アノマロカリス
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?アノマロカリス | ||||||||||||||||||
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アノマロカリス(想像図) |
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種の保全状態評価 | ||||||||||||||||||
絶滅(化石) | ||||||||||||||||||
地質時代 | ||||||||||||||||||
約5億2,500万-約5億0,500万年前 (古生代カンブリア紀中期) |
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分類 | ||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||
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アノマロカリス(Anomalocaris)は、約5億2,500万-約5億0,500万年前(古生代カンブリア紀中期)の海に生息していた捕食性動物。アノマロカリス類(Anomalocarid)の一種であり、バージェス動物群に属す。
現在知られている限りで当時最大の動物であり、生態系の頂点に立っていたと考えられる。
カンブリア紀中に絶滅しており、現生のどの動物群とも類似していない、いわゆる奇妙奇天烈動物(プロブレマティカ、problematica)の一つといわれることもあるが、節足動物に属するとの説もある。
目次 |
[編集] 発見史
[編集] 奇妙な“エビ”
現在ではバージェス動物群に属する代表的な動物として知られているが、触手の化石についてはそれ以外でも発見されていた。その部分化石は、エビの仲間の腹部の化石と考えられたことから、1892年、「anomalo- (奇妙な) + caris (エビ)」、「奇妙なエビ」との意味で Anomalocaris という学名を与えられている。アノマロカリスの本体もバージェス頁岩から間も無く発見されるのではあるが、その確認に先立って、古生物学者チャールズ・ウォルコットはこの動物の口と胴体の化石を発見し、それぞれ個別の動物として分類を行った。口の部分はクラゲの化石と判断してペユトイア(Peytoia)、胴体部分はナマコの一種と考え、ラガニア(Laggania)としてである。特にペユトイアは古生代カンブリア紀の復元図には必ず描かれるほど有名になった。
しかしながら、アノマロカリス、ペユトイア、ラガニアという3つの化石については大いに疑問を持たれ、次のようなことが言われていた。
- アノマロカリス(触手部分)はエビのような甲殻類の後半身と考えられていたが、内側の突起は外骨格の突出部であって、付属肢ではない。先端は尾節の構造がない。消化管の痕跡も見あたらない。
- ペユトイアは中央に穴が開いていて、歯が並んでおり、クラゲとしては異様である。
そして、ハリー・ウィッチントン(Harry B. Whittington)とブリッグスがラガニアの化石を再検討した結果、その端の部分にペユトイアが付いており、その前に対をなしてアノマロカリスが付属していることを発見、1985年にこれらのそれぞれが大きな動物の一部位であることを認め、その動物の名はアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)として再認識されるに至った。
[編集] 発見地
保存状態の良い近縁種の化石は、主に北アメリカ(米国ユタ州、米国ネバダ州、カナダ・ブリティッシュコロンビア州)、中国雲南省の澄江、オーストラリアのカンガルー島(エミュ・ベイ頁岩)、グリーンランド(シリウス・パセット)などのいわゆるラーゲルシュテッテン[1]で発見されている。口器および頭部の付属肢(触手)は硬質であり、その他の体の部分に比べれば発見例が多い。
[編集] 特徴
[編集] 形態
全体はやや扁平な狭い楕円形で、頭部と胴部の間がややくびれて区別できる。頭部の上面には左右に大きな眼が1対あり、短い柄を介して左右側面に飛び出している。下面中央には、放射状に配列した歯に囲まれた全体としては丸い形の口(“輪切りのパイナップル”とも例えられる)がある。口の前方には2本の触手がある。頭部の触手には節があり、エビの尾部(尻尾)に似ている。先に向かって細くなりながら下側に曲がり、内側には歯状の突起がある。おそらく下側に向かって曲げることができて、これで獲物を捕らえ口に運んだと考えられている。
胴部には左右に大きく横に張り出した櫂(かい)のような鰭(ひれ)のような構造が13対ある。その“鰭”は、体のほぼ中央部にある最も長い1枚を頂点に両の端へ行くに連れて次第に短くなっていく稜線(りょうせん)の形を描く。鰭の上面に鰓(えら)らしき構造があるが、この部位の解釈には議論が分かれる。後体部の端には斜め上方向に突き出した鰭が3対ある。以上のような構造から体節制があったと推定する向きもある。しかし、明確な証拠あってのことではない。
[編集] 生態
アノマロカリスはバージェス動物群の中で最も大きな動物であり、中国の澄江動物群としては体長2mのアノマロカリス類の化石も確認されていることから当時の食物連鎖の頂点に立つ捕食動物であったと考えられている。その一方で小型種にはプランクトンを濾(こ)し取って食べていたと考えられるものまで存在し、多様性が認められる。
やや細長い体の両側に、一面に張り出した鰭を並べる構造は現生の動物では例がない。ホウネンエビを代表として腹部に鰭を並べる構造の動物はあるが、それらは腹部を上にして泳ぐのが普通である。それに対して、この動物は鰭が側面に張り出しており、むしろ鰭を波打たせて、例えばコウイカ(Cuttlefish)のような形で泳いだのではないかと考えられる。
アノマロカリスの口は外と中の二重構造で構成されており、口の中央部は完全に閉める事は出来ないものの、一方の歯が外向きに開いているときにはもう一方が閉じており、そうした構造で頭部先端部の付属肢(触手)で捕らえた獲物を逃がさず消化管の方向に導いていたと考えられている。アノマロカリス類の種類によっては、消化管の入り口にもびっしりと歯が生えていることが確認されている。カンブリア紀の三葉虫でよくかじられた痕が発見されており、アノマロカリスの口器によるものとも言われているが、アノマロカリス類以外にも大型捕食動物が存在していることが確認されており疑問視する声も多い。
[編集] 分類
[編集] 進化系統
その外見や構造は、一見して現在のいかなる動物群にも似ておらず、全く孤立した独特の動物門に含まれる、既存の系統への分類が不可能な生物(プロブレマティカ)であるとの主張がある。体に体節や対をなす鰭がある点では環形動物や節足動物との類縁を感じさせるが、環形動物としては形が特殊すぎ、節足動物にしては鰭があまりにも付属肢の体をなしていない、といった問題点があるからである。
他方、これに反対する意見もあり、それによると、外形には体節制を示唆する特徴など、節足動物との重要な共通点が見られ、この動物を節足動物に含まれると理解するのに無理はないという。後に発見された近縁のものには鰭の付け根の下に関節肢らしきものを具えた種があり、鰭と歩脚型の足の組み合わせは節足動物としてごく普通のものである。
化石動物ではオパビニアとは鰭の配置、特に後体部の上向きの鰭は現生の動物には見られない共通の特徴である。そのような絶滅したグループの動物のみならず最初期の甲殻類の一種であるバージェス頁岩のヨホイアや、有爪動物(歯が円形状に並んだ口器など構造の多くに類似性が指摘されている)とも共通点が少なからず存在し、最初期の節足動物の系統発生の様子を推定するのに重要な存在である。
[編集] 近縁種
未記載の種を含め、世界中で意外に多くの種類が発見されている。実のところ、当初の復元図そのものも2種の動物を組み合わせた復元であることが分かり、上述のような特徴を持つアノマロカリスと、体が幅広く、眼が上面に付いているラガニア(Laggania cambria)が区別された。この種は扁平である点、眼が上面にある点などから底性生活だったのではとも言われている。
澄江動物群からも近縁と思われる化石が発見されている。
[編集] 絶滅の謎
アノマロカリスは当時の食物連鎖の頂点に立っていたと考えられているが、カンブリア紀の中期と後期の間を境にその後は全く見られなくなった。その時期には地球環境に大きな変化は無く、温暖な気候が続いていたと考えられているため、なぜアノマロカリスが突如として姿を消したのか(絶滅したのか)は謎に包まれている。