原田熊雄
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
原田 熊雄（はらだ くまお、明治21年（1888年）1月7日 - 昭和21年（1946年）2月26日）は、大正・昭和期の政治家。貴族院議員。男爵。元老西園寺公望の秘書をつとめたことで知られる。
目次 |
[編集] 経歴
1888年1月、地質学者原田豊吉の長男として東京裏猿楽町に生まれる。1931年、祖父一道の死去にともない襲爵。学習院、京都帝国大学へと進学し、同級生であった近衛文麿や木戸幸一、織田信恒など、華族の子弟たちとの交流を重ねた。のちに「宮中革新派」と呼ばれる華族の政治的グループ（十一会）形成に見られるように、彼の政治的基盤を形作ることとなった。
大学卒業後の1916年、日本銀行に入行するが、1922年退行。宮内省嘱託としてヨーロッパを見聞した後、1924年から加藤高明内閣の首相秘書官を務めた。
1926年7月、住友合資会社に入社。事務取扱嘱託の身分のまま、同年9月、元老西園寺公望の私設秘書となった（日銀退行時から西園寺と近衛、木戸の間で話が進められていた）。政党や官僚、軍部、宮中、財閥など、政治の中枢部に絶えず接触を持って精力的に各界を飛び回り、表裏にわたるあらゆる情報を収集して西園寺に伝達、さらに「元老」西園寺の意志を各界要人へ伝達するなど、国連協調主義・親英米主義の守護につとめた。
1940年の西園寺没後、日本が国際連盟を脱退するなど、軍部台頭の流れに対して原田は抵抗を試みる。原田は軍部から親英米派と目されており、二・二六事件においても暗殺の対象とされていた。軍部が擁立する東条英機内閣の打倒を目標に、近衛や元駐英大使 吉田茂、枢密顧問官 樺山愛輔など親英米派（重臣グループ）と共謀し、終戦工作を秘密裏に計画する。しかし計画は憲兵隊の内偵工作によって発覚。1945年4月吉田が検挙され、近衛や原田自身も取り調べを受けるなど、計画は頓挫するに至った。
1930年から1940年までの間における西園寺をめぐる政局の裏面を、近衛秀麿夫人泰子を口述筆記役に記録し、西園寺没後、里見弴に原稿整理を委託するが、軍部が同日記を危険視したため中絶（「原田日記」）。これは原田の没後に開催された極東国際軍事裁判（東京裁判）において証拠として採用されている。これは400字詰原稿用紙7000枚に上る厖大なもので、戦後は丸山真男・林茂らによって校訂され、1950年6月に岩波書店より出版された（「西園寺公と政局」）。
その後も終戦工作を模索したが、やがて脳血栓による病魔に倒れて政治活動は停滞してしまった。終戦間もない1946年2月、療養先である神奈川県大磯町高麗の別邸にて死去した。
[編集] エピソード
- 大学卒業後、原田は宮内省入省を希望。しかし採用担当官を相手に同省改革論を論じたため、西園寺らの政治的周旋があったにもかかわらず、不採用となってしまった。結局、当時の日銀総裁三島弥太郎の周旋で日本銀行へ入行するに至る。
- 日銀時代に大阪支店で勤務していたが、算盤勘定の苦手な原田の仕事が終わらないため、終わるまで行員全員が帰宅できなかった。
- 秘書として忙しい日々を過ごしていたが、そのためか、原田の行動は随分とせっかちだった。時間に遠慮のない電話魔、アポイントなしの突然の来訪、性急すぎるゴルフプレー等々。当時の新聞記事のイラストでは、電話機を小脇に抱えて疾走する原田が描かれるなど、各界の表裏を奔走した様子をよく表しているものといえる。
- 大学時代の旧友でもあった近衛や木戸とは親友の中で、政界においても緊密な連絡を保っていた。あるとき政治的密談のため近衛邸を急遽訪問したが、このとき近衛は正妻と同衾したままで、馬鹿馬鹿しくなった原田は正妻を追いやって自らも近衛と一緒の布団に入り込んで密談を続けたという。また、近衛の女癖の悪さを忠告することも度々だったという。
- 秘書としての報酬は西園寺からではなく、すべて住友財閥から支給されていた。住友本社の4階に部屋を設けられ、真偽は不明なるも、当時の金額で月額100万円が支給される待遇だったといわれる。
- そそっかしい性格でも知られ、当初は重要な情報を不用意に漏らすこともあったため、西園寺から「彼は馬鹿だから秘密は話せぬ」と酷評されたものの、やがてその献身的な仕事ぶりを評価され、重要な局面で西園寺から見解を徴されるほどの信任を受けた。
[編集] 家族
- 祖父原田一道は陸軍少将、元老院議官などを歴任し、1900年に男爵に叙されている。
- 父原田豊吉は地質学者、叔父原田直次郎は洋画家として著名。
- 母照子はドイツ人商人を父にもつハーフであり、原田はドイツ人の血脈を有するクオーターである。
- 妹信子は芸術家有島生馬に嫁しており、よって有島武郎、里見弴とは姻戚にあたる。
- 夫人英子は子爵吉川重吉の娘。
- 長女美智子は勝田主計の息子勝田龍夫に嫁した。龍夫は、のちに原田を主人公とする『重臣たちの昭和史』を刊行した。
