定規とコンパスによる作図
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定規とコンパスによる作図(じょうぎとコンパスによるさくず)とは、定規とコンパスだけを有限回使って図形を描く事を指す。ここで、定規は2点を通る直線を引くための道具であり、長さは測れないものとし、コンパスは与えられた中心と半径の円を描くことができる道具である。定規とコンパスによる作図(不)可能性の問題として有名なものにギリシアの三大作図問題がある。
数学的には、定規とコンパスによる作図で表せるのは二次方程式を繰り返し解いて得られる範囲の数であることが知られている。つまり、いくつかの二次方程式や一次方程式に帰着出来る問題は定規とコンパスのみで作図可能であり、反対に帰着できない問題は作図不可能である。「作図可能な線分の長さ」の集合は一つの体をなしている。
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[編集] 作図可能な数
平面内に原点 O ともう一つの基準となる点 P が与えられると、O の座標を (0, 0) 、P の座標を (1, 0)とするような xy-座標系を平面上で考えることができる。この二つの点を元に定規とコンパスを使った有限回の操作で点 Q (座標を (q, r) とする)が指定されたとすると、体の二次拡大の列
- Q = K0 ⊂ K1 ⊂ ... ⊂ Kn [Kj = 1 : Kj] = 2
が存在して q, r ∈ Kn となっていなければならない。
実際、座標 (a, b) の点を中心として座標 (c, d) の点が円周上にあるような円は
- (x - a)2 + (y - b)2 = (c - a)2 + (d - b)2
という方程式によって表され、座標 (a', b')の点と座標 (c', d')の点を通る直線は
- (d' - b')(x - a') + (c' - a')(y - b') = 0
という方程式によって表されている。従って、作図できている点を元にして描いた円や直線の交点として新しい点を求めるという操作はこれら高々二次の方程式を連立させてその解を求めるという問題に帰着される。
とくに Kn の Q上の拡大次数は 2n であり、Knの部分体である Q(q) やQ(r) も同様の構造を持っていなければならないことがわかる。したがって Q(p) の次元が 2 の冪にならないような代数的数 p やそもそも代数方程式の根として表せないような超越数 p を座標に持つ点は作図できない。
[編集] ギリシアの三大作図問題
ギリシア時代の数学者たちによって次の3つの作図が定規とコンパスによって可能か、という問いがたてられた:
- 与えられた円と等しい面積をもつ正方形を作ること(円積問題)
- 与えられた立方体の体積の 2 倍に等しい体積をもつ立方体を作ること(立方体倍積問題)
- 与えられた角を三等分すること(角の三等分問題)
現在ではこれらは全て定規とコンパスのみでは作図できないことが証明されている。1837年にワンツェルは角の三等分問題と立方体倍積問題は、三次方程式を解かなくてはならない事を示した。非自明な三次方程式の根によって生成される体は拡大次数が 3 になってしまい、そのような数を座標にする点は作図できない。円積問題は、方程式 x2 = πr2 の解を求める事と同値である。1882年に、リンデマンにより π が超越数であることが証明され、作図が不可能である事が示された。
なお、不可能である事が示されているにもかかわらず、いまだに角の三等分が作図可能である事を示そうとする人々がおり、角の三等分家 (Trisector) と呼ばれている。定規やコンパス以外の道具を使用したり、定規やコンパスを本来とは異なる使い方で使用することで角の三等分を作図(あるいは工作等)することは可能であるが、当然ながら、これらは元々の「角の三等分問題」に対する解答ではない。また、「任意の角を三等分する」という問題であるのに、これを「少なくとも一つの角を三等分する」問題であると勘違いし、直角などが三等分できたのでこの問題を解けたと早とちりする人もいる(角度によっては定規とコンパスで三等分出来る)。
[編集] 作図可能な正多角形
正三角形、正方形、正五角形、およびそれらに2の冪を乗じた数の頂点を持つ正多角形が作図可能である事は古代ギリシアの時代より知られていた。それ以上の正多角形についての発見は遅く、1796年になって正十七角形が作図可能である事がガウスにより証明された。
2の冪と相異なるフェルマー素数の積
- n=2pFaFb…Fc(Fa , Fb , … ,Fc はフェルマー素数、pは整数)
で表すことができるような3 以上の数n について正n角形が定規とコンパスで作図可能であり、逆に正n角形が作図できたとすれば n はこのような形をしている。これは 1 の原始 n 乗根 ζn のガロア群の構造が 2 次拡大の繰り返しによって得られることの特徴付けとして得られる。