南総里見八犬伝
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南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん、南總里見八犬傳)は、江戸時代後期に曲亭馬琴(滝沢馬琴)によって著された読本。略称は八犬伝。文化11年(1814年)に刊行が開始され、28年をかけて天保13年(1842年)に完結した、全98巻、106冊の大作である。上田秋成の『雨月物語』などと並んで江戸時代の戯作文芸の代表作であり、日本の長編伝奇小説の古典の一つである。
目次 |
[編集] 概要
『南総里見八犬伝』は、室町時代後期を舞台に、安房国里見家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた八人の若者(八犬士)を主人公とする長編伝奇小説である。共通して「犬」の字を含む名字を持つ八犬士は、それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉(仁義八行の玉)を持ち、牡丹の形の痣を身体のどこかに持っている。関八州の各地で生まれた彼らは、それぞれに辛酸を嘗めながら、因縁に導かれて互いを知り、里見家の下に結集する。
『八犬伝』にもっとも強い影響を及ぼしているのは『水滸伝』である。たとえば『水滸伝』では百八の魔星が飛び散り、のちに豪傑英雄として各地に現われるが、『八犬伝』では八つの数珠玉が飛び散り、のちに八犬士として世に現われる、というように発端と構成が共通する。粗暴な部分もある『水滸伝』の英傑たちの物語を換骨奪胎したものが『八犬伝』であり、忠臣・孝子・貞婦のおこないは報いられ、佞臣・姦夫・毒婦のおこないは罰せられる、儒教的道徳にもとづいた勧善懲悪の物語となっている。
馬琴はこの物語の完成に、48歳から75歳に至るまでの後半生を費やした。その途中失明という困難に遭遇しながらも、息子宗伯の妻であるお路の口述筆記により最終話まで完成させることができた。『八犬伝』の当時の年間平均発行部数は500部ほどであったが、貸本により実際にはより多くの人々に読まれており、馬琴自身「吾を知る者はそれただ八犬伝か、吾を知らざる者もそれただ八犬伝か」と述べる人気作品であった。明治に入ると、坪内逍遥が『小説神髄』において、八犬士を「仁義八行の化物にて決して人間とはいひ難かり」と断じ、近代文学が乗り越えるべき旧時代の戯作文学の代表として『八犬伝』を批判しているが、このことは、当時『八犬伝』が持っていた影響力の大きさを示している。
本作は現在に至るまで大衆文学・ドラマ・漫画・アニメなど各ジャンルの創作に影響を与え、多くの翻案が生み出された。「前世の因縁に結ばれた義兄弟」「共通する聖痕・霊玉・名前の文字」「抜けば水気を放つ名刀・村雨」などのモチーフを借りた作品は枚挙にいとまない(→関連作品)。また、『八犬伝』執筆時の馬琴のエピソードも、芥川龍之介『戯作三昧』などの創作の題材となっている。
なお、里見氏は実在の大名であるが、「八犬伝で有名な里見氏」と語られることがある。『八犬伝』の持つ伝奇ロマンのイメージは安房地域をはじめとする里見家関連地の観光宣伝に資しているが、史実とフィクションが混同されることもある。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] 内容
長大な物語の内容は、南総里見家の勃興と伏姫・八房の因縁を説く発端部(伏姫物語)、関八州各地に生まれた八犬士たちの流転と集結の物語(犬士列伝)、里見家に仕えた八犬士が関東管領・滸我(古河)公方連合軍との戦争(関東大戦、対管領戦)を戦い大団円へ向かう部分に大きく分けられる。抄訳本では親兵衛の京都物語や管領戦以降が省略されることが多い。
[編集] 発端
結城合戦に敗れ安房に落ち延びた里見義実は、兵を挙げ山下定包を討って滝田城主となる。義実は定包の妻玉梓を一度助命するが、金碗八郎に諌められてその言葉を翻し、玉梓は呪詛の言葉を残して処刑された。時はくだり、里見領の飢饉に乗じて隣領の安西景連が攻めてきた。落城を目前にした義実は飼犬八房に「景連の首を取ってきたら娘の伏姫を妻に与える」と戯れを言うが、八房は景連の首を持参した。伏姫は八房に従い富山に入った。翌年、伏姫は八房の気を受けて懐妊する。伏姫はこれを恥じて腹を切り、おりしも富山に入った父義実と金碗大輔の前で胎内に犬の子がないことを証した。その傷口から流れ出た白気は姫の数珠を空中に運び、仁義八行の文字が記された八つの大玉を飛散させる。金碗大輔は僧体となって丶大(ちゅだい)を名乗り、八方に散った玉を求める旅に出るのだった。
[編集] 犬士列伝
武蔵大塚村の犬塚信乃は、父の自害により伯母夫婦の大塚家に引き取られ、その養女浜路の将来の婿とされる。しかし伯母夫婦は、信乃が父から託された鎌倉公方家の宝刀村雨丸を奪い信乃を除くことを企んでいた。大塚家の下男額蔵(犬川荘助)は信乃と同じ玉と痣を持っており、二人は密かに義兄弟の契りを結ぶ。信乃18歳の夏、伯母夫婦は村雨丸をすりかえ、信乃を滸我(古河)の公方成氏の許に旅立たせた。信乃を慕う浜路は非業の死を遂げるが、今際の際に煉馬家旧臣犬山道節と異母兄妹の対面を果たす。
滸我で信乃は間者と疑われ、芳流閣の屋根の上で犬飼現八と戦うが、ともに利根川に転落。下総行徳に流れつき、犬田小文吾の父である旅籠の主人古那屋文五兵衛に助けられた。小文吾の義弟山林房八夫妻をめぐる悲劇のあと、一同は宿に居合わせた丶大から里見家との因縁を知らされる。房八の子犬江親兵衛は丶大らに連れられ安房に向かうが、途中神隠しに遭う。一方、大塚に向かった三犬士は、主人殺しの廉で処刑されかけた荘助を救う。危地を脱し上野国に向かった四犬士は、道節による管領扇谷定正への仇討ちに遭遇する。こうして上州荒芽山に五犬士が集結するが、管領家の軍勢が迫り犬士たちは離散する。
武蔵に逃れた小文吾は妖婦船虫と出会い、石浜城主千葉家家老・馬加大記によって抑留される。小文吾が城内で出会った女田楽師旦開野(犬坂毛野)は、対牛楼で一族の仇・大記を討ち果たす。諸国を経て下野国を訪れた現八は庚申山の麓で犬村大角とめぐり合い、彼の父に化けた妖猫と対峙する。大角の妻雛衣の犠牲と玉の力により妖猫は退治され、大角も犬士の群れに加わる。甲斐国を訪れた信乃は猿石村村長の養女浜路を知る。信乃は危機に陥るが、石和の寺に犬士捜索の拠点を置いた丶大と道節により救われる。この浜路は実は里見家の姫で、幼少時に大鷲に攫われた浜路姫であった。越後小千谷にたどり着いた小文吾は、船虫に襲われたのを契機に荘助と再会。領主による処刑の危機を脱した二人は信濃で毛野と邂逅して里見家との縁を伝えるが、毛野は残る仇・籠山逸東太への復讐を誓っていた。
武蔵穂北で現八と大角、信乃と道節は邂逅し、この地を拠点とした。そのころ毛野は湯島天神で扇谷定正夫人蟹目前らの知遇を得て奸臣籠山逸東太の殺害を依頼される。これを立ち聞きした道節は毛野の仇討ちに乗じ、穂北郷士たちとともに挙兵して定正の命を狙うが、蟹目前らの自害を知って兵を退く。七犬士は、下総結城で丶大がおこなう結城合戦戦死者の法要に向かう。
そのころ、上総館山城主蟇田素藤は八百比丘尼妙椿の助力を得て里見家に反旗を翻した。富山で刺客に襲われた老侯里見義実の前に、伏姫神に育てられた犬江親兵衛があらわれる。親兵衛は素藤の乱を討ち、妙椿は退治されて本体(玉梓の怨念の宿った狸)をあらわす。親兵衛は結城に向かい、ここに八犬士は集結する。犬士たちはともに安房に赴き里見家に仕えた。
[編集] 関東大戦と大団円
里見義成は朝廷への使者として犬江親兵衛を京都に遣わすが、親兵衛は管領細河政元に気に入られて抑留される。親兵衛は京を騒がす虎を討ち、帰国の途に就く。そのころ犬士たちと彼らが仕える里見家を恨む扇谷定正は、山内顕定・足利成氏らと結び、里見討伐軍を発していた。行徳口・国府台・洲崎沖の三ヶ所で合戦が行われ、いずれも里見家の大勝利に終わった。朝廷から停戦の勅使が訪れて和議が結ばれ、里見家は占領した諸城を返還した。信乃は、捕虜となっていた成氏に村雨丸を献上し父子三代の宿願を遂げる。
八犬士は里見義成の八人の姫と結ばれ重臣となる。時は流れ、犬士たちの痣や玉の文字は消え、奇瑞も失われた。丶大は安房の四周に配する仏像の眼として数珠玉を返上させる。里見家三代当主の義通が没すると、高齢になった犬士たちは子供に家督を譲り富山に籠った。彼らは仙人となったことが示唆される。里見家もやがて道を失って戦乱に明け暮れ、十代で滅ぶことになる。
[編集] 回外剰筆
原典には、馬琴による小説仕立ての「あとがき」が置かれている。馬琴が用いた参考史料の開示、里見氏の史実(当時の軍記物にもとづく)や安房の地理の解説のほか、著者の失明の事実が明かされ、筆記者お路への慰労の言葉が書かれている。
[編集] 作中の用語
[編集] 人名
[編集] 物品
- 八つの霊玉
- 仙翁(行者の翁)から伏姫に譲られた水晶の数珠。108つの玉の内の8つの大玉で、「仁義礼智信忠孝悌」と現れていたが、八房が伏姫を恋い慕うようになってからは「如是畜生発菩提心」の8文字がひとつずつ浮かぶようになった。伏姫の自害に伴って数珠が飛散する際にそれぞれの玉の文字が「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」と変わったものである。残りの100個の小玉は繋ぎなおされて、丶大法師が数珠として常に携帯している。八犬士同士の距離が近づくと感応しあってその存在を教え、肉体的な傷や病気の治癒を早める力を持っている。
- 村雨(村雨丸)
- 鎌倉公方足利家に伝わる宝刀で、殺気をもって抜き放てば刀身から水気が立ち上る。八犬伝世界ではその特徴とともに広く知れ渡った刀である。結城落城の際、公方家の近習であった大塚匠作から一子・番作に託され、番作はその死に際して子の犬塚信乃にこの刀を滸我公方成氏に献上することを託した。
[編集] 地名
- 荒芽山(あらめやま)
- 『八犬伝』に登場する架空の山。上野国に位置する。音音の庵があり、五犬士の会同と離散の舞台となった。
- 地理的描写から荒船山に比定される。
- 五十子城(いさらごじょう)
- 『八犬伝』に登場する架空の城。扇谷定正の本城で、武蔵国荏原郡伊皿子付近に位置するとされている。犬塚信乃に攻め落とされ、関東大戦でも占領された。城の名は伏姫の母五十子(いさらご)と同音である。
- 史実の上杉定正の居城であった五十子城(埼玉県本庄市)は「いかこ(いかっこ、いかつこ、いらこ)じょう」と読み、所在地もまったく異なる。
- 国府台(こうのだい)
- 下総国府台。八犬伝では関東大戦の際に合戦が行われた。
- 史実では、里見氏と北条氏の間でおよそ前後2度にわたる国府台合戦が行われ、いずれも里見方が敗れている。国府台城跡は現在里見公園と呼ばれている。国府台に程近い真間山弘法寺にある樹齢400年の枝垂桜は、『八犬伝』に因み「伏姫桜」と称されている。
- 富山(とやま)
- 安房随一の高峰で、八犬伝世界の聖地。発端、伏姫はこの山で自害し、大団円で犬士たちはこの山に消えた。
- 実在する富山(南房総市)は「とみさん」と読む。標高349mの山で「伏姫籠窟」「犬塚」などがあり観光地となっている。また「里見八犬士終焉の地」の標柱もある。最寄の岩井駅前には伏姫と八房の銅像が建っている。
- 館山城(安房)(たてやまじょう)
- 『八犬伝』では発端で安西景連の居城として、大団円で犬江親兵衛に与えられる城として登場する。諸書でもしばしば混同されるが、蟇田素藤が居城とした「館山城」は上総国にあり、安西氏の旧城とは別である。
- 実際の館山城(館山市)には、史実の里見氏が戦国時代末に本拠を移した。現在、模擬天守は館山市立博物館分館となっており、『八犬伝』関係の展示が行われている。
- 館山城(上総)(たてやまじょう)
[編集] 事件
- 『八犬伝』冒頭に配される合戦。永享の乱で滅びた足利持氏の遺児・春王丸と安王丸を奉じた関東の諸将が、永享12年(1440年)結城城に拠って幕府に叛旗を翻した。結城方は破れ、捕らえられた春王丸と安王丸も京都に連行される途中美濃大垣で殺害された。
- 『八犬伝』では、里見季基・義実親子、犬塚匠作・番作親子、井丹三、氷垣残三が、いずれも結城方で参戦している。春王と安王の首は大塚番作によって刑場から奪取され、信濃に埋められている。八犬士結集の場になったのも、結城合戦の死者を弔う法要の場であった。
- 関東大戦(対管領戦)
- 『八犬伝』における架空の合戦。作中の文明15年(1483年)冬、関東管領(扇谷定正・山内顕定)・滸我公方(足利成氏)・三浦義同・千葉自胤の連合軍と里見家による戦争。行徳口・国府台・洲崎沖の三ヶ所を戦場とするこの戦争の総称は原典中にはないが、研究者によって「関東大戦」「対(関東)管領戦」などと名づけられている。
[編集] 概念
- 名詮自性
- 名前がそのものの本性をあらわすという意の、本来は仏教用語。主要人物の名には、物語世界においてあらかじめ定められた宿命に関わるものがあり、その名の意味が解き明かされることで因果が成就したことを証明する。たとえば、伏姫の「伏」は「人にして犬に従う」意をあらわし、親兵衛の両親である房八・沼藺(ぬい)夫婦の名は「八房・いぬ」を転倒させたものである。
- 役行者(えんのぎょうじゃ)
- 仁義八行の数珠を伏姫に授けた。
- 如是畜生発菩提心(にょぜちくしょうほつぼだいしん)
- 伏姫の数珠に「仁義礼智忠信孝悌」に代わって浮き出た文字。八房に取り憑いた玉梓の浄霊とともに文字は元に戻る。のち、蟇田素藤の乱(第二次)で、親兵衛の仁玉に撃たれた妙椿(実は妖狸)の屍骸の背にこの文字が現れた。
[編集] 出典と解釈
[編集] 八犬士の「モデル」
「里見八犬士」は、もともと『合類大節用集』(槇島昭武編、1717年刊行)に「尼子十勇士」などとともに掲載された武士の名前のリストである(犬山道節・犬塚信濃・犬田豊後・犬坂上野・犬飼源八・犬川荘助・犬江新兵衛・犬村大学)。かれらの活動時期や事跡はもとより、実在したかどうかも明らかではない。馬琴は、実在したかもしれない8人の武士の物語ではなく、彼らの名を借りた伝奇小説(稗史)をつくると言明している。
なお、史実の里見家最後の当主であった館山藩主里見忠義は、江戸幕府によって伯耆国に事実上配流され(倉吉藩)、その地で没した。このとき忠義に殉死した8人の家臣があり、戒名に共通して「賢」の字が入ることから八賢士と称される。彼らの墓は鳥取県倉吉市の大岳院にあり、また倉吉から分骨した墓が館山城の麓に建てられている。この八賢士を八犬士のモデルに求める説もある。
[編集] 漢籍と中国白話小説
『八犬伝』には博覧強記をうたわれた馬琴の漢学教養や中国白話小説への造詣が、ときに衒学的と評されるほど引用されたり、物語構成に組み込まれたりしている。
作中では折に触れて引用される漢籍は、フィクションである「稗史」の世界に奥行きを持たせている。第一回において、白竜の昇天を見た里見義実が古今の典籍を引用して竜を解説するくだり(研究者によって「龍学」と呼称される)はよく知られている。
『八犬伝』にもっとも大きな影響を与えたのは『水滸伝』である。馬琴は『高尾船字文』『傾城水滸伝』など翻案作品を執筆しただけでなく、原典の翻訳『新編水滸画伝』の刊行に関わったほか、金聖嘆による七十回本を批判して百二十回本を正統とする批評を行うなど、『水滸伝』の精読者であった。このほか、『三国志演義』が多く参照されている。とくに関東大戦の描写では顕著であり、洲崎沖海戦は赤壁の戦いを焼き直したものである。また、『封神演義』からの影響を指摘する説もある。
[編集] 軍記物・地誌
馬琴は「回外剰筆」で、南総里見家を記した「史書」(軍記物)や地誌として『里見軍記』『里見九代記』、『房総志料』などを挙げている。なお近年の歴史学研究により、初期里見氏の実際の歴史はこれら軍記物に語られてきた姿と大きく異なることが指摘されている。
越後小千谷の描写には鈴木牧之『北越雪譜』の原稿が参照されており、同地で行われる牛の角突きが作中に取り込まれている。
[編集] 馬琴の「隠微」
馬琴は、みずからの創作技法として「稗史七則」をまとめ、『八犬伝』に付言として記している。このうち「隠微」は、物語には文外に「深意」があるとするものである。「百年の後知音を俟て是を悟らしめんとす」という馬琴の言葉には、多くの読者や研究者が魅了されてきた。
『八犬伝』の物語構造や人物配置には仏教説話・日本神話、あるいは民間信仰などのモチーフが複合的に投影されていると解釈する研究者もいる。「隠された出典」と解釈されたものに以下のようなものがあげられる。
- 八字文殊曼荼羅
- 高田衛が提唱。獅子(=八房)に騎乗する文殊菩薩(=伏姫)のイメージが投影されているとする。この説によれば「八犬士のうち二人が女装して登場する理由」は、文殊菩薩に従う八大童子のうち二人が比丘(女児)であることに求められ、「犬士の痣が牡丹である理由」は牡丹の匂いが獅子(=八房)の力を抑える霊力があることで説明される。また、後半に現れる政木大全が「準犬士」として遇されるのは文殊菩薩の従者である善財童子が投影されているためとされている。
- 北斗七星
- 『八犬伝』刊行開始前に出された刊行予告から、一時馬琴には『合類大節用集』の記述を無視してまで物語を「七犬伝」とする構想があったという。高田衛は八犬士に北斗七星のイメージが投影されているとも指摘している。七星の一つミザルにある「輔星(添え星)」を8番目の星と見なすことにより齟齬をなくしているが、これによって「八犬士のうち一人が子供として登場する理由」も説明できるとする。
また、『八犬伝』に執筆当時の社会情勢への馬琴の批評を見出す解釈も存在する。親兵衛の造形には打ちこわしの際に現れたという大童子の姿が重ねられているとする見方もあり、また親兵衛の京都物語に登場する足利義政批判に大御所徳川家斉批判が、虎退治の物語には大塩平八郎の乱(1837年)の隠喩があるともされる。小谷野敦は里見の領国を日本のミニチュアととらえ、領民を組織して行われた里見家の軍事訓練の描写などに江戸時代後期の海防論との関係を見出している。
[編集] 研究
『八犬伝』は江戸時代の戯作文芸の代表作の一つであり、大衆文化への影響力も大きなものであったが、江戸読本への文学的評価の低さもあいまって、長らく文学研究の主要な対象とはされてこなかった。1980年に『八犬伝の世界』を上梓した高田衛は、副題に「伝奇ロマンの復権」を掲げている。近年は、文学分野での学術研究も進められ、江戸思想史研究の資料として利用されるようにもなっている。八犬伝の研究者には以下のような人物がいる。
[編集] 南総里見八犬伝を題材にした作品
人気作品であった『八犬伝』は、刊行中からすでに歌舞伎の演目になり、抄録や翻案作品、亜流作品を生み出した。現在も、日本で生まれたファンタジーの古典として多くの作品に参照されており、登場人物の名やモチーフの借用はしばしば行われている。また、現代と価値観の異なる時代に書かれた古典で、しかも長大であることもあり、『八犬伝』の名を冠していても原作から自由に新たな世界を創作している翻案作品が多い。また、原作を志向した作品であってもさまざまなレベルの再解釈が行われ、現代の作品として蘇生されている。以下の外部サイトでも関連作品の列挙と解説が行われているので、参照されたい。
[編集] 演劇
- 花魁莟八総(西沢一鳳作、天保7年(1836年)初演)
- 南総里見八犬伝(三世桜田治助作、嘉永5年(1852年)市村座)
- 八犬伝(スーパー歌舞伎、1993年初演、主演:市川猿之助)
- 里見八犬伝(宝塚歌劇団、2003年初演、原作:鎌田敏夫、主演:水夏希)
[編集] 映画
- 八犬伝(1913年、日活、監督:牧野省三、主演:尾上松之助)
- 里見八犬伝(1937年、今井映画、主演:尾上松之助) - 前・後編
- トンチンカン八犬伝(1953年、東宝、監督・脚本:並木鏡太郎、共同脚本:秋田実)
- 里見八犬伝(1954年、東映、監督:河野寿一、主演:東千代之介)
- 妖刀村雨丸
- 芳流閣の龍虎
- 怪猫乱舞
- 血盟八剣士
- 暁の勝鬨
- 里見八犬傳(1959年、東映、監督:内出好吉、出演:伏見扇太郎、里見浩太朗ほか)
- 里見八犬傳
- 里見八犬傳 妖怪の乱舞
- 里見八犬傳 八剣士の凱歌
- 宇宙からのメッセージ(1978年、東映)
- 里見八犬伝(1983年、東映・角川映画)
[編集] テレビドラマ
- 新八犬伝(1973年~1975年 、NHK) - 人形劇。
- 合い言葉は勇気(2000年、フジテレビ系、主演:役所広司) - 登場人物の名前。
- 深く潜れ〜八犬伝2001〜(2000年、NHK、主演:鈴木あみ) - 前世の絆がテーマ。
- 里見八犬伝(2006年、TBS系、主演:滝沢秀明)
[編集] 小説
- 貞操婦女八賢誌(為永春水→二世為永春水、1834~48年)
- 恋のやつふぢ(曲取主人(花笠文京)、1837年)-艶本
- 犬の草紙(笠亭仙果(二世柳亭種彦)、1848~1881年)
- 仮名読八犬伝(二世為永春水→曲亭琴童(お路)→仮名垣魯文、1848~1867年)
- 八犬伝後日譚(二世為永春水、1853~1857年)
- 新編八犬伝(山手樹一郎)
- 忍法八犬伝(山田風太郎、1964年)
- 新・里見八犬伝(鎌田敏夫、1982年) - 角川映画「里見八犬伝」の原作。
- 八犬伝(山田風太郎、1983年)
- - 『八犬伝』物語をたどる「虚の世界」と、執筆者馬琴を描く「実の世界」が同時進行する小説。
- - 八犬士の転生した八猫士というキャラクターが敵役に登場する。
[編集] 漫画
- アストロ球団(遠崎史朗・中島徳博)
- おきらく忍伝ハンゾー(山中あきら) - 敵として里見七犬士が登場する。
- 贋作ひでお八犬伝(吾妻ひでお)
- ドラゴンボール
- 八犬伝(碧也ぴんく)
- 魔空八犬伝(石川賢)
- ニューエイジ八犬伝 BLIND GAME(碧也ぴんく)
- 里見☆八犬伝(よしむらなつき)
- ジェノサイド 真田十勇士VS里見八犬士(中島かずき作・小林拓己画)
- 破軍星戦記(CLAMP)
- 戦国甲子園(桐山光侍)
- 八犬伝説 妖怪里見中学(犬木加奈子)
- ふしぎ遊戯(渡瀬悠宇)
- 夢幻伝説 タカマガハラ(立川恵)
- TRIGRAM8(ひよひよ)
- 八犬伝―東方八犬異聞―(あべ美幸)
[編集] アニメ
[編集] ゲーム
- 妖魔忍法帖(アーケード:日本物産、1987年) - 角川映画版がもととされている。
- 里見八犬伝(ファミリーコンピュータ:SNK、1989年)
- 新・里見八犬伝(ファミリーコンピュータ:東映動画、1989年) - 角川映画版がもととされている。
- アイドル八犬伝 - 関連するのはタイトルだけである。
- 魔界八犬伝SHADA(PCエンジン:データイースト、1989年) - アクションRPG。
- 魔京伝 - 主要登場人物が玉梓・伏姫・八犬士の転生。
- 信長の野望Online - 玉梓を連想させる敵NPC「梓姫」が登場。
- Twelve~戦国封神伝~ - 南総という地名と八つの霊玉、村雨が武器として登場する。
- 大神 - 八犬士は本当の犬として登場する。
- 転生八犬士封魔録 - 主要登場人物が伏姫と八犬士の生まれ変わり。
- 戦国ランス - 「里見帝国」が登場する。
[編集] 参考文献
[編集] 原作
- 小池藤五郎校訂『南総里見八犬伝』全10冊(岩波文庫、1990年)ISBN 4002002705
- - 文庫版(旧版)1937~1941年。単行書1984~1985年の文庫化。
[編集] 翻訳
- 白井喬二訳『現代語訳 南総里見八犬伝』上下(河出書房新社、2003年)ISBN 4002002705
- - 単行書は1976年出版。
- 山田野理夫訳『八犬伝』(太平出版社、1985年)全8巻 ISBN 480312101X ほか
- 丸屋おけ八訳『全訳南総里見八犬伝』(言海書房、2003年)ISBN 4901891014
[編集] 研究書
- 高田衛『完本 八犬伝の世界』(ちくま学芸文庫、2005年)ISBN 4480089403
- - 『八犬伝の世界』(中公新書、1980年)の改訂増補。
- 小谷野敦『新編 八犬伝綺想』(ちくま学芸文庫、2000年)ISBN 4480085408
- - 『八犬伝綺想』(福武書店、1990年)の改訂増補。ISBN 482883320X
[編集] 外部リンク
[編集] 原文テキスト
- 「ふみくら」(高木元) - 『南總里見八犬傳』本文テキストデータ
- ちえまの館 - 原文テキスト