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チノン - Wikipedia

チノン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

チノン株式会社は、1948年から2004年まで長野県に存在したカメラメーカー。1996年以降の本社は長野県茅野市豊平中大塩にあった。カメラの鏡枠・鏡胴の生産を手始めに8mmシネカメラ、35mmカメラなどの製造に進出し、自社ブランド「チノン」のほか、国内外の多くのカメラメーカーにOEM供給を行った。旧社名は「有限会社三信製作所」(1952年1953年)、「株式会社三信製作所」(1953年~1962年)、「三信光学工業株式会社」(1962年~1973年)。近赤外線方式オートフォーカスカメラを国内で初めて開発するなどしたが、1990年代に多角経営化に失敗し債務超過に陥った。その後コダック傘下でデジタルカメラ開発を手がけ、2004年にコダック子会社のコダックジャパン・デジタルプロダクトディベロップメント株式会社に事実上吸収合併された。

目次

[編集] 概要

チノンXL555マクロ(1976年)。サウンド8mm全盛期のシネカメラ
チノンXL555マクロ(1976年)。サウンド8mm全盛期のシネカメラ
チノンCE-3(1977年)。海外向け専用M42マウント一眼レフCEシリーズ“メモトロン”の最終機種で写真は西独Revue社へのOEM供給製品
チノンCE-3(1977年)。海外向け専用M42マウント一眼レフCEシリーズ“メモトロン”の最終機種で写真は西独Revue社へのOEM供給製品
チノンCP-9(1988年)。チノンの最後で唯一となったレンズ交換式AF一眼レフ
チノンCP-9(1988年)。チノンの最後で唯一となったレンズ交換式AF一眼レフ

長野県諏訪郡宮川村(現・茅野市宮川)出身の茅野弘が1948年9月、仲間の守屋精治、木村正浩と共に間借りした宮川村の寒天工場に中古の旋盤を置いて三信製作所を創業。当初「オリンパスシックス」や6x6判「マミヤシックス」などの鏡枠やレンズ鏡胴の生産を手がけた。1952年1月に法人(有限会社)化し、翌1953年5月に株式会社化。1954年に本社を長野県諏訪市高島1丁目に移転した。

当初は受注の確保に苦しみ、茅野弘社長が自身の土地を売却して従業員の給料に充てるなど厳しい経営が続いたが、独自技術によるズームレンズ開発を手がけて次第に評価を高め、1960年には自社ブランド「チノン」による8mmシネカメラ用ズームレンズの製造販売を開始した。1962年には三信光学工業株式会社に改称して株式を公開し、「チノン・ズーム8」を皮切りにチノンブランドで8mmシネカメラを次々と発表した。1973年に商標と同じ「チノン株式会社」に改称し、東京証券取引所第二部に上場。1974年には同時録音が可能なサウンド8mmカメラ「チノンダイレクトサウンド」3機種を発売し、サウンド8mmカメラの分野では国内トップメーカーの座を占めた。

一方スチールカメラでは、1972年にM42マウントの35mm一眼レフカメラ「チノンM-1」の生産を開始。M42マウントやKマウントの35mm一眼レフおよびコンパクトカメラのOEM生産を中心に手がけ、輸出向けを中心にチノンブランドのカメラ製造販売にも力を入れた。同じ諏訪地方のカメラメーカーヤシカや同社子会社の富岡光学とは部品や製品の融通で相互協力関係にあり、海外向けを中心に互いのブランド名を冠した製品が多数知られている。

1981年にサーボモーターによる無段階AFコンパクトカメラ「チノンインフラフォーカス」を発売し、1986年には茅野市豊平中大塩に茅野工場を新設。1988年には近赤外線光使用サーボ式AFを国内で初めて開発し、この技術を導入したAF一眼レフ「チノンGENESIS」を発表して注目を集めた。また黎明期からデジタルカメラの研究開発にも取り組んだ。

[編集] 経営多角化の失敗とコダック傘下入り

ビデオの普及で長年販売の主軸だった8mmシネカメラ分野が衰退したほか、スチールカメラ分野でも後発組が響いて国内市場の販路確保が難しい状況が続いたため、1980年代から積極的に経営の多角化に乗り出した。ビデオカメラ用レンズの製造のほか、折からのコンピュータ周辺機器市場の拡大に合わせてフロッピーディスクドライブ 、CD-ROMドライブ、ファクシミリプリンターなどを生産し、総合電子機器メーカーへの脱皮を図った。しかしコンピューター周辺機器については自前の販路を持たないことからOEM生産に徹さざるを得ず、低収益体質が続いた。

1991年3月期決算では売上高が過去最高の554億円に達しながらも財テク失敗で無配になるなど波乱含みの経営が続いた上、バブル崩壊による景気低迷が追い打ちをかけて1992年に国内のカメラ製造事業を取りやめた。1993年からはチノンブランドおよびコダックOEMのコンパクトデジタルカメラの生産を開始。しかし同年6月に150人の希望退職を募集して茅野社長は退任し、1994年3月には電子機器を製造していた伊那工場と子会社チノン電子を閉鎖した。1996年3月期決算では累積損失が84億円に達して初めて債務超過となり、上場廃止の危機に陥った。

チノンはただちに赤字が続いていたコンピューター周辺機器事業の完全撤退と「チノンアメリカ」など海外子会社4法人の解散に踏み切って同年下期を黒字に回復させるとともに、1985年から資本参加し筆頭株主だった米イーストマン・コダック社の支援を仰ぐ形で経営再建する方針を固めた。しかしコダック側は、全従業員の3割にとどまるデジタルカメラの完成品部門に限り支援する考えを示したため、チノン側はコダックが支援しない部品製造部門について分社独立させ、関係従業員の雇用継続を図った上で支援を受けることを決めた。

1997年4月に第三者割当増資でコダックグループの資本比率を50.1%としてグループ傘下に入ったあと、同年9月に部品製造部門と諏訪第一工場・諏訪第二工場(諏訪市中洲)や辰野工場(上伊那郡辰野町伊那富)などの施設を新設の部品製造専門会社「チノンテック株式会社」に譲渡した。分社にあたりコダック側は、部品製造部門のうち、レンズ製造・加工分野に限ってチノン本体に残すよう要求したが、チノン側は新会社の経営安定化には欠かせないとして交渉し、新会社のコダック側への協力を確約する形で分社独立を果たした。

チノンはその後、コダックの日本におけるデジタルカメラ開発製造拠点として、Kodak DC290 ZoomやKodak EasyShare Systemなどを開発。2002年にはデジカメ累計生産台数が500万台を突破したが、一方で早期希望退職の募集を行うなど、2000年以降競争が激化したデジカメ市場での生き残りを図った。

2004年にはコダックグループのデジカメ事業再編の一環として、産業活力再生特別措置法による国の事業再構築計画認定に基づく株式の公開買い付けに応じる形で、コダック子会社のコダックジャパン・デジタルプロダクトディベロップメント株式会社の100%子会社となり、同年6月に同社と合併。コダック株式会社の横浜研究・開発センター(横浜市都筑区、現フレクトロニクス・デジタル・デザイン横浜事業所)を譲り受けた上で、翌7月に社名を「株式会社コダック・デジタル・プロダクト・センター」に改称した。

[編集] フレクストロニクスへの売却

デジカメ市場の低価格化が進み、収益性の悪化に歯止めがかからないことから、米イーストマン・コダック社は2006年8月、コダック・デジタル・プロダクト・センターを含むコダックグループの一般向けデジカメ製造事業を、電子機器受託製造サービス大手のシンガポール企業、フレクストロニクス・インターナショナル社に売却。現在は「株式会社フレクストロニクス・デジタル・デザイン」の本社および茅野事業所として、デジカメ製品の研究開発および生産支援事業を手がけている。

チノンテックは、現在もフレクストロニクス・デジタル・デザインへのデジタルカメラ部品供給を行っている。またこれまで培ったカメラレンズや機体製造の技術を生かし、光学機器、医用機器、レンズ、金型などの各種製造事業を展開。2007年12月には光学部品事業の強化を目的に日立マクセル株式会社との業務・資本提携を行うことを発表した。

[編集] 沿革

  • 1948年 茅野弘が守屋精治、木村正浩と共に、長野県諏訪郡宮川村の寒天工場を間借りして三信製作所を創業。
  • 1952年 「リコーフレックス」のヘリコイド枠の生産を開始。「有限会社三信製作所」に法人化。
  • 1953年 「株式会社三信製作所」に改組。
  • 1954年 本社を長野県諏訪市高島1丁目に移転。東京都新宿区に東京営業所開設。
  • 1956年 8mmシネレンズの生産を開始。
  • 1957年 独自のヘリコイド・鏡胴技術を応用したズームレンズを開発。
  • 1959年 「オリンパスペン」の生産開始。
  • 1960年 8mmシネ用「チノン・ズームレンズ」を独自ブランドで生産開始。
  • 1962年 「三信光学工業株式会社」に改称、東京店頭銘柄として株式を公開。自社ブランドのレギュラー8mmカメラ「チノン・ズーム8(SD-7)」の生産を開始。
  • 1965年 レギュラー8mmカメラ「チノンパワーマスター(SD-802)」の生産開始。
  • 1966年 スーパー8mmカメラ「チノンダート(SD-1302)」生産開始。
  • 1967年 スーパー8mmカメラ「チノン400、600、800(SD-19)」の生産開始。
  • 1969年 スーパー8mmカメラ「チノンダート70(SD-21)」生産開始
  • 1970年 スーパー8mmカメラ「チノン470(SD-1903)」製造開始、スーパー8mmカメラ「チノン1070(SD-24)」生産開始。
  • 1971年 「チノンムービーサウンドレコーダー」の生産開始。
  • 1972年 M42マウント35mm一眼レフカメラ「チノンM-1」生産開始、スーパー8mmカメラ「チノン32、33」生産開始。
  • 1973年 社名を「チノン株式会社」に改称。東京証券取引所第二部に上場。東京営業所を東京支店に改組。35mm一眼レフカメラ「チノンCEメモトロン」生産開始。
  • 1974年 110型カメラ「チノンミニ55」生産開始、サウンド8mmカメラ「チノン805S、605S、255XLダイレクトサウンド」の生産開始、ダイレクトサウンド8mmカメラ、プロジェクターの国内販売開始。
  • 1975年 35mm一眼レフカメラ「チノンCE-IIメモトロン」生産開始、サウンド8mmカメラ「チノン1200SM」製造開始、サウンド8mmカメラ「チノン256SXL、506SMXL、606SM、806SMニューダイレクトサウンド」製造開始。
  • 1976年 サウンド8mmカメラ「チノン100SXL」製造開始
  • 1977年 35mmコンパクトカメラ「チノン35EE-II」製造開始、サウンド8mmプロジェクター「サウンド9500」製造開始、35mm一眼レフカメラ「チノンCM-III」生産開始、サウンド8mmカメラ「チノン40SMXL、60SMXL」(愛称「音八くん」)生産開始。
  • 1979年 ビデオカメラ用レンズユニットの生産を開始、ビデオカメラに進出。
  • 1982年 プリンターの生産を開始。
  • 1983年 フロッピーディスクドライブの生産を開始。
  • 1984年 8mmシネカメラ・プロジェクターの生産を中止。アメリカ販売子会社の「チノンアメリカ」を設立。日本電気ホームエレクトロニクスとの共同出資でN&Cソフトウェア株式会社を設立。
  • 1985年 イーストマン・コダック社への35mmカメラOEM供給開始。
  • 1986年 長野県茅野市豊平中大塩に茅野工場開設。
  • 1988年 近赤外線光使用サーボ式AFを採用したブリッジタイプの35mm一眼レフ「チノンGENESIS」を発売。
  • 1989年 長野県茅野市豊平中大塩に茅野第二工場開設。
  • 1992年 カメラ国内生産から全面撤退し台湾子会社に移管。
  • 1993年 デジタルカメラの生産開始。
  • 1994年 伊那工場および子会社チノン電子を閉鎖。フロッピーディスクドライブの生産中止。東京支店を閉鎖。
  • 1996年 チノンブランド最終機種となった名刺サイズデジカメ「チノンES-1000」発売(OEMで同型のKodak DC-20と平行生産)。累積損失84億円で債務超過に陥り、本社を茅野工場内に移転。
  • 1997年 コダックグループ傘下入り。デジカメ完成品部門を除く部品製造部門全般をチノンテック株式会社に譲渡。
  • 1999年 チノン開発の230万画素デジカメ「Kodak DC290 Zoom」発売。
  • 2001年 チノン開発のデジカメデータ転送システム「Kodak EasyShare System」およびEasyShare対応コンパクトデジカメ「Kodak DX3600 Zoom」「Kodak DX3900 Zoom」発売。
  • 2002年 チノンのデジカメ累計生産台数が500万台を突破。
  • 2004年 公開買い付けでチノンの全株式を取得したコダックジャパン・デジタルプロダクトディベロップメント株式会社と合併し「株式会社コダック・デジタル・プロダクト・センター」に改称。
  • 2006年 コダックが株式会社コダック・デジタル・プロダクト・センターをフレクストロニクス・インターナショナル社(シンガポール)に売却。「株式会社フレクストロニクス・デジタル・デザイン」に改称。

[編集] 参考文献

  • 「敗軍の将、兵を語る-人物・石城祐吉氏」(『日経ビジネス』1997年11月3日号、日経BP社)
  • 「茅野弘氏死去 しのぶ諏訪の経済人ら」(『信濃毎日新聞』南信版2002年3月30日付)

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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