カタツムリ
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カタツムリ(蝸牛)とは、陸に棲む巻貝の総称。特にその中でも殻が細長くない有肺類を言うことが多い。
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[編集] 概要
カタツムリという言い方は日常語であって、生物学的な分類単位ではないため厳密な定義はない。陸貝(陸に棲む腹足類)のうち、殻のないものをおおざっぱにナメクジと言い、殻を持つものをカタツムリやデンデンムシなどと呼ぶ。しかし殻に蓋をもつヤマタニシや細長い殻をもつキセルガイなど、「貝らしい」姿のものは一般にはカタツムリとは呼ばれない傾向がある。従って一般には蓋がなく触角の先に目を持つ有肺類の陸貝を言い、なかでも球型~まんじゅう型の殻を持つものを指すことが多い。
日本産ではオナジマイマイ科やニッポンマイマイ科の種類が代表的なものである。乾燥に弱く、移動能力が小さく、また、長距離の移動や山脈や水域を越えるのも難しいため、地域ごとに種分化が起こりやすい。種類は北より南の地方で多い傾向があるのは他の動物群と同様である。日本列島に限っても、広い分布域をもっているのは畑地や人家周辺にも見られるウスカワマイマイや、外来種のオナジマイマイなどごく僅かな種で、それ以外のカタツムリは地域ごとに異なる種が棲んでおり、関東と関西では多くの種類が入れ替わっている。また島などでは特に種分化が起こりやすく、南西諸島や小笠原諸島では島ごとに固有種が進化していることも多い。このような種分化は地球規模ではさらに顕著で、大陸間では科や属のレベルで大きく異なるのが普通である。
[編集] 形態
貝類のうち陸に棲むものは巻貝のみであるが、それらは多様な環境に適応して形態や生態が分化しており、中にはナメクジのように貝殻が退化したものや、キセルガイ科やオカチョウジガイ科のような細長い殻をもつものもある。大きさは日本産では1mm前後のものから数cm、アフリカなどには殻が20cm以上、体が40cm近くなる種もある。また、ヤマキサゴ科やヤマタニシ科のように殻にフタをもつものもあり、これらは一般にカタツムリと呼ばれる有肺類とは起源が異なるものである。
[編集] 体
体は軟体部とも呼ばれ、殻軸筋(かくじくきん)と呼ばれる筋肉で殻内の殻軸部に付着している。この筋肉を収縮させることで体を殻内に引き込むことができる。殻と体は別物ではなく、殻は体の器官の一つといえるもので、殻から出たカタツムリがナメクジとして生きていくようなことはなく、殻が大きく破損した場合には死んでしまうこともある。これは他の巻き貝も同じである。
一般にカタツムリと呼ばれる有肺類では頭部に触角が大小2対あり、大触角(後触角)の先端には眼がある。これに対しヤマタニシなどの前鰓類の陸貝では触角は1対しかなく、先がとがっており、眼はその根元にあるなどの違いがある。
触角のある頭部下面には口があり、口内の上には顎板(がくばん:jaw)が、底部にはおろし金状の歯舌(しぜつ:radula)があり、後者で餌を磨り取って食べる。ガラス面を這うカタツムリの口を観察すると赤味を帯びた小さいものが見え隠れすることがあるが、これが顎板で、さらによく見ると顎板の動きと呼応して透明の歯舌の運動も見られる。口は食道から胃へとつながり、奥の方でUターンして殻口近くで肛門となる。
カタツムリは他の有肺類と同様に雌雄同体で、触角の後方側面(右巻きでは右側、左巻きでは左側)に生殖孔と呼ばれる生殖器の開口部があるが、普段は閉じていて目立たない。生殖孔は一つであるが、そのすぐ内部では雌雄の二つの生殖器の開口部に分かれている。生殖行動時には内部から陰茎が反転翻出し相互に生殖孔に挿入して交尾が行われる。生殖器の構造は分類上きわめて重要な部分と考えられており、新種記載の際にはその構造を図示記載するのが通例である。同定する際にも解剖してその構造を調べなければならない場合も多く、古い時代に殻の特徴のみで分類されたものが、後に生殖器の構造からまったくの別科であったと判明したものもある。
リンゴマイマイ科やオナジマイマイ科など一部のグループでは生殖器に恋矢(れんし)と呼ばれる石灰質の槍状構造を持ち、交尾の際にはそれで相手を刺して刺激することが知られている。またオナジマイマイ科やニッポンマイマイ科では、生殖期に大触角の間の「額」の位置が盛り上がって瘤(こぶ)状になっているのが見られることがある。これは頭瘤(とうりゅう)と呼ばれるもので、性フェロモンを分泌すると考えられている。
[編集] 殻
[編集] 殻の巻き方
カタツムリには右巻き(右旋:dextral)と左巻き(左旋:sinistral)があり、上から見て、渦の中心からどちら回りに殻が成長するかで決められる。実際に区別をするには、殻頂を上にして殻の口を自分の方に向けたとき、殻の口が右にあれば右巻き、左にあれば左巻きとするのが簡単である。日本産のものでは種ごとに巻きの方向が遺伝的に決まっており、大部分の種は右巻きであるが、ヒダリマキマイマイなど少数の左巻き種がおり、キセルガイ科のように科全体が左巻きのものもいる。
巻きの方向を決めるのは一つの遺伝子によるとされ、この遺伝子が欠如もしくは機能しない場合、その種本来の巻き方向とは逆に巻いた逆旋回個体となるという。実際に逆旋個体が発見されることもあるが、きわめて稀な例である。通常、逆旋個体は体の構造も逆で、交尾孔も右旋個体は右側、左旋個体は左側に開く。多くのカタツムリでは対面しながらすれ違う位置で交尾孔のある側を相互に合わせるため、巻き方が逆であると交尾が困難となり種分化がおこる場合もあると考えられている。外国にはポリネシアマイマイやマレーマイマイのように同一種内で右巻きと左巻きの両方が普通に出現する種類もある。このような両旋型の種の交尾は、他方の殻の上にもう一方の個体が乗るマウンティング形式であるため巻き方の違う個体同士でも交尾が可能であるという。
[編集] 殻皮
カタツムリの表面には厚さ約0.01mm前後のキチン質で構成された殻皮と呼ばれる薄膜があり、石灰質で出来た殻の表面をスッポリと覆っている。殻皮はカタツムリに限らず貝類のほとんどの種類に存在し、石灰質の殻本体を腐食から保護するのが基本的な役目であるが、カタツムリではそれに加え汚れが付き難くする役目、彩色することにより殻を背景にとけ込ませる保護色の役目等も合わせもつ。
殻皮の表面には細かい凹凸や規則正しい微細なディンプルが無数に存在し、接着面積を少なくすることによって、殻皮に付着したゴミや汚れなどを雨で洗い落とす効果があり、その結果カタツムリは殻表をいつも美しく清潔に保っているとされ、この構造にヒントを得た防汚効果のある建物の外壁なども開発されている[1]。またフィリピンのタニシマイマイ類などには、二重構造の殻皮をもつことで日照時と降雨時の色や模様が変化し、鳥などの外敵から見つかり難くする効果を得ているとされる種類も知られている。
さらに殻皮が一部が変化して毛状になっている種類も世界中の色々な科に見られるが、その機能についてはよく分かっていない。欧州の Trochulus 属のカタツムリでは、水分の多い環境に棲む種に特に毛が発達する傾向が見られることから、濡れた殻が他物に吸着するのを防ぐためのものではないかとの説も出されている[2]。日本産ではシワクチマイマイ類やビロウドマイマイ類などが多数の毛に覆われた殻をもつ。またオナジマイマイ科のオオケマイマイなどの殻の周囲にも殻皮が伸びた毛が見られるほか、ヤマタニシ科のヤマトガイ類も長い毛を持つものが多いが、これらは老成すると脱落している場合も多い。
[編集] 殻の形
殻高が低い(=殻高より殻径の方が大きい)ものが一般的になじみがあるが、陸産貝類にはキセルガイ科(左巻き)やキセルモドキ科、オカチョウジガイ科(ともに右巻き)など細長い殻をもつものもある。カタツムリと呼ばれるものの中にも、オナジマイマイ科のトウガタホソマイマイやニッポンマイマイ科のヤマタカマイマイなども日本産の一般的な種に比べると殻高が高く、外国産のものでは更に長い殻をもつものも多く知られる。一般的に樹上や岩などの壁面を生活圏とする種類で殻高の高くなる傾向がある。しかし例外も多く殻形の適応については必ずしもよくわかっていない。
海の貝では捕食者に対抗するために棘や瘤などで殻を武装するものも多いが、日本産のカタツムリでは目立つ突起を持つ種はいない。世界的に見ても小型~微小な種で棘をもったものが少数知られるほかは、大部分の種は滑らかもしくは多少のシワやデコボコ、もしくはある程度の螺肋(らろく)や縦肋(じゅうろく)をもつ程度である。これは活動の妨げになることと系統による制約との両方が関係していると考えられるが、明確な説はない。また海の貝によく見られる螺肋は陸の前鰓類ではしばしば見られるが、有肺類に限ってはほとんど見られない。
[編集] 殻口
陸貝のうち前鰓類(ぜんさいるい)のものは殻口を塞ぐ蓋をもつが、カタツムリの大部分は蓋をもたない有肺類である。そのため、敵に襲われて殻内に逃げ込んでも殻口が無防備となりやすく、一部の種では殻口を厚くしたり狭くしたりして、殻破壊の糸口や外敵の侵入などを防ぐように進化している。キセルガイ科では殻の内壁が弁状に突出したバネ式の閉弁構造を発達させており、体が殻奥に引っ込むと自動的に通路を塞ぐようになっている。またキバサナギガイやスナガイ、クチミゾガイ類なども殻口や殻内に多数の歯状突起や襞(ひだ)をもつ。海岸近くに棲むオカミミガイ科にも同様の歯状突起をもつ種が多い。外国のものではオニグチマイマイやサカダチマイマイなどが殻口内部に複雑な突起を発達させた種としてよく知られている。このような様々な殻口の構造は成貝になって初めて形成されるのが普通で、成長の最後の仕上げとして大きなエネルギーを費やすのである。このような殻口には種類ごとの特徴が出やすく、殻口が破損しているものや完全に形成されていない幼貝などでは同定が難しい場合も多い。殻口は貝自身にとっても観察者にとっても重要な部分の一つである。
[編集] 殻の模様と色
カタツムリには様々な模様のあるものも多く、特に「色帯(しきたい)」と呼ばれる、殻頂を上にしたとき水平方向に走る帯状の模様をもつものが多い。このパターンは系統とは関係なく世界中のカタツムリに多く見られる。日本産のミスジマイマイ属(Euhadra)では色帯の出る位置が決まっており、その位置は上から順に1~4の番号が振られ、帯がない場合は0で表記される。全部の色帯が出たものは1234、まったく色帯のないものは0000となる。この色帯も遺伝子に支配されていると考えられており、同一種の同一個体群内でもいろいろなものが見られることも多い。
また色帯と垂直に交わる色の濃淡が見られる場合もあり、これは「火炎彩」や「虎斑(こはん)」あるいは「トラマイマイ模様」と呼ばれる。これはニシキマイマイやハリママイマイ、ヒタチマイマイなどでよく見られる。模様の呼称の元となったトラマイマイはシモダマイマイの斑紋の顕著な一型とされ静岡県などに分布する。
カタツムリの色は一般に茶色系統のものが多く、特に日本産のものでは色彩の乏しいものが多い。しかし熱帯にはミドリパプアのような鮮やかな黄緑色や、コダママイマイやハワイマイマイのような鮮やかな模様をもつものなど、黄色や紫やピンクなど美しい色彩をもつものも多く、これらも生息環境に適応して進化した結果であると考えられている。また伊豆諸島に分布するシモダマイマイでは殻の色彩が同地域に住むヘビの模様と呼応して変化しており、鳥などの捕食者に対するベイツ型擬態(Batesian mimics)ではないかという説もある。
[編集] 生態
[編集] 生息環境
多くの種は乾燥に弱いためある程度の湿度があるところに多く生息するが、乾いたところを好む種類もあり、中には砂漠の環境に適応した種さえある。ミジンマイマイやウスカワマイマイのように海岸や畑地、道路や人家周辺などの開けた場所を好む種や、深山にしか生息しない種などがあり、種ごとに地理的分布や生息環境が決まっていることが多い。中には岩の表面に住むもの、朽ち木にいるもの、あるいは樹上性のものなど、限られた条件にのみ生息するものもある。
また、貝殻の材料となるカルシウムはカタツムリにとって補給の難しい資源であり、個体数の制限要因となり得る。したがって、それを豊富に供給してくれる石灰岩地はカタツムリにとって好適な環境である。そのため種類も個体数も多いことで知られる。たとえば沖縄の隆起珊瑚礁の森林では、温暖な気候も相まってカタツムリの個体数が多く、貝殻を踏まずに一歩も歩けないほどである。また石灰岩地で種分化して固有種となっているものも多い。このようなことから、ある場所で採取された一群のカタツムリを見ることで、その地理的位置やおおよその環境を推定することも可能である。
[編集] 生殖
ヤマタニシなどの前鰓類では雌雄異体であるが、有肺類では同一個体が卵子と精子を持つ雌雄同体である。したがって自家受精するものもあるが、一般には他の個体と相互に交尾することで受精し産卵する。交尾の際、精子は精莢(せいきょう)と呼ばれる入れ物ごと受け渡されるのが普通である。一般には生殖器を直接挿入しない動物が精子の入れ物として精莢を形成するが、カタツムリは直接交尾をするにもかかわらず精莢を作るため、その機能は精子運搬のためだけではなく、精子の栄養体ではないかと考えられている。精莢は雄部生殖器の一部を鋳型として形成されるため分類群によって違った形をしているが、概ね半透明で細長いのが一般的で、受け取った側の雌部生殖器内で分解される。
卵は炭酸カルシウムの殻で覆われた球形のものが多いが、寒天質のものや、ノミガイ科やキセルガイ科の一部のように卵胎生で稚貝を直接生むものなどもある。産卵場所は地面の浅いところや朽木の下、木の根元の隙間などで、卵は頭部後方側面の生殖孔から一つずつ産み落とされ、一箇所にまとめられているのが普通である。多くは1週間から1ヶ月程度で孵化し、ミニチュアのカタツムリとして這い出てくる。
[編集] 餌
ほとんどの種は植物性のものを食べ、生の植物や枯葉などやや分解の進んだ植物遺骸などを食べるほか、菌類を餌とするもの、雑食性のものなどがあり、一般にやや広い食性をもつ。また建物壁面やガードレールなどの人工物の表面に発生した藻類も餌となり、その食痕は日常的に見ることができる。農作物や園芸植物を食べるウスカワマイマイやチャコウラナメクジは害虫として駆除の対象ともなる。多くの種がセルロースを分解吸収できるため、新聞紙やチラシなどの紙類もよく食べ、その場合には糞も元の紙の色になる。
しかし中には他のカタツムリを捕食する肉食性の種もあり、米国南部原産の肉食種ヤマヒタチオビはアフリカマイマイの駆除のためにハワイや小笠原諸島、その他の太平洋諸島に人為的に移入された。しかしアフリカマイマイの駆除にはあまり役立たず、むしろこれらの島々の固有種を捕食して絶滅に一役買うこととなってしまった。このほか近年日本の一部に定着した地中海原産のオオクビキレガイも農作物のほか陸貝を捕食すると言われており、ニュージーランドのヌリツヤマイマイはミミズを捕食する大型種として知られる。
雨が降った後、ブロック塀やコンクリート壁にカタツムリが沢山現れる所を見る事があるが、これはコンクリートに含まれる塩分を摂食する為に集まっている現象である。
[編集] 天敵
カタツムリを主食とする動物(天敵)としては、ホタル類の幼虫やオサムシ類のマイマイカブリがよく知られているが、欧州に分布するアゴザトウムシ科 Ischyropsalididae のザトウムシも主にカタツムリを食べることから、ドイツ語で Schneckenkanker("マイマイザトウムシ"の意) と呼ばれる。石垣島や西表島に生息するイワサキセダカヘビもカタツムリを専食することで知られ、顎を器用に使い貝の中身だけを食べる。これらの専食者以外にも多くの動物が捕食者となり、なかでも鳥類は主な天敵の一つである。また地上性のカタツムリでは、ヤマネズミ類、イタチ、アナグマ、ツチブタ、タヌキ、イノシシ、トカゲ類、カエル類、等の動物にも捕食されるほか、コウガイビルやニューギニアヤリガタリクウズムシなどの扁形動物、線虫類、捕食寄生をするハエ目の昆虫など敵は非常に多い。
[編集] 寿命
カタツムリの寿命は種によって大きく異なるはずだが、それほど詳しいことはわかってはいない。大型のマイマイ類では数年、小型の殻の薄い種類では1年程度かそれ以下と考えられており、ウスカワマイマイの寿命は普通1年で後者に属する。キセルガイ科のものは長寿傾向にあり、野外で成貝として採取したナミコギセルを15年間飼育した例も知られている。この例では、飼育環境を不注意に乾燥させてしまったのが死因であるため、実際には更に長生きした可能性もあるという。
[編集] 人とのかかわり
[編集] 名称に関して
別称:デンデンムシ・マイマイ・蝸牛(かぎゅう)など。 柳田國男はカタツムリの方言(デデムシ、マイマイ、カタツムリ、ツブリ、ナメクジ)の分布の考察を通して、『蝸牛考』において方言というものは時代に応じて京都で使われていた語形が地方に向かって同心円状に伝播していった結果として形成されたものなのではないかとする「方言周圏論」を展開した(ただし、晩年の柳田は方言周圏論の問題点を認識するようになっていた)。
他の言語では陸のカタツムリと水生の巻貝類を呼び分けないこともあり、翻訳などの際に注意が必要である。たとえば英語のsnailや独語のSchneckeなどはカタツムリばかりでなく巻貝全体を指す語であり、単に"snail"などとある場合には前後関係から陸生か水生かを判断しなければならない。これらの言語では特に陸貝を言う場合はland snail(s)、Landschnecke(n)などと言うこともある。
[編集] 食品・民間薬
フランス料理として有名なエスカルゴは専用のブドウ畑(高級品ならワイン用の品種のブドウを用いる)で寄生虫がつかないよう衛生的に養殖されたリンゴマイマイ科(Helicidae)のカタツムリの一種であり、主にヨーロッパとヨーロッパ系人種が多いアメリカで食用にされ、養殖も盛んに行われている。スペイン・バレンシア地方では、パエリアの具材として欠かすことのできない食材である。ギリシャでも広く食用にされている。フランス領のニューカレドニアなどでは、現地に産するトウガタマイマイ科のPlacostylus属のものが大量に消費されてきた。
缶詰などのエスカルゴにはアフリカマイマイなどを使ったものも多く、中国や台湾などでは白珠といわれる軟体部の白いアフリカマイマイの品種が多く養殖されている。アフリカマイマイ科とリンゴマイマイ科では足の溝の特徴が異なるため、缶詰の肉でも判別可能である。一般にはアフリカマイマイの肉の方がやや硬いとも言われるが、調理法や個人の嗜好にもよるため優劣を比較することはできない。
日本でもカタツムリを食べる文化は古くからあり、子供がおやつに焼いて食べたほか、喉や喘息の薬になると信じられ、殻を割って生食することも昭和時代まで一部で行われていた(後述にもあるがカタツムリは寄生虫の宿主である事が多く、衛生的に養殖された物を除き生食する行為は危険である)。また殻ごと黒焼きにしたものも民間薬として使用され、21世紀初頭でも黒焼き専門店などで焼いたままのものや粉末にしたものなどが販売されている。また普通のカタツムリではないが、福島県郡山地方などでは、キセルガイを「カンニャボ」と呼び肝臓の薬としてエキスや粉末などを販売している。
[編集] 食用上・飼育観察上の注意
種類にもよるがカタツムリやナメクジ、ヤマタニシやキセルガイなどの陸生貝およびタニシ類などの淡水生の巻貝は広東住血線虫などの寄生虫を持っている事がままあり、触れた後にしっかり石鹸や洗剤で手や触れた部分を洗わなければ、直接および間接的に口・眼・鼻・陰部などの各粘膜および傷口から感染する恐れがある。また、体内に上記の寄生虫が迷入・感染すると、中枢神経系で生育しようとするために眼球や脳などの主要器官が迷入先である場合が多いので、罹患者は死亡または重い障害が残るまでに至る可能性が大きい。
[編集] 信仰
カタツムリを信仰対象とするものは、前述の民間療法と関連したと見られるものが多く、東京都府中市の大國魂神社では、境内にある大イチョウの根元に生息するキセルガイを煎じて飲めば母乳の出がよくなるという信仰があったという。イチョウは大木になると気根が垂れるため母乳信仰が生じたとも言われるが、そこにキセルガイが生息していたことで貝と母乳が関連付けられたのかも知れない。
埼玉県秩父地方には子供の耳ダレに験があるとされる「だいろ神」というカタツムリ神があり、祠にはカタツムリの殻を奉納したと言われる(「だいろ」とはカタツムリのことで、地方によってはナメクジを指すこともある)。珍しい信仰で、カタツムリの粘液からの発想である可能性が高いが、詳しい由来は不明である。
直接民間療法とは関係しない例としては、九州地方やその周辺部のキセルガイ信仰がある。これは神社の大木の樹幹などに生息するシーボルトコギセルやギュリキギセルなどを信仰対象としている。これらの貝は乾燥や飢餓に比較的強く、殻内に入ったまま長期間(数ヶ月以上)生存するため、旅や出征に赴く際に神社の樹から採ってお守りとして持ち歩き、無事帰還したときに再び神社の木に戻すことなどが行われた。同様の信仰のある山口県下関市の一の宮住吉神社では、シーボルトコギセルを象ったお守りも販売されている。さらに熊本県などではキセルガイを「夜泣き貝」といって、子供の夜泣きにも効くとされ、夜泣きする子の枕下に貝を入れ、治ればもとの樹に戻すという信仰があったという。
[編集] 民俗・芸能
カタツムリは古くから子供たちに親しまれていて、日本では多くの童歌や囃し文句などがあるほか、多くの呼称がある。これらは柳田國男の『蝸牛考』にも方言周圏論の好例として多く採録され、でんでんむしなどその語源なども考察されている。同氏によれば「でんでん」は「出ろ、出ろ」と子供がカタツムリを指して呼ぶ言葉が訛ったものではないかと推測している。なお童謡の歌詞にある”ツノ出せヤリ出せ頭だせ”の”ヤリ”とは、交尾の際に出る生殖器や恋矢とする説もあるが、真偽のほどは不明である。
[編集] かたつむり(唱歌)
作詞作曲不詳、「尋常小学唱歌」(1911年(明治44年)発表)
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[編集] その他
八重山諸島に古くあった焼物であるパナリ焼きは、土にカタツムリを混ぜて作られたと言われる。良質の粘土がなかったため、土をつなぐ役割を果たしたらしい。
[編集] 脚注
- ^ カタツムリの防汚メカニズムに学ぶ--INAX eショールーム
- ^ Markus Pfenninger, Magda Hrabáková, Dirk Steinke, Aline Dèpraz. 2005. Why do snails have hairs? A Bayesian inference of character evolution. BMC Evolutionary Biology 5:59.11pp. pdf(doi:10.1186/147-2148-5-59)
[編集] 参考文献
- Abbott, R. Tucker, 1989. Compendium of Landshells. American Malacologists, Inc: Melbourne Florida. 240 pp. ISBN 0-915826-23-2