クマリン
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クマリン | |
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IUPAC名 | 2H-クロメン-2-オン(系統名) クマリン(慣用名) |
分子式 | C9H6O2 |
分子量 | 146.15 g/mol |
CAS登録番号 | [91-64-5] |
形状 | 無色薄片状結晶 |
密度と相 | 0.94 g/cm3, 固体 |
融点 | 68–70 °C |
沸点 | 297–299 °C |
出典 | ICSC |
クマリン (coumarin) は化学式 C9H6O2 で表される有機化合物。ラクトンの一種。常温では無色の結晶または薄片状の固体。
当初はトンカ豆 (Tonka bean, Dipteryx odorata) という植物の種子から分離されていたが、1876年にウィリアム・パーキンが合成に成功。現在では香料および軽油識別剤として用いられている。
クマリンは桜餅の香り成分として知られ、芳香族化合物の一種。シナモンの香り成分のシンナムアルデヒドやコーヒーの香り成分であるコーヒー酸とともに知られている。
また、誘導体のワルファリン、クマテトラリル、フマリンはビタミンKと拮抗して抗凝血作用を示すため、抗凝固剤や殺鼠剤として用いられる。
[編集] 生合成
これらの反応は全て以下の一連の酵素群により触媒されておこる。
- フェニルアラニンアンモニアリアーゼ
- 桂皮酸 2-ヒドロキシラーゼ
- β-グルコシダーゼ
- イソメラーゼ
[編集] 性質
アルコール、エーテル、クロロホルムおよび揮発油に可溶。水に微溶。可燃性。紫外線を照射すると黄緑色の蛍光を発する。
桜の葉に代表される植物の芳香成分の一種。バニラに似た芳香があり、苦く、芳香性の刺激的な味がする。
生きている葉の中ではクマリン酸配糖体の形で糖分子と結びついて液胞内に隔離されているので匂いはしないが、これを含むサクラやヒヨドリバナなどの葉や花を半乾きにしたり破砕、塩蔵するなどすると、死んだ細胞の中で液胞内のクマリン酸配糖体と液胞外の酵素が接触し、加水分解によりクマリン酸が分離、さらに閉環反応が起こってクマリンが生成し、芳香を発するようになる。
なお、桜湯や天然のオオシマザクラの塩蔵葉を用いた桜餅の香りはこれらに含まれるクマリンなどによるものであるが、肝毒性があるために食品添加物としては認められておらず、天然のサクラを使わずに菓子などに桜の香をつけるには別の化合物が使用されている。
[編集] 用途
フランスのウビガン (Houbigant) 社が人工合成のクマリンを元に1882年に香水を調合することに成功し、「フジェール・ロワイヤル (Fougere Royale)」と名付けて発売をした。人工合成材料による香水の歴史の幕開けとなる。
日本においては、クマリンは、軽油引取税の脱税防止の観点から、軽油識別剤として、平成3年3月から灯油及びA重油(軽油周辺油種と呼ばれる)に、1ppm(mg/L)の濃度で添加されている。添加は石油元売業者の製油所から出荷される際に行われる。
通常、自動車用ディーゼル機関は燃料として軽油を用い、自動車用ガソリンにガソリン税が課税されるように自動車の燃料としての軽油にも軽油引取税が課税される。ところが自動車用ディーゼル機関は燃料に灯油やA重油をある程度混合しても動作し、自動車用軽油の使用が減る分軽油引取税を払わずにすむ(脱税)。
軽油にはクマリンが入っていないので、ディーゼル燃料を蛍光分析装置などで分析し蛍光反応が出た場合、灯油やA重油が燃料に入っていることが判明する。これはすなわち不正軽油使用による脱税行為その他で税当局から厳しく取り締まられることとなる。
しかしながら、クマリンが酸やアルカリによって分解されることが判明して以来、クマリンを硫酸や水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)により除去する方法を用いて違法に密造された不正軽油が日本国中に出回るようになった(この処理は俗に「クマ抜き」と呼ばれる)。但し、クマ抜きをしないで軽油同等に混合した品も、申請をして税金を払えば使用ができる(例:運輸会社の自家用給油設備)事には一応なっている。(自動車にその旨の証明書携帯が必要)
ところが、脱税に加え、不正軽油使用による大気汚染が問題となり、さらに、クマリン除去に硫酸を使用すると廃物として硫酸ピッチが発生することから硫酸ピッチの不法投棄の原因として問題となっている。そのためクマリンに代わる、酸やアルカリなどの薬品に反応しないなどの安定した特性をもつ軽油識別剤の開発が進められている。
イギリスにおいても1984年(昭和59年)から灯油にクマリンを添加している(イギリスの濃度は2ppm[mg/L])。