トリック
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トリック (Trick) とは、人を騙す目的で用いられる策略やごまかし、仕掛けなどのこと。広くは、いたずらや手品などの意味で用いられることもある。
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[編集] 推理小説におけるトリック
推理小説において、トリックはことさら重要な意味を持つ要素である。推理小説や映画などの作品においては、それぞれの作品につき大概1つ以上のトリックが用いられている。
江戸川乱歩には、推理小説における古今のトリックを集め分類した『類別トリック集成』という作品がある。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] トリック一覧
[編集] 物理トリック
機械的な仕組みを用いたトリック。
[編集] 密室トリック
死体が発見されるが、その場所への犯人の出入りが不可能に見えるというトリック。出入りができないことから密室と言う。必ずしも物理的密室であるとは限らず、逃走経路が常に監視下にあった場合や、障子や畳などで構成された部屋でそれらを損壊した跡がない場合など、一見すると脱出が不可能であるというものも含まれる。詳しくは密室殺人を参照。
出入口があたかも施錠されているかのように見せかけられていたり、犯人をかばうために瀕死の被害者が施錠した場合など。なかには、犯行後、死体の周りに家を1軒建設したという、奇抜なものもある。近年では、トリックそのものより「なぜわざわざ密室を構成したのか」が問われることが多い。
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- 世界最初の推理小説と言われるエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』も密室トリックを扱った作品であり、推理小説におけるもっとも代表的なテーマとも言える。
[編集] アリバイトリック
存在しないアリバイを、あたかも存在するかのように誤認させるトリック。トラベルミステリーで頻繁に用いられる「時刻表トリック」なども、これの一種である。
- 犯行時刻を誤認させる
- 犯行現場を誤認させる
- 共犯者のみを犯人と誤認させる
- 秘密の交通手段がある
[編集] 1人2役トリック
探偵が犯人であった、架空の人物や故人が犯人であった、犯人が被害者に成りすまして捜査をかく乱するなどがある。似たようなものでは双子トリックがあり、一見同一人物とされていた人物やアリバイが完璧であった容疑者が実は双子であったというものだが、マジックやトリックの基礎でもあり、簡単に見破れることなどからあまり多用はされない。
[編集] 死体損壊トリック
被害者の特定を防ぐことで、犯行の動機等を隠蔽する、あるいは被害者を別人だと誤認させる。犯人が、自分自身が被害者であると見せかけるために、別の人間を殺害するなど。
死体の顔をつぶしたり、首を切断して隠したり、焼死体にしたりすることが多い。特殊な例としては、何人かの死体を切断・分割した後に組み替えて、死体の見かけ上の人数を誤認させるなど、奇想天外なトリックもある。
[編集] 心理トリック
心理の盲点をついたトリック。鉄道の乗務員や新聞配達員・郵便配達員などのような、普通は意識に上りにくい人物による犯行等。心理トリックは、作中の探偵に対し作中の犯人が仕掛けるものだが、小説などの形式において、小説の著者が読者に対して試みる心理的なトリックに、次の叙述トリックがある。
[編集] 叙述トリック
小説という形式自体のもつ暗黙の前提や、偏見を利用したトリック。
- ある登場人物が、男性風に一人称を用いているが、実は女性。あるいは、女性風に一人称を用いているが、実は男性。
- 若者のような言葉遣いをしているが、実は老人。
- 「切り裂き野郎」とマスコミに呼ばれている犯人が、実は女性。
- 作中の時間関係と、章別けが一致していない(ABCDの順に章が割り振られているのに、Cは実際には20年前の事件であった等)。
- 上記を一般化して、記述条件が部分毎に断りなく変化している
- 「私(ないし地の文の記述者)」がA章とB章とで異なる
- 「犯人」がC章とD章とで異なる
- 「事件」がE章とF章とで異なる
- Gは実はHの登場人物が書いた作中作であった等
- 猿や犬など人間以外の社会の話題を取り上げているのに、断りなく登場人物に人間風の名前をつけ、あたかも人間社会を舞台にしているかのように記述している等。
「著者が犯人」というのも、ある種の叙述トリックである。また、作中の人物ではなく、読者の思い込みや偏見をトリックとして直接利用している点で、小説の「外部条件」を作品自体の前提にしている。そのため、メタミステリとの関係が深い。
叙述トリックは、そのままの形で用いられることもあるが、作中に引用される捜査資料として利用されることもある(探偵が発見した手記や直接話法で記述される証言、他の探偵の捜査記録等を原文のまま全部引用するという様式)。このような方法を取れば、作中の探偵と読者が同一の手がかりを得るという、本格推理小説の要請と叙述トリックの面白みを、問題なく両立させることができる。
映像作品でも、叙述トリックはしばしば用いられる。映像であることを積極的に利用したもので、例えばBS-iのドラマ「ケータイ刑事 銭形愛」では、「劇中劇のカメラマンが犯人である」という心理トリック及び叙述トリックを用いている。(脚本、林誠人)この作品では劇中劇のうち、犯人を特定するまでがワンカメ、ワンカットで撮影され、カメラマンが終止交代しなかったと思い込ませることによって、視聴者を騙す叙述トリックを成立させている。また劇中劇であることが明示されず、本編と劇中劇の区別が曖昧になっており、メタミステリの手法も用いている。
[編集] トリックにまつわる暗黙の了解
ミステリにおけるトリックには、作者と読者の間に暗黙の了解がある。これを破った作品は、読者からの反発を受けることになる。これを成文化したものでは「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」などが有名。
- トリックの真相を見破れるだけの情報が、作中に盛り込まれていること。
- 現実的に不可能であるなど、トリックに破綻がないこと。
- 秘密の抜け穴などで、トリックを成立させない。
- 世間においてあまり一般的ではない科学技術を駆使したトリックは使用しない(これに関しては、意図的に暗黙の了解を破った作品も存在する)。