飛ぶ教室
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『飛ぶ教室』(とぶきょうしつ、独: Das fliegende Klassenzimmer)は、1933年に発表したエーリッヒ・ケストナーの児童文学小説である。世界30か国語以上に翻訳されている。
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[編集] 概要
ドイツのキルヒベルクにある、ヨハン・ジギスムント高等中学(ギムナジウム)を舞台に、クリスマスシーズンの学校で起こる大小の事件を、寄宿舎に住まう生徒たちが知恵と勇気をもって、解決していく物語である。文は三人称で書かれ、前書きと後書きでは作者のケストナー自身も物語の中の人物かのように登場する。
作品が書かれた1933年当時、ドイツはナチスの支配下にあり、自由主義の作家は本を書くことを制限されていた。しかし、ケストナーの児童文学作品は人気があり、優れていたことから、児童文学作品のみ書くことを許され、発行に至った。
ドイツでは1954年・1973年・2003年と映画化されており、日本では2003年のウルリヒ・ノエテン(de:Ulrich Noethen)主演のものが、恵比寿ガーデンシネマほか全国で公開された。
[編集] 主な登場人物
[編集] ヨハン・ジギスムント高等中学生
- ヨナタン・トロッツ
- 高等科一年生。ニューヨーク生まれだが、4歳のときに実父に捨てられ、単身ドイツへと渡る。読書家で、クリスマス劇『飛ぶ教室』の作者でもある。愛称は「ヨーニー」。
- “マッツ”マチアス・ゼルプマン
- 高等科一年生。勉強は苦手だが、喧嘩が強くボクサーを志している。常に腹を空かせており、菓子やパンが手放せない。学校前の菓子店で、一袋20ペニヒの「お菓子のくず」を買うのを日課のようにしている。
- ウリー・フォン・ジンメルン
- 高等科一年生。vonの称号が示すように貴族出身。小柄な体格の持ち主で、臆病な性格をからかわれることが多かったが、ある事件を起こして勇気を示した。マチアスの親友。
- ゼバスチアン・フランク
- 高等科一年生。読書家で弁が立つ。実業学校の生徒との喧嘩の際は、軍使として活躍した。
- “3マークくん”マルチン・ターラー
- 高等科一年生。家が貧しいため、奨学金を受けている勤勉家。首席。絵画の才能もある。癇癪持ちの一面があり、自らの正義のためには手を上げる。ヨナタンの親友。“3マーク”は1ターラーが3マークであることから。
- テオドル
- 最上級生で、寄宿舎第9室の室長。規則に厳しく、杓子定規なところがある。「美少年テオドル」と呼ばれることが多い。
- ルディ・クロイツカム
- 高等科一年生。同学校の国語(ドイツ語)教師を父に持つ通学生。下校途中に実業学校の生徒に拉致される。
- シュテッカー
- 中等科三年生。クリスマス劇『飛ぶ教室』でウリーの代役を務める。劇では金髪のかつらを被って少女を演じたが、嵌り役で喝采を博した。
[編集] 先生たち
- ヨハン・ベク
- ヨハン・ジギスムント高等中学の舎監の先生で、ヨナタンたちの憧れの人。親友が失踪してしまった過去がある。愛称は「正義先生」・「正義さん」(justus)。
- クロイツカム
- ヨハン・ジギスムント高等中学のドイツ語教師。ルディの父。
- ローベルト・ウトホフト
- ヨハン・ジギスムント高等中学の近くで、鉄道の廃車になった禁煙車を譲り受けて改造したものに住んでいる男性。ヨナタンたちのよき理解者。現在は料理店「されこうべ」(Skelett)でピアノを弾き賃金を得ているが、元は医者だった。愛称は禁煙車住まいである事から「禁煙先生」。しかし喫煙者である。実はヨハンの失踪した親友。
[編集] 実業学校生
- エーガーラント
- 実業学校生のリーダー的存在。ルディを拉致し、家の地下室に監禁した。
- ハインリヒ・バベルカ
- マチアスと一騎打ちの対決をした。
[編集] 作中における『飛ぶ教室』
タイトルの『飛ぶ教室』は、クリスマスに上演する劇として作中に登場する。これはヨナタンが書いた戯曲で、学校が将来どのように運営されるかを描いており、五幕から構成される。舞台監督はヨナタンが兼任し、絵が得意なマルチンが背景画を担当した。稽古は体育館で行い、長期休暇前の最後の日の晩に披露した。
物語のあらすじは、中学校の教師が生徒たちと飛行機に乗り、ベスビアス火山、ギゼーのピラミッド、北極を回って現地を学習する、というものである。教師と生徒たちはその後事故により天国へ行き、出演者と観客が「きよしこの夜」を歌って劇は締めくくられる。
劇中の主な登場人物と出演者は、中学校の教師(ゼバスチアン)、遍歴学生の妹(シュテッカー)、ラムセス2世(ヨナタン)、ペテロ(マチアス)である。当初、遍歴学生の妹役はウリーが演じる予定だったが、公演前日にけがを負ったため降板し、シュテッカーが代役を務めた。