伊豆箱根鉄道1100系電車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
 |
伊豆箱根鉄道1100系電車（いずはこねてつどう1100けいでんしゃ）は、伊豆箱根鉄道駿豆線用の電車である。
目次 |
[編集] 概要
旧来の1000系のうち、旧西武鉄道501系の譲受車である1009F以降の老朽化が進んでおり[1]、また非冷房車であったことから[2]、保有車両の近代化および冷房化促進のために親会社の西武鉄道西武701系を1989年（平成元年）より2年間にわたり譲受した車輌である、1989年に2本、1990年（平成2年）に1本の合計3本が譲受され、これにより吊掛駆動の旧性能車が減り、また駿豆線の冷房車比率も66.7%までに向上した。
なお、701系譲受後に1000系自社オリジナル車のうち、後期型が台車交換により新性能車化改造を施工されたが、これについては後述する。
[編集] 入線時前後による改造点
[編集] 入線時における西武鉄道での改造点
伊豆箱根鉄道への入線に際し、親会社の西武所沢工場において電動発電機を101系試作冷房車に搭載されていた容量150kVAのものに振替、空気圧縮機の振替[3]や冷房装置の振替等を行った上で4両編成で譲渡された。
[編集] 入線時における伊豆箱根鉄道での改造点
入線後、大場工場においてモハ701形奇数番号車の台車、モーター等の下回り機器を供出した上で[4]3両編成とし、その台車および下回り機器をクハ1701形奇数番号車に移植して制御電動車(Mc)化、電気連結器の撤去、列車無線の変更、自動放送装置の設置、客用扉締切機能の新設、鋳鉄制輪子化、ATSの交換[5]とそれに伴う一部座席の撤去[6]、3000系に準じた青と白のツートンカラーへの塗色変更などが施工され、営業運転を開始した、営業運転開始後に編成中の空気圧縮機をAK-3形2台からHB2000形1台に再度交換された。
車両番号は代替対象である1009F・1011F・1013Fのものを継承している[7]ため、系列名称は「1100系」であるが1100番台のものは存在しない。
[編集] 内装
基本的には旧西武701系と同じ3ドアオールロングシートである。前述したがATS車上装置の関係で乗務員室運転士側の座席を撤去しており、観光需要が多くクロスシート車が主体の駿豆線では、大半の観光客や一般客（買物客主体）には不評であるが、朝夕のラッシュ時における沿線の通勤・通学客からは好評である。
[編集] 編成
駿豆線唯一のオールロングシート車であり、3両編成3本（9両）が在籍する。
修善寺方のクハ（Tc,制御車）は旧編成の2000形2005号以降を受継いでいるが、そのうち2006号車については3000系の1次車最終編成 (3007F) が1982年に新製配備された時に代替廃車された西武501系譲渡車の中間車のうち、駿豆線最後の旧型17m車であったモハ52・53の中間付随車（サハ、T）として使用していた車両番号を使用していることもあり、譲渡により車両番号の整理も行われた。
編成については、上部の表に車両編成と現車両番号および譲渡、3両編成化改造年と西武での編成を、下部の表に西武時代の車両番号と新規製造年および冷房改造年を記載する。
| 編成番号 | クモハ1100 | モハ1200 | クハ2000 | 譲渡、改造年度 | 旧西武での編成番号 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1009F | 1009 | 1010 | 2005 | 1989年 | 西武701系783F |
| 1011F | 1011 | 1012 | 2006 | 1989年 | 西武701系777F |
| 1013F | 1013 | 1014 | 2007 | 1990年 | 西武701系735F |
全編成とも西武建設所沢工場製である。なお太字は台車、主電動機等、下回り機器を3両編成化改造時にクモハ1100形用に供出して、車体は解体された車両番号を表し、斜文字はそれを移植された車両番号を表す。
- 【編成番号：クハ1701形奇数号車(Tc)-モハ701形奇数号車(M')
-モハ701形偶数号車(M)-クハ1701形偶数号車(Tc)】
| 旧編成番号 | クハ1701 | モハ701 | モハ701 | クハ1701 | 製造年度 | 冷房改造年度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 783F | 1783 | 783 | 784 | 1784 | 1967年 | 1977年 |
| 777F | 1777 | 777 | 778 | 1778 | 1966年 | 1978年 |
| 735F | 1735 | 735 | 736 | 1736 | 1965年 | 1980年 |
[編集] 主要諸元
- 定員：Mc・Tc=157名（座席63名）、M=168名（座席72名）
- 車両寸法：長さ=20,000mm 横幅=2,865mm 高さ=4,140mm
- 自重：Mc・M=38t、Tc=31t
- 制御装置：MMC-HT20A形電動カム軸抵抗制御式多段制御（日立製作所製）
- 台車：Mc・M=FS342形、Tc=FS342T形
（住友金属工業製、ペデスタル支持、ウイングバネ式軸コイルバネ形台車） - 駆動装置：TD撓み板継手中空軸平行カルダン
- 主電動機：HS-836-Frb形（検査時に、3000系に使用しているHS-836-Krb形を使用する場合がある）直流直巻電動機（日立製作所製）
- 主電動機出力（端子電圧、定格出力）：端子電圧375V、定格出力120kW
- 歯車比：84:15＝1:5.6
- 起動加速度：2.5km/h/s
- 最高速度：100km/h
- 制動装置：HSC形電磁直通ブレーキ（日本エアーブレーキ製）
（発電ブレーキは装備されていない） - 補助電源装置：電動発電機（三相交流440Vおよび直流100V）
- 空気圧縮機：HB2000形
- 冷房装置：CU-72B形集中式、42,000kcal/h/車両（三菱電機製）
[編集] 備考
1989年の1回目の譲渡（783Fおよび777F）の約半年前に、西武より701系に使用された台車・主電動機が譲渡され（部品取り用含む）、1989年4月に1000系1005F・1007Fの2本が台車更新によりMc・M車はカルダン駆動とされた。台車等は廃車されるまで使用された。
[編集] 脚注
- ^ これらの編成は吊掛駆動、AMA形自動空気ブレーキであるが、一部の編成はHRD-1形電気指令式ブレーキに改造された。同じ1000系でも自社発注車は制動方式が自動空気ブレーキより扱い易いHSC形電磁直通ブレーキのため、この時点では廃車は免れた。
- ^ 当時、駿豆線の冷房車は3000系3両編成5本のみで駿豆線全体の41.6%であった。
- ^ 譲渡編成のうち735編成は、冷房改造時に大容量のHB2000形1台/編成に交換されて使用されたが、701系登場時に搭載されていたAK-3形2台/編成に交換された。このAK-3形は旧・日本国有鉄道が鉄道省時代の戦前より長期に渡り製造、使用した空気圧縮機であり、西武鉄道でも1970年代末頃までに落成した新規製造車にも搭載された。
- ^ 車体は供出後車籍登録せずに解体された。
- ^ 国鉄ATS-S形と同等品。
- ^ ATSの車上装置が大型のため、乗務員室運転席側の座席を撤去した。後にその位置は車椅子スペースとされた。
- ^ 1000系はMc・M車は1000形、Tc・T車は2000形であった。
