ブルセラ症
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ブルセラ症(brucellosis)とは、ブルセラ(Brucella)属の細菌に感染して起こる人獣共通感染症。日本においては家畜伝染病予防法に基づく家畜伝染病、感染症法における四類感染症に指定されている。診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。[1] マルタ熱とも呼ばれる。 動物への依存度が強い国や地域では、依然発生は多い。動物のブルセラ症対策が行き届いた結果、多くの工業国ではヒトのブルセラ症も減少した。 これは、ヒトのブルセラ症の発生が保菌動物の存在に依存していることを示している。 [1]
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[編集] 病原体と感染症の概要
ブルセラはグラム陰性の球形に近い小桿菌で、莢膜、芽胞、鞭毛をもたず、発育は非常に遅い。潜伏期間は2~3週間。 そのため、通常の培養は少なくとも4週間は経過観察の必要がある。脾臓、リンパ節などでの細胞内増殖をする。 家畜との接触、汚染乳製品の摂取を通じてヒトに感染する。1887年、イギリス軍の軍医・デビッド・ブルース(Sir David Bruce)によって病原菌が発見されたため、この名前が付いた。 ヒトに感染を起こすのは Brucella abortus、B.melitensis、B.suis、B.canis の4種類である。 牛においてはBrucella abortusの感染が妊娠6~8ヶ月での流産の原因となる。日本では家畜におけるブルセラ症は1970年代にほぼ撲滅されたが、現在でも犬のBrucella canis感染が見られる。 ヒトに感染すると発熱、発汗、頭痛、背部痛、体力消耗というような症状を起こす。重症化すれば脳炎、髄膜炎などの中枢神経の炎症や心内膜炎、骨髄炎を起こすこともある。 テトラサイクリンやストレプトマイシンなどに感受性を示すが、体内の菌の撲滅は難しい。なお、家畜においては治療を行わず殺処分する。現在家畜のみ、生体輸入については厳しい検疫制度により感染家畜を輸入されない様水際で監視され、罹患家畜は殺処分されている。犬猫ペットについては充分な検疫はされないので、外観で感染が判断できないため感染犬を輸入してしまう場合もある。ほこりの中では6週間,土や水の中では10週間生存する。[2]
[編集] 主な分布地域
世界的に分布。地中海地域、西アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、南アメリカ、アラビア湾域、インドなど。
[編集] 主な宿主
- Brucella abortus - ウシ (北米ではバイソンとエルクも) - バング熱とも
- ウシでは精巣炎、陰嚢の腫大、熱感。
- B. suis - ブタ - ブタ流産菌病とも
- ブタでは慢性炎症に起因する精巣炎。
- B. melitensis - ヒツジとヤギ - マルタ熱または地中海熱とも
- B. ovis - ヒツジ
- B. canis - イヌ
- イヌではほとんど症状はみられないが、雌では妊娠45~55日頃に死流産、雄では精巣、精巣上体、前立腺の腫脹を示す。
- B. maris - 海洋動物
[編集] 感染経路(ヒト)
ブルセラ症の感染経路としては、主として三つある。[2]
- (1)細菌に汚染されたものを飲食する。
- 感染動物のミルクが殺菌されていないと、そのミルクやミルクから作ったチーズなどが汚染されており飲食した人。細菌は食品衛生法の指定条件の加熱で完全に不活化する。
- (2)細菌を吸い込む。
- 日本でのヒトでの感染はほとんどが実験室内感染。細菌が噴霧されるなどして生物兵器として使われることが心配されている。[2]
- (3)皮膚の傷や眼の結膜などから細菌が侵入する。死体、および流産組織、分娩の残物(羊水、胎盤)などとの接触による。
- 酪農・農業従事者、獣医師、屠畜場従事者では職業的な感染のリスクが高い。[1]
- 自然宿主に対する病原性発現の初期段階の細胞への接着と侵入に関与する 遺伝子、および菌体成分は明らかになっていない部分が多い。
[編集] 診断と治療
[編集] 臨床症状
あらゆる臓器に感染を起こし、全身症状。その症状に特異的なものはなく、症状は他の熱性疾患と類似している。持続的、間欠的、または不規則な発熱(数週間~数カ月続くこともある)、発汗、疲労、体重減少、うつ状態などの症状がみられる。リンパ節腫脹、肝脾腫大がみられる。[3] [1]
- 骨・関節系 最もよくみられる合併症で、腸骨坐骨関節炎、膝および肘関節炎、椎間板炎、骨髄炎、滑膜包炎などを起こす。
- 消化器系 成人患者の70%近くで胃腸症状(食欲不振・吐き気・嘔吐・下痢・便秘、悪心)体重減少。
- 呼吸器系 きわめてまれで、咳、労作呼吸困難。
- 泌尿器系 精巣炎。
- 神経系 うつ状態、髄膜炎がみられるが、頻度は2%以下。
- 心血管系 心内膜炎が最も重要な合併症で、ブルセラ症による死亡原因の大半を占める。頻度は2%以下である。
[編集] 診断
- 血液培養による診断が有効で、発熱時で、なるべく抗菌薬投与前の血液、あるいはリンパ節生検材料、骨髄穿刺材料などを対象とする。体組織からの病原体の分離・同定。[1]
[編集] 治療
- テトラサイクリン系、ドキシサイクリン、ストレプトマイシン等を併用し数週間投与。薬剤の服用期間が短い、外科的処置が不適切だった場合、再発する。
- 弱毒変異株を用いたヒトの有効なワクチンは開発中。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
[編集] 外部リンク
- 感染症の話 2002年第10週号(2002年3月4日~3月10日)掲載(国立感染症研究所)
- 横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 2005年3月3日改訂
- 厚生労働省:感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について