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1984年 (小説) - Wikipedia

1984年 (小説)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
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1984年』(Nineteen Eighty-Four, 1949年)は、イギリスの作家ジョージ・オーウェル小説

目次

[編集] 概要

トマス・モアユートピア』、スウィフトガリヴァー旅行記』、ザミャーチン『われら』、ハクスリーすばらしい新世界』などのディストピア(反ユートピア)小説の系譜を引く作品で、スターリン体制下のソ連を連想させる全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いている。出版当初から冷戦下の英米で爆発的に売れ、同じ著者の『動物農場』やケストラーの『真昼の闇黒』などとともに反全体主義思想のバイブルとなった。あらゆる形態の管理社会を痛烈に批判した本作のアクチュアリティは、コンピュータによる個人情報の管理システムが整備されつつある現代においても、その輝きを全く失ってはいない。

1998年にランダム・ハウス、モダン・ライブラリーが選んだ「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」、2002年にノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」[1]に選出されるなど、欧米での評価は高く、思想・文学・音楽など様々な分野に今なお多大な影響を与え続けている。


注意以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。


[編集] あらすじ

1950年代に発生した核戦争を経て、1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国によって分割統治されている。さらに、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返されている。作品の舞台となるオセアニアでは、思想言語結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、物資は欠乏し、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョンによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている。

ロンドンに住む主人公ウィンストン・スミスは、真理省の役人として日々歴史記録の改竄作業を行っていた。物心ついたころに見た旧体制やオセアニア成立当時の記憶は、記録が絶えず改竄されるため、存在したかどうかすら定かではない。スミスは古道具屋で買ったノートに自分の考えを書いて整理するという、禁止された行為に手を染める。ある日の仕事中、抹殺されたはずの3人の人物が載った過去の新聞記事を偶然に見つけたことで体制への疑いは確信へと変わる。「憎悪週間」の時間に遭遇した同僚の若い女性、ジューリアから手紙による告白を受け、出会いを重ねて愛し合うようになる。また、古い物の残るチャリントンという老人の店を見つけ、隠れ家としてジューリアと共に過ごした。さらにウインストンが話をしたがっていた党内局の高級官僚の1人、オブライエンと出会い、現体制に疑問を持っていることを告白した。エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をオブライエンより渡されて読み、体制の裏側を知るようになる。

ところが、こうした行為が思わぬ人物の密告から明るみに出て、ジューリアと一緒にウィンストンは思想警察に捕らえられ、オブライエンによる尋問と拷問を受けることになる。彼は「愛情省」の101号室で自分の信念を徹底的に打ち砕かれ、党の思想を受け入れ、心から党を愛しながら処刑(銃殺)されるのであった。

[編集] 登場人物

ウィンストン・スミス
39歳の男性。真理省記録局に勤務。キャサリンという妻がいるが、別居中。しばしば空想の世界に耽り、現体制の在り方に疑問を持ち、密かに日記を付けている。また、オブライエンを「自分の味方」「話が分かる人物」と思い込んだ。
ジューリア
26歳の女性。真理省創作局に勤務。青年反セックス連盟の活動員。表面的には熱心な党員を装っているが、胸中ではスミスと同じく党の方針に疑問を抱いている。ウィンストンに手紙を使って告白をし、出会いを重ねる。豊かな黒髪を持つグラマラスな女性。
オブライエン
真理省党内局に所属する高級官僚。他の党員と違い、やや異色の雰囲気を持つ。ウィンストンの夢にたびたび現れる。後にウィンストンに接近し、秘密結社『兄弟同盟』の一員であると名乗る。だがそれはウィンストンを陥れるための嘘であり、本当は党に対し絶対的に服従している。人心掌握の術に長ける。
トム・パーソンズ
ウィンストンの隣人。真理省に勤務。肥満型だが活動的。献身的でまじめな党員。幼い息子と娘がおり、二人とも父と同じく完全に洗脳されている。自身の寝言を子供に密告されて逮捕される。
パーソンズ夫人
トム・パーソンズの妻。30歳くらいだが、年よりもかなり老けて見える。親を密告する機会を虎視眈々と狙っている自分の子供達に怯えている。
サイム
ウィンストンの友人。真理省調査局に勤務。言語学者で新語法の開発スタッフの一人。饒舌で、また頭の回転も速い。その性格が仇となり、序盤で「蒸発」する(粛清された)。
チャリントン
下町で古道具屋を営む老人。63歳のやもめ暮らしで、古い時代への愛着を持つ数少ない人物の一人。ウィンストンとジューリアの密会の場所を提供する。その正体は秘密警察の隊員。年齢も60代ではない。
偉大なる兄弟(ビッグ・ブラザー)
オセアニア国の指導者。肖像では黒髭をたくわえた温厚そうな人物として描かれている。モデルはヨシフ・スターリン。度重なる歴史改竄のため、来歴どころか本当に実在するのかさえ不明。
エマニュエル・ゴールドスタイン
かつては「偉大なる兄弟」と並ぶ指導者であったが、のちに反革命活動に転じ、現在は「人民の敵」として指名手配を受けている。兄弟同盟と呼ばれる反政府地下組織を指揮しているとされる。党によれば、いかにも狡猾そうで山羊に似た顔立ちの老人。モデルはレフ・トロツキー。ゴールドスタインという名は、トロツキーの本名「ブロンシュタイン」のもじりである[2]

[編集] 用語

『1984年』の世界のおおまかな地図。ピンクはオセアニア、紫はユーラシア、黄緑はイースタシア。間の黄色い地域は紛争地域である
『1984年』の世界のおおまかな地図。ピンクはオセアニア、紫はユーラシア、黄緑はイースタシア。間の黄色い地域は紛争地域である
オセアニア(Oceania)
物語の舞台になる第三次世界大戦後の超大国。イデオロギーは「イングソック(下記参照)」。旧アメリカ合衆国をもとに、南北アメリカおよび旧イギリスアフリカ南部、オーストラリア南部(かつての英語圏を中心とする地域)を領有する。
残る超大国は、旧ソ連をもとに欧州大陸からロシアにかけて広がるユーラシア(Eurasia、イデオロギーは「ネオ=ボリシェビキズム」)、旧中国日本を中心に東アジアを領有するイースタシア(Eastasia、イデオロギーは「死の崇拝」「個の滅却」)。どの国も一党独裁体制であり、イデオロギーにもそれほど違いは無い。
これら3大国は絶えず同盟を結んだり敵対しながら戦争を続けている。表向きは、各国とも世界支配のため他の大国を滅ぼすべく戦っているが、実際は世界を分割する3大国が結託し、労働力を浪費して、富の増加による階級社会の崩壊を防ぎ、支配と権力を維持するために行っている永久戦争である。北アフリカから中東インド東南アジア、北オーストラリアにかけての一帯は、これら3大国が半永久的に争奪戦を繰り広げる紛争地域である。
エアストリップ・ワン(Airstrip One/エアストリップ一号)
この物語の舞台となるオセアニアの一区域。最大都市はロンドン。かつて英国とよばれた地域に相当し、ユーラシアに支配されたヨーロッパ大陸部とは断絶状態にある。エアストリップ(緊急用滑走路)の名のとおり、その主たる存在意義は、航空戦力でユーラシアに対峙・反撃する最前線基地であることと思われる。いわばオセアニアの不沈空母である。ロンドンには絶えずミサイルがどこからか着弾している。
偉大なる兄弟(ビッグ・ブラザー)」によって率いられる唯一の政党。「偉大なる兄弟」は国民が敬愛すべき対象であり、町中の到る所に「偉大なる兄弟があなたを見守っている」 (BIG BROTHER IS WATCHING YOU) という言葉とともに彼の写真が張られている。しかし、その正体は謎に包まれており、実在するかどうかすらも定かではない。党の最大の敵は「人民の敵」ゴールドスタインで、国民は毎日、テレスクリーンを通して彼に対する「二分間憎悪」を行い、彼に対する憎しみを駆り立てる。テレスクリーンの登場により、全国民は党の監視下に置かれ、私的生活は存在しなくなっている。
党のイデオロギーイングソック(IngSoc、Ingland Socialismつまりイングランド社会主義の略)と呼ばれる一種の社会主義であり、核戦争後の混乱の中、社会主義革命を通じて成立したようだが、誰がどのような経緯で革命を起こしたのかは、忘却や歴史の改竄により明らかではない(エマニュエル・ゴールドスタインのパンフレットによれば、そのイデオロギーの正体は「寡頭制集産主義」とでも呼ぶべきもので、「社会主義の基礎となる原理をすべて否定し、それを社会主義の名の下におこなう」ことであるらしい。もとは社会主義運動の中から発したが、現在は下層階級を味方につけた中層階級が上層階級を倒す事態を永久に防ぎ、非自由と不平等を恒久的なものにすることを目的としている)。
党には中枢の党内局(inner party)と一般党員の党外局(outer party)がある。党内局員は黒いオーバーオールを着用し、貴族制的な支配階級で、世襲でなく能力によって選ばれ、テレスクリーンを消すことができる特権すらある。党外局員は青いオーバーオールを着る中間層で、党や政府の実務の大半をこなす官僚たちである。党に関わりを持たない人々はプロレ(the proles、プロレタリア)と呼ばれ、人口の大半を占める被支配階級の労働者たちであるが、娯楽ギャンブルスポーツセックス、ほか「プロレフィード(Prolefeed)」と呼ばれる人畜無害な小説映画音楽など)はふんだんに提供されている。
  • 党の3つのスローガンが、至る所に表示されている。
    • 戦争は平和である(WAR IS PEACE)
    • 自由は屈従である(FREEDOM IS SLAVERY)
    • 無知は力である(IGNORANCE IS STRENGTH)
政府
省庁の入った4つのピラミッド状の建築物がロンドン市内に聳え立っており、3つのスローガンが側面に書かれている。
平和省(The Ministry of Peace、ニュースピークではMinipax)
軍を統括する。オセアニアの平和のために半永久的に戦争を継続している。
豊富省(The Ministry of Plenty、ニュースピークではMiniplenty)
絶えず欠乏状態にある食料や物資の、配給統制を行う。
真理省(The Ministry of Truth、ニュースピークではMinitrue)
オセアニアのプロパガンダに携わる。政治的文書、党組織、テレスクリーンを管理する。また、新聞などを発行しプロレフィードを供給するほか、歴史記録や新聞を、党の最新の発表に基づき改竄し、常に党の言うことが正しい状態を作り出す。
愛情省(The Ministry of Love、ニュースピークではMiniluv)
個人の管理、観察、逮捕、反体制分子(本物か推定かにかかわらず)に対する尋問と拷問を行う。連れてきた者を、最終的に党を愛させるようにし、その後処刑する。
真理・愛情の両省で「思想・良心の自由」に対する統制を実施。
ニュースピーク (Newspeak、新語法)
思考の単純化と思想犯罪の予防を目的として、英語を簡素化して成立した新語法。全ての言葉は意図的に政治的・思想的な意味を持たないようにされ、この言語が普及した暁には反政府的な思想を書き表す方法が存在しなくなる。
ハヤカワ文庫版には付録として作者によるニュースピークの詳細な解説が載っている。これによるとニュースピークにはA群B群C群に分けられた語彙が存在し、A群には主に日常生活に必要な名詞や動詞が含まれ、その意味は単純なものに限定され文学や政治談議には使用しにくいもののみがイングソックによる廃棄をまぬがれる。B群には政治に使用される用語が含まれ少なからずイデオロギーを含んだ合成語が含まれる(例:goodthink(正統性)、crimethink(思想犯罪))。C群にはほかの語群の不足を補うための科学技術に関する専門用語が含まれる。
またニュースピークは現代英語を必要最小限にまで簡略化することを目指しており、現在では別々の言葉が似たような意味を持つという理由で統合され名詞や動詞の区別も接尾語により変化する。たとえばthought(思想[名詞])はニュースピークの文法ではthink(考える[動詞])で代用でき、speed(速さ[名詞])に形容詞をあらわす-fulや副詞をあらわす-wiseを加えることでそれぞれの品詞に自在に変化する。badをあらわすにはgoodに否定の接頭語un-をつけたungoodでこと足り、強意表現はplus-,doubleplus-といった接頭語をつけることで表現される。また、Minipaxなどのように略語を極端に採用しているが、これによって本来の語源を考えることなくまったく自動的に単語を話すことができる(これにはかつてソ連が「コミンテルン」などのような略語を多用したことの影響がある)。
新語法(ニュースピーク)辞典が改定されるたびに語彙は減るとされている。それにあわせシェークスピアなどの過去の文学作品も書き改められる作業が進められている。改訂の過程で、全ての作品は政府によって都合よく書き換えられ、原形を失う。freeの意味も「free from ~」の意味しか残らず「政治的自由」「個人的自由」の意味は消滅しているなど変化しており、原文の意味を保って自由や平等を謳う政治宣言などをニュースピークに翻訳することは不可能になる。
なお、ニュースピークという言葉自体が既にニュースピークである。本来、speakという単語に名詞としての用法は無い。
ダブルシンク(doublethink、二重思考)
1人の人間が矛盾した2つの信念を同時に持ち、同時に受け入れることができるという、オセアニア国民に要求される思考能力。現実認識を自己規制により操作された状態でもある。
過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する
政府が過去を改竄し続けているのは、党員が過去と現在を比べることを防ぐため、そして何よりも党の言うことが現実よりも正しいことを保証するためである。党員は党の主張や党の作った記録を信じなければならず、矛盾があった時は「犯罪中止」により誤謬を見抜かないようにし、万一誤謬に気づいても「二重思考」で自分の記憶や精神の方を改変し、党の言うほうが正しいということを認識しなければならない。
古代の専制者は命じた。汝、するなかれと。全体主義者は命じた。汝、すべしと。我々は命じる、汝、かくなり、と
オブライエンの言によれば、かつて専制国家は人々に対しさまざまなことを禁止していた。ソ連などは人々に理想を押し付けようとした。現在のオセアニアでは人々はニュースピークやダブルシンクを通じ認識が操作されるため、禁止や命令をされる前に、すでに党の理想どおりの考えを持ってしまっている。党の考えに反した者も、最終的には自由意思で屈服し、心から党を愛し、党に逆らったことを心から後悔しながら処刑される。
2足す2は5である」(2+2=5、Two plus two makes five)
この小説を象徴するフレーズの一つ。スミスは当初、党が精神や思考、個人の経験や客観的事実まで支配するということに嫌悪を感じて(「おしまいには党が2足す2は5だと発表すれば、自分もそれを信じざるを得なくなるのだろう」)自分のノートに「自由とは、2足す2は4だと言える自由だ。それが認められるなら、他のこともすべて認められる」と書く。後に愛情省でオブライエンに二重思考の必要性を説かれ拷問を受け、最終的にはスミスも犯罪中止と二重思考を使い、「2足す2は5である、もしくは3にも、同時に4と5にもなりうる」ということを信じ込むことができるようになる。
ダブルスピーク(doublespeak、二重語法
矛盾した二つのことを同時に言い表す表現。「戦争は平和」・「真理省」のように、例えば自由や平和を表す表の意味を持つ単語で暴力的な裏の内容を表し、さらにそれを使う者が表の意味を自然に信じて自己洗脳してしまうような語法。他者とのコミュニケーションをとることを装いながら、実際にはまったくコミュニケーションをとることを目的としない言葉。
実は作品には登場しない用語であるが、初版発刊後の1950年代に発生し一般化した言葉で、しばしば作品由来と考えられている。ニュースピークのB群語彙の定義におおむね影響を受けている。また、現実にある政策や婉曲話法などを批判的に言及する際に「二重語法」という言葉を使うことがある。たとえば事業の再構築を意味するリストラクチャリング(リストラ)を単に「従業員の大規模解雇」の意味に使用するなど。

[編集] 日本語訳

[編集] 映画

  • 『1984』(日本未公開)、 マイケル・アンダーソン(監督) 1956年
  • 『1984』 マイケル・ラドフォード(監督・脚本) 1984年

[編集] テレビドラマ

[編集] 脚注

  1. ^ Guardian, May 8, 2002
  2. ^ 解説によると、ゴールドスタインの禁書の内容は、トロツキーの『裏切られた革命』を模しているとされるが、実際はオーウェル自身の権力観を書いた随筆であるという

[編集] 関連項目

[編集] 文学

[編集] 音楽

[編集] CM

[編集] 映画

[編集] 外部リンク


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