装甲車
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装甲車(そうこうしゃ、Armoured Car, AC)とは、自動車・トラックに銃器から車体を守るべき装甲などを備え、攻撃用に銃器・大砲を装備した兵器である。
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[編集] 軍用装甲車
一般的にタイヤを装備した装輪車を指す言葉であり、履帯を持つ半装軌車や装軌車は装甲車とは呼ばない。ただし例外もあり、陸上自衛隊では装軌式の装甲兵員輸送車の事を「装甲車」と呼称し(60式装甲車、73式装甲車)、装輪式の装甲兵員輸送車の事を「装輪装甲車」と呼称する(96式装輪装甲車)。また、日本では装甲戦闘車両も装甲車に含めて俗称する事がある。
この他、日本陸軍では歩兵科と騎兵科の戦車を巡る対立のため、騎兵科が使用する装甲戦闘車両に「戦車」の名称を使えず、「装甲車」と呼称される装軌車両が存在した。
第一次世界大戦以降、各国が作るようになった。第二次世界大戦時には四輪、六輪、八輪といった車輪を持つものが製造され、路上においては装軌車より高速であるために偵察用として良く使用された。路外走行性能に優れた半装軌車および装軌車も、普及が進み、戦場から戦場へ(ないし「塹壕から塹壕へ」)兵員を運ぶ用途に用いられるようになった。この流れを引き継ぐのが、第2次大戦後のM113に代表される装甲兵員輸送車である。一般に装甲兵員輸送車の任務は、兵員に防護を提供しつつ戦場と戦場の間を移動する、いわゆる「戦場のタクシー」と呼ばれるものである。したがって、その装甲防御力も機銃弾や砲弾の破片に耐える程度のものであったし、運用上の構想も、その程度の防御力を充分なものとしていた。
しかしながら、軽量小型の対戦車火器、すなわち対戦車ミサイルの普及により、歩兵の対戦車戦闘能力は著しい向上を見たことは、そうした事情を一変させた。とりわけ、第四次中東戦争において、軽量小型で歩兵が携行可能なソ連製対戦車火器(AT-3、RPG-7)を備えたエジプト軍が、精強を謳われたイスラエル軍戦車部隊に一定の損害を与え、その行動を遅滞させたことは、イスラエル軍の基本戦術であるオールタンクドクトリン(戦車至上主義)に大きな衝撃をあたえた。それ以降、対戦車火器に対する駆逐任務を帯びた歩兵が戦車と密接に連携することが求められるようになるにつれ、その種の任務には装甲兵員輸送車では不充分であることが認識されるようになってきた。すなわち、より過酷な戦闘に参加するためには防御力・火力とも不足なのである。こうした問題を解決するため、機関砲弾に耐える程度の装甲防御力と、機関砲(ときには対戦車ミサイル)を備えた歩兵戦闘車が登場するようになった。
しかし東西冷戦が終結し、軍事費の支出が抑えられるようになると、装軌車より調達費、維持費とも安い装輪装甲車が好んで配備されるようになった。これには、エンジン出力の向上や、タイヤシステム、サスペンションシステムのハイテク化などによる、装輪式車両の不整地走破能力向上もある。近年では、イタリアのチェンタウロやアメリカのM1128ストライカーMGSなど、装輪式装甲車の車体に大型の低圧滑腔砲や低反動ライフル砲(一部を除き戦車砲とは別物)を装備した砲塔を搭載した車両(戦車ではなく自走砲。違いは背後の敵を反転せずに撃てるか否か)の導入も進められており、これらは戦車の役割の極一部を担う事が出来るが、装輪車両という制約から路外走破能力や許容される車体重量(射撃精度や装甲防御などに影響)など複数の要素が不足している為、戦車の代替には程遠い
また、装輪式装甲車は装軌車両に比べて地雷に対する抗耐性が強く、日本の様に舗装された道路網が整備された土地では装軌車に対する不利が小さい。しかし、不整地走破性では装軌車両とは比較にならず(構造上、タイヤの半径を超える大きさの起伏が超えられない)あくまで双方に一長一短がある補完的な関係にあり、一方が他方を代替するというものではない。
装軌車両は戦車に追随して戦車とほぼ同等の路外戦闘機動が出来る(戦車は視界が悪いので、装甲車に乗車していた歩兵を下車させて追随援護しないと対戦車ミサイルで撃破されやすい)。また、砂浜に揚陸する際に砂に嵌って動けなくなる危険が少なく上陸作戦に向く。だが、路上走行能力で劣り(構造上、路上を長駆すると履帯に負担がかかる)、長距離移動時はトレーラーで運ばねばならない不便さがあり、兵力の集中が遅れる。装輪式は路上を長距離自走できるので、兵力の集中や、路上での機動的運用に適しているほか、砲弾の破裂片が降りしきる戦場で歩兵を塹壕から塹壕に安全に運ぶ「戦場タクシー」用途や戦車と装軌式装甲車が突破したあとを追随する用途、敵の空挺部隊や特殊部隊を機動的に打撃する用途に向いている。しかし、機甲戦や上陸戦で先陣切って突破する用途では装軌式に一歩譲ると言われる。
正規軍の重装備機甲部隊との戦闘では装軌式が、不正規ゲリラ部隊の潜入対抗、武装パトロールなどには装輪式が適している事が、冷戦後、装輪式が増えた理由かもしれない。
[編集] 装甲車の分類
軍隊の装甲車は、武装や用途などによって数種類のモデルに分類される。ここでの分類は、あくまでも目安であり、厳格な基準ではないことに注意。ここでは装軌式と装輪式はあえて区別しない。
装甲車の種類と分類法は大きく分けると以下のようになる。
- 装甲兵員輸送車
- 1個分隊の歩兵を搭乗させることが可能であり、武装は機関銃あるいは自動擲弾発射器のみ。
- 歩兵戦闘車
- 1個分隊の歩兵を搭乗させることが可能で、主武装に機関砲や大砲を装備し、対戦車ミサイルを平行して装備している車両も存在する。戦車に追従して随伴歩兵を保護・支援するという任務の都合上装軌式が大半を占めているが、装輪式も存在する。戦車と供に行動し、対戦車兵器を投射されることを想定して形状/装甲を設計されている
- 装甲偵察車
- 原則的には乗員以外の歩兵は搭乗不可能であり、武装は機関銃のみ。2名ほどの偵察要員(斥候)の搭乗が可能な車両もある。
- 戦闘偵察車
- 乗員以外の歩兵を乗せるスペースは存在せず、主武装に機関砲や大砲を装備する。主に威力偵察(敵に小規模な攻撃を行ってあえて反撃させることで、敵の持つ兵器の数と種類、配置、性能や練度などを調査する)や火力支援を任務とするが、車種によっては対戦車戦闘も可能。イギリス製のFV101スコーピオンのような無限軌道を装備した装軌式の車両の場合は、軽戦車や偵察戦車に分類されることもある。
この他にも、高性能な無線機を装備して部隊指揮官を搭乗させる指揮統制車やNBC防護機能を強化して検出分析装置を装備したNBC偵察車などが存在する。派生型の製造や近代化改修の際に武装などが変更されると、分類が変わってしまうことも多い。
[編集] 警察用装甲車
警察用の装甲車は、主に暴動の鎮圧などに投入される。主に市街地で運用されるためにゴムタイヤを装着した装輪式が殆どを占めているが、アメリカ、アリゾナ州のフェニックス及びツーソン市警察SWATがM113装甲兵員輸送車を装備しているように、ごく稀に無限軌道を装備した装軌式車両が装備されることがある。
大砲や対戦車ミサイルなどの重火器を装備することは無く、機関銃を装備することも稀で、主に放水銃などの非致死性武器を装備していることが多い。また、近年は装甲材の発達や極端な威圧感を与えないために、軍用装甲車のような角ばった形状より民間車両と殆ど変わらない丸みを帯びた形状の物が好まれる傾向があるが、治安の悪い地域では防弾性能を優先させて軍用装甲車と同様に角張った形状の車両、もしくは軍用装甲車そのものか武装を簡略化したものが使われることも多い。
日本の警察用装甲車については特型警備車を参照のこと。
[編集] 装甲現金輸送車
武装強盗による輸送車強奪に備えて装甲と防弾ガラス、特殊タイヤを装備した現金輸送車である。 現金以外にも、貴金属や宝石類の輸送に使われるケースもある。
民間の警備会社などが使用することもあり、機関銃などの武装は有さないのが通例である。
また車両も、あくまで公道を走ることが前提であるため、全幅や全長、車体重量などは、各々の国の法律に沿った車でなくてはならない。
[編集] VIP用装甲車両
要人の移動や警護のために使用される車両で、外見上はごく標準的な高級セダンやリムジン、バスと変わらないが、防弾ガラスや装甲、パンクに耐えうる特殊タイヤを装備している。 なお、当然ながら武装は一切有していない。
例えば日本でもそういった要人用装甲車両を製作しているセキュリコを例に取ると、セルシオやベンツW221をベースに、要人警護に必要な装備を施した「アーマードセルシオ」や「アーマードベンツ」を販売している。その改造点の例として
- 防弾ガラス、耐弾ボディー、さらには手榴弾やクレイモア地雷程度の爆発物なら、至近距離で爆発しても耐えられる耐爆ボディーへの変更。
- タイヤが狙撃や爆発などでパンクしても、強制的にタイヤを膨らませてその場を離脱できる特殊車輪の装備(ランガードシステム)。
- 燃料タンクが被弾しても爆発しないような特殊な構造の軍用燃料タンクへの変更。
などである。
[編集] 軍用装甲車の一覧
軍用装甲車一覧を参照