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中島啓之 - Wikipedia

中島啓之

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

中島 啓之(なかじま ひろゆき、1943年6月7日 - 1985年6月11日)は、日本中央競馬会(JRA)の元騎手広島県広島市出身。時折人気薄で連に絡んでは大穴を出す「万馬券ジョッキー」として早くから穴党ファンの間では有名であったが、デビューから10年ほどは地味な存在だった。その後ストロングエイトコーネルランサーなどでの緻密な騎乗により、関東を代表する一流ジョッキーと目されるようになり、トウショウの主戦ジョッキーを務めるなど、重賞戦線で活躍した。遅咲きの苦労人らしく人情に厚く、「アンちゃん」と呼ばれて慕われ、騎手会長にも嘱望されていた。通算6635戦、729勝(歴代7位)。

父中島時一は戦前の騎手で、牝馬ヒサトモ1937年東京優駿(日本ダービー)をレコードタイムで制覇している。また、弟の中島敏文も元騎手で、現在はJRA調教師。夫人の父は同じくJRAの高松三太調教師(故人)。

目次

[編集] 来歴

[編集] 1985年

この年、翌年の牝馬三冠を制する事となるメジロラモーヌが奥平厩舎に入厩した。メジロの馬では初めてであり、中島を騎乗させたいがための入厩だったといわれている。

しかし、春、中島が肝臓の病に侵されていることが判明、入院を余儀なくされる。だが、中島は医師の反対を押し切って病院を抜け出し、周囲には病気の事を伏せて秘密の内に騎乗を続ける。自厩舎のトウショウサミットでトライアルNHK杯に勝利し、5月19日に行われた優駿牝馬(オークス)でもナカミアンゼリカを駆って2着。翌週、5月26日に行われた東京優駿(日本ダービー)でトウショウサミットに騎乗、果敢な逃げで見せ場を作った。

ダービーの後、それまで本人に告知する時期を慎重に待っていた医師から、末期の肝臓ガンでありもはや余命幾許も無いとの宣告を受ける。周囲の人物もこの段階でようやく中島の病気とその重さを知るところとなり、大きなショックを受ける事になった(この辺りは後述する西野広祥など複数の人物が中島を回顧する随筆などで記している)。

そして、再度入院をしたものの、もはや治療の術も無い状態で、6月11日、ダービーの僅か16日後に急逝。享年43(満42歳没)。


[編集] 騎手通算成績(中央競馬)

通算成績 1着 2着 3着 4着以下 騎乗回数 勝率 連対率
平地 713 754 746 4335 6548 .109 .224
障害 16 14 20 37 87 .184 .345
729 768 766 4372 6635 .110 .226
  • 重賞通算29勝

[編集] その他の騎乗馬

[編集] エピソード

  • 中島時一・啓之は日本初の父子二代ダービージョッキーである。だが、父子は互いのダービー優勝を見ていない。父の時一のダービー優勝の時には子の啓之はまだ生まれておらず、啓之がダービーを制した時には時一は既に亡くなっていた。
  • 父の時一が関西の競馬騎手であったのに啓之が広島県出身であるのは、時一が太平洋戦争で競馬が中止となった際に競馬の世界から離れ、故郷の広島に戻って農耕の生活を送っていた為である。時一は戦後になっても競馬の世界に戻る事無く、その後亡くなるまで広島の農村で過ごした。幼少期の啓之は貧しく、馬事公苑の騎手養成課程に入るまでの啓之が知る競馬とは、家にある馬上の父のレース勝利の記念写真だけが全てであった。
  • その父時一は、啓之が騎手を志すと言った時、ただ一言「馬事公苑に行けばいい」とだけ言った。そして、啓之は自分の父親がダービージョッキーだった事も知らず馬事公苑に入り、そこで初めて競馬人としての父の事を知った。
  • デビュー当初の中島は仕掛けが早く「あわて中島」と呼ばれていた。大川慶次郎曰く、大川が共同馬主だった馬に中島が騎乗した際、大川自身が仕掛けのタイミングをアドバイスしたのがきっかけで騎乗開眼したという。
  • トウショウの主戦騎手を務めたのは、オーナーであった藤田正明と同郷だった縁がきっかけである(前述トウショウボーイのエピソードが有名)。
  • 吉永正人大崎昭一菅原泰夫ら関東の同年代の騎手と作っていた「なかよし会」の中心的存在であり、メンバーが重賞勝利した際にはお祝い会を開くなどしていた。また小島太とは親友であった。
  • 一見クールだが実際には相手に気を遣う好人物であり、中島を悪く言う者はいなかったといわれる。マスコミへの対応も丁寧で、マスコミからの人物に対する評価も高かった。これは競馬という勝負の世界に生きた人物である事を考えた場合、極めて異例の事といえる。
  • 師匠・奥平作太郎師の子息奥平真治師(2007年に定年で引退)とも親友で、中島が死去した際、真治師は「あんないいヤツが何で先に死んじまうんだ」とコメントしているほどであった。
  • また、競馬関係者以外にも中国文学研究者の西野広祥など、交遊関係のあった多くの人々に慕われ、また、その早過ぎる死は惜しまれた。
  • その人柄を慕う人々の間で、中島の後援会を作ろうという機運が盛り上がった事がある。だが中島は『誤解があってはいけない商売なので』という理由で断ったという。
  • 慶應義塾大学教授の西野広祥は中国文学研究者として著名であるが、数多くの競馬随筆を記し、JRAの運営審議会委員なども務めた競馬ファンでもあった。特に中島とは公私に渡る親交があり、中島曰く西野は「飲み友だち」であった。西野は中島没後11年目の『優駿』1996年7月号で『思い出の中島啓之』と題して中島の事を綴っており、その中ではいつか自分が死んだ時には「中島に会いに行く」と書いており、中島の人柄が偲ばれる。なお、西野は2006年3月7日逝去。

[編集] 参考文献

  • 優駿』1996年7月号内記事 西野ひろよし(西野広祥)『競馬ノンフィクションシリーズ 思い出の中島啓之』(日本中央競馬会、1996年)


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