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大岡昇平 - Wikipedia

大岡昇平

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
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大岡 昇平おおおか しょうへい, 1909年明治42年)3月6日 - 1988年昭和63年)12月25日)は、小説家評論家・フランス文学翻訳家。妻は春枝(旧姓・上村)。長女の長田鞆絵は児童文学者。長男・貞一は建築家(渋谷109の設計にも携わる)。

目次

[編集] 来歴・人物

東京市牛込区新小川町生まれ。両親は和歌山出身で父・貞三郎は株式仲買人、母・つるは元芸妓であり、結婚後上京したという。

1921年大正10年)4月、府立一中受験に失敗し、青山学院中学部入学。

1925年(大正14年)12月、世田谷区成城第二中学校4年次に編入。同級に古谷綱武、富永次郎、安原喜弘、加藤英倫。またあまり知られていないが、山口二矢の実父である山口晋平も同級である(沢木耕太郎『テロルの決算』より)。

1926年(大正15年)4月、成城第二中学校が7年制の旧制成城高等学校(世田谷区)となったことに伴い、高等科文科乙類(第一外国語としてドイツ語を学ぶクラス)に入学。傍ら、1927年(昭和2年)9月、アテネフランセの夜学でフランス語を学ぶ。また家庭教師で小林秀雄にフランス語を学んだ。中原中也とも小林を通じて知り合った。

1929年(昭和4年)3月、旧制成城高等学校を卒業後、同年4月、京都帝国大学文学部文学科入学。在学中、河上徹太郎や中原中也と「白痴群」を創刊。

1932年(昭和7年)、京都帝国大学文学部仏文科卒。帝国酸素に勤務するかたわら、スタンダール関係の翻訳を刊行していた。

1944年(昭和19年)3月、軍隊に召集。同年6月フィリピン・マニラに送られ、その後ミンドロ島に派遣される。

1945年(昭和20年)1月、米軍の捕虜になり、レイテ島収容所に収容される。 8月、敗戦。同年12月、帰国し、家族の疎開先であった、兵庫県明石市の妻の実家に身を寄せる。

太平洋戦争で出征し、フィリピンで捕虜となった経験に基づいて「捉まるまで」を発表、その後連作として『俘虜記』を完成した。また人肉食を扱った「野火」は、比喩を駆使した作品として丸谷才一の『文章読本』でテキストに使われている。

40歳を過ぎて小説家になった晩成型だが、たちまち文壇の中堅となる。推理小説も好きで、海外ものを翻訳したり、自分でも書いている。とりわけ『若草物語』の題で連載し、後に『事件』と改題した作品は日本推理作家協会賞を受賞し、映画やテレビドラマになるなど、高い評価を受けている。

武蔵野夫人』は『ボヴァリー夫人』に倣って書いた姦通小説で、ベストセラーとなったが、1980年代、ポルノ小説にこの題が使われたため抗議した。また、河上徹太郎、小林秀雄らの愛人で、白洲正子の友人だった坂本睦子の自殺後、これをモデルに『花影』を書き、新潮社文学賞毎日出版文化賞を受賞した。しかし高見順は、肝心の大岡自身の苦悩が描かれていないと批判。この小説は睦子を救えなかった青山二郎を指弾するものではないかという解釈があるが、大岡自身は、限定版『花影』のあとがきにおいて「ヒロインはその生れと性情の自然の結果として自殺するのですが、そのきっかけは、彼女の保護者で、父代わりである高島が黄瀬戸の盃を二重売りして、彼女を裏切ったためでした。(中略)あとは私が作った物語ですが、もし高島にモデルがあるなら、私の想像はその人を傷つけることになるでしょう」と述べているだけで、大岡自身が青山二郎を指弾する目的で書いたと言及しているわけではない。

文壇有数の論争家であり、井上靖の『蒼き狼』を史実を改変するものとして批判し、歴史小説をめぐって論争となった。同じく史実を改変するものとして、海音寺潮五郎の『二本の銀杏』や『悪人列伝』等を批判し、これに反論する海音寺と『群像』昭和37年8月号上で論争した。中原の評価について、篠田一士と論争したこともあった。

自身でも『将門記』『天誅組』などの歴史小説を書いたが、小説というより史伝に近いものである。また江藤淳の『漱石とアーサー王伝説』が出た時もこれを厳しく批判し、次いで森鴎外の『堺事件』は明治政府に都合のいいように事実を捻じ曲げていると批判し、国文学者と論争になった。そして自身で『堺港攘夷始末』の連載を始めたが、その中で鴎外が依拠した資料に既にゆがみがあったことが明らかになった。ただし『始末』は未完のまま大岡は死去した(九割方は出来ていた)。

中村光夫三島由紀夫福田恒存吉田健一と「鉢の木会」を作って定期的に交流していた時期もある。

また、若い頃から演劇にも関心を示し続け、舞台「赤と黒」の台本を書いたりした。しかしこの際、演出の菊田一夫と対立し、初演を愛知での「レイテ同生会」への出席を理由に欠席した。 また後年、仲代の演じる「ハムレット」には、「未熟」との厳しい評価を下している。

『レイテ戦記』は日本の代表的な戦記といえるが、野間文芸賞を辞退した。これは選考委員の舟橋聖一との軋轢による。のち『中原中也』で同賞を受賞するが、選評で舟橋は難癖をつけた。

1972年(昭和47年)、日本芸術院会員に選ばれたが「捕虜になった過去があるから」と言って辞退し、皮肉をこめた国家への抵抗と見られた。しかし晩年昭和天皇の病状に対して「おいたわしい」と書き、波紋を呼んだ(どちらもウラを読まなければ普通の発言であるという見方もできる)。

1980年(昭和55年)から『文学界』に「成城だより」を断続的に三回連載するなど文壇のご意見番、重鎮的存在であり、また記号論や不完全性定理、さらに少女漫画萩尾望都高野文子など)、漫画「じゃりん子チエ」、ロック(村八分クラッシュジミ・ヘンドリックスドアーズ?など)、ポップス(中島みゆきアバなど。当人は「残念ながら、音楽は洋楽種の方がいいようなり」と述べている)、映画(地獄の黙示録など)、これらのセレクトには、長男の貞一の影響が大きい。またYMO坂本龍一が自分の担当編集者であった坂本一亀の息子であることを知り、「『げっ』と驚くのはこっちなり」とも述べるまでの若々しい関心を示す様が、カリスマ的な人気を呼んだ。

孫娘の命名をめぐる『萌野』は蓮實重彦の賞賛を受け、大江健三郎柄谷行人などからも敬意を向けられていた。大岡は、「萌野」は「もや」とは読めないと嘆いたが、この命名は平成以降における大量の「個性的な子供の命名」の先駆でもあった。

晩年は武田泰淳(及び妻の武田百合子)、埴谷雄高らとも親交が厚かった。

昭和天皇が亡くなる二週間前に死去。死後、『小説家夏目漱石』で読売文学賞を受けた。

[編集] 受賞歴

[編集] 著作

  • 俘虜記 (1949)
  • サンホセの聖母 (作品社、1950)
  • 武蔵野夫人 新潮社(1950)
  • 来宮心中 (新潮社、1951)
  • 妻 (池田書店、1951)
  • 野火 (1952)
  • 母 (文芸春秋新社、1952)
  • 詩と小説の間 (創元社、1952)
  • わが師わが友 (創元社、1953)
  • 化粧 (新潮社、1954)
  • 酸素 (新潮社、1955)
  • 振分け髪 (河出書房、1955)
  • ザルツブルクの小枝 新潮社、1956)
  • 雌花 (新潮社、1957)
  • 作家の日記 (新潮社、1958)
  • 朝の歌 (角川書店、1958)
  • 夜の触手 (光文社 カッパ・ブックス、1960)
  • 扉のかげの男 (新潮社、1960)
  • 真昼の歩行者 (角川書店、1960)
  • アマチュアゴルフ (アサヒゴルフ出版局、1961)
  • 花影 (中央公論社、1961)
  • 常識的文学論 (講談社、1962)
  • 逆杉 (新潮社、1962)
  • 現代小説作法 (文芸春秋新社、1962)
  • 文壇論争術 (雪華社、1962)
  • 歌と死と空 (光文社、1962)
  • 文学的ソヴィエト紀行 (講談社、1963)
  • 将門記 (中央公論社、1966)
  • 遥かなる団地 (講談社、1967)
  • 在りし日の歌 (角川書店、1967)
  • 昭和文学への証言 (文芸春秋、1969)
  • ミンドロ島ふたたび (中央公論社、1969)
  • 愛について (新潮社、1970)
  • レイテ戦記 (中央公論社、1971)
  • コルシカ紀行 (中公新書、1972)
  • 私自身への証言 (中央公論社、1972)
  • 凍った炎 (講談社、1972)
  • 幼年 (潮出版社、1973)
  • 萌野 (講談社、1973)
  • 作家と作品の間 (第三文明社、1973)
  • わがスタンダール (立風書房、1973)
  • 中原中也 (角川書店、1974)
  • 天誅組 (講談社、1974)
  • 作家の体験と創造 (潮出版社、1974)
  • 歴史小説の問題 (文芸春秋、1974)
  • 富永太郎 (中央公論社、1974)
  • 少年 (筑摩書房、1975)
  • わが文学生活 (中央公論社、1975)
  • 文学における虚と実 (講談社、1976)
  • わが美的洗脳 (番町書房、1976)
  • 桜と銀杏 (毎日新聞社、1976)
  • ゴルフ酒旅 (番町書房、1976)
  • ある補充兵の戦い (現代史出版会、1977)
  • 事件 (1977)
  • 無罪 (新潮社、1978)
  • 雲の肖像 (新潮社、1979)
  • 最初の目撃者 (集英社、1979)
  • ハムレット日記 (新潮社、1980)
  • 成城だより 1-3 (文藝春秋、1981-86)
  • 青い光 (新潮社、1981)
  • ながい旅 (新潮社、1982)
  • 姦通の記号学 (文芸春秋、1984)
  • ルイズ・ブルックスと「ルル」 (中央公論社、1984)
  • 小説家夏目漱石 (筑摩書房、1988)
  • 大岡昇平音楽論集 (深夜叢書社、1989)
  • 堺港攘夷始末 (中央公論社、1989)
  • 昭和末 (岩波書店、1989)

[編集] 翻訳

  • スタンダアル (アラン、創元社、1939年)
  • ハイドン (スタンダアル、創元社、1941年)
  • スタンダール伝 (アルベール・ティボーデ、青木書店、1942年)
  • スタンダール論 (バルザック、小学館、1944年)
  • 小説論--パルムの僧院をめぐって (バルザック、スタンダール、創元社、1947年) - 『小説について』 (創元文庫、1951年)。
  • 恋愛論 (スタンダール、創元社、1948年、新潮文庫、1956年)
  • パルムの僧院 (スタンダール、思索社/1948年新潮文庫、1951年)
  • 恋愛論ノート (スタンダール、小山書店、1949年)
  • ユリアンの旅 (アンドレ・ジイド、新潮文庫、1952年) - 『ユリアンの旅他一篇』に収録。
  • 赤毛のレッドメーン (イーデン・フィルポッツ、東京創元社、1956年)
  • クラクラの日記 (ベッケル、人文書院、1956年)
  • すねた娘 (E・S・ガードナー、東京創元社、1957年)

[編集] 関連人物

[編集] 関連項目


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