栄誉礼
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栄誉礼(えいよれい)とは軍隊が元首や高官を迎えるときに行なわれる儀式をいう。受礼者が栄誉礼を行うべき場所に到着したとき及びこれを離去するとき、儀仗隊等が受礼者に対して礼式捧げ銃の敬礼を行い、同時に音楽隊等が国歌等を奏することによって行なわれる。栄誉礼の後に儀仗隊の巡閲を行なうことが通常である。受礼者の地位によって、前奏である栄誉礼冠譜の演奏回数が異なる。このように、栄誉礼の主目的は敬意を表する点にある。
これに対して、儀仗(ぎじょう)とは、敬意を表する点のほかに警衛する点に意義がある。また、堵列(とれつ)とは敬意を表する点のほかに送迎する点に意義がある。
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[編集] 自衛隊の儀仗
日本でも国賓等を迎えた場合、東京国際空港、迎賓館等で特別儀仗が行なわれる。特別儀仗においては、陸上自衛隊第302保安中隊から特別儀仗隊が編成される。
[編集] 栄誉礼・儀仗・堵列
自衛隊法施行規則(昭和29年6月30日総理府令第40号)第13条ないし第14条の2によると、栄誉礼、儀仗及び堵列の目的は次の通りとされている。
- 栄誉礼
- 栄誉礼受礼資格者が自衛隊を公式に訪問し若しくは視察する場合又は長官の定める場合に、栄誉礼受礼資格者に敬意を表するため行う。(自衛隊法施行規則第13条)
- 儀仗
- 栄誉礼受礼資格者が自衛隊を公式に訪問し若しくは視察する場合の発着又は長官の定める場合に際し、栄誉礼受礼資格者等の途上を警衛し、及びこれに敬意を表するため行う。(自衛隊法施行規則第14条)
- 堵列(とれつ)
- 栄誉礼受礼資格者であって長官が定めるものが自衛隊を公式に訪問し若しくは視察する場合又は長官が定める場合に際し、当該受礼資格者を途上において送迎し、及びこれに敬意を表するため行なう。(自衛隊法施行規則第14条の2)法令上の標記は「と列」
[編集] 栄誉礼細目
栄誉礼は例えば、次のような手順で行われる。「栄誉礼の細部実施要領について(通達)」(昭和59年1月25日海幕総第294号(平成8年7月24日海幕総務第3467号による第4次改正後のもの))における、外国の受礼者の場合をもとに示す。なお、陸上自衛隊に関しては儀仗隊の編成等に関して若干の差異が見受けられる。具体的には編成は受礼者に応じ1コ中隊~1コ小隊を中心に編成、指揮官は3佐~3尉までと受礼者に応じ変化がある。
[編集] 儀仗隊
- 儀仗隊の編成
- 儀仗隊の装備 - 指揮官は拳銃を、その他の隊員は小銃及び銃剣を携行する。ただし、指揮官が儀礼刀を着用する場合、拳銃は携行しない。
- 服装
- 儀仗隊 - 自衛隊の礼式に関する訓令(昭和39年防衛庁訓令第14号)第83条第2項に定める甲武装の着用品は次のとおりとする。
- 常装冬服(第1種夏服)の着用品(冬略帽を除く。)
- 白色の拳銃帯(専用ベルト。指揮官は白色の拳銃嚢を装着する。)、又は儀礼刀及び刀帯(指揮官のみ。)
- きゃはん(脚袢)(部隊等の長が着用を命じた場合に限る。)
- 白色の手袋
- 音楽隊 - 原則として、通常演奏服装とする。
- らつぱ隊 - 通常礼装とする。
- 儀仗隊 - 自衛隊の礼式に関する訓令(昭和39年防衛庁訓令第14号)第83条第2項に定める甲武装の着用品は次のとおりとする。
[編集] 実施要領
- 整列
- 儀じよう隊は、受礼者を右翼方向から迎える態勢になるように整列し、音楽隊又はらつぱ隊は儀じよう隊の右翼に、送迎者は儀じよう隊の左翼に整列するのを例とする。
- 受礼者が臨場する前適宜の時機に、らつぱにより「気を付け」を令する。
- 栄誉礼
- 指揮官は、受礼者が受礼位置につくと同時に「捧(ささ)げ銃(つつ)」を令し、正面に対し、挙手の敬礼(儀礼刀を着用している場合は捧(ささ)げ刀の敬礼)を行う。
- 儀じよう隊員は、正面に対し、捧(ささ)げ銃(つつ)の敬礼を行う。
- 音楽隊は、指揮官の予令と同時に奏楽準備を行い、指揮官の敬礼と同時に受礼者の本国の国歌の奏楽を開始し、同国歌の奏楽終了後、引き続き「国歌」を奏する。
- 立会者及び侍立者は、正面に対し、挙手の敬礼を行う。
- 送迎者その他近傍に在って栄誉礼を視認できる位置に在る自衛官は、正面に対し、挙手の敬礼を行う。
- 指揮官は、「国歌」の奏楽が終了した直後に「立て銃(つつ)」を令し、総員元の姿勢に復する。
- 指揮官は、再度「捧(ささ)げ銃(つつ)」を令し、受礼者に対し挙手の敬礼(儀礼刀を着用している場合は捧(ささ)げ刀の敬礼)を行う。
- 儀じよう隊員は、受礼者に対し、捧(ささ)げ銃(つつ)の敬礼を行う。
- 音楽隊又はらつぱ隊は、指揮官の予令と同時に奏楽(吹奏)準備を行い、指揮官の敬礼と同時に「栄誉礼冠譜」及び「祖国」の奏楽(吹奏)を開始する。
- 立会者及び侍立者は、正面に対し、挙手の敬礼を行う。
- 送迎者その他近傍に在って栄誉礼を視認できる位置にある自衛官のうち、幹部自衛官及び准海尉は、受礼者に正対し挙手の敬礼、海曹及び海士は、そのまま姿勢を正す敬礼を行う。
- 指揮官は、奏楽(吹奏)が終了し、受礼者が元の姿勢に復した直後に「立て銃(つつ)」を令し、総員元の姿勢に復する。
- 巡閲
- 指揮官は、受礼者の前方約3歩の位置まで前進し、挙手の敬礼(儀礼刀を着用している場合は捧(ささ)げ刀の敬礼)を行い、先導する旨の申告した後、受礼者の右斜め前方約1歩の位置を保ち、儀じよう隊の各列の前面を先導する。
- 立会者は、受礼者の後方に位置し、巡閲に随(同)行する。
- 音楽隊又はらつぱ隊は、指揮官の敬礼と同時に奏楽(吹奏)準備を行い、受礼者が受礼位置を離れると同時に「巡閲の譜」の奏楽(吹奏)を開始し、以後、受礼者が元の位置に復するまで継続する。
- 指揮官は、巡閲が終わり、受礼者が元の位置に向かう途上において受礼者から離れ、元の位置で待機する。この際、要すれば、受礼者がそのまま元の位置に向かうように促し、以後の誘導は立会者が行う。
- 指揮官は、受礼者が元の位置に復すると同時に挙手の敬礼(儀礼刀を着用している場合は捧(ささ)げ刀の敬礼)を行い、先導終了を申告する。
- 送迎
- 立会者は、受礼者を送迎者の隊列に誘導し、随(同)行する。
- 送迎者のうち、幹部自衛官及び准海尉は各個に挙手の敬礼、海曹及び海士は指揮官の号令により頭右(左)の敬礼を行い、目迎(送)する。
- 受礼者が遠ざかった適宜の時機に、らつぱにより「別れ」を令する。
[編集] 受礼資格者
自衛隊法施行規則第13条第2項により、自衛隊の儀仗を受ける資格を有する者は次の通りである。
- 天皇
- 皇族
- 衆議院議長及び参議院議長
- 内閣総理大臣
- 最高裁判所長官
- 国務大臣
- 防衛大臣
- 防衛副大臣
- 防衛大臣政務官
- 防衛事務次官
- 統合幕僚長(旧統合幕僚会議議長)
- 陸上幕僚長、海上幕僚長及び航空幕僚長
- 国賓又はこれに準ずる賓客として待遇される者及び防衛大臣が公式に招待した外国の賓客
- 前各号に掲げる者の外、防衛大臣の定める者
受礼者 | 君が代 | 「栄誉礼冠譜」 | 「祖国」 | 儀仗隊(海自・空自) |
---|---|---|---|---|
天皇 | 1回 | 1個中隊(1個小隊) | ||
首相等 | 4回 | 1回 | 1個中隊(1個小隊) | |
陸将等 | 3回 | 1回 | 1個小隊(2個分隊) | |
陸将補等 | 2回 | 1回 | 2個分隊(1個分隊) |
[編集] 使用小銃
諸外国の儀仗兵の中には、その国の軍隊が使用する最新かつ主力の小銃を携行する国(イギリス等)もあるが、64式や89式小銃を含む最近のアサルトライフルでは、弾倉や照準装置等が突出していて執銃動作銃の邪魔になる。また、全長が短いブルパップ方式の小銃を使う場合は立て銃等が出来ないため、新たな執銃姿勢を採用する場合もある[1]。その様な理由から、取り回しが優美に出来、銃そのものの外見も優美であることから、旧式の小銃を使用する国も多い(アメリカ合衆国等)。
自衛隊の特別儀仗隊等では、警察予備隊時代から受け継いだ、木製部分が多く外見が優美なM1ガーランドを使用する。
[編集] 栄誉礼への批判
自衛隊の栄誉礼において、外国国賓等の儀仗隊巡閲に際して天皇又は内閣総理大臣が同行しない点について、田畑金光参議院議員が参議院内閣委員会において指摘し、「こういうようなことは、非常にわれわれとしては何かしらん不自然な感じを受ける」と述べたことがある。これに対して、政府委員からは「外国によりますと、外国のいわゆる元首がやはり案内しないで、日本の例のように、手前に立っておられるような例もあるわけですから、その方がよかろうというので、今のような形が採用されて現在に及んだわけであります。」と説明された[2]。
[編集] その他の栄誉礼
警察や皇宮警察、消防、海上保安庁などにおいても栄誉礼が行われている。警察の儀仗隊は警視庁機動隊、千葉県警機動隊、千葉県警察成田国際空港警備隊に、皇宮警察の儀仗隊は皇宮警察特別警備隊に置かれている。
- 警視庁儀じょう隊は第一機動隊~第九機動隊と特科車両隊の10隊から隊員を各7~8名ずつ(計78名:内10名は鼓隊要員)、第二機動隊~第九機動隊、特科車両隊から巡査部長の分隊長1名(計9名)、第一機動隊、第三機動隊、第七機動隊から警部補の小隊長を1名ずつ(計3名)、第一機動隊から警部の中隊長1名を選抜して1個中隊(合計91名:鼓隊10名を含む)で編成される。(警視庁儀じょう隊員は身長170cm~177cmと規定されている。)
- 千葉県警儀じょう隊は第一機動隊~第三機動隊と成田空港警備隊から警部補1名、巡査部長(分隊長)1名、巡査(隊員)4名の計6名ずつ合計24名(4個分隊)を選抜して編成される。先任の警部補が隊長となり他の警部補は副官となる。
- また、地域の防災に努める消防団においても消防管理者である市長はじめ高官に対して栄誉礼がなされているところもある。
[編集] 脚注
- ^ Simon Dunstan (1996). The Guards : Britain's houshold division. London: Windrow & Greene. ISBN 978-1-85915-062-7.
- Mike Chappell (1987). The British Army in the 1980s. London: Osprey Pub., p45. ISBN 978-0-85045-796-4.
- ^ 昭和36年4月4日参議院内閣委員会における質疑応答。