船名
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船名(せんめい)とは船の名前である。狭義には軍艦以外の船舶の名前を指し、軍用艦の名前は「艦名」と呼ばれる。
艦船は車両や航空機と異なり一隻ずつ固有の名前が与えられることが多い。
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[編集] 歴史
科学技術が未発達の時代には現代とは異なり気象の変化を捉えることが難しく、また今日では伝説とされているものの当時の人々に取っては真剣な脅威の対象であった海洋にすむ恐ろしい生物などもあり、大洋を航海することは一定の危険を持つ行為であった。人々はその身をゆだねる艦船に対してあるときは勇壮な、またあるときは優美な名前を与えて航海の安全を願った。
[編集] 商船の命名
日本人は本名と本籍地を有するが、日本籍船も船名と船籍港を海運局に登録することが求められる(船舶法)。登録が受理されると、管海官庁から20トン以上の船には船舶国籍証書、20トン未満の船には船籍票が交付される。それには船名と船籍港その他が記載されており、航海中の船長は必ず所持していなければならない。また船尾外部の見やすいところに船籍港を表示することが求められる。船舶国籍証書あるいは船籍票を所持する船舶は日本国旗を掲げることができ、日本船舶としての特権を享受できる。いわゆる不審船は、この船籍港と船名の内容が官庁に登録されていない場合が多い。
日本では「日本丸」のように、名前の最後に丸を付した船名が多い。これは歴史的に日本人が船の名前に「丸」の語尾をつけて来たことによるが、船舶法でも「丸」の付加を推奨してきた経緯がある。企業が所有する船舶の場合は各企業ごとに命名の慣例があり、海運会社ではその所有するフェリーに河川や花の名前を付して特徴を出している。「丸」を付けずに例えば「さんふらわあ」とひらがな書きにするなどそれぞれ特徴を出している
そもそもなぜ「丸」が日本の船名に付けられたのかは、諸説があって判然としない。「昔かしの船体は『たらい』のように丸かったから」、「女性的なイメージでかわいい名前とした」、「城郭の『丸』に由来する」、「日の丸を掲げたから」などである。
[編集] 軍艦の命名
一般に軍用艦艇は共通の設計から複数の船を建造しており、同一の設計からなる船をまとめて「級」(Class)や「型」(Type)と呼ぶ。級や型の名前はその中で最初に建造された船(一番艦、Lead ship)の名前を取るのが慣例である。事情により建造が一隻だけの場合は個艦名が級名・型名と等しくなる。一般には複数の艦船を建造する建造計画が多く、同型艦が無く一隻しかない級の場合でも多くの場合は建造されなかった計画艦船を含む場合が多い。例えば第二次世界大戦の最中に建造された米国のアイオワ級戦艦は4隻の同型艦が建造されたが、計画では6隻建造の予定であり級としては未成艦2隻を含めて6隻とされる。またある設計を元に多少の変更を加えて完成した艦は準同型艦として扱われるが、これを級に含めるか、あるいは新しい級とするかは識者により異なる場合が多い。シーウルフ級原子力潜水艦の三番艦「ジミー・カーター」は船体が延長されて水中作業員のためのドックが設けられている。同艦は準同型艦であるが資料の多くはシーウルフ級の一隻として扱われることが多い。
国家の所有物である艦艇の命名については各国の特徴が強く、日本のように艦種毎に慣例が決まっている国もあれば、イギリスのように融通無碍に決めている国もある。乗組員の士気高揚のため各国とも工夫を凝らした艦名を採用しているが、中には数あわせのために適当に選んだような名前もまま見うけられる。一般的な傾向として大海軍を保有する国々の艦名はユニークなものが多く、陸軍国の艦艇名はやや陳腐である。
艦艇の場合、正式名称には艦名に頭語(prefix)を付けることも多い。アメリカ海軍では「USS」(United States Ship)であり、世界で最初に原子力機関を搭載した水上戦闘艦である「ロング・ビーチ」は「USS Long Beach」が正式名称である。同様にイギリス海軍では「HMS」(His または Her Majesty's Ship)が用いられる。20世紀の後半から21世紀初頭現在までのイギリス君主は女王であるエリザベス2世が即位しているため「Her」が用いられている。フランス海軍では「FS」(French Ship)、または「FNS」(French Navy Ship)、韓国海軍は「ROKS」(The Republic Of Korea Navy Ship)を艦名に付けた物がその艦の正式名称となる。一方でドイツ海軍や日本の旧海軍と海上自衛隊にはこのような慣習が無く艦名はそれ自体が艦の正式名称である。同様に中国海軍の艦艇も頭語を持たないが台湾の海軍には「ROCS」(Republic Of China Ship)の頭語がある。
以下各国の命名状況を解説する。
[編集] 日本艦船の命名慣例
日本では命名規則を設けて艦船に体系的に名前を与えるようになったのは明治の海軍建軍以降のことである。江戸幕府の海軍には「咸臨丸」など「丸」の語尾を持つ軍艦があったが、後に「艦」に改められて「蟠竜艦」などと称した。明治維新の後に「艦」が無くなって現在のような表記となった。
明治以後の日本の特徴として、艦船名に人名を当てないことがあげられるが、これは明治天皇から艦名についての下問があり、臣下が諸外国では偉人の名前をとることがある旨奏上したところ、「船が沈んだらその人に失礼になる」との言葉があり、以後日本では艦名に人名を使用しないこととなったとされている。しかし1982年に防衛庁(当時)所有の砕氷艦の艦船名を公募したところ、日本で初めて南極探検を敢行した白瀬矗中尉に因む「しらせ」が上位となった。防衛庁は「しらせ」を艦船名に採用するにあたり、人名ではなく昭和基地近くの地名である『白瀬氷河』(もちろん白瀬矗中尉に因む地名)に由来することとし、人名を艦船名には採用できないという問題をクリアしている。
[編集] 海軍
海軍創生の時期は、海軍省で提出された案を天皇が決定するというものであったが、1921年からは海軍大臣が決定、その名称を天皇に報告することとなった。
大日本帝国海軍では艦艇の名前に国名(藩名)、山岳、河川の名前を使用した。これは明治維新後の海軍建軍にあたり諸外国に倣った事による。ただし諸外国で有力な命名源である人名、都市名は使用していない。明治末期以後は「大日本帝國海軍艦艇の命名基準」(明治三十八年八月一日制定)によって艦種によって命名できる範囲が決まっている。以下は、日露戦争以降、太平洋戦争終結までに在籍した艦艇の命名慣例である。
- 戦艦:旧国名 - 日露戦争戦利艦の「石見」等、その頃の計画艦「薩摩」・「安芸」以後確定した。
- 航空母艦:神話に登場する動物を含む空を飛ぶ物の瑞祥から採られる。鳳凰、龍、隼、鶴など。これに基づき日本海軍最初の空母は「鳳翔」(ほうしょう)と命名された。
- 建造途中で艦種類別変更されたものの中には、従前の艦名を保持しているものがある。「鳳翔」に続く大型空母はワシントン海軍軍縮条約が結ばれた結果として建造中の巡洋戦艦から改造される事となり山の名前である「天城」、「赤城」の艦名がそのまま継承されたが、「天城」が関東大震災に被災し横須賀工廠の船台上で転倒、損壊したため代船として廃艦予定だった戦艦「加賀」が当てられ、開戦後には大和型戦艦の三番艦「信濃」が改装されている。赤城は山岳名、加賀・信濃は地名であるから、この時点で日本の空母の艦名は命名源の異なる三つの名前が混在することとなった。さらに、太平洋戦争中の空母増強計画により、水上機母艦の「千歳」「千代田」が小型空母に改造された。これらはもともとが特殊名であり、そのまま空母の艦名として引き継がれている。この艦名継承については、改造にあたり艦名を変更するかどうか乗組員の意見を聞いた結果、圧倒的に変更しないでほしい旨の希望が出されたというエピソードが残っている。続いて昭和19年には山岳名が命名基準に追加され、それにより雲龍型の2番艦以降には山の名前が採用されている。これらを総合すると、終戦時未完成であった巡洋艦改造の「伊吹」を含めて、日本の航空母艦の命名源は4種類であったことになる。
- 一等巡洋艦:山の名前 - 上記同時期計画の装甲巡洋艦「筑波」以後の、巡洋戦艦やワシントン海軍軍縮条約による規制後は、基準排水量10,000トン以上の一等巡洋艦(重巡洋艦)に命名した。
- 二等巡洋艦:河川の名前 - 当初二等巡洋艦として計画され、後に一等巡洋艦に類別されることになった古鷹型や最上型、利根型など例外も多い。
- 練習巡洋艦:神社の名前
- 駆逐艦:一等駆逐艦(基準排水量1,000トン以上)には天象気象、二等駆逐艦(基準排水量1,000トン未満)は植物名が付される。太平洋戦争末期に建造された戦時急造型の一等駆逐艦(丁型)にも植物名が命名されている。一等駆逐艦は、峯風型までは「~風」で統一されていたが、大正末~昭和初期に大量の三等駆逐艦が退役したことから、神風型以降はその名を継承している。天象気象名は諸外国の海軍に同様の命名源の事例が少なく、日本の艦艇名の特徴の一つとなっている。特に気象用語の場合は語尾が同じになる傾向が強く、そのため結果的に多くの級が脚韻を踏む事となった。この事は艦名をアルファベット表記した場合に目立つ特徴となっている。また大量建造が続くに従い、命名するべき天象気象名が払底、そのため幾つかの艦は造語を名づけられている。
- 潜水艦:固有艦名は持っておらず番号で識別される。基準排水量により、一等潜水艦(1,000トン以上)には「伊(イ)」、二等潜水艦(500トン以上1,000トン未満)には「呂(ロ)」、三等潜水艦(500トン未満)には「波(ハ)」の後に番号が付される。例えば、「伊号第○○潜水艦」と称する。なお、終戦直前に建造された波号潜水艦は、すでに三等潜水艦の類別が廃止されていたために二等潜水艦として就役している。
- 水雷艇:鳥の名前。ただし、大正末に旧来の水雷艇がすべて退役したため、昭和初期に新たに設けられた捕獲網艇に譲られたため、「燕」・「鴎」のみは捕獲網艇に命名された。なお、捕獲網艇は任務が酷似した敷設艇に統合されたため、鳥の名の捕獲網艇は前記2隻のみで終わった。
- 海防艦:島の名前。太平洋戦争末期に建造された小型艦は、番号(丙型:奇数、丁型:偶数)が付された。また、大正期から島・岬の名を持つ敷設艇が延々と建造された。敷設艇の場合は、母港に近いなじみの島が選ばれた。これは敷設艇が昭和19年まで艦艇ではなく特務艇だったためで、特務艇の命名基準に従った結果である。
- 砲艦:名所旧跡の名前
- 掃海艇・駆潜艇・哨戒艇・輸送艦:番号
[編集] 陸軍
大日本帝国陸軍では船舶司令部を持ち、兵員や武器の海上輸送を自前で行っていた。実際の輸送には民間から多くの商船が借り上げられて使用されたが、陸軍自体が保有する船舶もあった。陸軍が保有した船舶も原則として商船と同様に「~丸」の名前を持っていた。例えば、強襲揚陸艦やドック型揚陸艦に相当する、特殊船と呼ばれる軍事専用船についても「神州丸」と命名がなされていた。もっとも、戦車揚陸艦に相当する機動艇には、「海龍」のように「丸」が付かない例外もあった。また多数が整備される小型船舶の場合は、固有名を持たないものが多かった。例えば、輸送潜水艦である三式潜航輸送艇は固有艦名をもたず、建造順に「第○号艇」(○は数字)と呼称されていた。
[編集] 海上自衛隊
海上自衛隊の命名基準は「海上自衛隊の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令」(昭和35年9月24日付海上自衛隊訓令第30号)に定められている。旧海軍と同じく人名、都市名は使用しない。南極観測船「しらせ」は人名にちなんで付けられたように思われているがそうではない。艦名の表記はひらがなのみ。同型艦には基本的に同じ系統の名前を使用する(はつゆき型なら「ゆき」がつくなど)。また大型の護衛艦の場合は旧海軍で使用された名前をつけることが多い(こんごう、きりしま、ひゅうが等)。以下の定義に当てはまらない艦も一部ある。その命名については、政治的な配慮がなされることがある。その例としては護衛艦「しらね」は本来別名が予定されていたが当時の防衛庁長官金丸信の選挙区にある山の名前である同名に変更された。2007年11月5日付の改正で潜水艦の命名基準に「瑞祥動物」が加わった。
- ヘリコプター搭載護衛艦(DDH):旧国名・山岳名
- ミサイル護衛艦:山岳名・天象気象
- 汎用護衛艦(DD):天象気象
- 地方隊用護衛艦 (DE) :河川の名前
- 初期には「あさひ」、「あけぼの」などもあったがいすず型以降は河川の名前が定着した。
- 潜水艦:海象・水中動物・瑞祥動物
- 掃海艦・掃海艇:島の名前
- 掃海母艦:海峡の名前
- 大型の輸送艦:半島の名前
- 補給艦:湖沼の名前
- 砕氷艦:名所旧跡の名前
- 小型艇:番号・鳥の名前
[編集] 海上保安庁
全ての国境線が海上に存在する日本にあって海上の警察行動を司る海上保安庁は事実上の国境警備隊でもある。その海上保安庁が保有する巡視船には主に外洋で行動する大型の船と港内や沿岸で使用する小型の船が存在する。表記はいずれもひらがなのみだが、海上自衛隊とは異なり促音、拗音に小さな文字を使用しない。測量船のみは漢字表記が用いられている。脚韻を踏む慣用も海上自衛隊と同様に採用されているが、同じ級の船名に複数の命名源が使用されることもある。
大型巡視船の船名には地名が主用されており、山岳、河川、湖沼、半島、島嶼、岬、滝、海峡、水道、湾などに振り分けられて使用されている。海上保安庁では地域に即した活動を目標として各地の海上保安部に近接する地名をその保安部に所属する巡視船に命名している、配属替えがあるとこの原則が崩れてしまうため、配属替えに伴なって船名を変更する慣例がある。配属替えは頻繁に行われるので船名変更もまた頻繁に行われている。例えば平成16年度には福岡海上保安部所属の「げんかい」PL-121が横浜海上保安部に配属が変更され、横浜海上保安部からは「あまぎ」PL-128が石垣海上保安部に異動しているが、これに伴なってPL-121は「げんかい」から「あまぎ」に改名され、旧「あまぎ」であるPL-128は「よなくに」に改名された。この慣例によって巡視船の一生で変わらない物は番号のみとなっている。
小型巡視船は天象気象、花卉、星や星座の名前が使用されている。このうち天象気象名は海上自衛隊と同様の命名がなされており、「~かぜ」、「~きり」、「~くも」など旧海軍の駆逐艦、海上自衛隊の護衛艦と名前がかぶる巡視船も多い。また消防船は「~りゆう」(「ひりゆう」FL-01など)、灯台見回り船は「~うん」(「せきうん」LM-203など)、「~ひかり」(「にじひかり」LS-235など)、「~こう」(「げつこう」LS-187など)、測量船は「~洋」(「昭洋」HL-01など)の語尾が採用されている。花卉の一部や星、星座名を使用する巡視艇、監視取締艇では「こすもす」CL-246、「こめつと」SS-30といった日本語に由来しない名前も多く採用されている。星、星座名ではほとんど全てがこのような名前であるが、それらは「おりおん」SS-51のように日本で慣用的に使用されている発音が採用されており、「オライオン」のような英語の発音ではない。「あいりす」CL-239と「あやめ」CL-134、「ぽらりす」SS-35と「ぽおらすたあ」SS-36のように、そもそも原義が同じ単語も採用されている。
海上保安庁では保有する個々の航空機に固有名を与えているが、これらは「あじさし」MA-861、「えとぴりか」MA-868といった鳥類に由来する名前となっている。ただし「なにわ1号」MA-817のような少数の地名を例外とする。
[編集] イギリス艦船の命名慣例
イギリス艦船を意味するHMSは、「女王陛下の船 (Her Majesty's Ship) 」または「国王陛下の船 (His Majesty's Ship) 」のことである。イギリスの艦船命名は上記のように融通無碍。日本のような艦種ごとの命名法は、ワシントン条約下で建造した重巡洋艦に本国の州名を当てた例があるのみ。国王・女王・軍人・政治家・神話の登場人物等の人名、植民地を含む地名、復讐(リベンジ)・無敵(インヴィンシブル)などの単語などを命名している。一般的に大きな艦船には業績の高い人や大きな地名が命名されている。イギリスの特徴として、「ドレッドノート」と「インヴィンシブル」は、従来の船の性能をはるかに上回る画期的な艦船に当てられている。ただし同じクラスの艦には同じ種類の名を付ける習慣があり、その場合それが級名となる。フラワー級コルベット(花の名)、リバー級フリゲート(川の名)、トライバル級駆逐艦(蕃族の名)などであり、いずれも「フラワー」「リバー」「トライバル」という艦は存在しない。またイギリスには同型艦の頭文字を統一する命名慣習があり、本来の級名のほかにR級戦艦、C級巡洋艦などと艦名の頭文字で呼称することがある。この場合は各艦の名に意味の類似性は無い。この慣習はイギリスの影響が強いインドやシンガポールの海軍などにも見られる。
- 日本人の感覚とは少し異なる艦名が認められる。その一覧。
[編集] アメリカ艦船の命名慣例
アメリカ軍艦を示す USS は UNITED STATE'S SHIP の略。最近まで日本と同じく命名は艦種ごとに明らかであったが、特に原子力推進艦登場以降規則が崩れてきている。戦没艦の名称を顕彰の意を込めて新造艦の艦名として即座に継承することも特徴である。
[編集] 第二次世界大戦終了頃まで
- 戦艦:州名
- 巡洋艦:都市名
- 正規空母:戦場名、独立戦争等の殊勲艦名
- 護衛空母:湾名、海峡名、後に戦場名も
- 駆逐艦:人名(海軍の将官や艦長が基本。海軍パイロットなどの例外もある)
- 潜水艦:水棲生物名
[編集] 原子力推進艦登場以降
- 弾道ミサイル搭載原子力潜水艦
- アメリカ最初の潜水艦発射弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦 SSBN-598 には「ジョージ・ワシントン」(George Washington、初代大統領)の名前が与えられ、以後はイーサン・アレン級、ラファイエット級、ジェームズ・マディスン級、ベンジャミン・フランクリン級などのように人名から艦名がとられていた。1981年に一番艦が就役したオハイオ級からは、かつて海軍の主力艦であった戦艦と同様にアメリカの州名を当てている。
- 攻撃型原子力潜水艦
- 世界最初の原子力潜水艦が「ノーチラス」(Nautilus SSN-571、オウム貝)と名づけられたように、当初は第二次世界大戦と同様に水棲生物の名前から取られていたが、1976年に一番艦が就役したロサンゼルス級原子力潜水艦からは、かつて重巡洋艦に採用された都市名が使用されている。続くシーウルフ級原子力潜水艦では建造された三隻がそれぞれ「シーウルフ」(SN-21、オオカミウオの一種。水棲生物名)、「コネティカット」(SSN-22、州の名前)、「ジミー・カーター」(SSN-23、元大統領の名前。人名)という、三隻とも異なる命名源から取られた艦名を持ち、続くヴァージニア級原子力潜水艦では州名が使用されている。
- 原子力巡洋艦
- 最初の原子力巡洋艦には「ロング・ビーチ」(Long Beach CGN-9、都市名)の名前が与えられたが、以後はカリフォルニア級、ヴァージニア級のように主に州名から取られている。ただし「トラクスタン」(Truxtun CGN-35、人名)は例外である。
- イージスシステム搭載艦
- 空母
- 第二次世界大戦後に建造された通常型空母であるフォレスタル級とキティホーク級では殊勲艦名を中心として、地名、人名などが混じる命名がなされていたが、ニミッツ級原子力空母以後は人名を基本としている。
- 揚陸艦
[編集] フランス艦船の命名慣例
フランス海軍では欧州各国と同じく地名、人名などが艦名に用いられる。しかし、一筋縄ではいかないのがフランスである。例えば人名では「クールベ」は軍事に詳しくない人には画家のクールベと誤解されやすいが実際は清仏戦争で功績を挙げたクールベ提督である。また、地名由来で「ダンケルク」などは「ダンケルクの戦い」が一般人には連想されるが、実はダンケルクは私掠船の基地として歴史があり、通商破壊戦に適した高速戦艦にかけた名前である。なお、人名は基本は姓のみが慣わしであるが、同名同語による誤解を避けるためにフルネームにしたり、知名度の低い人物の場合は役職名(アミラル:海相、等)を付ける事もある。なお、英語の「オブ(of)」に値する「ド(De)」などは略さない。人名での有名どころは三銃士で知られる「リシュリュー」、オルレアンの少女「ジャンヌ・ダルク」などがある。他には軍事には関係の薄い政治家や科学者を準弩級戦艦や巡洋艦の艦名に採用しており、政治家では「ダントン級」が最多で、「ダントン」、「ディドロ」「コンドルセ」「ミラボー」「ヴォルテール」と、皆がフランス革命時代の人物で統一してある例もある。科学者では質量保存の法則の「ラヴォワジェ」や「デカルト」などが巡洋艦で存在する。その他には「栄光」の意味を持つ「グロワール」、国歌「マルセイエーズ」、フランス革命暦「フロレアル」など特色ある艦名の多い海軍である。
[編集] ドイツ艦船の命名慣例
ドイツ海軍では州名や都市名などの地名、人名などが艦名に用いられる。陸軍大国であるドイツでは海軍の船に陸軍軍人の名前が用いられる事が多く、第一次世界大戦の帝政ドイツ大海艦隊には「フォン・デア・タン」(Von der Tann)、「モルトケ」(Moltke)など多くの陸軍軍人が在籍し、大西洋で戦った。帝政期には艦名の前に「皇帝陛下の艦」を意味するSMS (Seine Majestät Schiff の略)という称がつけられていた。このほか勇猛な鳥獣の名前を用いる事例があり動物の名前を持つ級は猛獣級、鳥の名前を持つ級を猛禽級などと称した。これらの傾向は20世紀を通じて特に変化が無い。第二次世界大戦後の新生ドイツ海軍に就役したケルン級フリゲートには「エムデン」を含む地名の艦名が与えられており、戦後に建造された最初のミサイル駆逐艦(リュッチェンス級)には第二次世界大戦で活躍した三軍の軍人から「リュッチェンス」(Lütjens、海軍軍人)、「メルダーズ」(Mölders、空軍軍人)、「ロンメル」(Rommel、陸軍軍人)の名前が与えられている。
[編集] 旧ソ連/ロシア艦船の命名慣例
ドイツと同様に陸軍大国である旧ソ連/ロシアでは、やはりドイツと同様に都市名、人名が主要な命名源となっている。共産党統治下の旧ソ連海軍では「第二十六回共産党大会記念」(Imeni XXVI syezda KPSS、デルタIV型のK-51)や「ムルマンスク青年共産党員」(Murmansky Komsomolets、ヴィクターIII型のK-358に与えられた名誉艦名)のような共産党を称える艦名が見うけられたが、ソ連邦の崩壊後は次々に改名されて、現在のロシア海軍にはほとんど在籍していない。例えばソ連海軍初の本格的空母である11435型航空重巡洋艦の一番艦は最初に「ソヴィエツキー・ソユーズ」(Sovetskiy Soyuz)と命名され、以降「リガ」(Riga)、「レオニード・ブレジネフ」(Leonid Brezhnev)、「トビリシ」(Tobilisi)と次々に改名された挙句に「アドミラル・フロタ・ソヴィツコゴ・ソユーザ・クズネツォフ」(Admiral Flota Sovietskogo Sojuza Kuznetsov、ソ連邦海軍元帥クズネツォフ、通称はアドミラル・クズネツォフ)に落ち着いた。同二番艦は「リガ」(Riga)から「ワリヤーグ」(Varyag)に改名されたが未完成のまま中国にスクラップとして売却された。同様にキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦は、一番艦が「キーロフ」(Kirov)から「アドミラル・ウシャコフ」(Admiral Ushakov)へ、二番艦「フルンゼ」(Frunze)が「アドミラル・ラザレフ」(Admiral Lazarev)へ、三番艦「カリーニン」(Kalinin)が「アドミラル・ナヒモフ」(Admiral Nakhimov)へ、四番艦が「ユーリ・アンドロポフ」(Yuri Andropov)から「ピョートル・ヴェリキー」(Pyotr Velikhy、ピョートル大帝)に改名されている。このように現在のロシア海軍ではかつての連邦国家に所属し、現在は独立国家となった国々の地名や共産党に関連する名前を廃し、帝政ロシア時代との連続性を強調する命名を行っている。
共産党政権下のソ連では潜水艦に個艦名が無くK-19、K-219の様に番号で呼ばれていた。同一設計からなる艦のグループを指す場合は開発計画番号で呼ばれている。イギリスやドイツでも本来の級名とは別に計画番号で呼ばれることがあるが、旧ソ連では計画番号のほうが主用されていた。例えば攻撃型原子力潜水艦の現在の主力は971型である。旧ソ連では個々の兵器の名称を非公開としており、識別のために近年までNATOがコードネームを与えていた。ソ連当局でも防諜のために自らの兵器をNATOコードネームで呼ぶことがあり、東西両陣営でポピュラーな名前となっていた。水上艦艇の多くは例外的に艦名が公開されていたが潜水艦に関しては秘匿対象となっていたためコードネームが与えられていた。潜水艦はNATOに識別された順番に英語の単語が与えられている。命名源は主に通信符牒の単語がアルファベット順に使用された。これらの経緯からNATOコードネームは艦の「型」(Type)であり「級」(Class)ではないとする主張が存在し、実際にそのような書分けを行う資料もある。ただ前述の様に旧ソ連では級に計画番号が使用され各艦には個艦名が無かったため、実際には西側と同様の級名の概念は存在しなかったと言えるだろう。
最近のロシア海軍では潜水艦に固有の艦名を持たせているが、これは乗組員の請願による物であり最初のうちは帝政ロシア海軍に所属していた潜水艦の名前を踏襲した動物の名前を採用していたが最近は海軍に資金援助を行った都市や企業の名前に改名する艦が多い。80年代には潜水艦に与えるNATOコード名がアルファベットを一巡したため、NATOではコード名に新たにロシア語の単語を用いる事とし、971型がアクラ(Akula、ロシア語でサメの意)と命名され、941型がタイフーン(台風)と命名された。アクラの名前が採用されたことは少なくない混乱を生んだ。すなわち旧ソ連にはアクラの名を持つ開発計画があり、この計画によってタイフーン級が建造された他、後に潜水艦が固有名を持つ事になった時、アクラの個艦名を持つ潜水艦(K-284)が誕生したためである。
最近のロシア海軍は情報公開に積極的で旧ソ連時代のように個艦名を秘匿していない。旧ソ連時代の情報も少しずつ公開されておリコードネームの必然性は薄れているが、番号では覚えにくいことともあって慣れ親しんだNATOコードネームの使用を続ける人々も日本では少なくない。
[編集] イタリア艦船の命名慣例
イタリア海軍では艦の艦名に人名を主用しており、それに多少の地名などが混じる命名がなされている。用いられる人名には古代ローマ時代を含むイタリア史に登場する偉人の名前の多くが採られている。それらは政治家や軍人にとどまらず弩級戦艦の「ダンテ・アリギエーリ」(Dante Alighieri)や、コンテ・ディ・カブール級戦艦とサウロ級潜水艦の共に三番艦に「レオナルド・ダ・ヴィンチ」(S-520、Leonardo da Vinci)のような文化人としても有名な人物の名前を含む。 用いられる地名には、「ローマ」(Roma)やボルツァーノ (Bolzano)といった戦勝地が多い。 小型艦では、マエストラーレといった気象や、アクイラ(ワシ)といった鳥などの自然や、キメラなど神話からの命名もある。ただしキリスト教由来の命名はサン・マルコ(聖マルコ)他を除いて非常に少ない。 その他「リットリオ」(Littorio、ファシスト党のシンボル。後に「イタリア」と改名)などの第二次世界大戦中に建造されたヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の艦名はファシスト党主導で命名されたため例外的な名称が用いられている。
特定の人名は多用されており、イタリア統一の英雄である「ジュゼッペ・ガリバルディ」(Giuseppe Garibaldi)や「コンテ・ディ・カヴール」(conte di Cavour)などは何度も使用されている。これら人名の一部(王族の人名)はアメリカ海軍の様に「ファーストネーム+ラストネーム」ではなく、称号を併記しているものがある点がイタリア海軍の特徴となっている。結果としてja.wikipediaには「ルイジ・ディ・サヴォイア・デュカ・デグリ・アブルッチ級軽巡洋艦」という長い名前を持つ項目が存在する。このような名前は日常会話や戦闘通信において省略された形で用いられているが、このような慣用名称は記録されることが少ないため、資料などではあくまで長い正式名称で通すことになる。
[編集] オーストラリアとニュージーランドの艦船の命名慣例
英連邦に所属しているオーストラリアは国家元首がイギリスの君主であるため、オーストラリア海軍(Royal Australian Navy、RAN)軍艦の正式な艦名にはHMAS(Her Majesty's Australian Ship)が艦名の前に付く。同様にニュージーランド海軍(RNZN)の艦名にはHMNZSが付く。
オーストラリア海軍では、かつてはイギリスと同様な命名方法を取っていたが、小所帯な海軍であるため現在では主要な艦艇は地名で事足りている。コリンズ級潜水艦では人名が採用されたが、アメリカやイタリアなどとは異なりラストネームのみを艦名としている。
オーストラリアとニュージーランドが共同で開発したアンザック級フリゲートのオーストラリア側の八隻には主に都市名が採用されているが、そのうちの「パラマッタ」(Parramatta)、「トゥウンバ」(Toowoomba)などは元々アボリジニの言葉からとられている。一方のニュージーランドでは取得分の二隻に「テ・カハ」(Te Kaha、勇気の意)、「テ・マナ」(Te Mana、身分、権威の意)という先住民族であるマオリ族の言葉から艦名が取られている。ニュージーランド海軍の主要な艦艇はこの二隻で全てであるが、これ以前に主力としていたイギリスのリアンダー級フリゲイトや現用の掃海艇などにもマオリ語と思われる耳慣れない単語が見うけられる。
[編集] 台湾艦船の命名慣例
台湾の海軍である中華民国海軍では語頭/語尾を同じ字にそろえる漢字の艦名など旧海軍、海上自衛隊に近い命名慣用が用いられている。21世紀初頭現在の主力水上艦艇はアメリカのOHペリー級をライセンス建造した「成功」(Chengkung)級、同じくフランスのラファイエット級のライセンス建造艦「康定」(Kangding)級で、いずれも中国史の有名人物の名前から取られている。その一方、旧海軍から引き渡された「雪風」を前身とする「丹陽」12(Tangyang)やアメリカから取得したギアリング級駆逐艦の「建陽」912(Chienyang)のように「陽」を語尾とする二字から成る一連の艦名が存在し、近年導入されたアメリカのノックス級フリゲイトは、「済陽」932(Chinyang)のように同様の命名慣用によって命名されている。2005年にアメリカからの引き渡しが開始されたキッド級は「基隆」DDG-1801(Keelung)、「蘇澳」DDG-1802(Suao)、「左営」DDG-1803(Tsoying)、「馬公」DDG-1804(Makung)と名づけられた。これらはいずれも都市名で、台湾海軍の艦隊基地が置かれた軍都として知られている。
また語頭の字を潜水艦では「海」、掃海艇では「永」、揚陸艦では「中」にそろえる命名がなされており、たとえば現用潜水艦の四隻は「海獅」791(Haishih)、「海豹」792(Haibao)、「海龍」793(Hailung)、「海虎」794(Haihu)と命名されている。イギリス海軍で頭文字をそろえた級を本来の級名のほかにC級やR級のような頭文字で呼ぶ事があるように、台湾でも字をそろえた級を「陽字号」、「永字号」などと呼称する事がある。従来の陽字号は第二次世界大戦の最中に建造されたギアリング級を中心としており、武進三号計画で改造された艦は艦容が一変するほどの大改造を受け2005年まで使用されていた。海軍内部では「老婆の若作り」なる言葉もあったという。このため陽字号という言葉には多分に老朽艦の意味合いが強かった。ギアリング級が全て退役しノックス級が導入されたことでこの言葉の意味も変化するであろう。
[編集] ウクライナ艦船の命名慣例
黒海を擁するウクライナは旧ソ連海軍の黒海艦隊の約半分を基にしたウクライナ海軍を保有するが、その艦船は種類に関わらず原則として都市名・地域名が艦名として与えられている(「ルーツィク」、「ドンバス」など)。その他には人名も見られるが、数は少ない(「ヘーチマン・サハイダーチュヌィイ」など)。内訳はウクライナ・コサックかソ連時代のウクライナの著名人など比較的ウクライナ人の民族アイデンティティーと結び付けやすい時期の人名が多く、キエフ大公国やハールィチ・ヴォルィーニ大公国などあまりに古い時代のウクライナの著名人の名は用いられていない(ロシアなど存在しなかった時代のキエフ大公の名を艦名に使用しているロシア海軍とは対照的である)。特殊な例としては、「ザポロージャ・シーチ」(ザポロージャ・コサックの根拠地の名称)と名付けられた艦が存在する。艦名はほとんどがソ連時代の名称から変更されているが、「コスチャントィーン・オリシャーンシクィイ」はソ連時代の名称(ロシア語名)をウクライナ語名に直しただけである。ウクライナ国家国境庁の管轄である海上警備隊艦艇も同じような状況であるが、こちらにも「ザポロージャ・シーチ」と命名された艦艇が存在する。
かつて存在したウクライナ国民共和国やウクライナ国の海軍では、ロシア帝国の黒海艦隊の艦艇を引き続き運用した。ウクライナ国民共和国海軍では艦艇の名称はロシア帝国およびロシア共和国海軍時代のものを使用していたが、ウクライナ国海軍では民族主義者に対する懐柔政策の一環としてウクライナの事物に因んだ改名が実施された。その結果選ばれた名称はウクライナの都市名やウクライナ史上の人名であったが、他国と比較した場合、人名に政治・文化の分野で活躍した人物(文人)が多く含まれていた点が特徴として挙げられる。これは、ウクライナ史上の著名人物のほとんどがウクライナ・コサックであるか、ウクライナの言語や文化、歴史の研究家であるか、作家・詩人であるかに限られたためである。軽巡洋艦「タラース・シェウチェーンコ」(タラス・シェフチェンコはウクライナの作家、詩人、歴史研究家)や防護巡洋艦「ヘーチマン・イヴァーン・マゼーパ」(イヴァーン・マゼーパはウクライナ・コサックのヘーチマン)がその典型例である。ただ、これらの改名は一貫した規則のあるものではなく、一般に巡洋艦には人物名が付けられることが多かったものの、駆逐艦にもやはり人名は見られた(ウクライナ近代文学の始祖イヴァーン・コトリャレーフシクィイなど)。また、改名はすべての艦艇には浸透せず、ロシア時代の艦名を引き続き使用したものも多かった。
[編集] 女性の名前
イギリスの戦艦「クイーンエリザベス」は有名、女性君主を頂いたことのあるロシアでは戦艦「エカテリーナ2世」(「インペラトリッツァ・エカテリーナ2世」)などがある。フランスは巡洋艦「ジャンヌ・ダルク」。アメリカも古くから小型艦艇に実在の女性の名前を付けてきた。