海底軍艦 (映画)
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『海底軍艦』(かいていぐんかん)は、1963年に公開された、東宝制作の特撮映画。
東宝特撮の最高傑作との呼び声もある、怪獣映画と戦争映画の融合した作品。登場する轟天号の存在感や、それにも負けない田崎潤扮する神宮司大佐らの熱演もあって、現在でも評価は高い。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
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[編集] あらすじ
日本の土木技師が行方不明となる事件が相次いでいた。こうした事件の現場に居合わせたカメラマン旗中進と西部善人は、被写体としてスカウトしようと光國海運の楠見専務の秘書、神宮司真琴を追跡し、楠見と真琴がムウ帝国工作員23号と名乗る怪人と工作潜水艦に誘拐されようとするのを阻止する。
後日、ムウ帝国からの脅迫フィルムが届いた。それは一万二千年前に海底に沈んだ伝説上の大陸ムウ大陸を支配した帝国が、地熱を資源とする強大な科学力をもって今なお健在であると示し、神宮司大佐の「海底軍艦」の即時建造中止と、かつてのムウ帝国の植民地であった地上全世界の即時返還を要求していた。同じ脅迫フィルムが国連の場にも届けられていたが、即時黙殺された。だが、世界各地の海岸地域での大陥没や、貨物船が謎の潜水艦に襲撃・撃沈されるなどの異変が相次ぎ、世界各国は総合防衛司令部を設置、最新鋭の潜水艦や人工衛星による警戒網を動員する。だが、ムウ帝国の潜水艦を深海に追った原潜レッドサタン号は圧壊沈没。地上人の手の及ばぬ深海のムウ帝国の科学力は恐るべきものであることを証明した。
ここに到って、日本の治安担当首脳は元海軍少将としての楠見に、「海底軍艦」の出動は国連の要請であると伝えるが、楠見は元部下・神宮司の秘密を告白する。「終戦時、神宮司はイ403潜で反乱を起こし消息を絶った」と。その時、警視庁から、ムウ帝国の工作員と思われる男を捕らえたとの連絡が入る。
捕らえられた男は、ムウ帝国人ではなかった。神宮司大佐の部下、天野兵曹である。神宮司大佐が健在であることを知り、楠見らは神宮司に会うことを決意する。神宮司大佐の根拠地は知られざる島にあった。その名も「轟天建武隊基地」である。海底軍艦轟天号の驚くべき性能の一端を示した試験航行の成功に酔う神宮司に、楠見は非道なるムウ帝国撃滅のために海底軍艦の出動を要請するが、拒絶される。神宮司は帝国海軍の再興をかたくなに望んでいた。真琴と旗中は痛烈な抗議をするが、一行に混じって海底軍艦基地に潜入した海野魚人=ムウ帝国工作員により、基地は爆破された。
ムウ帝国に拉致された真琴と旗中は、ムウの大群衆の極彩色の群舞の中で、華麗なるムウ帝国女帝より、守護竜マンダの生贄として死刑を宣告される。なおも世界を脅迫し続けるムウ帝国によって、世界各地に最後通告が行われる。東京丸の内も陥没、ムウ帝国の潜水艦の怪光線により東京湾の船舶が炎上する地獄図の中を、海底軍艦の雄姿が空中に出現した。これ以上のムウ帝国の暴虐を阻止せんと破壊された基地をドリル衝角で突破して出撃したのだ。潜航し、逃走を図るムウ帝国の潜水艦を追って、海底軍艦もまた潜航する。
一方、真琴と旗中らは拉致された土木技師らと共に奴隷労働を強いられていた。作業現場より盗み出した爆薬を武器に、女帝を人質に取り、脱出を図るがここは海底である。だが、そこにムウの潜水艦を追って海底軍艦が到着した。マンダの妨害を排除し、楠見と神宮司らは脱出者を海底軍艦に収容した。今こそ心をひとつにした父と娘の再会である。喜びもそこそこに、海底軍艦はありえざるゲストを迎えることになった。ムウ帝国の女帝陛下だった。
神宮司大佐の和平の提案を、無礼と一蹴し、余を殺せてもムウ帝国を滅ぼすことは不可能と冷たく言う女帝に対し、神宮司は毅然と返すのだった。「ではムウ帝国の心臓部を攻撃してご覧に入れよう。」
[編集] スタッフ
[編集] キャスト
- 旗中進:高島忠夫
- 神宮司真琴:藤山陽子
- 伊藤刑事:小泉博
- 楠見元技術少将:上原謙
- 西部善人:藤木悠
- 海野魚人(雑誌記者):佐原健二
- 神宮司八郎大佐:田崎潤
- 天野兵曹:田島義文
- 藤中尉:長谷川弘
- 山田軍曹:坂本晴哉
- リマコ(水着モデル):北あけみ
- メモ子:雨宮貞子
- 防衛庁長官:高田稔
- 防衛庁幹部A:藤田進
- 防衛庁幹部B:津田光男
- 防衛庁幹部C:大友伸
- 進藤:伊藤久哉
- 技師:桐野洋雄
- 丸徳タクシーのドライバー:沢村いき雄
- 光国海運社員:宇野晃司
- 貨物船船長:中村哲
- 貨物船見張り:中山豊
- ムウ帝国皇帝:小林哲子
- ムウ帝国長老:天本英世
- ムウ帝国工作隊23号:平田昭彦
[編集] 豆知識
- 原作では「ムウ帝国」「怪獣マンダ」「神宮司大佐」といった映画の全ての登場人物は何ひとつ登場しない。ストーリーでも「少数の人員が孤島で海底軍艦を建造する」以外ほぼつながりはない。脚本の関沢新一は、「海底軍艦は題名だけ聞いて後はイメージで書いた」とコメントしている。
- 英題は Atragon。好評だったらしく、実際には続篇でもなんでもない『緯度0大作戦』が、海外では Atragon II の題名で公開されている。ドイツではU2000という題になっている。Atragonは轟天号の英語名ではなく、マンダのことを指す。
- 「轟天建武隊」の名前は、明らかに回天特別攻撃隊の各部隊名の合成。そしておそらくは建武の中興(建武の新政)にもかけたもの。
- マンダの登場は正月映画だったため干支にちなんでと言われている。当時の東宝の宣伝用年賀はがきでは「謹賀新年」の言葉の下に、轟天号対マンダのイラストが添えられていた。
- 当時の東宝特撮の正月映画としては、本作の撮影スケジュールはやや短めである。
- この作品で初めて登場したムウ帝国の守護怪獣マンダは、後の東宝作品『怪獣総進撃』(1968年) にも登場しているが、角がないなど頭部のデザインが微妙に異なっている。当初のデザイン画ではマンダは蛇の怪獣で、このいわゆる二代目のほうがデザイン画に近い。なお『ウルトラQ』に『怪竜』として出演時はほぼそのままの姿なのが確認できる。
- 後日、冒頭の蒸気人間のシーンと主人公旗中と神宮司大佐との会話での「戦争気違い」発言をカット・編集した『新版 海底軍艦』がゴジラシリーズ『怪獣総進撃』と二本立てで公開されている(1968年) 。
- 2004年の『ゴジラ FINAL WARS』では、新旧轟天号が共演し、守護龍マンダも再登場している。
- 2005年の『超星艦隊セイザーX 集え!星の戦士たち』では、轟天号の発進シーンに本作のテーマ曲が流用されている。
- 劇中のムウ帝国、海底軍艦等のデザインを担当した小松崎茂は、「潜水艦とロケットとでは根本的に構造が違うので、轟天号のようなものを実際には作れないのは分かっているが、映画の画面ではそれなり観客を納得させられるようにデザインした」との趣旨の発言をしている。
- ムウ帝国皇帝側近の女官役で、横田基地など在日米軍の軍人の家族が多数エキストラ出演している。「(衣装が)クレオパトラみたい」などと概ね好評だったそうだ。
- 冒頭、沢村いき雄のタクシーの港での引揚げ場面で、背景に万景峰号が写っている。
- 轟天号は、劇中ではその装備のひとつ「電子砲」を使用することは結局なかったが、東京湾内でムーの潜水艦と対峙して砲撃を交わす合成素材用の特撮フィルムは現存しており、何らかの事情で場面カットされ、光線の合成まで至らなかったようである。
[編集] 参考文献
- 『海底軍艦/妖星ゴラス/宇宙大怪獣ドゴラ(東宝SF特撮映画シリ-ズ4)』 ISBN 4924609137