学習指導要領
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学習指導要領(がくしゅうしどうようりょう)とは、文部科学省が告示する教育課程の基準のことである。
目次 |
[編集] 学習指導要領の概要
学習指導要領は、小学校、中学校、中等教育学校、高等学校、特別支援学校の各学校と各教科で実際に教えられる内容とその詳細について、学校教育法施行規則の規定を根拠に定めている。国立学校、公立学校、私立学校を問わずに適用されるが、実際の状況では、公立学校に対する影響力が強い一方で、私立学校に対する影響力はそれほど強くない。なお、幼稚園では、学習指導要領に相当するものとして幼稚園教育要領(ようちえんきょういくようりょう)がある。なお、文部科学省は学習指導要領のより詳細な事項を記載した「学習指導要領解説」を発行しており、学習指導要領とは異なり法的拘束力はないとされ、教科用図書検定規則等には学習指導要領解説に沿わなければならないという規定はない。ただし一部科目で学習指導要領解説で提示された公式のみが教科書に実際に記述されている(提示された公式以外の公式の記述は無、学習指導要領解説にはない公式を掲載しても検定を通る可能性が低い)等、教科書検定のさいには強い影響力を持っており、検定のさいには事実上拘束力がある。
[編集] 学習指導要領の内容
学習指導要領の内容は、校種によって若干の変化はあるが、
からなる。ただし高等学校においては道徳を扱わない。特別支援学校においては上記のほかに自立活動が含まれる。また、2002年(平成14年)に小学校中学年から高等学校に創設された総合的な学習の時間は、総則の中で規定されている。
学習指導要領の内容は、学校をめぐるさまざまな事件、受験戦争の激化、不登校、校内暴力などや、特に歴史などでは近隣の国々と日本の間の過去の関係やその理解の仕方などで、変化してきている。
[編集] 学習指導要領の法的位置付け
各教科の単元の構成やその詳細が指示されているが、法令ではない。しかし、学校教育法施行規則に基づいて定められているため、その効力については議論があるが、裁判所の判例によると、一部法的拘束力とするには不適切な表現があるものの、全体としては法的拘束力を有する、と判断されている(伝習舘高校事件・最高裁判所第一小法廷判決・平成2年1月18日・民集44巻1号1頁)。ただし、伝習舘高校は公立高校であり、本判例が、学習指導要領が私立学校までをも拘束する趣旨であるかどうかは微妙である。
[編集] 学習指導要領の変遷
- 年度は小学校で本格的に開始された年度である。
- 1単位時間は小学校は45分、中学校及び高等学校は50分である。
[編集] 1947年(昭和22年)~
終戦後しばらく行なわれていた学習指導要領。手引きという立場であり、各学校での裁量権が大きかった。 1953年(昭和28年)までは学習指導要領(試案)という名称であった。 小学校において、戦前からの修身、地理、歴史が廃止され、社会科が新設された。 小学校における家庭科が男女共修となった。自由研究が新設された。 高等学校の学習指導要領は1948年(昭和23年)から実施されているが、1949年(昭和24年)に改訂された。下の表には1949年版のものを示している。
学校種 | 教科区分 | 教科、科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、算数、社会、理科、音楽、図画工作、家庭、体育、自由研究 | ||
中学校 | 必修教科 | 国語、習字、社会、国史、数学、理科、音楽、図画工作、体育、職業(農業・商業・水産・工業・家庭) | ||
選択教科 | 外国語、習字、職業、自由研究 | |||
高等学校 | 教科 | 国語 | 国語、漢文 | |
社会 | 一般社会、国史、世界史、人文地理、時事問題 | |||
数学 | 一般数学、解析(1)、幾何、解析(2) | |||
理科 | 物理、化学、生物、地学 | |||
体育 | ||||
芸能 | 音楽、図画、書道、工作 | |||
家庭 | 一般家庭、家族、保育、家庭経理、食物、被服 | |||
外国語 | ||||
農業に関する教科、工業に関する教科、商業に関する教科、水産に関する教科、家庭技芸に関する教科、その他職業に関する教科 |
- 中学校の職業科は学校の設備および生徒の希望によって1~数科目を選択して履修。
- 高等学校の国語、一般社会、体育は必修。
- 高等学校の社会科は国史、世界史、人文地理、時事問題から1科目は必ず履修。
- 高等学校の数学科は一般数学、解析(1)、幾何、解析(2)から1科目は必ず履修。
- 高等学校の理科は物理、化学、生物、地学から1科目は必ず履修。
[編集] 1951年(昭和26年)~
自由研究は廃止され、教科以外の活動(小学校)、特別教育活動(中学校)と改められた。 中学校の習字は国語科に、国史は社会科に統合された。体育科は保健体育科に改められた。職業科は職業・家庭科に改められた。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、算数、社会、理科、音楽、図画工作、家庭、体育 | ||
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、図画工作、保健体育、職業・家庭 | ||
選択教科 | 外国語、職業・家庭、その他の教科 | |||
高等学校 | 教科 | 国語 | 国語(甲)、国語(乙)、漢文 | |
社会 | 一般社会、日本史、世界史、人文地理、時事問題 | |||
数学 | 一般数学、解析(1)、幾何、解析(2) | |||
理科 | 物理、化学、生物、地学 | |||
保健体育 | 保健、体育 | |||
芸術 | 音楽、図画、書道、工作 | |||
家庭 | 一般家庭、家庭、保育、家庭経理、食物、被服 | |||
外国語 | ||||
農業、工業、商業、水産、家庭技芸、その他特に必要な教科 |
- 高等学校の国語(甲)、一般社会、保健、体育は必修。
- 高等学校の社会科は日本史、世界史、人文地理、時事問題から1科目は必ず履修。
- 高等学校の数学科は一般数学、解析(1)、幾何、解析(2)から1科目は必ず履修。
- 高等学校の理科は物理、化学、生物、地学から1科目は必ず履修。
[編集] 1956年(昭和31年)~
高等学校の学習指導要領のみ改訂され、1956年(昭和31年)度の第1学年から学年進行で実施された。 特別教育活動の指導時間数(週1~3時間)が規定された(以前の学習指導要領でも指導時間数の目安は示されていた)。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
高等学校 | 教科 | 国語 | 国語(甲)、国語(乙)、漢文 | 特別教育活動(ホームルーム活動、生徒会活動、クラブ活動) |
社会 | 社会、日本史、世界史、人文地理 | |||
数学 | 数学I、数学II、数学III、応用数学 | |||
理科 | 物理、化学、生物、地学 | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽、美術、工芸、書道 | |||
外国語 | 第一外国語、第二外国語 | |||
家庭 | 家庭一般、被服、食物、保育・家族、家庭経営 | |||
家庭、農業、工業、商業、水産、その他特に必要な教科 |
- 高等学校の国語(甲)、社会、数学I、体育、保健は必修。
- 高等学校の社会科は日本史、世界史、人文地理から2科目は必ず履修。
- 高等学校の理科は物理、化学、生物、地学から2科目は必ず履修。
[編集] 1961年(昭和36年)~
系統性を重視したカリキュラム。道徳の時間の新設、科学技術教育の向上などで教育課程の基準としての性格の明確化を実現。 公立学校に対して強制力がある学習指導要領が施行された。小学校6年間の総授業時数は5821コマで、国・算・理・社の合計授業時数は3941コマ。
小・中学校の学習指導要領は1958年(昭和33年)に告示され、小学校は1961年(昭和36年)度から、中学校は1962年(昭和37年)度から実施された。 道徳のみ1958年10月から実施されている。 高等学校の学習指導要領は1960年(昭和35年)に告示され、1963年(昭和38年)度の第1学年から学年進行で実施された。 中学校の職業・家庭科が技術・家庭科に改められた。 高等学校の古典、世界史、地理、数学II、物理、化学、英語にA、B(または甲・乙)の2科目を設け、生徒の能力・適性・進路等に応じていずれかを履修させるようにするなど、科目数が大幅に増加した。高等学校の外国語が必修となったほか、科目の履修に関する規定が増加した。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育 | 道徳 | |
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭 | 道徳、特別教育活動(生徒会活動、クラブ活動、学級活動) | |
選択教科 | 外国語、農業、工業、商業、水産、家庭、数学、音楽、美術 | |||
高等学校 | 教科 | 国語 | 現代国語、古典甲、古典乙I、古典乙II | 特別教育活動(ホームルーム活動、生徒会活動、クラブ活動) |
社会 | 倫理・社会、政治・経済、日本史、世界史A、世界史B、地理A、地理B | |||
数学 | 数学I、数学IIA、数学IIB、数学III、応用数学 | |||
理科 | 物理A、物理B、化学A、化学B、生物、地学 | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽I、音楽II、美術III、美術II、工芸I、工芸II、書道I、書道II | |||
外国語 | 英語A、英語B、ドイツ語、フランス語、外国語に関するその他の科目 | |||
家庭 | 家庭一般 | |||
家庭、農業、工業、商業、水産、音楽、美術、その他特に必要な教科 |
- 中学校の選択教科の外国語は、英語、ドイツ語、フランス語、その他の現代の外国語のうち1カ国語を第1学年から履修することを原則とする。
- 高等学校の現代国語、倫理・社会、政治・経済、数学I、体育、保健は必修。
- 高等学校の国語科は、古典甲または古典乙Iの1科目を必ず履修(普通・音楽・美術科の生徒は特別の事情のない限り古典乙Iを履修)。
- 高等学校の社会科は、普通科の生徒は日本史、世界史AまたはB、地理AまたはBの3科目を必ず履修。職業・音楽・美術科の生徒は日本史、世界史AまたはBから1科目、地理AまたはBの1科目を必ず履修。
- 高等学校の数学科は、普通・音楽・美術科の生徒は数学IIAまたはIIBの1科目を必ず履修。職業科の生徒は数学IIAまたはIIB、応用数学から1科目を必ず履修。
- 高等学校の理科は、普通科の生徒は物理AまたはB、化学AまたはB、生物、地学の4科目を必ず履修。職業・音楽・美術科の生徒は物理AまたはB、化学AまたはB、生物、地学から2科目を必ず履修。
- 高等学校の芸術科は、普通・職業科の生徒は音楽I、美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。音楽科の生徒は美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。美術科の生徒は音楽Iまたは書道Iの1科目を必ず履修。
- 高等学校の外国語はいずれか1科目を必ず履修。
- 高等学校の家庭科は、普通科の女子生徒は家庭一般を必修。
[編集] 1971年(昭和46年)~
現代化カリキュラムといわれる濃密な学習指導要領。時代の進展に対応した教育内容の導入で教育内容の現代化を実現。小学校6年間の総授業時数は5821コマで、国・算・理・社の合計授業時数は3941コマ。中学校3年間の総授業時数は3535コマ。
1950年代、ソ連が1957年に人工衛星スプートニク1号を打ち上げたことは、アメリカの各界に「スプートニク・ショック」と呼ばれる衝撃が走った。アメリカ政府は、ソ連に対抗するためにまずは学校教育を充実し、科学技術を発展させようとした。これに伴って「教育内容の現代化運動」と呼ばれる、小中学校からかなり高度な教育を行なおうとする運動が起こった。この運動が日本にも波及し、濃密なカリキュラムが組まれたが、授業が速すぎるため「新幹線授業」などと批判された。当時は、公立学校も私立学校もあまり違いがない学習内容だった。
小学校の学習指導要領は1968年(昭和43年)に告示され1971年(昭和46年)度から実施、中学校の学習指導要領は1969年(昭和44年)に告示され1972年(昭和47年)度から実施された。高等学校の学習指導要領は1970年(昭和45年)に告示され、1973年(昭和48年)度の第1学年から学年進行で実施された。高等学校の社会科や理科で旧課程のA・Bの区分は止め、新たに地理A(系統地理的)、地理B(地誌的)などを設置した。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育 | 道徳 | |
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭 | 道徳、 特別活動(生徒活動〔学級会活動、生徒会活動、クラブ活動〕、学級指導、学校行事) |
|
選択教科 | 外国語、農業、工業、商業、水産、家庭、その他特に必要な教科 | |||
高等学校 | 教科 | 国語 | 現代国語、古典I甲、古典I乙、古典II | ホームルーム、生徒会活動、クラブ活動、学校行事 |
社会 | 倫理・社会、政治・経済、日本史、世界史、地理A、地理B | |||
数学 | 数学一般、数学I、数学IIA、数学IIB、数学III、応用数学 | |||
理科 | 基礎理科、物理I、物理II、化学I、化学II、生物I、生物II、地学I、地学II | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽I、音楽II、音楽III、美術I、美術II、美術III、工芸I、工芸II、工芸III、書道I、書道II、書道III | |||
外国語 | 初級英語、英語A、英語B、英会話、ドイツ語、フランス語、外国語に関するその他の科目 | |||
家庭 | 家庭一般 | |||
家庭、農業、工業、商業、水産、看護、理数、音楽、美術、その他特に必要な教科 |
- 中学校の選択教科の外国語は、英語、ドイツ語、フランス語、その他の外国語から1カ国語を第1学年から履修することを原則とする。
- 高等学校の現代国語、古典I甲、倫理・社会、政治・経済、体育、保健は必修。ただし、古典I乙を履修する場合は古典I甲の履修は要しない。
- 高等学校の社会科は、日本史、世界史、地理AまたはBから2科目を必ず履修。
- 高等学校の数学科は、数学一般、数学Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の理科は、基礎理科の1科目または物理I、化学I、生物I、地学Iから2科目を必ず履修。
- 高等学校の芸術科は、音楽I、美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の家庭科は、女子生徒は家庭一般を必修(専門教育を主とする学科で特別の事情のある場合を除く)。
[編集] 1980年(昭和55年)~
ゆとりカリキュラムといわれる、教科の学習内容が少し削減された学習指導要領。各教科などの目標・内容をしぼり、ゆとりある充実した学校生活を実現。小学校6年間の総授業時数は5785コマで、国・算・理・社の合計授業時数は3659コマ。中学校3年間の総授業時数は3150コマ。
現代化カリキュラムは過密であり、現場の準備不足や教師の力不足もあって、大量の付いて行けない生徒を生んでしまい、これに対する反省から授業内容を削減したもの。1976年(昭和51年)に学習内容を削減する提言が中央教育審議会でなされた。私立学校はあまり削減を行なわなかったので、公立学校との差が付き始めた。学習内容が全て削減されたわけではなく、漢字数などはむしろ増えているため、意図したほどゆとりを生まなかったという批判もある。学校群制度なども影響し、公立学校の進学実績の低下が明らかになった時期でもある。
小中学校の学習指導要領は1977年(昭和52年)に告示され、小学校は1980年(昭和55年)度から、中学校は1981年(昭和56年)度から実施された。高等学校の学習指導要領は1978年(昭和53年)に告示され、1982年(昭和57年)度の第1学年から学年進行で実施された。中学校の選択科目の選択肢が拡大された。高等学校の科目履修の基準が緩和された。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育 | 道徳 特別活動(児童活動〔学級会活動、児童会活動、クラブ活動〕、学校行事、学級指導) |
|
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭 | 道徳 特別活動(生徒活動〔学級会活動、生徒会活動、クラブ活動〕、学校行事、学級指導) |
|
選択教科 | 外国語、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、その他特に必要な教科 | |||
高等学校 | 普通教育に関する教科 | 国語 | 国語I、国語II、国語表現、現代文、古典 | 特別活動(ホームルーム、生徒会活動、クラブ活動、学校行事) |
社会 | 現代社会、日本史、世界史、地理、倫理、政治・経済 | |||
数学 | 数学I、数学II、代数・幾何、基礎解析、微分・積分、確率統計 | |||
理科 | 理科I、理科II、物理、化学、生物、地学 | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽I、音楽II、音楽III、美術I、美術II、美術III、工芸I、工芸II、工芸III、書道I、書道II、書道III | |||
外国語 | 英語I、英語II、英語IIA、英語IIB、英語IIC、ドイツ語、フランス語、外国語に関するその他の科目 | |||
家庭 | 家庭一般 | |||
その他特に必要な教科 | ||||
専門教育に関する各教科 | 家庭、農業、工業、商業、水産、看護、理数、体育、音楽、美術、英語、その他特に必要な教科 |
- 中学校の選択教科の外国語は、英語、ドイツ語、フランス語、その他の外国語から1カ国語を第1学年から履修することを原則とする。
- 高等学校の国語I、現代社会、数学I、理科I、体育、保健は必修。
- 高等学校の芸術科は、音楽I、美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の家庭科は、女子生徒は家庭一般を必修(専門教育を主とする学科で女子生徒が極めて少数である場合を除く)。
- 高等学校の英語IIAは現行課程のオーラルコミュニケーション、英語IIBはリーディング、英語IICはライティングに相当する科目である。
[編集] 1992年(平成4年)~
新学力観の登場。個性を生かす教育を目指して改定された、教科の学習内容をさらに削減した学習指導要領。生活科の新設、道徳教育の充実などで、社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成を実現。小学校6年間の総授業時数は5785コマで、国・算・理・社・生活の合計授業時数は3659コマ。中学校3年間の総授業時数は3150コマ。
学習指導要領は1989年(平成元年)に告示され、小学校は1992年(平成4年)度、中学校は1993年(平成5年)度から実施された。高等学校は1994年(平成6年)度の第1学年から学年進行で実施された。
小学校の1・2年では理科・社会科を廃止し生活科が導入された。高等学校では社会科を地理歴史科と公民科に再編するとともに、家庭科を男女必修とした。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育 | 道徳 特別活動(学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事) |
|
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭 | 道徳 特別活動(学級活動、生徒会活動、クラブ活動、学校行事) |
|
選択教科 | 外国語、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、その他特に必要な教科 | |||
高等学校 | 普通教科に関する教科 | 国語 | 国語I、国語II、国語表現、現代文、現代語、古典I、古典II、古典講読 | 特別活動(ホームルーム活動、生徒会活動、クラブ活動、学校行事) |
地理歴史 | 世界史A、世界史B、日本史A、日本史B、地理A、地理B | |||
公民 | 現代社会、倫理、政治・経済 | |||
数学 | 数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C | |||
理科 | 総合理科、物理IA、物理IB、物理II、化学IA、化学IB、化学II、生物IA、生物IB、生物II、地学IA、地学IB、地学II | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽I、音楽II、音楽III、美術I、美術II、美術III、工芸I、工芸II、工芸III、書道I、書道II、書道III | |||
外国語 | 英語I、英語II、オーラルコミュニケーションA、オーラルコミュニケーションB、オーラルコミュニケーションC、リーディング、ライティング、ドイツ語、フランス語 | |||
家庭 | 家庭一般、生活技術、生活一般 | |||
その他特に必要な教科 | ||||
専門教育に関する教科 | 家庭、農業、工業、商業、水産、看護、理数、体育、音楽、美術、英語、その他特に必要な教科 (※この区分の所属科目については、省略した。) |
- 中学校の選択教科の外国語は、英語、ドイツ語、フランス語、その他の外国語から1カ国語を第1学年から履修することを原則とする。
- 高等学校の国語I、数学I、体育、保健は必修。
- 高等学校の地理歴史科は、世界史AまたはBの1科目、日本史AまたはB、地理AまたはBから1科目を必ず履修。
- 高等学校の公民科は、現代社会の1科目または倫理、政治・経済の2科目を必ず履修。
- 高等学校の理科は、総合理科、物理IAまたはIB、化学IAまたはIB、生物IAまたはIB、地学IAまたはIBの5区分から2区分にわたって2科目を必ず履修。
- 高等学校の芸術科は、音楽I、美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の家庭科は、家庭一般、生活技術、生活一般から1科目を必ず履修。
[編集] 2002年(平成14年)~
戦後7度目の改訂といわれる、現行の学習指導要領。教育内容の厳選、「総合的な学習の時間」の新設により、基礎・基本を確実に身に付けさせ、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成を実現。小学校6年間の総授業時数は5367コマで、国・算・理・社・生活の合計授業時数は3148コマ。中学校3年間の総授業時数は2940コマ。
小中学校の学習指導要領は1998年(平成10年)に告示され、2002年(平成14年)度から実施された。高等学校の学習指導要領は1999年(平成11年)に告示され、2003年(平成15年)度の第1学年から学年進行で実施された。
学校完全週5日制が実施された。中学校では英語が必修となった(実質的には大部分の学校で以前も必修扱いであった)。また、小学校中学年から高等学校において総合的な学習の時間が、高等学校において情報科が創設された。その一方で、教科の学習内容が大幅に削減され、さらに中学校・高等学校においてはクラブ活動(部活動)に関する規定が削除された。
学習内容の削減について中学受験塾の日能研は大々的に「円周率が「3」と教えられる」や(実際には円周率を「3」と教えているわけではない。詳細は円周率は3を参照。)「学習内容が3割減らされる」などと広告を打ち、多くの論者が論争に参加したため、「2002年問題」として大きく騒がれた。こういった危機感もあり、そのうえ私立学校との格差は一層広がったため、首都圏などでは中学受験熱に拍車が掛かった。非難の声が高まったため、2003年12月26日、文部科学省は学習指導要領は最低水準との見方を示し、一部改正した。
学校種 | 教科区分 | 各教科、各科目 | 教科以外の教育活動 | |
---|---|---|---|---|
小学校 | 教科 | 国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育 | 道徳 特別活動(学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事) 総合的な学習の時間 |
|
中学校 | 必修教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語 | 道徳 特別活動(学級活動、生徒会活動、学校行事) 総合的な学習の時間 |
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選択教科 | 国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語、その他特に必要な教科 | |||
高等学校 | 普通教科に関する教科 | 国語 | 国語表現I、国語表現II、国語総合、現代文、古典、古典講読 | 特別活動(ホームルーム活動、生徒会活動、学校行事) 総合的な学習の時間 |
地理歴史 | 世界史A、世界史B、日本史A、日本史B、地理A、地理B | |||
公民 | 現代社会、倫理、政治・経済 | |||
数学 | 数学基礎、数学I、数学II、数学III、数学A、数学B、数学C | |||
理科 | 理科基礎、理科総合A、理科総合B、物理I、物理II、化学I、化学II、生物I、生物II、地学I、地学II | |||
保健体育 | 体育、保健 | |||
芸術 | 音楽I、音楽II、音楽III、美術I、美術II、美術III、工芸I、工芸II、工芸III、書道I、書道II、書道III | |||
外国語 | オーラルコミュニケーションI、オーラルコミュニケーションII、英語I、英語II、リーディング、ライティング | |||
家庭 | 家庭基礎、家庭総合、生活技術 | |||
情報 | 情報A、情報B、情報C | |||
学校設定教科 | ||||
専門教育に関する教科 | 農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉、理数、体育、音楽、美術、英語、学校設定教科 (※この区分の所属科目については、省略した。) |
- 高等学校の国語科は、国語表現I、国語総合から1科目を必ず履修。
- 高等学校の地理歴史科は、世界史AまたはBの1科目、日本史AまたはB、地理AまたはBから1科目を必ず履修。
- 高等学校の公民科は、現代社会の1科目または倫理、政治・経済の2科目を必ず履修。
- 高等学校の数学科は、数学基礎、数学Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の理科は、理科基礎、理科総合A、理科総合B、物理I、化学I、生物I、地学Iから2科目を必ず履修(理科基礎、理科総合A、理科総合Bのいずれかを1科目以上含める)。
- 高等学校の芸術科は、音楽I、美術I、工芸I、書道Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の外国語科で英語を履修する場合は、オーラルコミュニケーションI、英語Iから1科目を必ず履修。
- 高等学校の体育、保健は必修。
- 高等学校の家庭科は、家庭基礎、家庭総合、生活技術から1科目を必ず履修。
- 高等学校の情報科は、情報A、情報B、情報Cから1科目を必ず履修。
[編集] 2002年(平成14年)~の学習指導要領への批判と次期指導要領への経緯
[編集] ゆとり教育見直しと「学習指導要領改定」
現行の学習指導要領は、学力低下批判を受けて2003年12月26日に一部改正され、指導要領の位置付けを「最低基準」へと変更し、指導要領の範囲を超える発展的内容を教えることを可能にした。しかし2005年2月、中山成彬文部科学大臣(当時)が中央教育審議会(文部科学相の諮問機関、「中教審」)に全面的な見直しを要請するなどしたことで「学習指導要領改訂」の流れが加速した。
そして2007年10月30日、中教審が「審議のまとめ」(中間報告)を発表した。今回の報告で、学力低下の指摘に対し「ゆとり教育」の反省点に初めて触れ、「基礎・基本の習得」の強調がなされた。「総合的な学習の時間」(総合学習)や中学の選択授業が削減される一方、国語、算数・数学、英語など主要教科の授業時間は「小学校で約10%、中学で約12%増やす」とした。
「審議のまとめ」では、ゆとり教育を進めてきた現行の指導要領について異例の反省を記載。以下の5点を挙げた。
- 「生きる力」について文部科学省と学校関係者、保護者、社会の間に十分な共通理解がなかった。
- 子供の自主性を尊重するあまり、指導を躊躇する教師が増えた。
- 総合学習は、各学校で十分理解されていなかった。
- 必修教科の授業数が減少した。
- 家庭や地域の教育力の低下への対応が十分でなかった。
ゆとり教育で昭和50年代の改定以来、減り続けてきた授業時間はおよそ30年ぶりに増加。小学校の授業時数は6年間で現行より278時間増えて5645時間、中学校は3年間で105時間増え3045時間となる。
週当たりの時間割にすると、総合学習を現行の週3~4時間から1~2時間削減。中学校に開設されている選択の授業をほとんど廃止し、総合学習と合わせて週2時間とする。その分、国語、算数・数学、英語などの主要教科や体育を増やす。小学1年生の場合、現在は週3日だった5時間授業が毎日になり、国語、算数が1時間ずつ増えるほか、小学2年生では授業時間との兼ね合いから、これまでなかった6時間授業の日が週1日は登場することが確実である。また国際化に対応するため、小学5、6年生に初めて「外国語(英語)活動」の時間を創設し、小学校における週1時間の英語教育が本格的に始まる。中学でも特に理科、英語を約30%増しとするなどして主要5教科と体育が増える。特に英語は全学年で週1時間ずつ増えて週4時間となり、英語の合計授業時間数が初めて全教科中最多となる。
高校では大枠に変更はなく、2006年10月に未履修問題が発覚した世界史の必修も残った。 全体の教育内容では、言語能力育成、理数教育、伝統・文化教育、道徳教育、体験活動の充実を求めている。英語では、「読み・書き・聴く・話す」の4能力の包括的向上を目指し、現行の「英語I・II」、「オーラル・コミュニケーション」、「リーディング」、「ライティング」を「コミュニケーション英語I・II・III」と改名する。
道徳については、2002年度から配られた補助教材「心のノート」の活用促進などのみで、教材の充実を求めているが、その具体策は明確になっていない。 安倍晋三前首相が設置した教育再生会議などで提言された「徳育の教科化」については両論並記し、「引き続き検討する必要がある」とするにとどめ、教科格上げは見送った。
その他にも、学校週5日制の維持、伝統文化に関する教育や道徳教育を重視、理数教育の重視、教員定数改善など教育条件の整備などを骨子の中でまとめた。
しかし、ゆとり教育を見直すものの、子供たちの学習量は減り続け、昭和50年代のピーク時からは半減しているため、教師らからは「中途半端」、「ゆとり教育がようやく定着しつつある中で大幅な方針転換とは、朝令暮改ではないか」との批判も出ている。文部科学省の幹部は「授業時間の1割増で前々回の指導要領(1989年改定)のレベルに戻ったが、内容はそこまでは戻さず、その分を知識の定着などに充てたい」という。また、関係者からはさらなる学習内容の復活を求める声も強い。
中教審は11月7日に「審議のまとめ」を決定。2008年2月15日には小中学校の学習指導要領案を公表した。要領案で見直される内容は主に以下の点である。
- ゆとり教育の象徴的存在だった「総合的な学習の時間」の総授業時間を最大150時間削減し、算数を142時間、数学を70時間、理科は小学校55時間、中学校95時間増やす。
- 小学校算数の円周率について現行の「3.14を用いるが、目的に応じて3を用いてできる」という規定を「3.14を用いる」に変更。「台形の面積の求め方」(小学校算数)や「イオン」(中学校理科)を復活。
- 小学校5、6年生を対象に週1回英語の授業を必修化する。中学で学ぶ英単語数も900語から1200語程度に増やす。
- 道徳は教育再生会議が求めていた教科化を見送る一方、小中ともに「道徳教育推進教師」を各学校に置き、教育活動全体で指導するよう強調。
- 次年度、道徳充実のため乳幼児期や家庭を含めた調査研究を行う有識者会議を設置する。
- 2006年12月の教育基本法改正に伴い、古文・漢文の音読(小学校国語)、そろばん(同算数)などの充実を明記。
- 国語以外の教科などでも、自身の考えを表現することなど言語力を育成する活動を新設。
文部科学省は公表日から1ヶ月間のパブリックコメント(意見募集)を行い、同年3月末をめどに改定学習指導要領を告示、高校の指導要領案は同年秋に公表する予定。
小・中学校では2009年度から算数・数学、理科、社会の一部、総合などを前倒しで実施し、小学校では2011年度、中学校では2012年度、高校では2013年度から完全実施する予定。
[編集] 学習指導要領をめぐる議論
精神科医の和田秀樹、大学教授の西村和雄、評論家の茂木弘道らが新学習指導要領に反対の立場を、元文部官僚の寺脇研らが賛成の立場を取っている。作家の三浦朱門は「できん者はできんままで結構。非才は実直な精神だけ養っておくべし」と発言し、妻の曾野綾子の「二次方程式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ」という主張を受けてゆとり教育には肯定的な立場を取った。公立学校と私立学校との差が大きくなったり、学習塾や予備校に通わないと高い学力が身に着かなくなる事に対して、ジャーナリストの斎藤貴男らが日本社会の階層化を推し進めるものだと批判している。
また、未履修問題や、昨今のいじめ問題なども「学習指導要領改定」の問題とからんで議論されている。
入学式や卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱をめぐる問題は国旗及び国歌に関する法律を参照。
[編集] 関連項目
- 公立学校 - 国立学校 - 私立学校
- ゆとり教育 - 総合的な学習の時間 - 円周率は3
- 学級崩壊
- 寺脇研 - 和田秀樹 - 苅谷剛彦
- 文部科学省
- 小学校受験 - 中学入試 - 高校受験 - 大学受験 - 絶対評価 - 相対評価
- 理科離れ
[編集] 外部リンク
- 学習指導要領/評価規準 - NICER 教育情報ナショナルセンター
- 過去の学習指導要領 - NICER 教育情報ナショナルセンター
- 新学習指導要領 - 文部科学省
- あなたはどの指導要領?
- 学習指導要領の変遷
- 学習指導要領の基準を考える問題