ベーチェット病
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ベーチェット病(Behçet's disease, Behçet's syndrome)は再発・寛解を繰り返す原因不明の慢性疾患で、自己免疫疾患の一つ。古典的な膠原病には含まれないものの、膠原病類縁疾患と呼ばれる。近年、その本体は血管炎であると考えられている。
(「ページェット病(パジェット病。Paget disease)」というベーチェット病と名前のよく似た別の病気があるので注意すること)
目次 |
[編集] 歴史
トルコの医師フルス・ベーチェット(Hulusi Behcet)による1936年の報告が最初で、名前もそれに由来する。ただし歴史家によると、ヒポクラテスの書物にこの疾患の最初の記載があるという。
[編集] 概念
目、口、皮膚、外陰部の他、中枢・末梢神経、消化管、関節、血管をおかす全身性の疾患である。その他の膠原病と比べての特徴として、自然寛解がわりと多くみとめられることがあげられる。
[編集] 疫学
そもそも西洋とその他世界の科学レベルに極めて大きな差があった時代にトルコで最初に報告された事からもわかる通り、この病気は西ヨーロッパやアメリカではまれである。シルクロード沿いに多く発症するとされ、極東から地中海までの幅広いが限定された範囲でよく報告される。最多の頻度を示すトルコでは10万人当たり100人以上発症し、日本、韓国、中国、イラン、サウジアラビアなどでは10万人当たり20人前後と報告されている。西欧では50万人あたり1人とも言われ、医療先進国であるアメリカにおいてさえこの疾患についての治療経験は乏しい。自己免疫疾患の中では珍しく男性に多い。
[編集] 病因
病因は不明である。
シルクロード沿いにおこりやすいということから環境因子が原因である可能性がある。本症の患者はマイコバクテリウム(結核菌など)の熱ショック蛋白に対する抗体を産生する事がわかっており、これに対する分子模倣(molecular mimicry)が原因の一つとして考えられている。いっぽう、シルクロード沿いでは非常に交流がさかんだったことから、ある特定の遺伝因子がシルクロード沿いに受け継がれて行ったという可能性もある。これまでにHLA-B51と本症の発症との関連が強い事がわかっているものの、これがあるから本症になるとは限らず、これがなくとも本症になる人もいて一概には言えない。(他の膠原病でも同じ事が言えるが)HLAとの遺伝的関連は、HLA-B51と連鎖不平衡にある真の原因遺伝子多型をあらわしているだけかもしれない。 HLA-B52も関連が示されている。
[編集] 症状
本症をはじめとした膠原病、膠原病類縁疾患はいずれも原因不明であるため一つの確定的な診断に至る検査というものはなく、状況証拠を積み重ねて診断基準に基づき診断せざるを得ない。逆に言うと適確な診断基準がつくられやすい土壌があり、厚生労働省による特定疾患の認定方法もきわめて妥当で、疾患の本態を表すものである。したがってここでは基本的に特定疾患認定基準に沿った形で症状を分類する。
[編集] 主症状
本症に特徴的とされる症状で、疾患の初期に起こり、しばしば寛解・再燃を繰り返す。
- 眼症状
- 口腔粘膜症状
- 有痛性の口内炎(全身性エリテマトーデスの無痛性口内炎と対照的なので特に強調される)が特徴であるが、一般的な原因によるアフタ性口内炎との鑑別は容易ではない。ほぼ全ての患者に出現する。
- 外陰部症状
- 皮膚症状
- 本症に特徴的な皮膚所見がおこるというわけではなく、結節性紅斑、血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹が合併する。結節性紅斑はしばしば病勢と一致して増悪、寛解を繰り返す。
- また、皮膚の過敏性がきわめて亢進しているのは本症に特徴的であり、しばしば髭剃り後に顔が真っ赤にはれると訴えがある。また、医療機関に受診し採血した後、針をさした部位が真っ赤に腫れ上がる(針反応)。
[編集] 副症状
後期に起こる症状で、生命予後に影響するのはこちらの症状である。あまり自然に寛解することはなく、積極的な治療を必要とする事が多い。
- 関節症状
- 非びらん性、非対称性の関節炎を来たし、多発関節炎というより単関節炎で現れることが多く、それは関節リウマチとも全身性エリテマトーデスとも似ていない。
- 副睾丸炎
- 頻度が高く、特徴的症状として挙げられている。
- 消化器病変
- 炎症性腸疾患とみまごうような血便、大腸潰瘍をきたす。病変は回盲部に多い事が知られている。
- 血管病変
- 神経病変
[編集] その他の症状
特定疾患認定の基準に使われないものとして、そのほか下記のような症状がしられている。
- 心病変
- 血管病変としての虚血性心疾患以外でも、心外膜炎や伝導障害が報告されている。
- 肺病変
- 肺病変の合併は(膠原病関連としては珍しく)まれである。血管病変としての肺血栓塞栓症や肺動脈炎がまれにおこることがある。
- 腎病変
- アミロイドーシス
- 慢性の炎症性疾患の常として、おこることがある。
[編集] 診断
上記症状のうち、目、口、皮膚、外陰部の四主症状すべてがそろったものを完全型ベーチェット病、主症状のうち3つまたは主症状2つ+副症状のうち2つまたは眼病変を含む主症状2つと副症状2つを示したものを不全型ベーチェット病と称する。また、完全型の所見がそろわなくとも、強い腸症状・血管炎症状・神経症状を示し明らかにベーチェット病が原因であると考えられるものを、それぞれ腸管ベーチェット、血管ベーチェット、神経ベーチェットと称し、これら特殊型ベーチェット病は予後が悪い事がしられている。
[編集] 治療
皮膚症状など軽度の病態や寛解期にはコルヒチンなどを用いるが、生命に影響を及ぼす臓器病変(副症状にみられるもの)や重篤な眼病変などでは高用量のステロイドや免疫抑制剤を含む強力な治療を行う。一度臓器病変をおこした場合や特殊型ベーチェット病の場合は、寛解後も少量のステロイドを飲み続けることが多い(そうでないと容易に再燃する)。難治性網膜ぶどう膜炎に対し抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤インフリキシマブを使用することもある。
[編集] 予後
主症状に関しては、寛解・再燃を繰り返す事が多く、10年くらいたつと病気の勢いは下り坂となり、20年くらいをこえるとほぼ再燃しないと言われている。ただし眼病変については、治療が遅れるなどすると失明することもあり、若年者の失明の重大な原因の一つである。
副症状、特にそれを主な病態とする特殊型ベーチェット病においては死亡する事もあるが、北朝鮮において8千人韓国において2200人の患者を追跡した研究では、9年間で死亡例は7例に過ぎなかったとのことである。