間合い運用
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間合い運用(まあいうんよう)とは、主に鉄道などの交通機関における運用法の一種である。本来は特定の路線・便のために用意された車両・機材を、遊休時間に本来の用途ではない他の路線・便へ流用することをいう。また、これによって運用される路線・便そのものを指す場合もある。車両等の待機時間を減少させ、運用を効率化させるために実施される。
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[編集] 鉄道
鉄道においては、本来は用途や使用路線が限定されている車両を異なる種別・路線の列車に充てることをいう。特急形車両や急行形車両を普通列車・快速列車・ホームライナーなどに用いる例が多い。運用効率向上のほか、占有面積の大きい留置列車を減らすことで車両基地のスペースを節約できるという副次的効果もある。
また、車両基地と始発・終着駅との間で列車を回送する代わりに営業運転することも間合い運用と呼ばれることがある。回送列車をその区間の需要に応じた旅客輸送に利用することにより、経済的な効率を向上させている。ただし、この場合は主に送り込み列車と呼ばれる。
複数の事業者で相互乗り入れを実施している場合、乗り入れ先での運行距離の調整により車輌使用料の相殺を図る場合がある。そのため他社線内のみの折り返し運用として充当されることもあり、アルバイト運用とも称される。この例は直通運転の記事に詳しい。
なお特急形車両を用いた普通列車など、本来は特別料金を必要とする設備を有する車両を普通乗車券のみで利用可能とした列車を特に乗り得列車と呼ぶ場合がある。特別急行にちなみ特別鈍行なる俗語がある。
[編集] 鉄道における例
[編集] 現在行われているもの
- JR東日本 - 津軽線普通列車
- 東北本線・津軽海峡線特急の運行本数が少ない朝の時間帯、通勤輸送用として一部の列車に特急車両が用いられている。
- JR東日本の - 東海道線・伊東線普通列車
- 一部は「踊り子」に使用される185系電車を使用する。東京駅にはこの列車のための乗車目標がある。
- JR東日本 - 快速「フェアーウェイ」
- 土日祝日のみ、「ムーンライトえちご」に使用される485系電車を使用して運転する。
- JR東海 - JR東海373系電車
- 快速ムーンライトながらおよび特急「伊那路」「ふじかわ」として運転されるほか、静岡・東京間の普通列車、また平日には大垣・米原間の普通列車にも使用される。
- JR各社 - ホームライナー
- 朝夕のラッシュ時、特急形車両を定員制の快速列車「ホームライナー」として運転する例が多数見られる。送り込み列車の意味合いでの運用が発祥だが、現在では送り込み列車に限らず設定されている。東京・名古屋・大阪周辺に多く見られるほか、一部の地方都市圏でも運転されている。
[編集] 過去に行われていたもの
- 名鉄特急および富山地方鉄道「アルペン特急」
- 2000年まで運転されていた特急「北アルプス」は専用車両を用いて1日1往復運行され、下り列車が新名古屋駅(当時)を日中に出発し、その車両が上り列車として翌日夕方に到着するダイヤであった。そのため、朝夕は名古屋本線や常滑線の特急に充当されていたことがある。また富山地方鉄道立山線に乗り入れた際は立山駅へ夕方に到着、翌昼出発するダイヤであり、その間は富山地方鉄道線内のアルペン特急に利用されていた。
- 寝台特急「日本海」
- 1975年~1978年、早岐客車区所属の14系客車が使用されており、「あかつき」で長崎・佐世保から大阪に到着した編成を「日本海」に充当して青森まで往復、再び「あかつき」で長崎・佐世保に戻る広域運用が存在した。
- 特急「ひたち」
- 1969年10月、常磐線初の特急列車として「ひたち」が誕生したが、当初は同時期に誕生した羽越特急「いなほ」の編成である秋田運転所(現:秋田車両センター)所属の80系気動車を間合い使用していた。
- 上り「いなほ」の上野駅到着後「ひたち」として往復(平駅<現:いわき駅>で夜間滞泊)、翌日「いなほ」として秋田駅へ戻る運用を組み、両者とも電車化される1972年10月まで共通運用が続いた。
- 特急「あおば」
- 1970年2月に奥羽線特急「つばさ」が181系気動車に置き換えられたが、下り「つばさ1号」は秋田駅到着後、上り「つばさ2号」として折り返すまで1日近く遊休される運用となっていた。そこで1971年4月に仙台駅~秋田駅間を北上線経由で走る特急「あおば」を1往復設定したが、1975年11月の「つばさ」電車化に伴い急行「きたかみ」へ格下げされた。
- 在来線エル特急「あさま」
- 1973年10月より、上野~金沢間の「白山」で上京した金沢運転所(現:金沢総合車両所)所属の489系を上野~長野間の「あさま」に充当する間合い運用が存在した。この運用は1978年に一旦消滅するが1985年に再設定され、1986年に分割民営化後に備えた車両配置転換で再び解消されたが、1992年に「白山」の系統分割に関連して三度(みたび)設定され、長野新幹線の開業前日まで運転された。
- 国鉄ED75形電気機関車
- 青森機関区のED75形1000番台(P形)は寝台特急「ゆうづる」を水戸・平(現いわき)~青森間で牽引していた。水戸・平で折り返す間は常磐線内の旅客・貨物列車に使用されたが、省力化のため、両エンドにヘッドマークを掲げたまま走行していた。
- 国鉄EF81形電気機関車
- 東北地方に701系電車が導入される前、青森周辺の東北本線や奥羽本線では普通列車に客車が使用されていた。これらの列車は主にED75形電気機関車が牽引していたが、JR初期に東北本線(盛岡~青森間)の一部の普通列車を田端運転所所属のEF81形電気機関車が牽引していた。これは寝台特急「北斗星」などで青森へ到着し、日中は青森で待機する機関車の有効活用を狙ったもので、北斗星塗装のEF81が50系客車を牽引する光景が見られた。
[編集] 送り込み運用の例
- ホームライナー大宮
- 最初のホームライナーは、1982年6月1日に東北本線上野駅~大宮駅間を回送する特急用電車を活用し、乗車整理券を徴収して旅客輸送したものであるとされる。同列車は同年7月1日に「ホームライナー大宮」と命名された。
- 新幹線300系電車(西日本旅客鉄道〈JR西日本〉所属編成)
- 現在JR西日本所属の300系は定期列車の殆どが東京~名古屋・新大阪・岡山間の「ひかり」・「こだま」に充当され、所属基地の博多総合車両所との入出庫列車として岡山~博多間の「こだま」が1往復設定されている。
[編集] バス
[編集] 間合い運用の例
- ジェイアールバス関東・西日本ジェイアールバス(昼特急シリーズ)
- 夜行高速バス「ドリーム号」の間合い運用として2001年12月に「東海道昼特急大阪号」が誕生、ドリーム号と同じ独立3列席のダブルデッカーを使用する。これは日中は車庫で待機する車両の有効活用に加えて乗務員の拘束日数も短縮しており、三ヶ日到着後夜まで現地待機する2泊3日の行路を昼特急と組み合わせた1泊2日に圧縮した。新宿駅発着の中央ドリーム号系統にも中央道昼特急京都号・中央道昼特急大阪号が設定されている。
- ジェイアール東海バス
- 名古屋支店所属車両のうち、東名ハイウェイバスで名古屋から上京した車両が運用の都合上東京~静岡系統や東京~浜松系統で充当されることがある。またドリーム静岡・浜松号のジェイアール東海便も名古屋支店担当となっている。他にも東名ハイウェイバス(ノンストップライナー)とドリームなごや号、中央ライナーとニュードリームなごや号を組み合わせた運用が存在する。
- 関東バス
- 深夜中距離バス銀座線(銀座~新宿駅~三鷹駅北口)用の車両が日中に鷹34系統(三鷹駅北口~武蔵野大学)として間合い運用されることがある。土日祝日、年末年始等は上記二系統が運行されないが、2007年正月には武蔵野吉祥七福神めぐり号として吉祥寺駅周辺の寺院を周り運行した。
- 三重交通
- 名鉄バスセンター発着の一般路線の名古屋桑名線(国道1号線経由)及び名古屋長島温泉線(名四国道経由)は、従来B特急車と呼ばれるトップドア車が使われていたが、バリアフリー法及び使用車種規制の影響により転出が進んだ。また両路線とも乗客数の多い名古屋市内のみの運転が増え、桑名方面への直通は乗客減のため削減された。そのためA特急車と呼ばれる高速バス車両が高速バスの間合いで名古屋市内の路線を走るケースが増えている。
- ミヤコーバス
- 2007年3月の改正で仙台~築館・栗駒線を4往復から2往復に減便し、折返し間合いを利用して翌月に2往復増便する仙台~村田・蔵王町線へ車両を充当した。それまで仙台~村田・蔵王町線は白石営業所のみの担当であったが、増便分に限り、栗駒営業所の車両が担当することとなった。
- 京阪バス
- 門真営業所のコミュニティバス「くるっとBUS」は専用の小型車両で運行されているが、間合い運用として一般系統である門真29号経路や門真19号経路などで運用される。なおこの際、通常掲出される「くるっとBUS」のマークは外される。
[編集] 航空
航空においては国際線用の旅客機を国際空港発着の国内線に充当することをいう。国際線と国内線では旅客機の仕様が異なるが、機材を有効活用するため実施されることがある。代表的な例として、全日本空輸 (ANA) の成田~大阪(伊丹)線や日本航空インターナショナル (JAL) の成田~福岡線が知られている。なお、国際線機材で国内線を運航する場合は、外貨機から内貨機への機種変更を行うための作業が必要になる(逆の場合も同じ)。
逆に国内線用の旅客機を国際線に使用するケースでは、JAL・ANAが大阪~グアム線に国内線仕様のボーイング747を使用していた(ただし洋上飛行となるため、ライフラフトを装備した機体による限定運用)。なおJALは伊丹時代 (747SR)、ANAは関空開港後 (747-400D) の運航である。21時前後に出発して翌朝大阪に戻り、国内線運用のない深夜帯に機材を有効活用していた。
このほかにも大阪~ソウル線にはDC10の、福岡~釜山線にはボーイング767の国内線仕様機を投入するなど、近距離国際線に充当するケースも多く、飛行時間やギャレーなど機内装備の事情で機内食やアルコール類提供のサービスが行われない場合もある。
国内線同士の例としては、JALの子会社である日本トランスオーシャン航空の機材(ボーイング737-400)が沖縄発着便の機材を羽田~岡山や羽田~関空間の路線にJAL名義の便で充当している。
[編集] 船舶
関西汽船では、朝に大阪到着後夜まで使用しない船舶を間合い運用し、繁忙期に小豆島航路が運行される。また定期航路ではないが、太平洋フェリーでは朝入港して夕方まで使用しない船を利用して昼間に名古屋港内や仙台湾のクルーズを実施する場合がある。これも一種の間合い運用といえる。