スペインかぜ
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スペインかぜ(英:Spanish Flu)は、1918年から翌19年にかけ、全世界的に流行したインフルエンザのパンデミックである。感染者6億人、死者4000~5000万人。発生源は1918年3月米国シカゴ付近。高病原性を獲得したのは1918年8月15日頃、アフリカ西海岸の英国保護領シエラレオネの首都フリータウン付近とされる。米国発であるにもかかわらずスペインかぜと呼ぶのは、情報がスペイン発であったためである(当時は第一次世界大戦中で世界中で情報が検閲されていたのに対し、スペインは中立国であり大戦とは無関係だった)。
一説によると、この大流行により多くの死者が出たため、第一次世界大戦終結が早まったと言われている。
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[編集] 概要
[編集] 被害状況
スペインかぜは人類が遭遇した最初のインフルエンザの大流行(パンデミック)であり、感染者は6億人、死者は4000~5000万人に及んだ。当時の世界人口は8~12億人であったと言われているため、全人類の実に50%以上がスペインかぜに感染したことになる。日本では当時の人口5500万人に対し39万人が死亡、米国でも50万人が死亡した。これらの数値は、感染症のみならず戦争や災害などすべてのヒトの死因の中でも、もっとも多くのヒトを短期間で死に至らしめた記録的なものである。流行の経緯としては、第1波は前述の通り1918年3月に米国シカゴ付近で最初の流行があり、米軍のヨーロッパ進軍とともに大西洋を渡り、5月~6月にヨーロッパで流行した。第2波は1918年秋にほぼ世界中で同時に起こり、病原性が更に強まり重症な合併症を起こし死者が急増した。第3波は1919年春から秋にかけて第2波と同じく世界的に流行した(日本ではこの第3波が一番被害が大きかった)。
(参考:第一次世界大戦… 戦死者900万、非戦闘員死者1000万、負傷者2200万人。第二次世界大戦… 戦死者1500万、軍人負傷者2500万、一般市民の死者数3800万・・控えめな推定)
[編集] スペインかぜの正体
スペインかぜの病原体は、A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)である。ただし、当時はまだウイルスの分離技術が十分には確立されておらず、また主要な実験動物であるマウスやウサギに対しては病原性を示さなかったことから、その病原体は不明であるとされた。インフルエンザウイルスの病原性については1933年にフェレットを用いた実験から証明されたが、スペインかぜの病原体の正体は、アラスカの凍土から1997年8月に発掘された4遺体から採取された肺組織検体からやがてウイルスゲノムが分離されたことによって、ようやく明らかとなった。
これにより、H1N1亜型であったことと、鳥インフルエンザウイルスに由来するものであった可能性が高いことが証明された。よってスペインかぜは、それまでヒトに感染しなかった鳥インフルエンザウイルスが突然変異し、受容体がヒトに感染する形に変化するようになったものと考えられている。つまり当時の人々にとっては全く新しい感染症(新興感染症)であり、スペインかぜに対する免疫を持った人がいなかったことが、この大流行の原因だと考えられている。
なお、スペインかぜを含めたインフルエンザの病原ウイルスでは、ウイルスが産生する毒素などはまだ判っておらず、感染者の直接の死因ははっきりしてはいない。
スペインかぜについては、解読された遺伝子からウイルスを復元したところ、マウスに壊死性の気管支炎、出血を伴う中程度から重度の肺胞炎、肺胞浮腫を引き起こすことが判明した。このような強い病原性はウイルス表面にある蛋白質HA(赤血球凝集素、ヘマグルチニン)が原因である。また、スペインかぜウイルスは現在のインフルエンザウイルスよりも30倍も早く増殖する能力を持つことが分かっている(増殖をつかさどる3つのポリメラーゼ遺伝子による)。
[編集] その他
通常の流行では小児と老人で死者が多いのだがスペインかぜでは青年層の死者が多かった。これはパンデミック以前にH1N1亜型の流行があり壮年層に免疫があったのではないかという説があるが、少年以下層の死者が特に多くないために疑問視されている。現在では免疫機能の過剰反応により、白血球がサイトカインを異常に多く分泌することで肺など臓器が不全に陥る「サイトカイン・ストーム」が原因であるという見解が有力であるが、はっきりとした理由は得られていない。
日本での流行による死亡者の中には当然著名人も含まれている。代表的な例では元内務大臣の末松謙澄、東京駅の設計を担当した辰野金吾、劇作家の島村抱月、大山巌夫人で女子教育者の大山捨松、皇族の竹田宮恒久王、軍人の西郷寅太郎などがあげられる。
[編集] 名称についての議論
スペインかぜという名称は英:Spanish Flu(influenza)に対する訳語として作られたものであり、スペイン王室での流行が大きく報じられた事から名付けられた。しかし、インフルエンザと風邪は明確に別の疾病でありその重要性も大きく異なることから、「かぜ」という名称を使うべきでないと主張する研究者もおり、議論されている。主な表記には以下がある。
- スペインかぜ
- スペイン風邪
- スペインインフルエンザ
現状ではスペインかぜという名称がウイルス学の専門書でも使用されているが、名称変更についてまだ統一的な見解が得られていないというのが実情である。
[編集] 参考文献
- Niall Johnson: Britain and the 1918-19 Influenza Pandemic: A Dark Epilogue. Routledge, London and New York 2006. ISBN 0-415-365600
- 『史上最悪のインフルエンザ……忘れられたパンデミック』 - 原著 AMERICA'S FORGOTTEN PANDEMIC - 1989ケンブリッジ大学出版局・日本語版序文は2003・5 アルフレッド・W・クロスビー著(元テキサス大学歴史学教授) 西村秀和 訳(国立仙台病院ウイルスセンター長・元CDC客員研究員) 2004年1月16日 みすず書房 ISBN 4-622-07081-2
- 『四千万人を殺したインフルエンザ』スペイン風邪の正体を追って - ピート・デイヴィス 高橋健次 訳 文藝春秋 ISBN 4163557903
- 『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』人類とウイルスの第一次世界戦争 速水融 藤原書店 ISBN 4894345021
- French version, really bigger. Need to be translate.
[編集] 関連項目
- アジアかぜ
- 香港かぜ
- ソ連かぜ-遺伝子型がH1N1亜型でスペインかぜと同じな為、患者は上記より少なかった。
[編集] 外部リンク
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