大脱走
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大脱走 The Great Escape |
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監督 | ジョン・スタージェス |
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製作 | ジョン・スタージェス |
脚本 | ジェームズ・クラヴェル W・R・バーネット |
出演者 | スティーブ・マックイーン |
音楽 | エルマー・バーンスタイン |
撮影 | ダニエル・ファップ |
編集 | フェリス・ウェブスター |
配給 | ユナイテッド・アーティスツ |
公開 | 1963年7月4日 1963年8月10日 |
上映時間 | 172分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
制作費 | 400万ドル |
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Variety Japan | |
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IMDb | |
『大脱走』(だいだっそう、原題:The Great Escape)は、1963年に公開されたアメリカ映画。日本でも大ヒットした映画史に輝く名作である。メインテーマのエルマー・バーンスタイン作曲の『大脱走マーチ』(The Great Escape March)も有名な曲である。
目次 |
[編集] 背景
第二次世界大戦中の1944年3月、ベルリン南東160km のザーガンにあったドイツ空軍の管理する連合軍の航空兵捕虜収容所から捕虜が集団脱走した史実を映画化したものである。当時、1943年末頃まではムスタングのようなドイツ奥地まで爆撃機を長距離護衛できる戦闘機がなかったイギリス軍やアメリカ軍の爆撃機部隊は、ドイツ空軍の優秀な迎撃戦闘機部隊やレーダーに連動する高射砲部隊の健闘によりドイツ上空で多数が撃墜、あるいは不時着、多くの連合軍航空兵が捕虜となり、各所の捕虜収容所に収容されていた。ザーガンもその一つである。捕虜となった軍人の務めの一つとして、収容所を脱走してその捜索にドイツ軍兵力を割かせ、味方前線部隊の負荷を削減することがあった。
[編集] 登場人物
[編集] 捕虜
【英国空軍】
- ラムゼイ
- 空軍大佐。捕虜中一番の先任将校。捕虜側の代表としてドイツ側との連絡役を負う。杖を携帯。
- 常に沈着冷静であり、ルーガー所長からも信頼されている。バートレットたちを陰ながらサポートする。
- ロジャー・バートレット
- 通称「ビッグX」。集団脱走計画の中心人物。階級は空軍少佐。
- 脱走した捕虜の捜索にドイツ軍の兵力を割かせ、ドイツ軍の後方かく乱を目的として250名もの集団脱走計画を企てる、頭脳に秀でた脱走のカリスマ。ドイツ収容所では脱走トンネル三本を計画し、それぞれ「トム」、「ディック」、「ハリー」と命名。
- "マクドナルド"(マック)
- 通称「情報屋」。階級は空軍中尉。
- 地獄耳の情報通・事情通。収容所内のあらゆる情報を収集、脱走メンバーに伝達する。語学に堪能で、脱走前にフランス語やドイツ語の会話能力の試験を担当した。検問練習においては度々引っ掛けで英語を話して引っかかったメンバーに注意していたが、後に彼自身が皮肉な結果を招くこととなる。
- "ディックス=ウィリアム"(ウィリー)
- 通称「トンネル王」。
- 脱走計画ではダニーと共にトンネル掘りを担当。脱走本番、かつてのトラウマから脱走を拒むダニーを説得した。脱走後、ダニーと共に中立国スウェーデン行きの船に乗り、脱走に成功する。
- コリン・ブライス
- 通称「偽造屋」。
- 戦時中は航空写真の分析・解析を担当していた。バードウォッチングが趣味。ミルクティーを愛する典型的な英国紳士。
- 身分証の偽造など、精密作業が元で視力が衰え(進行性近視)、ほとんど失明状態となってしまったが、ヘンドリーのフォローもあって脱走に参加した。
- "アシュレー=ピット"(エリック)
- 通称「土処理屋」。
- ズボンを使っての外の土と地中の土を混ぜるための誤魔化し方を考え付き、最初に脱走計画に貢献した。
- デニス・カベンディッシュ
- 通称「測量屋」。
- トンネル掘りの作業音の偽装のために合唱隊を組織、その指揮者も担った。
- 彼の測量が不完全だった事が脱走時に大変な問題となる。
- 脱走にてヒッチハイクでトラックに乗ったが、ゲシュタポの策略であり、捕まってしまう。
- グリフィス
- 通称「仕立て屋」。
- 軍服・カーテン・毛布その他、所内のあらゆる物を駆使して脱走用の平服・コート・ドイツ軍の制服などを仕立てていく。
- 脱走時に合図を待てずに穴から顔を出してしまった為に脱走が露見してしまう。
- ソレン
- 通称「警備屋」。
- 看守のドイツ兵達の行動を常に監視、合図ひとつですぐに脱走の為の準備作業を中止・偽装できる警備体制を敷く。
- 脱走本番、まだトンネル内にいる時に脱走が発覚してしまい、後へ引き返す。
- ニモ
- ソレンと同じく「警備屋」。
- 脱走はできたものの、ドイツ軍に見つかり逮捕の後、収容所へ連れ戻される。
- ヘインズ
- ニモとつるんでる事が多い。入所初日にセジウィックと共に「ケンカ」を演じてみせ、ドイツ軍の目をごまかしてヘンドリーの道具調達に貢献した。マクドナルドの会話試験の際に英語のトリックに引っかかって注意された人物。
- 脱走した後にゲシュタポに捕まる。
- アーチボルド・アイブス
- エンドクレジットでは「モグラ」と表記。
- 序盤でルーガー所長に対して侮辱的な行為に出た為にヒルツと共に独房行きとなった。その後もヒルツとコンビで脱走・逮捕・独房行きを繰り返す。ノリ良い明るい表情とは裏腹に、長年の収容所暮らしで精神的に追い詰められていた。
- 独立記念日に彼が取ったある行動が、一匹狼を貫き通していたヒルツが集団脱走計画に協力するきっかけとなった。
【その他の国籍のもとに英国空軍に所属していた航空兵】
- セジウィック
- 通称「製造屋」。オーストラリア人。
- トンネル掘削用のツルハシ・シャベルからエアダクトまで、所内のあらゆる物を利用して脱走用の緒道具を作り上げる。
- ドイツ収容所へ来て早速、ソ連の捕虜に紛れて脱走を試みて失敗するが、シュトラハヴィッツの判断によってその件は許された。
- 脱走では誰よりも大きなトランクを持って自転車・貨物車を利用した他、レジスタンスの協力でドイツを脱出、中立国スペインへ向かうことに成功する。
- ダニエル・ヴェリンスキー(ダニー)
- 通称「トンネル王」。ポーランド人。脱走計画では脱走用トンネルの掘削作業を担当。
- ドイツ収容所へ来て早速、ソ連の捕虜に紛れて脱走を試みて失敗するが、シュトラハヴィッツの判断によってその件は許された。
- 子供の頃からの閉所・暗所恐怖症でありながらも、その事を押し殺しながらトンネルを掘り続ける。作業中に頻発する落盤事故からトラウマが蘇り、一度は脱走を拒んだが、ウィリーの説得で参加することを決意。結果的には数少ない脱走完遂者の一人となった。
- ロシア語の「ЛЮбЛЮ("愛している"の意)」の単語だけは知っている。
【米国の航空兵】
- バージル・ヒルツ
- 通称「独房王」。陸軍航空隊大尉。本作の主人公格。単独行動を好む一匹狼。
- ドイツ捕虜収容所に送られて早々、ルーガー所長と対立して20日間の独房行きとなる。
- 野球が趣味で、独房でもボールとグローブは欠かさない。脱走に執念を燃やしており、独房期間中は彼の脱走への試みが篭った日夜ボールの音を鳴り響かせていた。
- 入隊前は大学で化学を専攻、学費の足しに祭でバイクレースに参加していたらしい。
- 以前の収容所では18回も脱走を試みた、とルーガー所長宛ての報告書にある。
- ヘンドリー
- 通称「調達屋」。米国人士官だが、ゴフの台詞から過去にヒルツたちと同じ部隊ではなかったようである。
- 集団脱走計画では脱走に必要な材料や道具の調達を担当し、保険証などの調達についてはおっちょこちょいな看守のヴェルナーを部屋へ誘い、首尾よく財布ごと盗んだ。
- 収容所に来てすぐに年齢も国籍も全く違う偽造屋のイギリス軍士官コリンと親しくなる。その友情から、脱走前に視力に異常を起こしたコリンを庇いつつアルプス山脈を脱走する。
- ドイツ軍に捕まり、最終的に収容所へ連れ戻される。
- ゴフ
- ヒルツと同じ部隊にいたのか、以前の収容所で知り合ったのかは不明だが、米国人が少ないこともあってよくつるんでいる。中盤でヒルツ、ヘンドリーと共に、独立記念日の為に芋焼酎を密造する。
- ヒルツが独房へ送られる度、事前に愛用しているボールとグローブを手渡していた。
[編集] 捕虜収容所の管理部隊
- フォン・ルーガー
- 捕虜収容所長。ドイツ空軍大佐。
- 「腐った卵を一つの籠に」という思惑で捕虜を集めたが、結果脱走のプロたちの集いとなってしまった。終盤で多くの捕虜を逃がしてしまったことの責任から解任される。
- ポーゼン
- ルーガー所長の副官。階級は空軍大尉。ルーガーの解任後、後任として所長に就任する。
- シュトラハヴィッツ
- 看守長。有能な空軍下士官。
- 入所初日の脱走も素早く見抜き、「初日だからお互いに愚かなミスが多い」と見逃すなど、なかなか粋な人物。
- ヴェルナー
- 通称「白イタチ」。看守の一人。
- 脱走のために偽造が必要であった身分証明書の調達の為に親しげに接してきたヘンドリーに隙を突かれ、あっさり財布を盗まれる。
- 独立記念日に偶然脱走トンネル「トム」を発見した。
[編集] ゲシュタポ
- ブライセン
- ゲシュタポの脱走捕虜の探索責任者。かつて脱走者として逮捕したバートレットへ厳しい尋問(拷問も含んでいたと思われる)を加えたが集団脱走組織の全貌は解明できず、空軍捕虜収容所にその身柄を預けに来る。のちにゲシュタポ本部(地方支部?)で捕まってしまったバートレットと再会を果たす。ハゲ・チョビヒゲ・メガネが特徴。
- クーン
- ゲシュタポの一人。「ビッグX」の壊滅と、バートレットの逮捕に執念を燃やしている。空軍捕虜収容所では「脱走したら処刑する」と宣言。
- フランスの駅で脱走したバートレットを発見して接近したところ、その危機を悟ったアシュレーに妨害され、もみあっている間に自らの銃で命を落とす。
- 親衛隊将校
- ゲシュタポの一人。警察に扮装。
- フランスの市街地にてバスに乗ろうとしていたバートレットとマックをドイツ収容所から脱走した捕虜だと悟っており、待ったをかけて検問。二人がフランス語で検問を貫き通した直後に英語で「気をつけて」と引っ掛け、それにボロを出してしまったマック(「ありがとう」と返答)の発言から脱走した二人だと気づく。バートレットたちが捕まるきっかけへとつながった。
[編集] その他
- レジスタンス
- オープンカフェの経営を表向きに、陰でドイツ軍への抵抗運動を続けているフランス人たち。
- 店に訪れたドイツ軍将校を襲撃する現場で偶然客として居合わせたセジウィックを助け、スペイン入国に協力した。
[編集] キャスト
- 独房王 ヒルツ米国空軍大尉…スティーブ・マックイーン
- 調達屋 ヘンドリー…ジェームズ・ガーナー
- ビッグX バートレット…リチャード・アッテンボロー
- 先任将校 ラムゼイ…ジェームズ・ドナルド
- 偽造屋 コリン…ドナルド・プレザンス
- トンネル王 ダニー少尉…チャールズ・ブロンソン
- 製造屋 セジウィック…ジェームズ・コバーン
- トンネル王 ウイリー…ジョン・レイトン
- 収容所長 フォン・ルーゲル大佐…ハンネス・メッセマー
- 土処理屋 アシュレー・ピット…デヴィッド・マッカラム
- 情報屋 マクドナルド中尉…ゴードン・ジャクソン
- モグラ アイヴス…アンガス・レニー
- 測定屋 カベンディッシュ…ナイジェル・ストック
- 白イタチ ウェルナー…ローベルト・グラフ
- ゴフ…ジャド・テイラー
- ソレン…ウィリアム・ラッセル
- ゲシュタポ ブライセン…ウルリッヒ・バイガー
- ゲシュタポ クーン…ハンス・ライザー (俳優)
- シュトラハヴィッツ伍長…ハリー・リーヴァウワー
- グリフィス…ロバート・デズモンド
- ニモ…トム・アダムス
- 親衛隊将校(バートレットを逮捕する)…カール=オットー・アルベルティ
[編集] 日本語吹き替え
- 宮部昭夫版(1971年『ゴールデン洋画劇場』放送)
- ※DVD収録
- なお、このテレビ放送版はファースト・オンエアの際はノーカットで日本語音声が収録されたが、DVD化の際に使用許可が下りなかったということで約37分程(再放送時の収録カット分)は省略されている。
- ヒルツ:宮部昭夫
- ヘンドリー:家弓家正
- ラムゼイ:大木民夫
- バートレット:宮川洋一
- マクドナルド:上田敏也
- ダニー:大塚周夫
- ウィリー:堀勝之祐
- アシュレー:井上真樹夫
- コリン:勝田久
- セジウィック:小林清志
- カベンディッシュ:吉沢久嘉
- アイブス:富田耕生
- ルーガー:川久保潔
- ヴェルナー:仁内建之
- ヒルツ:安原義人
- ラムゼイ:野沢那智
- ヘンドリー:菅生隆之
- バートレット:池田勝
- マクドナルド:稲垣隆史
- ダニー:銀河万丈
- ウィリー:家中宏
- アシュレー:平田広明
- コリン:坂口芳貞
- セジウィック:小山力也
- カベンディッシュ:田原アルノ
- アイブス:岩崎ひろし
- ルーガー:小川真司
- ヴェルナー:青山穣
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] エピソード
- この脱走により、捕虜の捜索にドイツ軍は7万もの兵士を投入するなど多大な労力を要し、結果的に連合国にとって戦局を有利に導いた。(史実では、この大脱走は連合軍のノルマンディ上陸作戦(6月6日)と合わせて実行された。映画では7月4日の独立記念日などが来てしまっているため、正確な時の運びではない)。なお、ドイツ当局は50名の脱走兵を殺害している。 映画内で示されるこの人数はほぼ史実通りである。ナチス親衛隊に逮捕された捕虜は射殺され、ドイツ陸軍に逮捕された捕虜は収容所に戻されている(逃走76名、内射殺が50名、連れ戻されたのが12名。差し引きの14名の内、無事帰国の途につけたのは僅か3名と言われている)。実際、映画でもダニーとウィリーの2人が小舟で逃げ、最後にスウェーデン行きの船に乗り移る、セジウィックがレジスタンスに協力してもらったことで無事逃走に成功している。
- 公開時マックィーンがバイクアクションを全編ノースタントで行ったと宣伝されたが、実際は映画会社の許可がおりず、危険なスタントについてはバド・イーキンズが代行した。
[編集] 資料
- ポール・ブリックヒル『大脱走』早川書房
- PS2:『大脱走 THE GREAT ESCAPE』
- 映画『マッケンジー脱出作戦』:大脱走の逆バージョン。イギリスの捕虜収容所からドイツ兵捕虜が大脱走。
- 『大脱走』リヴァイバル公開用プログラム・2004年シネカノン発行