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日本人 - Wikipedia

日本人

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本人(にほんじん・にっぽんじん)とは一般に以下のいずれかの分類の人々を指す。

  1. 国家的分類:日本国籍を有する者。日本国民[1]
  2. 人類学的分類:モンゴロイドの一つ。皮膚は黄色、虹彩は黒褐色、毛髪は黒色で直毛。言語は日本語[1]旧石器時代または縄文時代以来、現在の北海道から沖縄諸島(南西諸島)までの地域に住んだ集団を祖先に持つ[2]
  3. 民族的分類[3]日本国において98.5%の多数派[4]を占める民族である大和民族(日本民族ともいう[5])のこと[6]

日本では国籍文化・習俗・民族遺伝的形質のそれぞれを基準とした分類による「日本人」の対象が重なる割合が比較的高いと認識されているため、概念的にもどの基準によるものかは日常的には明確にされず、しばしば混同される。

目次

[編集] 遺伝的起源

1980年代からのミトコンドリアDNA研究の進展により、ヒトの母系の先祖を推定できるようになった。これにより、アフリカ単一起源説がほぼ証明され、また民族集団の系統も推定できるようになった。

従来提唱された説として日本人の起源は南方系の縄文人と北方系の弥生人であるとする埴原和郎の二重構造説があった。しかし縄文人も弥生人も北方起源であることが近年の研究で明らかにされつつあり、埴原の二重構造説には多くの異論が出はじめている(しかし日本人が重層構造であることは人類学者・考古学者の間では支持する意見が強い)[7][8]。また、日本人(大和アイヌ沖縄人)は、遺伝学的には大差はなく、比較的均一性が高いとする報告もある[9][10]。またヒト白血球型抗原の遺伝子分析により、現代日本人は均一性が高い民族であるとの報告もある[11]

一方、母系をたどるミトコンドリアDNAに対して、父系をたどるY染色体は長期間の追跡に適しており、1990年代後半から研究が急速に進展した[12][13][14]。ヒトのY染色体のDNA型はAからRの18系統があり、これらはアフリカ限定のA系統とB系統、出アフリカのC系統、DE系統、FR系統に分けられる[15]。これら5系統のうち、世界の多くの地域ではせいぜい2系統しか見られないが、日本人にはC,DE,FRの出アフリカ3系統すべてが見られ、従来の予想に反して日本人の遺伝子は多様であることが分かった。以下にY染色体のDNA型の比率を示す[15]。複数の論文からの引用なので、合計が100%にならない。空欄は資料なしで、0%の意味ではない。

  C DE FR
C1 C3 D1 D2 D3 N O1 O2a O2b O3
日本 アイヌ 0 13 0 88 0 0 0 0 0 0
青森 8 0 0 39 0 8 0 0 31 15
東京 1 2 1 40 0 0 3 1 26 14
静岡 5 2 0 33 0 2 0 0 36 20
徳島 10 3 0 26 0 7 0 0 33 21
九州 4 8 0 28 0 4 2 0 36 26
北琉球 4 0 0 39 0 0 0 0 30 16
南琉球 0 0 4 0 0 67
北アジア オロチョン 91 0 0 0
エヴェンキ 68 17
満州 27 0 4 0 4 38
ブリヤート 84 0 28 0 2 2
ハルハモンゴル 52 0 1 1 0 0 23
ユカギル 50 25
コリャーク 33 33
チュクチ 25 25
ケット 17
ニヴフ 38
東アジア北部 朝鮮 12 0 3 0 51 38
華北 5 0 2 0 66
0 6 0 0 28
チベット 3 16 0 33 0 0 33
東アジア南部・
東南アジア
華南 5 0 15 30 0 33
台湾 0 11 7 0 60
イー 16 0 9 0 33
トゥチャ 18 3 0 0 0 53
ミャオ 4 7 0 7 11 0 71
ヤオ 2 0 2 3 0 52
シェ 0 2 35 0 63
チワン 0 11 68 0 16
タイ 0 47 6
ベトナム 4 3 0 6 36 14 41
マレー 11 3 0 9 28 0 31
ジャワ 23 42
フィリピン 41 1

日本人は、D2系統とO2b系統を中心に、多様な系統が混じり合っていることが分かる。

最初に日本列島に到達し、後期旧石器時代を担ったのは、シベリアの狩猟民であるC3系統である[15]バイカル湖周辺からアムール川流域およびサハリンを経由して、最終氷期の海面低下により地続きとなっていた北海道に達した。また一部は沿海州を南下し、朝鮮半島を経由して北部九州に達した。細石刃石器を用い、ナウマンゾウを狩っていたと考えられる。

その後、一万数千年前に、大陸からD2系統が入ってきた。これが縄文人である[15]。D2は日本だけで見られる系統であり、アイヌ人88%、沖縄人56%、本土日本人42~56%で、朝鮮半島では0%である。近縁のD1,D3がチベットで見られる。D系統は華北で東西に分かれ、東がD2、西がD1,D3になったと考えられる。

同じ頃、経路は不明であるがインドに起源を持つC1系統が南方から入ってきた[15]。貝文土器を用い、縄文人とは異なる文化を南九州に築いた。

O1系統は台湾が起源であり、オーストロネシア語族との関連が想定されている。台湾と近いにも関わらず、日本列島ではO1はごく少数に過ぎない。

O2a/O2b系統は長江文明の担い手だと考えられている[15]。O2b系統が移動を開始したのは 2800年前である。長江文明の衰退に伴い、O2aおよび一部のO2bは南下し、百越と呼ばれた。残りのO2bは北上し、山東省、朝鮮半島、日本列島に達した[15]。長江文明の稲作を持ち込んだと考えられる。従来稲作は、弥生時代に朝鮮半島経由で来たとされてきたが、日本では縄文前期の稲(米)が見つかっており[16]、縄文中期には稲作をしていたとする学説が多数出ている[17][18][19][20]。それに加え、遼東半島や朝鮮北部での水耕田跡が近代まで見つからないこと、朝鮮半島で確認された炭化米が紀元前2000年が最古であり畑作米の確認しか取れず日本より遡れないこと、極東アジアにおけるジャポニカ種の稲の遺伝分析において、朝鮮半島を含む中国東北部からジャポニカ種の遺伝子の一部が確認されないことなどの複数の証拠から、水稲は大陸からの直接伝来ルート(対馬暖流ルート・東南アジアから南方伝来ルート)による伝来である学説が見直され、逆に日本から朝鮮半島へ伝わった可能性を指摘する意見もある[21]。一方、これらに対して農学者の池橋宏は、従来の「縄文稲作農耕」説は農学的に見ても疑わしく、日本の稲作は江南を起源とし、朝鮮半島南部を経由して最初から完成された形で北九州に持ち込まれた可能性が高いと主張している[22]。 O3系統は黄河中上流を起源とし、漢民族に典型的に見られる他、周辺の諸民族にも広く見られる。歴史的にO3は一貫して拡大しており、このためにD系統およびO2系統が駆逐されたと考えられる。

日本列島の特異な点は、D2やO2bなど、大陸では敗者となった集団が、絶滅せずに混じり合って存在していることである。その他にもC1,O1,O3など多様な遺伝子集団を吸収し、保持し続けている。

[編集] 言語

日本語の起源は、従来アルタイ諸語オーストロネシア語族との関連が想定されてきたが、比較言語学的には証明されていない。長江文明の担い手のO2系統は、オーストロアジア語族だったと考えられ、南下したO2a系統では言語を保持しているが、北上したO2b系統では、朝鮮半島でも日本でも元の言語を失い、移住した土地の言語を受け入れたと考えられる。

一方ミトコンドリアハプログループに注目すると、日本には世界で日本人にしか見られないM7aというグループがある[要出典]。これは台湾付近で発生したと考えられ、沖縄・アイヌに多く本州で少ないという特徴的な分布をしており、M7aを原日本人と仮定するならば、むしろオーストロネシア語との関係が示唆される。このように、遺伝学の知見には食い違いがある。

[編集] 日本人の民族としての形成

縄文時代末期・弥生時代から日本列島に移住した弥生人は、縄文人と交わっていった。弥生人は西日本から拡大していき、ヤマト王権など大和民族中心社会が台頭するとともに、他の住民たちは大和に征服されていった(東方の蝦夷、南方の熊襲と呼ばれた在来人は抵抗した)。後年、白村江の戦いにおける大和の同盟国百済からの亡命してきた百済人や仏教の僧侶なども大陸(ユーラシア大陸)や朝鮮半島から海を渡ってきたが、それぞれ少数であったために大和民族に統合・同化されていった。

このように縄文人も弥生人もそのルーツはユーラシア大陸や南方から移住・渡来した人々にあり、それぞれがハイブリッドとしての日本の民族集団を形成する一部となっていった。大和民族が朝廷権力とともに勢力を拡大した後に「日本」という枠組みの原型がつくられ、その後、文化的・政治的意味での日本民族が徐々に形作られていくとされる。もっとも少数民族は常に存在したし、「日本民族」というような認識(アイデンティティ)が多数者に浸透していくのは明治時代(近代国民国家の成立期)ともいわれる。

旧琉球王国地域については、大和民族の一支族とする主張が伊波普猷などによって起され沖縄学として発展した。文化・歴史の違いなどを抽出して、琉球民族とする論などもあり、議論が分かれている(詳細は当該記事及び琉球語なども参照の事)

[編集] 大日本帝国時代の日本人

大日本帝国の版図
大日本帝国の版図

日本がかつて、朝鮮半島台湾島南樺太などを領有していた時代にあっては、日本人という語は公式には朝鮮人、台湾人などの日本国籍を付与された植民地の先住民族を含む国籍的概念であった。大日本帝国が多民族国家であることは強く意識され、現在の日本国民に相当する人々は内地人と呼ばれた。但し当該の先住民族の間では日本人が内地人と同義として使われることが多かった。

南樺太に住んでいたロシア人ポーランド人ウクライナ人ドイツ人朝鮮人ウィルタニヴフのなかには、日本国籍をもっていたものもいた。そのため、終戦後ソ連によって「日本人」として北海道に強制送還された朝鮮人、ウィルタ、ニヴフがいた。また反ソ分子として抑留された者もいた。ポーランド系日本国民の多くはポーランド国籍を取得しポーランドに移住した。

[編集] 日本は単一民族国家であるか

日本は見た目や言語に大差のない人々が多いため、単一民族国家と捉える人がいるが、国内には少数民族も存在するため正確ではない。これは、民族国籍を混同することにより生じる。とはいえ日本における登録上の外国人居住者の比率が2%以下であり[23]、日本国籍を保有している居住者が98%を越えることや、大和民族とされる人々が95%[要出典]以上を占めるという主張などは、航空機をはじめとする高度な移動手段が発達した現代日本における均質性を考えるとき、考慮する必要はある。民族的な意味での詳細は、単一民族国家も参照。

[編集] 身体的特徴

日本人の標準体型(国民健康・栄養調査報告 平成15年度)

  • 20代男性は身長171.0cm、体重64.7kg、20代女性は身長158.2cm、体重51.8kg
  • 成人全体では、男性が166.2cm、64.7kg、女性が153.0cm、52.8kg

[編集] 脚注

  1. ^ a b "日本人". 広辞苑. 
  2. ^ "日本人". マイペディア. 平凡社. 
  3. ^ 小熊英二『日本単一民族神話の起源』(1995)、『「日本人」の境界』(1998)
  4. ^ "The World Fact Book -- Japan" CIA. 2008-04-11閲覧.
  5. ^ "大和民族". 広辞苑. 岩波書店. 
  6. ^ この用法の場合は国家的分類と異なり、アイヌ民族等の他民族は含まない。
  7. ^ 尾本恵市 (1996), 分子人類学と日本人の起源, 裳華房, ISBN 978-4785386382 尾本の系統図では、日本人は朝鮮人、チベット人と同じ枝に位置づけられ、アイヌ人とは異なるとしており、ある種の二重構造論となっている。しかし、研究の結果、埴原の『二重構造説』、すなわち原日本人(縄文人)の南方起源説には賛成しかねると述べている。
  8. ^ 篠田謙一 (2007), 日本人になった祖先たち - DNAから解明するその多元的構造, 日本放送出版協会, ISBN 978-4140910788篠田によれば現代日本人のハプログループ頻度は韓国や中国東北部に非常に近く(北東アジア集団)、これは縄文人も弥生人も大陸から渡来し広がったことを裏付けており、従来の縄文人を南方系とする説は否定している
  9. ^ 根井正利は「現代人の起源」に関するシンポジウム(1993 京都)にて日本人(アイヌ・沖縄人を含む)は約3万年前から北東アジアから渡来し、弥生時代以降の渡来人は現代日本人の遺伝子プールにはほんのわずかな影響しか与えていない、という研究結果を出した。しかし宝来聰は、ミトコンドリアDNAだけでも65%は渡来系由来であると反論しており、またY染色体の研究とも両立せず、縄文人は弥生人より歯が小さいことから後者は前者の子孫ではあり得ないとするアメリカのブレイスらの研究とも両立しないと主張している。(宝来聰『DNA 人類進化学』(岩波書店、1997)』)
  10. ^ 松本秀雄 (1992), 日本人は何処から来たか — 血液型遺伝子から解く, 日本放送出版協会, ISBN 978-4140016527
  11. ^ 李成柱 (2001), "血液分析により民族の移動経路を判明する", 東亜日報. 2008-04-14 閲覧
  12. ^ McDonald, J. D. (2005), Y chromosome and Mitochondrial DNA haplogroups. 2008-04-14 閲覧
  13. ^ National Geographic, ed., Atlas of the Human Journey. 2008-04-14 閲覧
  14. ^ International Society of Genetic Genealogy, ed. (2007), Y-DNA Haplogroup Tree 2006. 2008-04-14 閲覧
  15. ^ a b c d e f g 崎谷満 (2008), DNAでたどる日本人10万年の旅, 昭和堂, ISBN 978-4-8122-0753-6
  16. ^ 2005年2月18日共同通信「岡山県彦崎貝塚の縄文時代前期(約6000年前)の地層から、稲のプラントオパール大量発見」
  17. ^ 2005年7月20日読売新聞、西谷正(九州大名誉教授;考古学)の論など
  18. ^ 「2005年02月19日読売新聞」稲のプラント・オパールが見つかったことは縄文前期の稲の栽培の証拠となるもの(高橋護・元ノートルダム清心女子大考古学教授)
  19. ^ 新聞「農民」2002.3.11
  20. ^ 2005年7月17日朝日新聞プラントオパールの発見により少なくとも縄文中期には稲作があったことが確実となった(考古学者;山崎純男)
  21. ^ 佐藤洋一郎『稲のきた道』裳華房/『DNAが語る稲作文明』日本放送出版協会
  22. ^ 池橋宏『稲作の起源』講談社
  23. ^ 2006年発表の外国人居住者数約200万人

[編集] 関連項目


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