JUDE (ソフトウェア)
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JUDE(ジュード)とは、日本の株式会社チェンジビジョンが開発、配布、販売するUMLモデリングツール、マインドマップエディタ、および内部統制サポートツールのソフトウェア製品群の総称である。個々の製品は、バリエーションによって、"JUDE/Community"、"JUDE/Professional"等と呼称される。
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[編集] 概要
JUDEシリーズは、「要求分析」等のソフトウェア工学における開発フェーズの上流工程、およびビジネスモデリングでの活用を重視したツール群である。
1999年の発表当初から、UMLモデリングツールとして無償配布されてきたソフトウェアであり、2004年11月からの有償商品版発表後にも、無償配布版の改良と配布を継続している為に、全世界に少なくとも14万人のユーザーが存在するとチェンジビジョンは公表している。
Javaアプリケーションなので、基本的にはどのプラットフォームでも動作するが、正式に対応しているのはWindowsのみであり、後述するJUDE/Think!の日本語版のみ、Mac OS Xにも正式に対応している。
また、JUDEシリーズは、2006年10月6日に独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)から、ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー(R) 2006における 産業・企業・行政分野での受賞製品の一つに選ばれた[1]。
[編集] JUDE/Community
2004年11月まで「Jude竹」として無償配布されていたUMLモデリングツールの後継ソフトウェアであり、JUDEの商品化後もフリーウェアとして改良と無償配布が続けられている。
UML1.4の全ダイアグラムをサポートしている。
- クラス図 (オブジェクト図、パッケージ図、サブシステム図、およびロバストネス図も作図可能。)
- ユースケース図
- シーケンス図
- コラボレーション図
- ステートチャート図
- アクティビティ図
- 配置図
- コンポーネント図
また、クラス図からのJava言語のソースコードの生成、Java言語ソースコードからクラス図の作成 (リバースエンジニアリング) が可能である。(ただし、ソースコードとクラス図間でのラウンドトリップ・エンジニアリングには対応していない。)
[編集] JUDE/Professional
JUDE/Communityの機能を強化した、有償版の商用ソフトウェアである。主に下記の機能が強化されている。
- UML2.0での表現の一部への対応
- フレーム(全図)
- 関連の誘導可能性(クラス図、ユースケース図、配置図)
- 要求インターフェース、提供インターフェース(クラス図)
- 複合フラグメント(シーケンス図)
- 相互作用の利用(シーケンス図)
- 出現メッセージ、消失メッセージ(シーケンス図)
- 状態不変式(シーケンス図)
- 格子状のパーティション、入れ子のパーティション、水平方向のパーティション(アクティビティ図)
- コンポーネント図
- 合成構造図 (複合構造図)
- 作図・モデリング機能の強化
- 多国語対応(別名機能)
- Eriksson-Penker式プロセス図(アクティビティ図内で表現可能)
- ユースケース記述
- ユースケース記述テンプレート
- ステレオタイプのアイコン指定
- 関連する図やモデルへのジャンプ
- 入出力機能の強化
- プロジェクトのマージ
- Javadocの出力 (図も含む)
- XML形式での全プロジェクトデータの入出力機能(XMI 1.1を独自拡張した形式)
- XML形式(XMI 1.1 UML1.3 Unisys/Roseフォーマット)でのクラス図、ユースケース図の入出力(機能制限あり)
- EMF形式でのコピーペースト
- 印刷機能強化
- 一部要素の文字列に対するフォントの設定
- マインドマップエディタ(JUDE/Think!相当)
- マインドマップとUMLとの連携機能
- JUDE/Serverによるチーム開発機能
- JUDE/Professional version3.0よりも前には、JUDE/Professionalの上級ソフトウェアであるJUDE/Enterpriseのみの機能であったが、ラインナップの修正に伴い、JUDE/EnterpriseがJUDE/Professionalに統合された為、JUDE/Professionalの機能となった。
- ER図 (実体関連図) のサポート(JUDE/Professional version3.2以降)
[編集] JUDE/Server
JUDE/Professionalを複数のユーザーで使用し、プロジェクトデータを共有する為のサーバーソフトウェア。無償であるが、利用する為にはJUDE/Professionalが必要である。
JUDE/Professional version3.0より前には、JUDE/Enterpriseでのみ利用する事ができた。
[編集] JUDE/Enterprise
JUDE/Professional version3.0より前のラインナップに存在していたJUDE/Professionalの上級ソフトウェア。JUDE/Serverによるチーム開発機能の他にも、JUDE APIを公開する事で差別化を図っていたが、ラインナップの修正により、消滅したグレードである。全ての機能がJUDE/Professionalに受け継がれた。
[編集] JUDE/Think!
JUDE/Professionalのマインドマップエディタの機能のみを商品化した市販ソフトウェアであり、UMLのモデリング機能はない。JUDEシリーズとしては、ソフトウェア開発以外の用途を意識した最初の製品である。JUDE/Think!で作成されたマインドマップは、JUDE/Communityでの閲覧、JUDE/Professionalでの閲覧と編集が可能である。また、JUDEシリーズの中では唯一Mac OS Xでの動作を正式にサポートしている。
[編集] JUDE/Biz
日本版SOX法への対応の為の企業による内部統制活動の支援ツール。JUDEをベースに開発された商用ソフトウェアであるが、全く異なる機能を持つ。
- フローチャート
- フロー記号テンプレート
- フローテンプレート
- RCM(リスク・コントロール・マトリックス)
- 業務記述書
- コントロールチェックリスト出力
- リスク・コントロール項目のカスタマイズ
- アイコンカスタマイズ
[編集] JUDEの名称の変遷と開発の歴史
[編集] JUDEの黎明期(JOMT時代)
2006年現在株式会社チェンジビジョンの代表取締役である平鍋健児は、1996年ごろに本格的なオブジェクト指向モデリングツールを着想した。平鍋らが1997年末に業務とは別にJUDEの開発に着手した頃には、「Javaによるオブジェクトモデル化技法 (OMT:Object Modeling Technique) の為のツール」という意味で、JUDEは「JOMT」と呼ばれていたのである[2]。
平鍋らは株式会社永和システムマネジメントの中からボランティアを募り、自分たちの趣味として、少しずつJOMTを形にしていった[3]。
[編集] フリーウェアとしての浸透(Jude時代)
1995年に、オブジェクト指向開発方法論の3大提唱者である、いわゆる「スリーアミーゴス」(グラディ・ブーチ、イヴァー・ヤコブソン、ジェームズ・ランボー)がラショナル社に集結した事で、やがてOMTの表記法はUMLへと統一された (ジェームズ・ランボーがOMTを提唱していた) 。この為、JOMTは1999年に、"Java and UML Developers' Environment"の略称として「Jude」に改名されて世に出る事になった。
平鍋によると、改名に当たっては先ず、日本語の響きを持った名前として「柔道」(JUDO)が候補に挙がった。そしてザ・ビートルズの楽曲『ヘイ・ジュード』から"Jude"のスペルを当て、その後に「"Java and UML Developpers' Environment"の略」という意味づけを行ったとの事である。
こうした経緯から、JUDEは元々はフリーウェアとして無償配布されているUMLエディタであり、2004年に商品化されるまでは「Jude梅」「Jude竹」と言った名称で知られていたのである。
[編集] Jude梅
1999年から2000年にかけて、JUDEの最初期のバージョンである「Jude梅」が株式会社永和システムマネジメントによって公開された。「Jude梅1.0」で描ける図はUML1.3のクラス図のみであり、「Jude梅1.2」にてユースケース図にも対応したものの、保存できる図はクラス図のみであった[4]。しかし、最初に発表された「Jude梅1.0」の時点から、クラス図を元にしたJavaのテンプレートソースコードの出力や、Javaのソースコードを入力してクラス図を作成する機能が存在していた。
Judeの開発は2000年12月8日リリースの「Jude梅1.3」で一旦中断された。
[編集] Jude竹
リリースが2年間中断されていたJudeであったが、2002年12月20日に「Jude竹1.0α」として復活した。 2003年4月11日に正式版としてリリースされた「Jude竹1.0」では、UML1.4のクラス図、ユースケース図、ステートチャート図、アクティビティ図、シーケンス図、コラボレーション図に対応した。そしてマイナーバージョンアップの度に少しずつ機能が強化されて行った。
2003年7月7日リリースの「Jude竹1.1」ではオブジェクト図をサポート。2003年8月8日リリースの「Jude竹1.2」ではコンポーネント図と配置図をサポートした。
なお、ロバストネス図については、この時代からクラス図にエンティティクラス、コントロールクラス、バウンダリィクラスを描ける事でサポートしている。
UML全図に対応した事で、Jude竹は海外にも浸透した。日本以外では、特にブラジルでファンサイトが作られる等したのである。
なお、Jude竹の時代には、年末ごとに「クリスマスバージョン」をリリースするといった、ファンサービスも行っていた[5]。
この頃から平鍋は、上海の企業SuperV System Integrationと協業し、Judeの開発を永和システムマネジメントの事業として立ち上げ、同僚らと共にJudeの商品版の企画と開発に取り掛かった[6]。
[編集] 商品化とシリーズ展開(JUDE時代)
2004年11月からの商品化に際し、既にフリーウェアとして全世界に認知されている事に配慮して、「Jude」は大文字表記の「JUDE」に改名された。「Jude」には一般人物の人名としての意味以外での、(特に「ユダ」とも読めてしまう事によって生じる)民族的・宗教的中立性の問題が指摘されていたからである。この事は商品化の際のユーザーへの告知の中で、「欧米文化圏への配慮」という表現で述べられた。
またこの時に、日本製である事を象徴する「松竹梅」によるメジャーバージョン表記が廃止された為、「Jude松」は開発コードとしてのみ存在し、世に出る事は無かった。この事は、JUDE/Professionalの販売開始時の平鍋による挨拶文の中で「Jude松」を待望していたユーザーたちに公表された。また、「Jude竹1.3」は、JUDE/Community1.4へとバージョンアップされ、改良と無償配布が続けられる事になった。
2006年2月、JUDE開発事業が株式会社豆蔵と永和システムマネジメントからの出資を受けた株式会社チェンジビジョンに移管され、平鍋はチェンジビジョンの代表取締役に就任した(永和システムマネジメントの取締役を兼任)。JUDEシリーズは、豆蔵から移管されたTRICHORDと共に、チェンジビジョンの見える化支援事業の柱として位置づけられる事になった。
2006年6月、ラインナップの見直しにより、JUDE/Enterpriseの機能がJUDE/Professionalに統合された。また、JUDE/ProfessionalによるUML2.0への一部対応が始まった。
2006年9月、日本版SOX法に対応する為の内部統制文書作成支援ツールとしてJUDE/Bizが発売された。
日本情報産業新聞が2007年1月15日に報じた処によると、NTTデータは、同社内の標準ソフトウェア開発ツールとしてJUDEを採用した。
2007年2月現在、JUDEシリーズには、「Jude竹」を継承した無償配布版の"JUDE/Community"、機能強化版である"JUDE/Professional"、マインドマップエディタである"JUDE/Think!"、内部統制サポートツール"JUDE/Biz"が存在する。現在では、純粋なUMLエディタは無償配布版のJUDE/Communityのみである。
また、2007年2月現在、JUDE/Think!とJUDE/Bizは日本国内版のみが販売されている。
2007年2月22日、チェンジビジョンは同年2月28日にER図 (実体関連図) をサポートしたJUDE/Professional 3.2を発売する事をプレスリリースにて発表した。その際、平鍋は、JUDE/Professionalを、UMLモデリングツールから、より幅広くシステム開発現場のニーズを満たすツールへと発展させていく方針である旨を述べた。
[編集] 脚注
- ^ IPA ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー® 2006 の発表について
- ^ Jude開発記 オブジェクト指向とJava言語による対話型アプリケーション開発事例 - オージス総研 オブジェクトの広場
- ^ プロマネへの道 平鍋 健児さん 永和システムマネジメント 取締役 - ザ・プロジェクトマネジャーズ
- ^ フリーのUML CASE「Argo/UML」「Jude」 - BitArts
- ^ フリーのUMLモデリング・ツールJudeにクリスマス・バージョンが登場 - ITpro
- ^ アジャイル実践者インタビュー オフショアでアジャイル開発の実際 - @IT