軍用機の塗装
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軍用機の塗装(ぐんようきのとそう)は、軍用機に行われる塗装のこと。主に機体外部の塗装について記述する。
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[編集] 特徴
塗装の基本的な目的は、部材(外皮)表面の保護による耐食性・耐候性や美観の維持である。航空機の場合はこれらに加えて燃費低減・ペイロード増大の要請からできるだけ軽量であることが求められる。
軍用機の場合はさらに、敵からの発見を防いだり遅らせることが要求されるため、色や塗装パターンに特に注意が払われている。20世紀末からはステルス性のうち特にレーダーによる探知の回避を目指した工夫もなされてきている。
こうして、被探知率の低下が目指される一方で、敵味方を識別して同士討ちを防ぐ必要から、かつては目立つ色や模様のマーキングが必ずなされていた。しかしながら現代では IFF(Identification Friend or Foe, 敵味方識別装置)の発達によって、派手な色彩の国籍マーク・ラウンデルや部隊章、キルマークなどは影を潜めつつある。
- 色
- 民間航空機、とくに商用の旅客機や貨物機の場合は、集客や運航コストの抑制が重視されるために、派手な色づかいが採用されたり、逆にアメリカン航空のように透明な保護膜のみでほぼ無塗装といったものが存在する。軍用機においても、第二次世界大戦ごろまでは派手な色彩の塗装がなされることがあった。しかしながら、とくに大戦終結後頃からは、その任務の性格上、被視認性の低さ(low visibiliry, 低視認性。ロービジとも)を重視した暗色や無彩色の塗装が多く見られるようになっている。
- 塗装パターン
- 塗装パターンについては、地上駐機時や地面・海面付近の低空飛行時の視認性低下を意図した、緑や茶色(地面用)・青や水色(海用)のカムフラージュがあるほか、逆に高高度での飛行中に視認されにくい薄いグレーなどが、その機体の用途に応じて使い分けられている。
- 電波吸収性塗料
- レーダーが発達し、互いに目視する前に交戦を行なう BVR(Beyond Visual Range, 視程外距離)での戦闘が多くなるとともに、レーダーによる探知を避けることが強く求められるようになってきた。照射されたレーダー波の反射の度合いを示す指標を RCS(Radar Corss Section, レーダー反射断面積)と呼ぶが、RCS の低減のために第一には形状と構造に工夫がなされる。F-117やB-2といった航空機のみならず、ヴィスビュー級コルベットやシー・シャドウなどの艦船も、照射元へとレーダー波を返さないための特異な形状をしている。こうした形状における工夫が電波を「いかに反射させるか」を考えているのに対し、「いかに吸収するか」を考慮したのが RAM(Radar Absorbing/Absorbent Material, レーダー吸収材料)と呼ばれる塗料や材料であり、入射した電磁波の一部を熱に変えてしまう働きをもつ。フェライト系などの塗料が実用化されているが、20世紀初頭現在では広範な普及を見せるまでには至っていない。
[編集] 塗装パターン
[編集] 第二次世界大戦から朝鮮戦争(1930年代-1950年代)
第二次世界大戦においては,世界で様々な塗装がなされていた。
- 日本
- 第二次世界大戦前から中盤には明灰白色と呼ばれる明るいグレー系や銀色が主流だったが、劣勢に転じた大戦中盤からは緑単色のものが多く見られた。国籍マークの日の丸は、白縁ありとなしの2種類があり、現在の自衛隊機よりも大きく描かれていた。
- アメリカ
- F6F等海軍機は大戦前半は主に水色に近い青色を、中盤以降は濃青色の単色を主体に使用したが、P-38、P-51等陸軍機は緑の単色あるいは無塗装が多かった。陸海軍ともに機体に様々な絵が描かれ、特にB-17やB-29等爆撃機には、機首部にノーズアートと呼ばれる絵(ハレンチな女性が描かれることも)が多く描かれた。
- イギリス
- ほぼ全ての軍用機が大戦前半は緑と茶色の迷彩塗装を使用し、後半は暗めの水色と濃いグレーの塗装を主に使用した。しかし、爆撃機に関しては大戦終結まで緑と茶色を使用している。その一方で、極東地域に配備された機体には高温多湿による腐食を防止するために銀色が用いられる場合もあった。
- ドイツ
- 戦域にあわせて塗装を変更する場合が多く、ヨーロッパで作戦する機体には主に緑系の塗装が、地中海やアフリカで作戦する機体には茶系の塗装が施された。しかし、大戦中期以降はBf109やFw190を中心にグレー系迷彩が主流となった。また、大戦初期は鉤十字が大きく描かれるという特徴が見られ、冬季に通常の塗装の上から石灰を水で溶いたものを塗装した機体も多く見られる。
第二次世界大戦期には、アメリカを中心として無塗装が多く見られたが、現在では日光の反射による、パイロットの前方の視界のまぶしさから、ほとんど使用されない。
朝鮮戦争期においても、多くの国で、第二次世界大戦期と似たような塗装がなされた。しかし、アメリカ・イギリスではこの時期から1960年代にかけて、核攻撃を主任務とした爆撃機を中心に、核爆発の閃光から機体を守る事を目的とした白単色の塗装も多く見られた。
[編集] 1960年代以後
現代では、対戦闘機戦闘を重視し、よりカモフラージュがかかった塗装を用いるようになった。そのため、第二次世界大戦期のような派手な塗装は、模擬戦闘やアグレッサー部隊、アクロバット飛行を行う機体などを除き、ほとんど見られなくなった。ベトナム戦争に出現した超音速戦闘機以降、世界の軍用機の塗装は、それまでのものとは大きく変わった。
以下は、現代における主要な塗装パターンである。
- 砂漠地帯の迷彩塗装(デザート迷彩)
- 砂漠地帯に似せかけた、カモフラージュ迷彩塗装である。イラク軍やイスラエル国防軍など、中東諸国の砂漠が多い地帯の各国軍隊では多く実施されている。また、アメリカ空軍のアグレッサー部隊にも、砂漠迷彩を用いたF-16が運用されている。
- 森林地帯の迷彩塗装
- 過去から多く実施されている塗装パターンである。ベトナム戦争期には、「ベトナム迷彩」と呼ばれる、緑と黄緑と茶色の塗装が、センチュリーシリーズの戦闘機やF-4で行われていた。現在ではアメリカ空軍で見かけることは無い。しかし、世界各国では多くの機体がこの塗装で運用されている。また、低空を飛行することの多い攻撃ヘリコプターは濃緑色の単色が多く使用されている。
- 海上の迷彩塗装
- 水色や青色を用いた、海とのカモフラージュを目的とした迷彩塗装である。ロシア空軍のSu-27系の戦闘機で使用されている[要出典]。また、日本のF-2や一部のF-4でも、濃い青色を使用した塗装をしている。日本では、「洋上迷彩」などとも呼ばれる(洋上迷彩は別物として扱われることが多い)。
- グレー塗装
- 機体をグレーで塗装することにより、上空での見分けがつきにくくする事を目的として、戦闘機のみならず最近の機体ではほとんどの機種で使用される。アメリカ空軍のF-15、F-16、アメリカ海軍のF/A-18を始めとして、そのほかアメリカ以外の多くの国で使用されている。アメリカでは、グレーに薄茶色の混合塗装も一部で用いられている。航空自衛隊でも、F-15、F-4、T-4などにグレーを使用した塗装を行っている。また、F-22のようにグレー2色で迷彩を施しているものも多く見られる。また、カナダ軍のCF-18など一部の機体は、空戦時に敵パイロットの判断を遅らせることを目的として、機首下面にキャノピーを模した形を塗装しており、フォールスキャノピーと呼ばれている。
- 黒・暗色塗装
- 黒色塗装は主に夜間活動を主とした戦闘機・攻撃機(湾岸戦争で活躍したF-117やF-15Eなど)で用いられる。また、暗い色を用いると日光の反射を防ぐ事ができることから、キャノピーの前部のみ黒などを使用している軍隊もある。
[編集] 参考文献
- 野原 茂『世界の軍用機塗装・迷彩史 1914‐1945』(グリーンアロー出版社、2000年) ISBN 4-7663-3316-0