ストーカー
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ストーカー(英 stalker)は、特定の他者に対して執拗につきまとう行為を行なう人間を指し、その行為はストーカー行為あるいはストーキングと呼ばれ、典型的には、特定の異性に対して好意または怨恨を抱いてつきまとい等の行為を繰り返す者のことである。日本では2000年に施行された「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(いわゆるストーカー規制法)により、ストーカー行為は犯罪と定められている。同法施行以前にも、極めて悪質なつきまとい行為に関しては脅迫罪が適用されることがあったが極めてまれであった。
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概要
統計によれば、動機は「好意の感情」によるものがもっとも多く、全体のおよそ五割以上で、「好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情」が三割から四割を占める。
動機不明を除くと「恋愛感情などの好意感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情」がおよそ九割を占めている。被害者は若い女性が多く、行為者は老若を問わず男性が多い。しかしながら、あまり感情をコントロールできない女性もこのような行為をすることもある。ちなみに、判明したケースのみであるが、ストーカー行為をした女性は(男性·性別不明を含めた)全体における一割程度[要出典]である。(しかし、女性のストーカーの方が多いとする資料もあり、男性が女性を拒否する機会が少ないため顕在化しないのではないか、という説もある)
また、被害者と面識のないものによる行為は全体の一割弱で、大部分は面識あるものによる場合が多いものの、都市部、特に東京や大阪などの大都市部では、面識のないものによる割合が高い。都市部では、いわばゲーム感覚で、面識のないものに対するストーキングを行なうケースも見られる。
また中には実際には事実がないのに精神疾患により「自分は(国家などからの)ストーカー被害を受けている」と主張するケースも近年多く見られる。 ストーカー行為を行う側の年齢が10代から60代まで年代を問わず幅広く分布し、依存症との共通性がみられるところから、依存症の一種(愛情依存症、恋愛依存症)と見る立場もある。 以前から同様の行為は存在したが、「ストーカー」という呼称が定着したのは、日本では1990年代に入ってからである。それまではその他の不審者と同じく変質者、あるいは変態と呼ばれていた。 ただし日本ではしばらくの間、ストーキングとは好みでない男性からの女性へのアプローチと誤用され、ある程度その誤解が定着したために、ストーキングをした覚えのない男性がストーカー被害を出される、女性の男性に対するストーキングを当局が取り上げない、女性が意図的に男性を攻撃して遠ざけるために故意に証拠をでっちあげストーカーと風評を立てることがある、などの問題が起こっているとの指摘もある。
近年のインターネットの発達により、全く面識のないものによるインターネットを接点にした付きまとい行為の割合が増えていると見られる。検索エンジンを利用した個人情報収集が容易に行なえるようになったため、メールアドレスやハンドルネームから本名を割り出し、現実の世界でもストーカー行為が行なわれるようになった事例も発生している。
ストーキングの様々なタイプ
行動による分類
ストーキングで一般的なのは男が女を付け狙い、場合によっては暴行・傷害を加えるといういわゆる典型的ストーキングであるが、女性から男性(アイドル、スポーツ選手)へのストーキングも増加傾向にある。
主な例
- ある人物が異性を付け狙い、性的欲求を晴らそうとする追跡型ストーキング
- 職場や学校で執拗に付きまとう、行動を監視するなどの行為であり、日本で一般に考えられているストーキングに当たる。しかし、これは通常の恋愛に至るアプローチと区別がしにくく、本人側が好意をもつ相手に対して行動しただけであると認識している一方、相手側がストーキング被害にあったと認識することも多い。そのために、ストーキング自体の犯罪性を誤解した者が増え、より深刻なストーキングが見過ごされる要因の一つにもなっている。
- また客観的にはストーキング行為を行っていない人間が、相手側の思いこみでストーカーの加害者として扱われる例も増えている。
- 有名人を狙うストーキング
- アイドル、俳優、女優、役者などに一方的な恋慕の感情を抱いてのストーキング。つきまとって写真を撮影したり、被害者のごみをあさったりすることもある。
- 元妻・元夫、恋人へのストーキング
- 失恋により相手にふられた腹いせと未練からのストーキング。通常の男女関係としてストーカーと認識されないことがあるが、実情は深刻なケースがあるという指摘があり、こうした行為についてもストーキング行為として取り締まり対象になることが増えている。
- 怨恨などの報復を巧妙に行ったりする怨恨型ストーキング
- 振られた恨みを何十倍にもし、スタンガンなどで相手を麻痺させ、殺人や傷害を与える手口を使う場合がある。
- 幼児を狙うストーキング
- 異常性愛から児童に対して性的欲求を満たす為にストーキング行為や在所を突き止めたりなどして、付きまとうという物。最近は児童に対する犯罪に社会的関心が高まってきており、集団登校やひとりで外遊びさせないようにするなどの措置をとっている地域も多いが、たとえ加害者が女性であってもそれが成人であれば児童の力では逆らうことが難しい。保護者同伴でない場合、児童だけのときを狙って犯行に及ぶストーカーが多い。
- 営利誘拐目的のストーキング
- 恋愛感情がらみではなく、単純に金銭目的で誘拐を企て、対象者をストーキングする例もある。狙われるのは大抵、幼児である。誘拐決行の前段階としてなされるもので、犯行の動機としては比較的分かりやすい。
- 同性愛型ストーキング
- 付き纏う一方が同性愛者あるいは両性愛者で、付き纏われる一方も同性愛者あるいは両性愛者、または異性愛者の場合。
- 略奪型ストーキング
- 主に一方的な恋愛感情や、不倫のもつれから引き起こされるストーキング行為で、この場合、ストーカーの精神は極めて情緒不安定となっていることが多く、殺傷事件にも発展しかねない危機的状況にあるストーキングといえる。
- 不倫関係のもつれから引き起こされる場合、対象者は相手のみに留まらず、その家族や妻子などにまでストーキング行為を行うこともあり、嫌がらせや無言電話などで追い詰めていくケースが多い。
- ネットストーカー
- ネット掲示板やチャットなどでインターネット内外の「揉め事」「恋愛感情」などを理由に、個人を特定してネット上で行う嫌がらせ行為。個人名・住所・メールアドレスなどを検索エンジンなどを利用して特定したり、それらをネット上で公表したりするなど、プライバシーの侵害を行い、それを積極的にサイトを作成したり掲示板に書きこむなどインターネットで広めようとすることが多い。また、ブログを荒らす、あるいは他のネットユーザを煽動するなどして閉鎖に追い込もうとすることもある。
- 他人のパソコンに細工をして嫌がらせをすることも、動機によってはネットストーカーに分類されることがある。
- 近年では不道徳な記述を日記としてブログに記載した者を「モラルに欠けている」として、そのような記述について記述者の勤務先や学校を暴き出し、匿名で連絡する者が多く(特に電話でのこの行為は電凸(電話で突撃の意)などと呼ばれている)、「うっかり書いてしまった」ことで解雇や退職させられたり退学することになることも多いうえ集団の匿名ネットストーカーには対処することが困難である。
心理による分類
福島章による分類[1]
福島章は、すべてのタイプに共通する心理は「甘え」であり、自身と他人はそれぞれ違う存在であることを認識していないところである旨述べ、下記の分類を示す。
- 精神病系 - 人間関係を結ぶことが難しいタイプ。現実には自身と関係の薄い者を相手とする。スター・ストーキング、エグゼクティブ・ストーキング、イノセント・タイプが典型例。
- パラノイド系 - 傾向は精神病系と似る。人間関係を結ぶことはできる。挫折愛タイプも在る。
- ボーダーライン系 - 人格障害。濃密な人間関係を持つ。「『孤独を避けるための気違いじみた努力』が特徴」(『ストーカーの心理学』 福島章著 P129)。
- ナルシスト系 - 人格障害。対象との関係は深い場合も多い。誇大な自己像を持ち、夢想のなかに他人を巻き込むタイプ。
- サイコパス系 - 人格障害。対人関係は強引なタイプ。暴君。凶悪・冷血・典型的な犯罪者のタイプ。
他に、下記のような分類が試みられている。[1]
- ロバート・K・レスラーによる分類
- リジェクション・センシティヴ・タイプ(拒絶への過敏な反応)
- ボーダーライン人格障害タイプ
- エロトメニア・タイプ(関係妄想)
- スキゾフィニア・タイプ(分裂病質)
- 町沢静夫による分類
- ボーダーライン型
- 妄想障害型
- 影山任佐による分類
- 誇大自信過剰型
- 未練執着型
- ファン型
- 妄想型
- 中核型
ストーカーが題材となった作品
- ストーカー 逃げきれぬ愛(主演:高岡早紀 NTV系列)
- ストーカー・誘う女
- ストーカーと呼ばないで / オオタスセリ
ストーカーにまつわる判例
- ストーカー行為規制法2条1項、2項、13条1項は、憲法13条、21条1項に違反しないとされた例(最判2003・12・11)
- 加害者とその両親へ計約8900万円の支払いを認めた例(名古屋高判2003・8・6)
- 桶川ストーカー殺人事件について国家賠償請求が認められた例(さいたま地判2003・2・26)
- ストーカー殺人の加害者に両親の監督責任を認めた例(名古屋地判2003・2・4)
- 300万円の慰謝料を認めた例(大阪地判2000・12・22)
- ストーカー行為を解雇事由に該当するとした例(東京地判2001・6・28)
脚注
- ^ a b 福島章著『ストーカーの心理学』PHP研究所、2002年(新版)、ISBN 4569555942
関連文献
- 秋岡史著『ストーカー犯罪 被害者が語る実態と対策』青木書店、2003年、ISBN 4250203174
- 荒木創造著『ストーカーの心理』講談社、2001年、ISBN 4062720590
- 岩下久美子著『人はなぜストーカーになるのか』文藝春秋、2001年、ISBN 4167660040
- 河添恵子編著『警察に頼らないストーカー対策』全日法規、2001年、ISBN 4921044198
- 小早川明子著『あなたがストーカーになる日』廣済堂出版、2001年、ISBN 4331508080
- 小早川明子著『こういう男とつきあってはいけない 危ない「ストーカー男」の見抜き方』マガジンハウス、2001年、ISBN 4838712820
- 佐伯幸子著『これで撃退!ストーカー最強対処術 被害に遭う前にするべきこと、遭ってしまってからするべきこと』有楽出版社、2002年、ISBN 4408591742
- 清水潔著『遺言 桶川ストーカー殺人事件の深層』新潮社、2000年、ISBN 4104405019
- 福島章著『ストーカーの心理学』PHP研究所、1997年、ISBN 4569555942
- メリタ・ショーム、カレン・パリッシュ著『あなたがストーカーに狙われたとき』現代書館、1997年、ISBN 476846713X
- ラヴォン・スカリアス、バーバラ・デイビス著『ストーカーと闘い続けた女 恐怖に打ち勝った勇気ある16年』扶桑社、1998年、ISBN 4594024424
- ポール・ミューレン、ミシェル・パテ著『ストーカーの心理 治療と問題の解決に向けて』サイエンス社、2003年、ISBN 4781910459
- 原著: Paul E. Mullen, Michele Pathe, Rosemary Purcell, Stalkers and Their Victims,Cambridge University Press, ISBN 0521669502
- 鳥越俊太郎とザ・スクープ取材班著『桶川女子大生ストーカー殺人事件』メディアファクトリー、2000年10月、ISBN 4840101590
- 鳥越俊太郎、小林ゆうこ著『虚誕 警察につくられた桶川ストーカー殺人事件』岩波書店、2002年、ISBN 4000225227
関連項目
外部リンク
- 警視庁 ストーカー規制法について
- ストーカー行為等の規制等に関する法律(RONの六法全書 on LINE)
- Yahoo!ニュース: ストーカー(ニュース、社説と関連サイトのリンク集など)
- All About Japan: ストーカー
- DV・ストーカーに関する判例 (GAL~gender and law~)
- GPSを車に取り付けストーカー行為(日刊スポーツ)