(「○メートル先」の補助標識があるものも存在する)。

日本や、他の欧米諸国の取締機は、かなり離れたところからもその存在が確認できるほどの大きさがあるが、韓国の取締機は家庭用ビデオカメラ程度の大きさしかなく、また普通の案内標識の間に隠されているものもあるので、事前警告標識に気をつけなければ見落としてしまう可能性が非常に大きい(違反速度に達している速度で走行している場合であればなおさらである)。また韓国のカーナビは、その道路の規制速度と取締機の設置場所、機種によっては車速を表示する機能を備えたものが多い(いわゆるレーダー探知機も、主にプロのドライバーに普及している)。
韓国の高速道路などでは、先行するドライバーが取締機に接近するとハザードランプを点灯させ、後続車に取締機に対する注意を促す慣習がある。

ちなみに速度違反に対する罰金は、超過20km未満と20km以上に区分されており、最大で5万ウォンである(大韓民国道路交通法第15条第3項ならびに第113条参照)。

[編集] 脚注

  1. ^ 「オービス」は別分野で複数の企業が商標登録している。
  2. ^ 記念にVサイン---速度違反の常習者を逮捕

[編集] 関連項目


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