操縦桿
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操縦桿(そうじゅうかん)とは航空機や宇宙機の姿勢変化を入力するための装置。現在は前後に動かすと機首が上下し(ピッチ)、左右に動かすと翼の傾きが変化する(ロール)という人間工学的に自然な方式が確立している(ライトフライヤーなどごく初期の飛行機では必ずしもこうなってはいなかった)。
狭義には、棒状(コントロール・スティック)のものを操縦桿と呼び、自動車のステアリングに似た形状のものは操縦輪(そうじゅうりん。コントロール・ホイール、コントロール・カラム、ヨークなどとも)と呼んで区別することもある[1]。操縦桿が前後左右に「倒す」操作であるのに対し、操縦輪は自動車同様の「左右への回転」に加えて「前後へ倒す」あるいは「前後に抜き差し」する操作が加わったものとなっている。戦闘機やヘリコプターなどは操縦桿、小型飛行機や旅客機・輸送機などは操縦輪を採用している。一般に、機動性が求められる場合は操縦桿を、ゆっくりとした操作が求められる場合は操縦輪を採用する(例えば、急激な操作をすべきでない超高空を飛ぶU-2は操縦輪)。
操縦桿・操縦輪とも操縦室内、パイロットの正面に取り付けられていることが多い。 F-16以降の戦闘機やエアバスのA320以降の旅客機のように、フライ・バイ・ワイヤを採用した機種では、パイロットの左右(通常は右)に取り付けられているケースもあり、サイドスティックなどと呼ばれる。 F-16の場合は、通常の戦闘機よりもシートが後方に強く傾斜しているため、正面に操縦桿を配置すると手が届かないことと、操縦桿をサイド配置とし、脇を緩めた姿勢で操作する方が、高いGがかかった際の心肺機能への負担が少ないから、とされる。 一方、777以降はフライバイワイヤとなっているボーイングの旅客機では操縦輪タイプを維持しており、設計思想の違いがあらわれている。 また、ボーイング製の戦闘機はサイドスティックを採用しておらず、この点でもロッキード・マーティン等と異なる設計思想にあるといえる。 これは機種転換における問題だけでなく、何らかの要因で右腕が動かせなくなった場合、操縦がほぼ不可能となるという構造上の欠点を重く見たためと言われる。
副操縦士を置く機体では、正副両操縦士席に操縦桿(輪)を備え付けることが一般的である。多くの場合、複数の操縦桿は1つの操作系統に結び付けられており、どちらも他方に優越して作動しないようになっている。しかし、混乱した状況では逆にこれが事故を誘発することもある。例えば、一方の操縦士が上昇、もう一方が下降することを最善と判断した場合、2人が逆の操作を行い、姿勢が変化しなくなる。この結果、実際には操縦系統には問題がないのに「不具合により操作不能になっている」との勘違いが起こりうる。これを防ぐために、操縦士の間で操作を受け渡す訓練を行い、受け渡す手順を設定している(多くの場合、渡す側受ける側で「You have control」「I have control」の声かけが行なわれる。“君が操縦しろ”“私が操縦します”の意)。また、一部の機体では、誤作動を防ぐため、使用していない操縦桿を操作不能にする機能が設定されている場合もある。
一般に操縦桿(輪)には無線通信用マイクのスイッチが取りつけられており、他にトリムの作動スイッチを備えるものも多い。F-15のような戦闘機などでは、操縦桿に加えスロットルにも多様なスイッチを備え、レーダーの操作や武装の選択・発射までを手を離さすことなく行えるようになっているものがある。こうした構成は、HOTAS(Hands On Throttle and Stick, 両手をスロットルとスティックにおいたまま)と略称される。
スペースシップワンの操縦席。両手を添えているのが操縦桿 |
ダグラス DC-3の操縦室。操縦輪は自動車のステアリングに似ているが、捻るのみで回す必要がないので頂部は抜けている |
ボーイング747(クラシック)。2つの操縦輪が機械的に繋がっており、同じ角度だけ傾いている様子がわかる |
単発・単座ながら操縦輪のU-2 (偵察機)。下方、手前にあるのが操縦輪 |
[編集] 注
- ^ さらに、カラム(column, コラム。英語で柱のこと)は支柱部分を、ホイール (wheel. 英語で輪のこと) は握って動かす部分を指して区別することもある。ヨーク(yoke, 英語でくびきのこと)は円形でなくUの字状やY字状の操縦輪を特に指して使われることもある。