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人魚 - Wikipedia

人魚

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスによる人魚(マーメイド)の絵画(1905年)
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスによる人魚(マーメイド)の絵画(1905年

人魚(にんぎょ)とは、水中に生息すると考えられた伝説上の生き物ヨーロッパで伝えられるものと中国日本の伝承とでは、形状や性質は全くちがう。

目次

[編集] 概要

The Land Baby, ジョン・コリア作(1899)
The Land Baby, ジョン・コリア作(1899)

ヨーロッパの人魚は、上半身がヒトで下半身が魚類の体の場合を人魚と呼ぶことが多い。人魚は、マーフォーク(merfolk)とも言われ、特に若い女性の人魚はマーメイド(mermaid)、男性の場合はマーマン(merman)などと呼ばれる。伝説物語に登場する人魚の多くは、このマーメイドである。今日では海棲哺乳動物のジュゴンの見間違いに端を発したという話(ジュゴンも参照のこと)が広く流布しているが、学術的根拠があるわけではない。むしろ象徴性とアレゴリーに積極的根拠があるものと考えられている。

不吉な象徴とされることが多く、たいていの文学作品では、人魚は最後まで幸せなままでいることはない[1]。尾びれが1つと思われがちだが、古い絵などには2つの尾びれを持った物が多く描かれている(ヨーロッパの古い紋章の中にも、2股に分かれた尾部を持つ人魚をかたどるものがあり、そのような紋章は、現代風にデザイン化した形ではあるが、今でもスターバックス・コーヒーやマドンナ社(出版社)の商標の中に見ることができる)。

一方、東洋の人魚のイメージは、ヨーロッパの人魚のイメージを蛇女房、龍女房伝説と重ね合わせたもので、不知火や仙崎のお静伝説(不死の肉により八百年生きる少女の話)をも取り込み、八百比丘尼伝説が生まれることとなった。なぜ比丘尼かというと、「海女」→「尼」の語呂合わせである。また『山海経』では「人魚」とは河に住む生き物で、明らかにオオサンショウウオの一種である。

サルの死骸を用いてこの人魚のミイラを偽作した物が残っており、ヨーロッパへの輸出品ともなった。

[編集] 西洋の人魚伝説

[編集] ローレライ

ライン川にまつわる伝説。ライン川を渡る舟に歌いかける美しい人魚たちの話。彼女たちの歌声を聞いたものは、その美声に聞き惚れて、舟の舵を取り損ねて、川底に沈んでしまう。詳しくはローレライ伝説の項を参照。

[編集] メロウ

メロウ(Merrow)はアイルランドに伝わる人魚。姿はマーメイドに似ており、女は美しいが、男は醜いという。この人魚が出現すると嵐が起こるとされ、船乗り達には恐れられていた。また、女のメロウが人間の男と結婚し、子供を産むこともあるという。その場合、子供の足には鱗があり、手の指には小さな水掻きがあるとされる[2]

[編集] セイレーン

航海者を美しい歌声で惹きつけ難破させるという海の魔物で、人魚としても描かれる。もとはギリシア神話に登場する伝説の生物。セイレーンの項参照。

[編集] アジアの人魚伝説

[編集] 海人

古代中国でヒトの祖先とされた、一種の海棲人類のこと。『淮南子』巻四では、各種の動物について、古代中国独特の「進化論」が説かれている。ヒトの進化の道筋については、「𥥛(ハツ)は海人を生じ、海人は若菌(じゃくきん)を生じ、若菌は聖人を生じ、聖人は庶人を生ず。およそ𥥛なる者は庶人より生ず」とある(𥥛は、「穴かんむり」の下に「祓」の右半分を書く)。この一文は難解だが、ヒトの祖先は𥥛(細毛におおわれたサル)であり、以後、𥥛→海人(海棲人類)→若菌(意味未詳)→聖人(完成された古代の人間)→庶人(普通の人間)→「およそ𥥛なる者」(未来の退化した人類)と、進化と退化を重ねてきた、と解釈する主張もある[3]

[編集] 浪奸

韓国・朝鮮に伝わる人魚伝説で、あるとき李鏡殊(イ・ジンスウ, 이진수)という漁夫が、海上で美女に誘われ、龍宮へ行って一日を遊び、帰るときに、食すると不老長寿になるという高麗人参に似た土産(これを人参ではなく人魚と称する)をもらった。訝った李鏡殊はそのままにしておいたが、娘の浪奸がそれを食べてしまう。彼女は類い稀な変わらぬ美貌を得たが、数百年もの長寿を持て余し300歳を越えて山を彷徨い行方不明になったという。ー『韓国の民話と伝説(高句麗・ 百済編)』から

[編集] 海人魚

中国の人魚。『洽門記』という書物によれば東海(東シナ海)に生息し、体長は大きい個体では5~6尺(約1.5~1.8メートル)。容姿は大変美しく、髪は馬の尾のようで、鱗には細い毛がある。中国の人魚伝承では交婚が認められていないことが多いが、海人魚は交婚は自由であり、臨海で多くの鰥寡を捕らえて池や沼で養うという[4]

[編集] 八百比丘尼

八百比丘尼入定の地。空印寺にて。(2006年11月)
八百比丘尼入定の地。空印寺にて。(2006年11月)

八百比丘尼(はっぴゃくびくに、やおびくに)は、日本の殆ど全国に分布している伝説。地方により細かな部分は異なるが大筋では以下の通り。

若狭国のとある漁村の庄屋の家で、浜で拾ったという人魚のが振舞われた。村人たちは人魚の肉を食べれば永遠の命と若さが手に入ることは知っていたが、やはり不気味な為こっそり話し合い、食べた振りをして懐に入れ、帰り道に捨ててしまった。だが一人だけ話を聞いていなかった者がおり、それが八百比丘尼の父だった。父がこっそり隠して置いた人魚の肉を、娘が盗み食いしてしまう。娘はそのまま、十代の美しさを保ったまま何百年も生きた。だが、結婚しても必ず夫に先立たれてしまい、父も年老いて死んでしまった。終いには村の人々に疎まれて尼となり、国中を周って貧しい人々を助けたが、最後には世を儚んで岩窟に消えた。

八百比丘尼の伝承は日本各地にあるが、中でも岐阜県益田郡馬瀬村中切に伝承される八百比丘尼物語は「浦島太郎」と「八百比丘尼」が混ざった話として存在し、全国的に稀である。 ―――参考『岐阜県益田郡誌』

京都府綾部市福井県大飯郡おおい町の県境には、この八百比丘尼がこのを越えて福井県小浜市に至ったという伝承のある尼来峠という峠がある。

[編集] 『絵本小夜時雨』の異魚

『絵本小夜時雨』二之目録「浪華東堀に異魚を釣」
『絵本小夜時雨』二之目録「浪華東堀に異魚を釣」[5]

江戸時代の古書『絵本小夜時雨』の二之目録「浪華東堀に異魚を釣」に記述がある。寛政12年(1800年)、大阪西堀平野町の浜で釣り上げられたとされる体長約3尺(約90センチメートル)の怪魚。同書では人魚の一種とされるが、多くの伝承上の人魚と異なり人間状の上半身はなく、人に似た顔を持つ魚であり、ボラに似た鱗を持ち、人間の幼児のような声をあげたという[5]水木しげるの著書では「髪魚(はつぎょ)」の名で述べられている[6]

[編集] アイヌソッキ

アイヌ民話で北海道内浦湾に住むと伝えられる人魚。『八百比丘尼』の伝説と同様、この人魚の肉を食べると長寿を保つことができるという[7]

[編集] その他の日本の人魚

江戸時代に肥後国(現・熊本県)で疫病の流行を予言したアマビエ石垣島明和の大津波を予言したザンなどの伝承がある。詳細は各項目を参照。

[編集] 人魚をモチーフにした像

  • 人魚姫の像(デンマーク王国コペンハーゲン)=岡田眞澄E・H・エリック兄弟の叔母がモデルとなっている。彼女はデンマーク王立劇場のプリマドンナだった。1913年、エドワード・エリクセンによって制作されたもの。ハンス・クリスチアン・アンデルセンの原作では、腰から下は魚だったはずだが、この人魚は、足首の辺りまで人間で、それ以下が魚のひれになっている。モデルの足があまりにも美しかったため。このレプリカが、日本では大阪港、岡山の倉敷チボリ公園愛知県安城市デンパークにある。いずれも本物より一回り小さい。デンマーク国内でこの像を複製する場合は本物の形状を改変してはならないことになっており、例えばデンマーク発祥のレゴブロックで制作したものは公に展示できない。

[編集] 人魚を扱った作品

[編集] 童話

[編集] 映画

[編集] 脚注・出典

  1. ^ 大林太良 「東西人魚覚え書」(『神話の話』 講談社学術文庫、1979年、67-73頁。
  2. ^ 草野巧『幻想動物事典』 新紀元社1997年、304頁。
  3. ^ 加藤徹『怪力乱神』中央公論新社2007年、141頁-142頁。
  4. ^ 水木しげる 『妖鬼化 5 東北・九州編』 Softgarage2004年、85頁。
  5. ^ a b 近藤瑞木 『百鬼繚乱―江戸怪談・妖怪絵本集成』 国書刊行会、2002年、108-109頁。
  6. ^ 水木しげる 『図説 日本妖怪大全』 講談社〈講談社+α文庫〉、1984年、361頁。
  7. ^ 村上健司 『妖怪事典』 毎日新聞社2000年、2頁。

[編集] 関連項目

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