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日本の消防 - Wikipedia

日本の消防

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本における消防(しょうぼう)は、消防組織法第1条において「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的」とするとされている。消防の項目も参照のこと。

目次

[編集] 任務

日本では、消防の任務は消防組織法により規定されている。消防の任務は、警防・救急・救助・予防に大別される。近年は、防災も消防の任務と考えられることが多くなりつつある。

[編集] 警防

警防は、ポンプ隊火災の防ぎょ・消火に係る業務であり、本来の消防業務だといえる。火災の発生を覚知した時に、消火隊を編成して消防車に搭乗して現場へ急行し、防ぎょ・消火活動を行う。このように警防は現場活動を主とするため、多くの消防本部では警防業務と救急・救助業務を合同して、警防として所管することが多い。

また、火災や救急・救助の通報を受信し、各隊へ出動指令を出す通信指令業務も警防の一分野である。管轄区域内からの通報は、一旦、消防本部に設置されている指令室で受信し、発生場所に応じて所管の消防署消防団、町村役場(消防団の役場分団)へ出動指令を発することとなるのが、一般的である。1990年代末期からは、高機能の指令システムが開発・導入され、固定電話から通報を受ければ、その通報元が瞬時に指令システムのモニタ画面の地図上に表示されるようになっている場合もある。1990年代後期以降、携帯電話での通報が増えたが、管轄本部の通信指令室が直接受信するのではなく、都道府県内の主要(主に県都所在地の)消防本部に一度つながり、転送されることとされていたため、余分な時間がかかっていた。しかし、2005年度中からは全国的に、携帯電話からの通報を所管の消防本部が直接受信できる体制が整備された。ただし、携帯電話無線の感知状況によっては、県境付近で他県の通信指令室につながることもあるため、迅速性と場所の確認の面から固定電話での通報の方が有利であると言える。2007年春以降発売の携帯電話は原則GPS装備となり、位置特定に活用される。

[編集] 救急

救急は、生命・身体に危機が差し迫った傷病者を病院まで搬送する業務である。救急隊救急自動車に搭乗して実施する。救急は元々消防の任務ではなく、大都市で任意に消防機関による救急業務が行われてきたが、1963年に消防の任務として法制化された。以後、救急出動件数は増加の一途をたどり、2000年代には年間約500万件にのぼり、年間火災件数の約7~8万件と比べると格段に多く、消防の主任務となりつつある。本来は危機の差し迫った傷病者を搬送するのが業務であるが、軽度なケガ・病気による救急要請が非常に多く、真に救急搬送を要するのは500万件のうち半分以下の200万件程度ではないかとも言われている。このため、救急車が出払い、重症患者の搬送に支障をきたすような事態がある。

また以前、救急隊員には、傷病者を病院まで搬送するだけで、医療行為を行うことは認められていなかったが、心肺停止など緊急性が特に高い傷病者については、早期の医療処置が必要であるとの声が高まり、1991年に救急救命士制度が創設され、有資格者は一定条件の下で特定の医療行為の実施が可能となった。救急隊に救急救命士を最低1人配置するため、教育訓練が精力的に進められている。2003年以降、電気的除細動気管挿管、薬剤(アドレナリン)の投与などの行為が順次、救急救命士の業務として新たに認められるようになっている。

[編集] 救助

救助工作車
救助工作車

救助は、災害や事故により危険の迫った者を救出する業務である。救助隊・特別救助隊(俗にレスキュー隊ともいう。)が救助工作車に搭乗し、救助資機材を駆使して救助業務を行う。救助の対象事案は、交通事故が最も多く、事故車に閉じこめられた乗員を救出することとなるが、水難事故や山岳事故での捜索・救助、地震やNBC災害の救助、洪水や山崩れなどの災害で孤立した住民を救出するのも救助の範囲である。 日本は地震などの自然災害が多く都市化などが進んでおり通常の救助隊よりもより高度な装備や技術を持った消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)や特別高度救助隊 などが創設され今や日本の消防レスキュー隊は、世界でもトップレベルの救助部隊になっている。 まれに犬や猫などの動物の救助を行うこともある。

[編集] 予防

予防は、火災の原因を調査し、火災が発生しないように建物管理者へ指導を行う業務をいう。建築確認と並行して行われる消防同意、建物への消防用設備の設置の指導、危険物の規制、防火対象物への予防査察、民間事業所の自衛消防組織への指導育成などが予防業務の範囲である。

[編集] 消防機関

消防を行う組織を消防機関という。消防の責任は市町村が負うこととされている(消防組織法第6条)。そのため消防機関は市町村長の管理下にある。都道府県は、市町村消防へ指導・助言を行うにとどまり、市町村消防を管理する権限を持たない。

消防機関には2種類あり、一つは消防本部、もう一つは消防団である。(消防組織法第9条)

[編集] 消防本部

消防本部は消防専門の市町村部局である。常備消防ともいう。消防本部の業務実施機関として消防署が置かれる。

詳細は消防本部を参照

[編集] 消防本部の内部組織

  1. 消防本部(消防局・東京消防庁・消防防災局)
  2. 消防署・分署
  3. 出張所・分遣所

[編集] 消防吏員と消防団員の身分と給与

  1. 消防吏員は各自治体の職員で地方公務員である。給与的には大きな消防になると「公安職」(公安職の定義参照)として扱われているが、ほとんどが一般行政職扱いである。労働三権は無い。
  2. 消防団員は特別職の地方公務員である。災害出動・訓練等を行うことによりその費用が弁償される。よって無償のボランティア団体ではなく、有償のボランティア団体である。

[編集] 消防吏員の階級

  1. 消防総監:人事選考により昇任する。消防長級の階級である。消防機関としてこの階級を定めているのは東京消防庁のみである。
  2. 消防司監:人事選考により昇任する。消防長級の階級であることが多い。
  3. 消防正監:人事選考により昇任する。消防長級の階級であることが多い。
  4. 消防監:人事選考により昇任する。消防長級の階級であることが多い。
  5. 消防司令長:人事選考により昇任する。消防署長級の階級であることが多い。
  6. 消防司令:人事選考により昇任する。
  7. 消防司令補:各組織の規定によってことなるが、消防士長に昇任してから数年経過で昇任試験受験資格を得て、試験合格後この階級へ昇任する。一定の年齢に到達することにより昇任する場合と、年功序列・その他の人事選考により昇任する場合もある。
  8. 消防士長:各組織の規定によってことなるが、採用後数年経過で昇任試験受験資格を得て、試験合格後この階級へ昇任する。一定の年齢に到達することにより昇任する場合と、その他の人事選考により昇任する場合もある。
  9. 消防副士長:各組織の規定によってことなるが、採用後数年経過でこの階級へ昇任する。
  10. 消防士:採用時のほとんどがこの階級である。

[編集] 消防団

消防団は、民間人により構成されるボランティア的な消防機関である。非常備消防ともいう。

詳細は消防団を参照

[編集] 消防団員の階級

  1. 団長
  2. 副団長
  3. 分団長
  4. 副分団長
  5. 部長
  6. 班長
  7. 団員

[編集] 国・都道府県の関係組織

消防に関する事務を所管するため、国においては消防庁が、都道府県においては消防防災主管課(都道府県により、防災消防課・危機管理課などと名称が異なる)が設置されている。

消防庁は、総務省の外局として、国の消防防災政策の企画・立案や各種法令・基準の策定などに携わる。職員定数は119人。職員は消防官ではなく総務事務官・技官。

都道府県は、消防職員・消防団員の教育訓練、国や市町村消防との調整、広域的な消防に関する調整などに携わる。道府県消防本部は存在しない。唯一東京都のみが特別区と都内市町村からの事務委託を受けて東京消防庁を設置している。消防職員・消防団員へ教育訓練を行う消防学校は、都道府県の管轄である(一部、政令指定都市が設置する消防学校もある)。また、都道府県が保有する消防防災ヘリコプターにより、市町村消防の要請に応じて、消火活動や救急搬送などの「支援」が行われている。

[編集] 消防広域応援

大規模災害や特殊災害に当たっては、災害発生地の消防だけで対応できないことがある。そのため、消防応援協定の締結などによって、市町村消防の間で消防広域応援が実施されている。一つの都道府県内で全市町村・消防一部事務組合が統一の応援協定を結ぶのが一般的であるが、都道府県境を超えて隣接市町村間などで応援協定が結ばれることもある。

しかし、都道府県内の消防力をもってしても対応できない災害の場合は、他都道府県から消防応援を受けることとなる。そのための制度が緊急消防援助隊である。1995年阪神・淡路大震災が発生した際、当時は全国的な消防応援体制が組織されていなかったため、消防の応援が必ずしも有効に機能した訳ではなかった。この教訓から全国的な消防応援組織として緊急消防援助隊が発足した。その後、2003年の消防組織法改正で、緊急消防援助隊制度が明文化・充実化され、大規模災害に対する全国規模での緊急対応体制が確立されたことになる。

[編集] 消防の施設・設備

消防が十分な施設・設備を保有することが出来るよう、消防庁から消防力の基準の指針が示されている。消防力の基準に照らすと、消防の施設・設備はまだ不十分である。消防の施設・設備には、消防水利を始めとして、消防庁舎、消防車両、各種資機材、通信機器、隊員の服装などがある。

[編集] 消防水利

地下式防火水槽
地下式防火水槽

消防水利は、消火などのために水を供給する施設をいう。消火栓防火水槽などの他、プール河川も消防水利として用いられる事がある(学校や公営のプールが清掃等で水を抜く時はその旨消防に通知する事が義務付けられている)。住宅1軒が出火したとき、その消火に40立方メートル以上の水が必要とされている。近年の防火水槽は最低限40立方メートルの水を供給できるよう設計されている。基準としては、防火水槽は、容量が20立方メートル以上のものが指定されている。また、市街地区域では、半径約150メートルごとに消防水利を1基設置することが望ましいとされている。近年は、地震動に強い耐震性貯水槽が防火水槽として設置されることが多くなっている。

[編集] 消防庁舎

消防庁舎とは、消防本部や消防署の建物のことである。災害時の活動のため、地震に強い耐震構造を有していることが多い。通常、1階部分は消防車両の車庫や資機材倉庫、受付となっており、主に2階以上に事務室や指令室や仮眠室が設けられている。屋上部の望楼は、かつて火災を望見するために設置され、消防吏員が24時間体制で高所見張りを行っていたが、通信回線の発達とともに姿を消しつつあった。しかし、阪神大震災以後、大災害発生時の情報収集を目的とし、設置されるケースも増えてきた。

[編集] 消防車両

はしご式消防車(30メートル級)
はしご式消防車(30メートル級)

消防は、現場活動が非常に多いため、消防車両が欠かせない。消防車両は大きく消防車救急自動車救助工作車、その他の車両に分けられる。それぞれの車両には、活動内容に応じた資機材が積載される。

消防車は主に火災の防御・消火に使用され、消防ポンプ自動車小型動力ポンプ積載車水槽付消防ポンプ自動車水槽車はしご付き消防自動車化学消防自動車などがある。(詳しくは消防車を参照のこと。)

救急自動車は救急業務に使用され、救助工作車は救助業務に使用されている。その他の車両には、指揮車後方支援車広報車査察車などがある。

[編集] 消防無線

主に消防署と消防車両あるいは消防車両相互の連絡に使われる。最大許可出力は50W。

出力は本庁の基地局が50W、消防車の車載移動局で10Wから30W、消防士が個々に持つ携帯無線機で5Wの出力が多い。また、周波数帯は、146.0000MHzから159.0000MHz辺りの範囲が消防業務への割り当てとなっている。他に、360MHz帯のデジタルMCA無線を使用している消防本部もある。

デジタル化は、平成23年度までに完了する予定。ただし、「東京消防庁受令系」は消防団向けでもある為、切り替え対象外である。デジタル化されると、傍受不能になる。現在は通信を傍受できるが、傍受した内容を他に漏らすと、電波法違反(特定相手に対する通信内容の漏洩)に該当するので、注意する必要がある。

[編集] 装備

陽圧式化学防護服
陽圧式化学防護服

火災時の消防活動では錣(しころ。顔と首筋を守る肩までの覆い)付き・フェイスシールド内蔵のヘルメット、防火衣(防水処理済耐火繊維で出来たハーフコート、同種の長靴一体型オーバーズボン)。高温の火点を抑圧する場合は耐熱服を着用する。救出などで、煙が充満している建物内部に突入する場合は「エアーパック」(空気ボンベ)を背負い、これとホースで繋がった「面体」(呼吸用マスク)を着装する。完全装備時の総重量は40キログラム。

このほか、気密性があり自給式呼吸具を備えた化学防護服(NBC防護服とも)、放射線環境下での活動のため遮蔽体が縫いこまれた放射線防護服、蜂の攻撃から防護する蜂防護服等を、状況に応じて着用する。

また、最近では個人携行型の消火装備である「インパルス消火システム」を使用することもある。

通常勤務では「活動服」「執務服」と呼ばれる作業服(出動の際はこの上から防火服や感染防止衣を着る。なお、ポンプ隊救急隊では活動服が異なり、救急隊は灰色ベースの専用の形式が別に存在する)、またはダブルのブレザー風の制服を着用する。

[編集] 歴史

長らく日本には消防の組織が置かれず、火災に対してほとんど為す術がなかった。そのため、失火した場合は斬刑(首を刎ねる)、放火した場合は火刑(火あぶり)と非常に厳しい刑罰が科されていた。

江戸時代初期の1629年江戸幕府から大名へ江戸の町の火消役を命ずる奉書が出された。これを奉書火消といい、日本の消防の淵源と考えられている(但し、出火の報を受けても奉書をいちいち書いて出動を命じるのんびりしたものであり、実際的ではなかったという)。さらに1643年には大名火消として組織が充実・整備された。その後、1657年振袖火事を受けて、1658年旗本による定火消(じょうびけし)が始まった。「め組」で有名な町火消は江戸時代中期に南町奉行であった大岡忠相が組織編成したものである。

水鉄砲(人力により放水ができる)
水鉄砲(人力により放水ができる)

このように官民で消防組織が編成されたが、消防活動の中心は、火災周辺の住宅を破壊して延焼を防ぐ破壊消防であり、消防技術としては龍吐水水鉄砲など小規模の火を水で消すため道具が作られた程度であった。

明治以降は、内務省は町火消を警察機関の一部として吸収していった、いわゆる警察消防時代の幕開けである。大政奉還に伴い、古来からの常設消防機関であった定火消は姿を消し、江戸以来の町火消しは消防組と呼ばれるようになる。消防技術の面では、腕用ポンプ蒸気ポンプが輸入・国産化され、近代的な消防戦術が導入された。腕用ポンプは吸管を使い水利部署し、ホースを伸ばして火点を直接攻撃するという現代の消防に通じる消防戦術の歴史上のエポックとなった。また、蒸気ポンプはその運用に技術を要し、消防は高度化・専門化を促され、「鳶職」から消防へと専門化を遂げ、その過程で現代に通じる「消防署」を見る事となった。大正期には、電話も普及し自動車ポンプが輸入され、都市を中心に消防が充実していき、地方都市でも消防組内に常備部を置くようになった。自動車用のエンジンを使った手引きガソリンポンプ三輪消防ポンプが昭和に入って普及し始める。

戦後は、GHQの指導により警察から独立し、1948年にいわゆる自治体消防制度が発足した。第二次大戦中に警防団として組織された消防組も、警察部門から切り離されて消防団として再出発した。その後、消防は着実に進展を遂げ、20世紀末までに消防常備化がほとんど完了した。日本の消防は世界的にも非常に優れた組織・技術を持つに至った。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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