エアバスA320
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エアバスA320
エアバスA320(Airbus A320)は、欧州エアバス社が制作した近・中距離向け商業旅客機である。民間機として初めてデジタル式フライバイワイヤ制御システムを採用したハイテク旅客機であり、サイドスティックによる操縦を採用しているのが特徴である。座席数は標準2クラス仕様で150席程度。バリエーション(A320 ファミリー)として、短胴型のエアバスA318、エアバスA319、長胴型のエアバスA321がある。
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[編集] 歴史
エアバスA300の成功を受けて、次の計画としてエアバス社は150席程度の小規模な旅客機に需要があると見込んだ。1970年代における同規模の旅客機としては、ライバルメーカーのボーイングが製造していたボーイング727があった。727は初就航が1964年であり、これの更新需要も見込むものとした。開発当初はボーイング727規模の旅客機にする予定であったのだが、開発中にオイルショックにより石油価格の値上がりがあったため、ボーイング727よりも低燃費の旅客機を開発する必要があり、ボーイング737規模の旅客機となった。
1980年にSA-1(120から150席)およびSA-2(150から180席)の開発計画が公表された。SAは客室の通路が1本のナロウボディ機であることを意味する。後に両者の計画は統合され、150から179席の計画となり、A320として1984年から本格開発が開始された。
A320シリーズで最初に登場したA320-100は、1987年2月22日に初飛行している。1988年3月28日にエール・フランスにより初就航されている。その後、主翼中央に燃料タンクを増備したA320-200に注文が集中したためにA320-100型機は初期に生産された僅か21機に留まっている。
後継機として、エアバスNSR計画がある。
[編集] 機体
機体としては、旅客機として一般的なものであり、低翼配置の主翼で後退角は25度である。ジェットエンジンをパイロンを介して二基搭載した。そのエンジンはCFM インターナショナル CFM56とインターナショナル・エアロ・エンジンズ V2500のいずれかを選択可能であり、日本で同型機を運航する全日空・スターフライヤーの両社は共にCFM56エンジンを選択した。
- 民間機初のデジタルフライバイワイヤ飛行制御システム
- 操縦桿に代わりサイドステックを採用した初めての民間航空機(フライバイワイヤ導入により可能となった)
- グラスコックピット
- 航空機関士が不要のコクピットクルー2人制(ボーイング727型機のコクピットクルー3人制と比較して)
- ナローボディ機として唯一、ワイドボディ機に搭載されるLD3-46/46W(LD-3の低型)コンテナを搭載可能
このクラスの機体でコンテナ化するには長所としてスペース効率が良い、濡損・破損可能性の低下、取扱時間の短縮がある。一方、短所として地上支援機材の必要性からのコスト高、LD-3-46/46Wの他機種でのスペース効率の悪さなどがある。A318はコンテナシステムは採用せず従来のバラ積み対応のみとなる。また、オプションでスライディングカーペットを採用できた。
[編集] 派生型
A320-200では翼内の燃料タンク増備の他、主翼端には空力性能向上のためのウイングチップフェンスが取り付けられている。
エアバスA321も参照
A320を市場投入時、エアバスはさらに細やかな顧客である航空会社の要望に応える為、A320の派生型の開発を検討していた。 特にA320とA310との間では座席数の差がある為、A320のストレッチ(胴体延長)を計画、1989年にA321として開発を発表、変更点として下記をA320から変更した。
- 胴体を主翼前後二カ所で延長(前方は4.27m、後方は2.64m、合計6.91m延長)
- エンジンを推力増加型へ変更
- 緊急脱出用口の再配置(FAAの90秒ルールに則り)
- 降着装置、機体構造の一部を強化
- システム追加、主翼後縁改修
エアバスA319も参照
エアバスは続いてA320の小型化を検討、1993年にA319として開発を発表した。 A320からA319への変更点は下記の通り。
- 胴体を主翼前後二カ所で短縮(前方は1.60m,後方は2.13m,合計3.73m短縮)
- エンジンを推力減少型へ変更
- 主翼上面前方緊急脱出用口の廃止
- システムの最適化
- 後方貨物室とバルク(バラ積み)貨物室の変更
エアバスA318も参照
エアバスはA319の成功で製品群の最小機となったが、それより座席数の少ない100席クラスの機体への市場が見込まれていて、1997年に中国・シンガポール・イタリアのメーカとの共同作業について、概要で合意した。機体名称はAE316となっていたがその後このフレームワークをたたき台としていくつかの変遷を受けて1999年にA318として開発を発表。
- AE316当初は新設計の胴体・主翼・尾翼が考えられていたが、胴体径が居住性で利点が見込める為、A320の胴体径を採用
- エンジンに関して新たにプラット・アンド・ホイットニー社製PW6000エンジンを採用、他に選択エンジンとしてCFMインターナショナル社製CFM56エンジンも採用
- 貨物室はLD-3-46/46Wのコンテナ使用はやめてバラ積みのみ対応となるが胴体径がA320と同じためオプションでスライディングカーペット(床面をパネル状にして取り扱いを容易にする方法)を選択可能
- A318はEAA(欧州航空安全局)より急勾配進入証明を取得している為、騒音規制や地形上進入規制の設定されている空港で優位に使用可能
[編集] 運航状況
エールアンテールが最初にA320-100を受領したが、同社はエールフランスに吸収されたためその後はエールフランスが運行した。また、ブリティッシュ・カレドニアン航空もA320-100を受領したが、ブリティッシュ・エアウェイズに吸収された。
当初はエアバス社お膝元のヨーロッパを中心に運航されてきたが、最近ではボーイング社の本拠地アメリカでもノースウエスト航空、ジェットブルー航空、Ted(ユナイテッド航空傘下の格安航空会社)などの航空会社への売り込みにも成功させ、A320-200と派生型のA318、A319、A321が運航されている。
アジア・オセアニアでもカンタス航空傘下のジェットスターや、シンガポール航空傘下のタイガーエアをはじめほとんどの国で運航中。
日本では、全日空グループにより1991年から国内線用小型機として運航されている。将来的にはエアバスA321型機と共にボーイング737NGシリーズに代替される予定であるが、全日空グループでは2006年度事業計画で当機材の増備を表明したことや、中部国際空港から初の国際線に就航したこともあり、今後の代替計画見直しもあり得る。また、2006年3月に就航したスターフライヤーもA320型機を選定し、2007年11月時点で4機を導入している。
[編集] 仕様
※(仕様による誤差あり)
A320 | A321 | A319 | A318 | |
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乗客 | 2Class 150名 | 2Class 185名 | 2Class 124名 | 2Class 107名 |
全長 | 37.57 m | 44.51 m | 33.84 m | 31.44 m |
全幅 | 34.09 m | |||
全高 | 11.76 m | 11.76 m | 11.76 m | 12.56 m |
胴体幅 | 外部3.96 m/ 内部 3.70 m | |||
最大離陸重量 | 73.5 t | 83.0 t | 64.0 t | 59.0 t |
最大燃料容量 | 23,860 l | 23,700 l | 23,860 l | 23,860 l |
基本空虚重量 | 41.0 t | 47.7 t | 40.1 t | 38.4 t |
エンジン | CFM 56-5 , IAE V2500 |
CFM 56-5 , IAE V2500 |
CFM 56-5 , IAE V2500 |
CFM 56-5 , PW6000 |
エンジン推力 | 22,000 ~ 27,000 lb | 30,000 ~ 33,000 lb | 22,000 ~ 27,000 lb | 21,600 ~ 23,800 lb |
巡航速度 | Mach 0.82 | Mach 0.82 | Mach 0.82 | Mach 0.82 |
航続距離 | 4,900 ~ 5,700 km | 4,350 ~ 5,600 km | 3,300 ~ 6,800 km | 3,300 ~ 6,000 km |
貨物 (バルク) | 37.41 m³ | 51.76 m³ | 27.46 m³ | 21.21 m³ |
貨物 (コンテナ) | LD-3-46/46Wx7 | LD-3-46/46Wx10 | LD-3-46/46Wx4 | - |
[編集] 事故概略
(2005年現在、A320型ファミリー)
- 機体損失事故:12回、総計440人死亡。
- 他の原因:3回、総計0人死亡。
- ハイジャック:6回、総計1人死亡。
[編集] 関連項目
- 飛行機
- エールフランス296便事故 - 就航したばかりのエールフランスのA320がデモフライト中墜落した。
- ダッソー・メルキュール
[編集] 外部リンク
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旅客機 | A300・A310・A320・A330・A340・A380 |
軍用機 | A310 MRTT・A330 MRTT |
開発中 | A350・A400M・NSR |