家庭内労働者
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家庭内労働者(かていないろうどうしゃ)とは、雇用主の家庭で働く労働者のこと。家庭内使用人、または単に「使用人」と一般には呼ばれている。一方、「使用者」は企業経営者のことを指すので注意が必要である。
大きな家庭において、多くの家庭内労働者が、しばしば複雑な社会階層の一部として、それぞれ役割の異なった仕事を担当している。この種の社会的な取り決めが先進諸国でほとんど時代遅れなのに対して、低開発国では収入を得るために役立つ社会的役割を果たしている。このような複雑な階層構造が、階級制度、カースト制度のなかから発生した場合、階層の境界線が恒久化され社会的機動性が制限されていく。
執事は上位の家庭内使用人で、伝統的に家庭のワインの管理と他の使用人の管理をおこなう。女性の使用人は、女中またはメイドと呼ばれる。
家庭内労働者は、料理、アイロンがけ、洗濯、掃除、食料雑貨の買い物、飼い犬の散歩、子供たちの世話といった典型的な家庭内の雑用をおこなう。いくつかの国では、メイドは、看護婦のかわりとして高齢者や身体の不自由な人の世話をしている。メイドは、1日に少なくとも15時間は働くことがしばしばある。
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[編集] 各国の家庭内労働
[編集] ヨーロッパ・北米
家事使用人の雇用は、イギリスのエドワード朝・ヴィクトリア朝と、アメリカの「金メッキ時代」(Gilded Age)で全盛だった。これは総力戦であった第一次世界大戦時、戦場に行った男性の代わりにそれまで使用人を務めていた女性が工場などで労働者となる経験を経たことによって、衰退してゆくことになる。
20世紀後期になって、中流階級の女性が社会進出をするようになると、家庭内の家事労働者が奪われることになり、結果として清掃婦と子守りの急激な雇用需要の増加を引き起こすことになった。ヒスパニック移民などがこの需要を満たしている。
[編集] アジア
多くの国々で、エージェントやブローカーを通して国外から労働者を輸入している。それらの国々では、低賃金かつ大変な家事労働に従事しようとする国内の働き手が少ない。主な輸入国は、中東諸国と香港、シンガポール、マレーシア、台湾である。中国も、労働者をフィリピンから輸入している。これら外国人労働者はそれぞれの国ごとに何十万人単位の規模で存在しており、例えば、少なくとも100万人の労働者がサウジアラビアで働いている。
これらアジアの国々に労働者を提供している主な国は、フィリピン、タイ、インドネシア、スリランカ、エチオピアである。台湾では、ベトナムとモンゴルからの労働者が多い。
[編集] その他の地域
ラテンアメリカとアフリカでは、家庭内労働者は、働く場所と同じ国の出身であることが多い。給料の一部として食事と部屋をもらう、「住み込み」で働く場合が多いが、食事と部屋だけで給料が支払われないケースもある。
[編集] 仕送り
貧しい国から豊かな国へ、貧しい地域から豊かな国への家事労働者の輸出は、故郷への仕送りという形で多大の金銭を貧しい国などにもたらしている。フィリピンなどではこうした仕送りが国の収入の大きな割合を占めるほどである。
[編集] ユニフォーム
家庭内労働者は多くの場合、雇い主に制服(御仕着せ)を着ることを要求される。しかし、台湾、シンガポール、香港のような、小さな中流家族が通常1人の労働者だけを雇う場合はこの限りではない。