シエスタ
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シエスタ(Siesta)とはスペイン語で午睡(昼寝)のことである。または、スペイン語圏を中心に生活習慣として社会的に認められている昼寝を含む長時間の昼休憩(13:00~16:00が目安)を指す言葉である。
Siestaという言葉は、ラテン語のHORA SEXTA(第六時)におけるSEXTA を由来とする。すなわち日昇を基準として「第6時」、つまりだいたい正午辺りの時間帯を指す。ポルトガル語では、同語源の語でsesta(セスタ)と呼ばれる。
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[編集] 午睡の習慣が見られる地域
シエスタはポルトガル南部のアレンテージョ(Alentejo)地方の午睡の習慣(sesta)がスペインに伝わり、その後スペインの植民地の内、酷暑がみられる南米やフィリピンにも伝わったとされる(酷暑がみられない旧スペイン領のオランダなどには午睡の習慣は見られない)。
しかし、午睡の習慣は中国・インドなどの熱帯・亜熱帯地域や地中海性気候である地中海沿岸のギリシャ・イタリア・中東・北アフリカでも一般的に見られる。また、日本でも炎天下での農作業は疲労を増大させるため夏季には早朝に農作業をして昼間以降は午睡を含む長い休憩をし、夕方になってまた屋外の作業をする農家が見られる。
習慣の伝播は別として、午睡を指す「シエスタ」という言葉は主にスペイン語圏で用いられる。
[編集] スペインのシエスタ
スペインでは、室温の日内変動とライフスタイルが密接に関係している。日本の外気温が最も高い時間帯とスペインのシエスタの時間帯(13:00~16:00)は重なるが、スペインの夏季の外気温の高い時間帯は日本より2時間ほど遅れている。また、シエスタの時間帯は室温が低く睡眠に適しており、午睡(シエスタ)が定着している。
[編集] 40℃を越える外気温
スペインでは大西洋沿岸北部が西岸海洋性気候であるが、それ以外は地中海性気候である。地中海性気候の地域では夏の降水量が少なく、冬の降水量が多い。夏季は降水量が少ないばかりか日照時間も長く、気温が40℃を越えることもしばしばである。
[編集] 夏季に最高気温は午後4時頃に記録する
スペインはグリニッジ標準時を採用できる経度にあるが、隣接国との関係から1時間早い中央ヨーロッパ時間を採用している。そのため13時頃に南中となり、15時頃に最高気温となる。ただし、スペインではサマータイムが導入されているため夏季は14時頃に南中し、最高気温は一般的に16時頃に記録する。
[編集] 建物自体の温度と室温
スペインの伝統的建物は開口部(窓など)が少なく、石やコンクリートで造られている。この建物自体の温度は、外気温が一般に1日の最高気温となる16時に向かって温度が上がっていく。
建物自体の温度上昇から少し遅れて、伝統的建物の内部では熱放射によって室温が上昇し16時を過ぎて夜間になっても室温が高い状態が続き、風通しの悪さから早朝になってもなかなか室温が下がらない。すなわち、窓を閉めて外気を入れない状態にした建物内部では昼間(16時前まで)が一番涼しく、夜間が熱帯夜の状態になる。
[編集] 室温とライフスタイル
以上のような要素が組み合わせられ、伝統的な建物に居住すると夜間は暑くてまともな睡眠を得られないが、昼間は室温が低いため充分な睡眠をとることが出来る。
このため、以下のようなライフスタイルが営まれている。
- 朝、窓や雨戸を閉め切って日射や外気の進入を防いだ状態で仕事に行く。
- シエスタで家に戻り、部屋が涼しい間に窓や雨戸を閉め切ったままぐっすり眠る。
- 16時近くになると室温が上がり、暑くて自然と目を覚ます。
- 16時頃に仕事に戻る。西日が入る部屋では窓・雨戸を閉めておく。
- 仕事から帰って来る20-21時頃は室内より屋外の方が涼しいため、庭や中庭(パセオ)で食事をしたりレストランのテラス席で食事をしたりする。室温を下げるため、日没後は窓は開けておく。
- 夜間、屋外は涼しいが部屋の中は熱帯夜状態であるため家で寝たとしても満足な睡眠は得られず、それならと街に出て朝まで飲み明かす人も多い。
- 不十分な睡眠のまま、また出勤して午前の仕事に向かう。
- シエスタの時間に家に戻って、涼しい部屋でぐっすり眠る。
[編集] 住宅の現代化の遅れ
スペインはOECD加盟国(先進国クラブと言われる)であるが、日本と比べると経済力が劣っている。そのため効率的な現代的住宅への建て替えや改善が進まず、伝統的な建物に住んでいる者が多い。また、家に冷房を導入出来るほど裕福ではない人も多い。そのため、いまだにシエスタの習慣は続いている。また、スペインでは車に冷房は標準装備されていない。ただし、パリと異なり地下鉄に冷房は標準装備。東京の営団地下鉄(当時)に冷房が標準装備されたのは1990年代初頭。
しかしEU統合によって国際的ビジネスが増えており、冷房を導入して現代的なライフスタイルをする家庭も増加してきたためシエスタの慣習を廃止する傾向がみられる。例えば、2006年1月1日よりスペインの公務員についてはシエスタが廃止された。
[編集] 食事との関係
スペインでは、夜間は汗だくで睡眠が不十分となるため疲労回復目的でクッキーなどで糖分補給をし、水分補給と眠気覚ましを目的にコーヒーを飲むという簡素な朝食のスタイルが一般的である。
シエスタの時間帯には涼しい部屋の中で昼食(スープ、メインディッシュ、デザート)をとり、夕刻(概ね16時頃まで)の時間を午睡の時間に充てている。この時間帯は商店、企業、官公庁などの多くが休業時間となっており、都市部や観光地において外国人旅行者が戸惑う姿がしばしば見られる。
上述のようなライフスタイルであるため仕事が終わる時間も遅くなり、夕食は21時頃からゆっくり時間をかけて食べる(レストランも深夜まで営業している)。
その後、飲みに街に出る場合は23~24時頃に待ち合わせをして、ある程度部屋の室温が下がった早朝頃に家に戻り出勤前に数時間眠る。
[編集] 商業との関連
スペインは日差しが強いため屋外競技の観客席は試合中、終始日陰になっている席(ソンブラ)が最も高く、試合途中から日陰になる席が次に高く(ソル イ ソンブラ)、試合中、終始日向の席(ソル)が最も安い(このような席料の違いは、昼間に開かれる闘牛でよく見られる)。このように日差しと席料に相関がある。そのため、全ての席が「日陰」となる日没後に収益性が最も高くなることからプロサッカー(リーガ・エスパニョーラ)の場合、日曜日であっても22時からのキックオフとなることがある(スペインは緯度が高いこと、中央ヨーロッパ時間を採用していること、サマータイムを採用していることから夏季は約2時間実際の時刻より早いため、日没の時刻は遅い)。また、選手の方も炎天下での試合は疲労が強くなるため、日没後の試合を望む傾向がある。開始の時刻が遅いこととシエスタを関連付ける向きもあるが、日曜日は仕事が休みで涼しい部屋で午前中から16時頃までぐっすり眠れるため、シエスタとの関連は強くない。
また、南向きの店舗は室温が高くなり冷房を導入すると維持費が高くなるため、日陰となる北向きの店舗用地の方が一般的に物件として高い。ただし、外国人旅行者はスペインに強い日差しを求めてやってくるため、保養地では外国人旅行客が好む南向きの店舗用地の方が高い場合もある。南向きの店舗では、日差しの強さや窓やドアの開閉によってシエスタの時間に室温が一日で最も涼しくならない。そのため、特に旅行者向けの商売をする業種にはシエスタをとらない店舗がある。
[編集] アルゼンチンのシエスタ
スペインの旧植民地であるアルゼンチンにもシエスタの習慣が存在する。
[編集] 気候
首都であるブエノスアイレスを含むパンパは温暖湿潤気候である。湿潤気候では昼夜の寒暖差が比較的小さい。
西部と南部(パタゴニア)はステップ気候と砂漠気候が中心の乾燥気候である。乾燥気候では昼間はかなり暑くなるものの、夜は気温が下がり、昼夜の寒暖差が大きい。
[編集] 夏季に最高気温は15時以降に記録する
アルゼンチンは大西洋沿岸諸国のブラジルとウルグアイに合わせて1時間早いUTC-3を採用しており、ブエノスアイレス近辺では午後1時頃に南中する。サマータイムを導入していないため、一年中ブエノスアイレス都市圏では15時頃が最高気温となる。ただし、ブエノスアイレスは東部に寄っているため国土のほとんとでは午後1時以降に南中し、15時以降に最高気温となる。
[編集] シエスタの時間帯
アルゼンチンのシエスタの時間帯は基本的に13:00~16:00である。しかし、実際には東西で本来の時差があるため基本的には8-12/16-20をビジネスアワーとしながらも、地域によって30分程度前後する。
ブエノスアイレス首都圏やパンパは湿潤気候であるため、シエスタを設ける必要性はあまり高くない。また、ブエノスアイレスには中産階級が多く、冷房を導入できるような裕福な暮らしをしている人も多い(都市内の経済格差は大きい)。そのため、ブエノスアイレスの中産階級の職場では、国際的な9-17時のビジネスアワーが採用されている。
他方、その他の地域は貧しく、冷房を導入出来るほどの余裕がない世帯も多い。また、乾燥地帯であるため、\シエスタの需要は大きい。
[編集] 評価
午睡の健康や午睡後の作業に与える好影響が科学論文として少なからず発表されており、この効果を見直す声も大きい。