柳兼子
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柳兼子(やなぎかねこ、1892年(明治25年)5月18日 - 1984年(昭和59年)6月1日)は、日本の声楽家(アルト)。白樺派を代表する柳宗悦の妻である。ちなみに長男の柳宗理は工業デザイナー、次男の柳宗玄は美術史家、三男の柳宗民は園芸家として知られている。
[編集] 略歴・人物
日本の近代の声楽法を確立したとされるアルト歌手である。その歌唱法には長唄の要素がとり込まれていることが指摘されている(渋谷昶子脚本・ドキュメンタリー映画『兼子-Kaneko』2003年)。
旧姓は中島であり、「中島兼子」が旧名。府立一女出身。白樺派の柳宗悦と結婚。夫・宗悦の活動を物心両面にわたって支えつづけた。
我孫子での新婚生活をしていた頃に、戦時中の日本の政府の朝鮮半島への同化政策に反発し、夫婦ともに朝鮮半島に渡りリサイタルを開催。当地の人々と深い親交を結んだといわれている。 かつては「声楽の神様」とまで称され、数々のドイツ・リートを歌った。1927年にはグスタフ・マーラーの歌曲集「亡き子をしのぶ歌」「リュッケルトの詩による5つの歌」及び「子どもの魔法の角笛」の中の“死せる鼓手”“少年鼓手”を日本初演している(近衛秀麿指揮、新交響楽団の定期演奏会)。1928年のベルリンでのリサイタルではドイツ人を驚愕させるほどの日本最高のリート歌手であったが、軍歌を歌うことを頑なに拒否。このため、戦中より活躍の場を奪われ、戦後も正当な評価がされぬままになった感があるが、本人は全く意に介さず歌いつづけ、85歳まで公式のリサイタルを続け、その後も数年間は私的な集まりで歌い続けていた。また92歳で亡くなる死の2ヶ月前まで後進の指導にあたっている。これは肉体を自身の楽器とする声楽家では普通はあり得ないことであり、世界的に見ても87歳まで演奏活動を続けた声楽家というのは彼女以外存在しないであろう。
2001年、柳兼子再評価の機運が高まり、オーディオ・ラボのレーベルで長らく廃盤になっていたいくつかの音源が復刻された。また他にもアートユニオン、グリーンドアのレーベルからもCDが出されている。 特に晩年の日本歌曲の演奏が優れており、「現代日本歌曲選集2 日本の心を唄う」(オーディオ・ラボ OVCA00003)に収められた「荒城の月」「九十九里浜」「平城山」「小諸なる古城のほとり」「早春譜」「浜辺の歌」等の演奏は、当時83歳の柳兼子の演奏にもかかわらず、日本語の詩の美しさを再認識させるような感動的な記録である。
2003年には佐藤隆司企画・原案、渋谷昶子脚本・演出によるドキュメンタリー映画「兼子-Kaneko」(全農映)が制作され、その後、日本各地で上映される。また英語版も翌年に制作され、すでに海外でも上映がされている。
[編集] 参考文献・資料
- 小池静子『柳兼子の生涯 歌に生きて』勁草書房、1989年
- 宇野功芳『名演奏のクラシック』講談社現代新書、1990年
- 松橋桂子『楷書の絶唱 柳兼子』水曜社、2003年
- 渡部信順「柳兼子の歌」エッセイ『宇宙』(文芸思潮臨時増刊号)所収、アジア文化社、2007年
- 「名古屋タイムズ」2004年9月4日付
- 佐藤隆司企画・原案、渋谷昶子脚本・演出、ドキュメンタリー映画「兼子-Kaneko」全農映制作(兼子制作委員会)、2003年。出演者:宇野功芳、鶴見俊輔、高崎保男、水尾比呂志、柳宗理、柳宗民、柳宗玄、深緑夏代、佐々木信男、三上かーりん、小林道夫、武岡登士子、武岡徹、大島久子、佐藤公孝、菅野沖彦、相川マチ、軽部久子、栗本尊子、塚田佳男
[編集] 柳兼子・演奏音源
- 「うたごころ」アートユニオン ART-3017
- 「柳兼子 現代日本歌曲選集」オーディオ・ラボ OVCA-00001
- 「柳兼子 声楽リサイタル」オーディオ・ラボ OVCA-00002(1975年11月5日第一生命ホールにおける実況録音)
- 「柳兼子 現代日本歌曲選集2」オーディオ・ラボ OVCA-00003
- 「永遠のアルト 柳兼子」グリーンドア音楽出版 GD-2001~2003
- 「魔王 柳兼子」グリーンドア音楽出版 GD-2004