ゾウ
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?ゾウ目 | |||||||||||||||||||||
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アフリカゾウ |
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分類 | |||||||||||||||||||||
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属、種 | |||||||||||||||||||||
ゾウ類の分布
茶色がアジアゾウ、緑色がアフリカゾウ属 |
ゾウ(象)とは哺乳綱ゾウ目(長鼻目)に属する動物の総称である。陸棲哺乳類では最大の大きさを誇る。この項では現存するゾウ類についてのみ記述する。分類群そのものについてはゾウ目を参照。
目次 |
[編集] 概要
長い鼻、大きな耳が特徴。首が短く、立ったままでは口を地面につけることが出来ない。膝をついてしゃがむか、むしろ筋肉質の長い鼻を使って食べ物や水などを口に運ぶ。鼻を使って水を体にかけ、水浴をすることもある。この鼻は上唇と鼻に相当する部分が発達したものであり、先端にある指のような突起でピーナッツのような小さな物から、豆腐といった掴みにくい物までを器用に掴むことができる。
また嗅覚も優れており、鼻を高く掲げることで遠方より風に乗って運ばれてくる匂いを嗅ぎ取ることができる。聴覚も優れている。詳細は下記の「生態」の項を参照のこと。しかし視力は弱く、色覚も無く、外界の認識は嗅覚と聴覚によっている。
第2切歯が巨大化した「牙」を持ち、オスのアフリカゾウでは牙の長さが3.5mにまで達することもある。牙は象牙として珍重され、密猟の対象となる。巨大な板状の臼歯が上下に1本ずつの計4本しかない。自分の体重や歩くことによって足にかかる負担を少なくするために、足の骨と足の裏の間には脂肪に包まれた細胞がつまっている。
[編集] 生態
雌を中心とした群れを単位として生活し、高度な社会を作っている。巨大なため成体のゾウは襲われる事は普通無い。しかし人間をはじめ天敵が全くいないわけではない。ビルマではアジアゾウの生まれた子供の内に半分がトラの餌食になっていたという記録がある。ボツワナでは乾季獲物の半分以上がアフリカゾウ(成獣も含まれる)というライオンもいる。ライオンは群れをつくることでアジアゾウ以上に巨大で手強いアフリカゾウの群れと対峙できるのである。群れの大人のゾウたちは常に子供のゾウの周りを取り囲んでライオンなどの敵から守っている。
人間には聞こえない低周波音(人間の可聴周波数帯域は約20Hz以上なので、それ以下)を使用し会話していると言われ、その鳴き声は最大約112dBもの音圧があり(自動車のクラクション程度)、最長で約10km先まで届いた例もある。加えて、象は足を通して低周波をキャッチすることができることも最近発見された。
ゾウの足の裏は非常に繊細にできていて、そこからの刺激が耳まで伝達される。かれらはこの音を30~40km離れたところでもキャッチすることができる。この領域はまだ研究が始められたばかりだが、雷の音をキャッチしたり、遠く離れた地域で雨が降っていると認知できるのはこのためではないかと考えられている。また足の裏はいくつものひび割れがあり、滑り止めの役割をしている。ゾウによってひび割れの模様は違う。人間でいえば指紋のようなものである。また、その巨体に似合わず足が速く、時速40キロ程度で走ることができる。
高い認知能力も持ち、人間を見分ける事も出来ると言われる。例えば(動物園等の飼育下で)、優しく接してくれた人間に対しては甘えたり挨拶したりするが、逆に(飼育下や野生の状態で)自らや仲間に危害を加えた人物に対しては非常に攻撃的になる。人々が違う言語を話しているのを聞き分けることができ、象を殺すこともあったマサイ族のことを非常に恐れる。ただし、同じマサイ族でも女性には攻撃をされないことを分かっているので、男性だけを避けようとする等々様々な逸話が伝えられる。また、ゾウは群れの仲間が死んだ場合に葬式ともとれる行動をとる。死んだゾウの亡骸の周りに集まり、鼻をあげて死んだゾウのにおいをかぐような動作を取り、亡骸を労わるように鼻で撫でる等の記録がある。詳細については疑問も多いが、いずれにせよかなり優れた記憶力や知能を持っていると推察される。
草・葉・果実・野菜などを食べる。ミネラルをとるために泥や岩塩などを食べることもある。草食動物で1日に150kgの植物や100ℓの水を必要とし、野生個体の場合はほぼ一日中食事をしている。体が大きいため必要な食物も並大抵のものではないため森林伐採などの環境破壊の影響を受けやすく、またゾウの食欲と個体数増加に周囲の植生回復が追いつかず、ゾウ自身が環境破壊の元凶になってしまうこともある。
成熟した大人のオスゾウにはマスト(ムスト)と呼ばれる一定の期間凶暴になる時期がある。ゾウはこめかみの辺りからタール状の液体を出すのだが、マストになったオスはその分泌量が多くなるためそれと判断できる。動物園ではマストになったオスは、暴れないよう檻の中で鎖につないでおくことが多い。
[編集] 人との関わり
アジアゾウは使役動物として現地の人たちには移動手段として使われ、重いものを運ぶのにも利用される。軍事用に使われたこともある。これはアフリカゾウも使われた(下記を参照)。古い将棋系のボードゲーム、たとえばチャトランガ等にはゾウを意味する駒があった。
他に芸をさせることもある。サーカスではゾウに逆立ちさせたり台に上らせたりといった芸をさせる。タイではゾウにサッカーをさせる行事がある。
その他、とにかく大きくて重いものの代表になり、大きさを示すのにゾウ何頭分という表現が使われたり、「ゾウが踏んでも壊れない」ことがキャッチフレーズになった商品も例もある。
他方、ゾウ類は人間の重要な狩猟対象であった。現在では数が少なくなったために保護が行われているが、この個体数減少の原因のひとつも人による捕獲圧であると考えられる。特に大型なる動物である鯨類などにも共通するが、元々の繁殖力が低い為、狩猟圧を受けやすい。
食用としても重視され、歴史的にも、ナウマンゾウやマンモスのころからゾウ類が人類にとって重要な獲物であったことは多くの証拠から認められている。崖から数百頭の群れを一度に追い落とす猟が度々行われてきた痕跡から、彼らの絶滅に人間の関与を指摘する向きもある。ただし、現在においては食用目的の捕殺は稀であり、現在の捕獲の最大の理由は象牙である。
[編集] 歴史
長鼻類でもっとも進化したグループであるゾウは新生代の第四紀にはオーストラリアと南極大陸以外の総ての大陸に分布していたが、自然環境の変化や人類の狩猟などによりやがて衰退し、現在はサハラ砂漠以南のアフリカに生息するアフリカゾウとインドおよび東南アジアに生息するアジアゾウのわずかに2種が残るのみであり、滅亡へ向かいつつあるグループといえる。動物園の定番ではあるが、共に絶滅危惧IB類(IUCNレッドリスト)に指定されている。また最近ではアフリカゾウの亜種と考えられてきたマルミミゾウだが、現在は別種であるといわれる。
日本の動物園においては定番として飼育されるが、基本的に群れで繁殖するにも関わらず数頭ずつしか飼育されない環境の為か、繁殖例は極めて少ない(アジアゾウ、アフリカゾウの各項参照)。
化石種のゾウではマンモスが特に有名。かつて日本にもナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanni)などのゾウが生息していた時代がある。
日本へ人為的に初渡来したのは応永15年6月22日(1408年7月15日)、東南アジア方面からの南蛮船により、足利義持への献上品として現在の福井県小浜市に入港した記録がある。
[編集] アフリカゾウとアジアゾウの違い
アフリカゾウ | アジアゾウ | |
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体長 | 6~7.5m | 5.5~6.4m |
体高 | 3~3.8m | 2.5~3m |
体重 | 5.8~7.5t | 4~5t |
牙 | オスでは3m以上にもなる | オスでも2m以下が普通で、メスは更に短く外部からは見えない |
歯の表面の模様 | ひし形で間隔はやや広い | 横縞の間隔がせまい |
背中 | 肩と腰が盛り上がる分背中が少し凹んでいる | 丸い |
耳 | 大きく三角形 | 小さく四角形 |
鼻先の指状突起 | 上下2つ | 上方1つ |
蹄の数 | 前4・後3 | 前5・後4 |
気性 | 荒く、人間に慣れ難い | 温厚で、人間によく慣れると言われる |
頭 | 平ら | 2つのこぶがある |
体 | 濃い灰色 | 薄い灰色または白色 |
ただし気性には異論もあり、アフリカゾウでも飼い慣らせば人間に従順になって労役もこなすとの意見もある。
[編集] 分類
アフリカゾウには2亜種、アジアゾウには4亜種がいる。
- アフリカゾウ(Loxodonta africana)
- アジアゾウ(Elephas maximus)
- インドゾウ(Elephas maximus bengalensis)
- セイロンゾウ(Elephas maximus maximus)
- スマトラゾウ(Elephas maximus sumatrana)
- マレーゾウ(Elephas maximus hirsutus)
[編集] ゾウにまつわる逸話
[編集] 神話の中のゾウ
- インドの神話でゾウは世界を支える存在として描かれる。また天帝インドラの乗り物アイラーヴァタも登場する。
- ヒンドゥー教には、ゾウの頭を持つガネーシャと呼ばれる神様がいる。シヴァ神の長男で富と繁栄の神様とされる。仏教では歓喜天に当たる。
- ヒンドゥー教の神・インドラはエーラワンと呼ばれるゾウにまたがっているが、そのゾウの頭は33個ある。
- 白いゾウ(白象)は東南アジアでは神聖視された。釈迦は白象の姿で母胎に入ったという。
- 仏教の芸術表現では普賢菩薩の乗る霊獣として描かれる。
[編集] 古代ローマとゾウ
古代地中海世界では戦象としてゾウを軍用に使役していた。古代ローマ人が初めてゾウと遭遇したのはピュロスのイタリア半島侵入の際で、ヘレニズム世界で使用されていた戦術をピュロスがそのまま持ち込んだものであった。このときローマ軍が戦象と戦った場所ルカニアからローマではゾウはルカニアの牛と呼ばれた。こうしたピュロスのエピソード以上に第二次ポエニ戦争の際、カルタゴの将軍ハンニバルがその傭兵部隊に加えて39頭の象を引き連れ、イタリア半島に侵攻したことはよく知られている。アルプス山中で受けた妨害と寒さや餓えのため、イタリアの平野部に到達した象は元の半数以下だったが、それもトレビア川の戦いでインドゾウの一頭を残してことごとく倒れた(最後のゾウ以外はアフリカゾウ(マルミミゾウ)であった)。
[編集] 将軍に献上されたゾウ
享保13年(1728年)、オスメス2頭の象が江戸幕府8代将軍・徳川吉宗に献上するために広南(ベトナム)から連れてこられた。メスは上陸地の長崎にて死亡したが、オスは長崎から江戸に向かい、途中、京都では中御門天皇の上覧があった。上覧には位階が必要なため、オスのゾウには「広南従四位白象」と位と姓名が与えられている。江戸では徳川吉宗は江戸城大広間から象を見たという。その後、ゾウは浜御殿にて飼育されていたが、飼料代がかかり過ぎるため寛保元年(1741年)、中野村の源助という農民に払い下げられ、翌年病死した。現在も馴象之枯骨(じゅんぞうのここつ)として、中野宝仙寺に牙の一部が遺されている。
[編集] ゾウの墓場
ゾウの死体や骨格は自然状態では全くと言っていいほど発見されなかったため、欧米ではゾウには人に知られない定まった死に場所があり、死期の迫ったゾウはそこで最期を迎えるという「ゾウの墓場」伝説が生まれた。だが、実際には他の野生動物でも死体の発見は稀で、ゾウに限った事ではない。自然界では動物の死体は肉食獣や鳥、更には微生物によって短期間で骨格となり、骨格は風化作用で急速に破壊され、結果的に文明人の往来が少なかったアフリカでは遺骸が人目につく事はなかった。そうした事情がもとになって「ゾウの墓場」伝説ができたものである。象牙の密猟者が犯行を隠すためにでっち上げたという説もある。近年はアフリカのサバンナでも人の行き来が頻繁になり、ゾウの遺骸も時たま見られる。
[編集] 象をつかったことわざ
[編集] 象をイメージした音楽
- 童謡『ぞうさん』(作詞:まど・みちお、作曲:團伊玖磨)
- 『ネリーさんだ象』(Nelly The Elephant)(トイドールズ)
- 『象だゾウ』(NHKみんなのうた、作詞・作曲:かねこひろゆき、歌:ささきいさお)
[編集] 象を描いた作品
[編集] 関連項目
- ジャンボ(19世紀に実在した著名な象、巨大を表わすジャンボの語源)
- 白象
- 象牙
- 象列車(戦後、子供たちに象を見せるために運行された特別列車)
- ゾウによる踏み付け
- 戦象(戦争に使われた象)
- 実在した象の一覧
- 星になった少年
- 共和党 (アメリカ)(象を党の象徴として使用している)
[編集] 外部リンク
[編集] ギャラリー